幻想合体
子供たちがカコダイモーンから必死に逃げる。
要塞エリア跡地に車を作る施設はなく、徒歩が主。避難所まで必死に走っているが、子供の足だ。
運が悪いことに敵犬型ハティの群れも合流する。雛を狙う野犬の群れのようだ。
『お前達は逃げなさい。ここは私が食い止める』
ブッチャーがそういった。巨大な肉切り包丁を構えハティたちに立ち塞がる。
「やだよぅ! ブッチャーさんも一緒にいこうよ!」
「そうだよ。一緒に逃げよう!」
『私は死なないさ。早く!』
壊れるだけだからな、と心でそっと付け加える。
ブッチャーに追い立てられ、逃げ出す子供たち。
『アナンシ。お前は戦闘向きではない。子供たちを頼む』
『わかった』
蜘蛛型のクリプトスであるアナンシが請け負う。見た目は蜘蛛だが、一番人々に慣れ親しんでいる。
人々に農耕を教えたり、衣服を作ることが彼の役目だ。アナンシの作り出す糸はカコダイモーンを確実に抑えてくれるだろう。
人間の集団を狙おうとするカコダイモーンに対しては、猫型アイドロンが乱入し、襲撃を阻止していた。
『いくぞテラスども!』
ブッチャーさんと親しまれているクリプトス。彼はズメウ型のアラム。銅の名を持つ龍人を模している。
アラムは巨大な肉切り包丁と内臓されたレーザーでハティと戦うが、敵戦闘力も相当だ。機動性と連携能力が高く、追い詰められていることを実感する。
月喰らいの狼の名を持つだけはあった。
「にゃあ!」
アラムをかばって猫型アイドロンが噛まれた。左の後ろ足部分を食いちぎられている。
『すまぬ! 助かった!』
ケット・シーの足を食いちぎったハティの首を刎ね破壊するアラム。
だが、その現場を目撃したハティたちが集まってくる。
『もはやこれまでか』
その時だった。
天を影が覆う。
落下してきた巨大な糸車状の物体がハティを刎ね飛ばした。
『お前は……』
「間に合ったな! 俺っちは火車ってんだ! あんたたちと同じクリプトスだよ! ウーティスに作られたんだぜ」
燃える車輪が陽気に応じた。
『なんとウーティスがクリプトスまで創造を? そこまでのことが成せるのか、あの人間は!』
「そんなことより子供たちと一緒に逃げろ! 俺達は転がることしか出来ないからな。――背中は任せろ」
火車は頼もしさに溢れていた。
『頼んだぞ! 火車』
ブッチャーが火車に礼をいい、子供の警護に戻って移動を再開する。
「しかし数が多いな。俺っちの仲間が多少いたところで。ん?」
「にゃあ!」
火車に何か訴えたいことがある、脚が破壊されたケット・シーがいた。
「おう。なんとなくお前さんがいっていることがわかるぜ! 俺様と合体したいんだな!」
「にゃあ!」
「オッケーだ! キャット!」
火車は炎を弱め、ケット・シーに近付く。
二機は輝きはじめ、異様な光景となった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アウラールから通信が入る。
『ブッチャーから報告だ。ケット・シーと火車が合体しパワーアップして、子供達を護り切ってくれたようだ』
『……』
「……」
「……」
アストライア艦内を不気味な沈黙が支配した。
『不思議なことがあるものだが、かなり強いらしいぞ。さながら幻想合体だな』
アストライア艦内の異様な雰囲気にアウラールが気付いた。何かあるのだろうと察して報告を付け足し通信を切った。
『合体? 何を作ったというのです。コウは』
「映像。でるにゃ!」
通信には火車の軸の部分にお尻からでろーんと座ったケット・シーがいた。脚部が破壊されているが、火車といることで移動には問題なさそうだ。
『合体?』
思わず再度呟いてしまうアストライア。
軸にお尻座りをしている猫にしかみえない。尻尾を巻き付けてバランスを取っているようだ。
「みてください! あれを!」
ケット・シーが腕、ならぬ前脚を動かすと、火車の炎を飛ばしていた。
離れた場所からハティを攻撃する。近付こうとするハティは火車に轢かれ、逃がしたハティは背後から炎を受けていた。
火車と合体することでケット・シーは炎を自在に操れるようになっていたのだ。
「は? なんで?」
にゃん汰は再び真顔になる。
「人々を守りたいネコと本来猫である火車の思いが一つになって奇蹟を起こしたのね」
気を取り直したアシアが呟いた。感情が籠もっていない。
「えー」
そんな精神論に納得するはずがないにゃん汰。
「みたか。地獄からの使者【魔道火車】。これぞ真の力!」
「にゃあ!」
猫と合体した火車が勢いよく叫ぶ。
カコダイモーンを薙ぎ払っていった。
「コウ。何を作ったのですか?」
アストライアと同じ言葉を呟いてしまうアキ。
アキはイヌ科の生き物に変な伝承がないことを感謝しつつ、尋ねる。
「火車は猫妖怪だし、そう不思議でもないような気がする」
原理的には説明できる。ネコ由来同士の伝承効果の作用だろう。
「コウ。アストライアと話し終わったあとで、私たちネコ科のセリアンスロープとファミリアとで話し合いましょう?」
本気で言っているにゃん汰だった。
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