ネコポジの危機

「五番機、合流します! 説明が困難の極まったため、映像を表示します!」


 アキが防戦指示を出しながらも、コウの帰還を告げる。

 言いづらそうに五番機の映像を表示させる。


『どうしてなの!』


 あまりの理不尽な光景にアストライアが憤慨する。


「落ち着いてアストライア!」


 ありえない展開が次々と起こるコウに頭を痛めるアストライア。彼女を宥めるアキ。


 まん丸い顔の黒猫の首にまたがった五番機が映し出される。一見すると荒武者風だが、乗っている動物が問題だ。

 赤い首輪に大きな鈴がチャーミングな黒猫である。


『おお、もう』


 アストライアが顔を覆う。この惑星では何が起きるか予測がつかない。

 トラクタービームによって姿を消した五番機が、何をどうしたら巨大な猫に乗って疾走しているのか。推測すら許さぬ事態である。


「なんでネコにゃー?!」


 にゃん汰が絶叫した。まさかのネコポジの危機である。


「シルエットが乗ることが出来る猫なんていないですよ。豹とか?」

「赤い首輪の鈴を付けてあんな顔の丸い豹がいるわけないにゃ。あれはイエネコそのものにゃ! アストライア! 分析するにゃ!」

『何をどう分析しろと』


 アストライア分析を拒否した。彼女からみても巨大なネコとしか認識できない。


『アストライア殿。あれは幻想兵器アイドロンに属するバステト。我らとは言葉こそ通じないが、彼女に関しては少なくとも敵ではない。猫型アイドロンはきまぐれに人間を助けることは多い』


 アウラールがアストライアをフォローする。


『猫型アイドロンも大量に援軍に来てくれたようだ。テラスや動く残骸――カコダイモーンだったか? それと戦ってくれている』

『コウとともにいるなら、味方には間違いないですね。敵味方識別信号が使えないことが問題ですが。――総員に次ぐ。猫型アイドロンの援軍あり。敵味方識別装置IFFは無効のためり誤射に注意を』


 画面をみるとアビシニアンやキジトラやペルシャ猫、実に様々な猫型アイドロンが虫をつかまえて遊ぶかのようにカコダイモーンと戦っている。

 シルエットがベースなのだろう。七、八メートルサイズだ。前脚で捕まえて後ろ脚で連打する猫キック連打にカコダイモーンはひとたまりもない。


「ネコにゃ…… 五十匹以上はいるにゃ」

『五十機と呼ぶべきなのでしょうが…… 匹といいたくなるほど見た目は動物ですね』


 援軍はどうみても巨大な猫の軍団である。ごくまれにメカ猫らしき個体もいる。

 カコダイモーンと戦う猫たちは、虫や鳥をつかまえて遊んでいる猫にしか見えない。


「あの体毛はどうなっているんだ…… 許されていいのか。あんな兵器が」


 衣川は呆然と呟いた。見た目も行動も猫にしか見えなかったのだ。


「いいんじゃないかな衣川さん。ネコと和解せよ、と日本にはある。看板でみたぜ!」


 黒瀬が日本の看板を思い出して言った。


「ネコは全てを赦しますと私も見たことがありますね!」


 エリが続く。


「コウの故郷は何かおかしいにゃ……」

「私は見たことも聞いたこともないぞ! 私がいない間日本はどうなっていたんだ!」


 絶句する衣川。


『バステト神の由来ならば家庭の守り神。子猫を引き連れている像も多く確認されております。太陽神の子であり、人の守り神ではあるのですが。意思疎通が出来ないということは野生動物として構成された可能性はありますね』


 気を取り直したアストライアが冷静に分析する。


『バハムートは確かに鯨。リヴァイアサンは海蛇、ベヒモスはゾウを模している。どのアイドロンも意思疎通は困難だ。バステトはシルエットサイズではあるものの、巨大戦闘艦をもとにした幻想兵器に匹敵する戦闘力を持つので大型幻想兵器に分類されている』

「大型幻想兵器に匹敵ですか! ネコ、やばいですね…… アヌビス神とか犬型アイドロンはいないんですかね?」


 アキも動物枠に危機を感じ、犬頭の神であるアヌビスを要求した。


『小型個体でイヌガミやブラックドッグは確認されているぞ。だが人を襲うことも多い』

「それらは来なくて良いです」


 耳を垂れて落ち込むアキ。


「みんな聞いてくれ。俺は今猫型アイドロンのバステトの上にいる。彼女は味方だ。意思疎通も行った」


 コウから通信が入った。


『なんだとウーティス! 意思疎通が可能なのか!』


 初めて知る事実に驚愕するアウラール。アイドロンとは意思疎通不可能。ゆえに中立と位置づけられているのだ。


「バステトに聞いた。応援にきてくれた猫たちは彼女の声に応えた幻想兵器アイドロンの兵種【ケット・シー】だそうだ」

「アイルランドの猫精霊にゃ!」

『兵種とは』


 疑問には思ったが深く考えないことにしたアストライアだった。


「猫型アイドロンは猫型ファミリアと猫語で意思疎通ができる!」

 

 コウは貴重な情報を伝えてきた。制圧された惑星リュビアには、マーダーの優先抹殺対象であるファミリアはいない。


「猫語?! 私も会話できる可能性が高いかにゃ」

「高いぞにゃん汰! 師匠とバステトは会話できた」

「ネコ通訳の地位ゲットにゃ…… 良かったにゃ……」


 心から安堵するにゃん汰。


『猫型ファミリア及びセリアンスロープへ緊急伝達。猫型アイドロンにはあなたがたが意思疎通できる可能性があります。可能なものはパイロットと同行するように』

「わかりましたにゃ」


 あちこちにいる猫型ファミリアが次々と格納庫に向かう


「ヨシ!」


 黄色いヘルメットを被った作業猫軍団が出撃前や再出撃前のMCSの後部座席に乗り込んでいく。

 猫型アイドロンとの共同戦線も始まろうとしていた。


「お願い。犬でもキツネでもいいから…… イヌ科の味方きて……」


 切なる願いを呟くアキがいた。

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