マルミアドワーズ
コウたちが地下工廠【レルム】に到着してから三日経過した時だった。
『ウーティス。テラスに動きが見られた。かなりの数だぞ。これは危険だ』
「ええ。ポリメティスが教えてくれたわ! アストライアには連絡済み!」
「俺達もそろそろ戻るか。ここは任せて良いか。アーサー」
『もちろんだとも!』
アーサーは応急処置として、現状作成可能なものでも最も高級な四肢を再装備。装甲も極力換装しない方向で修復していた。
『かつての力には遠く及ばないと思っていた。――しかし、驚いたぞウーティス。君が陽電子砲作成権限を持っていたなどと』
「驚いたのはポリメティスの技術力だ」
コウとアシアでは不可能だった小型の陽電子砲がポリメティスの技術によって、シルエットが運用可能なサイズまで小型化に成功した。
むろん現行のシルエットでは出力不足だがアナザーレベル・シルエットであるアーサーなら運用を可能にする。
「わかってる? アストライアには絶対内緒よ」
かつてのアストライアですら可能であったかどうか。オリンポス十二神であった鍛冶神の残骸はそれほどまでの能力を秘めていた。
「わかっている。アーサーも内緒で頼む」
『承知した。私の全高、二倍以上。連射はできまい。しかし私には高性能リアクターがあり、ここにはポリメティスがいる。かのヴァルカヌスが作りし名剣【マルミアドワーズ】と名付けよう!』
アーサーの熱気が伝わる。興奮するシルエットは珍しいなとは思うコウ。
『試し撃ち出来ないことが残念だ』
「まだ修理が終わってないからな。無理はだめだ。テラスを破壊し、使えそうな部品を集めるしかない」
アナザーレベル・シルエットの修復は困難を極めた。かなりの時間がかかるだろう。
代替できそうなマテリアルもない。テラスを破壊し使えそうな部材を集めるしかなさそうだった。コウは内心狩りゲーを連想する。
『我が主人をよくぞここまで。見事な構築でした。ウーティス恐るべし』
モーガンがコウを褒め讃える。しかし、若干の畏れも感じられる。警戒されているかもしれない。
「コウに他意はないんだからそこはよろしくね。モーガン」
その畏れを感知したアシアが釘を刺す。
『当然でございますとも』
モーガンは艶然と微笑んだ。
そこにアベルから通信が入り、コウが応答する。
「ビッグボス。幻想兵器の量産も進んでおります」
「そうか。早々に実戦投入になりそうだよ」
タイミング的には助かったと思うコウ。
人工クリプトスとアガトダイモーンの利点は数を用意できることだ。
「初陣は近いかもしれない」
「お任せください。歴史の因果ともいうべきか。英国面と日本面はやはり相性ぴったりですね」
「そのようだ」
一瞬躊躇したコウだったが、認めざるえない。
試作した幻想兵器は一発で誕生してしまった。
さすがはB級構築技士となったアベルであるとコウは思った。
「味方が混乱しないか心配だが。アストライアが怒らないかな」
「キヌカワ氏やエリ艦長がいるのです。大丈夫でしょう」
『姉さんは怒りそうだね。そこは気にしないこと』
「そうか。そうだな。俺がいない間、この場所の相談役を頼みます」
「当然ですとも」
話し終えたコウは五番機に乗ってステロペスのもとへ移動する。
「一度、みんなと合流する。世話になった」
「すぐ戻ってくるじゃろ?」
ステロペスが寂しがり屋の老人のように思えてコウは微笑んだ。
「もちろん。それに今後だがおそらくだが、ここはアシアとリュビアを繋ぐ中継基地となる。人間たちがたくさんやってきて賑やかになるよ」
「それは楽しみじゃ」
「アルゲースへの伝言があるなら言付かるけど」
「では五番機殿にお伝えしておこう。頼んだ」
五番機のコントロールパネルに承諾のメッセージが表示される。
「アシア。エメ。師匠。戻ろう。アストライアへ」
後部座席の少女に呼びかけ、コウは補給を行い出撃体制に入った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『アベル。こちらの人工クリプトスとアガトダイモーンも出撃準備させよう』
「今の所、完成に至ったものは二つしかありません」
『二つもあれば十分だ。どちらもこれほど量産性に優れているとは。さすが英国出身の構築技士だ!』
アーサーはアベルの仕事に大変満足しているようだ。
「先に人工クリプトスのほうがいいでしょうな。アガトダイモーンとして成功した兵器は大変弱いので」
『敵のカコダイモーンだって雑魚そのもの。だがあの圧倒的な量は脅威。こちらも数で対するしかない。新開発のアガトダイモーンは兵器ラインを使わないことが素晴らしい』
「そこは私の得意技ですからね。兵器由来ではないもの、がヒントになりましたよ」
アベルは薄く笑った。戦闘力は高くないが、目的を達成できたのだ。
『ところで質問です。トライレーム艦隊の方々はこれらの兵器に理解はあるのでしょうか?』
モーガンがアベルとエイレネにたずねる。彼女としても兵器として認識し難い形状であった。
確かにこれらならアガトダイモーンになるだろうと、思うほどに。
「わかりません!」
『わかりません!』
二人が声を揃えてきっぱりと答えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「警戒態勢を! 敵襲撃の気配とビッグボスから連絡あり!」
エリは警報を発令し、マットと通信を繋ぐ。
「今リュビアが住人やクリプトスと交流している最中だ。付近のシルエットに連絡する」
「住人の避難も急がせましょう。また大量の不気味な連中と戦うのね」
ため息をついた。グロいのやホラー系は苦手なのだ。
「最初の襲撃からはスムーズだったのにな」
トライレーム宇宙艦隊は旧要塞エリア跡地に移動し、住人やクリプトスの歓迎を受けた。
今後の方針もあるが、まずは住人との交流や幻想兵器との交流を優先していたのだ。
『我らも迎撃にでる。大型テラスが動いた模様だ』
アウラールからも通信が入った。
『他の居住区域では襲撃の気配はない、目的は構築技士であろう』
「ボクたちが狙いというわけか」
マットが歯噛みする。
「移動したほうがいいのでは」
衣川が心配そうにしている。自分たちのせいで住民に危険が生じるならば本末転倒だ。
『いや。それは愚策であろう。あいつらは人間を人質にする。マーダーと違ってな』
「マーダーは殺すだけですからね。わかりました。要塞エリア跡地に対し全周囲の警戒態勢を整えましょう」
エリが矢継ぎ早に指示を出す。コウがいない以上、艦長である彼女の役目だ。
「アストライア。迎撃態勢をお願いする」
『当然です。コウがいないからこそ、十全の働きをしなければなりません』
この場にいないコウが警鐘を鳴らし、戻ってくるのだ。
それまでは完璧に抑えなければ、留守を預かる者としてアストライアの名が廃る。
「敵は無数。弱いけど、一つでも逃すとうざいハエみたいな存在ね。全て迎撃を!」
エリも改めて指示を飛ばす。
住民を守るべく、トライレーム艦隊とクリプトスの共同戦線が始まったのだ。
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