うそでしょ?!

 停止していた作業機械が一斉に動き出す。


「これは?」

「再稼働に向けた準備ね」


 機能停止していた工廠がオケアノスの許可によって活動を再開全体が動き出したのだ。 

 モーガンの指示だろう。


「モーガン。今ならアーサーをステロペスの元へ運べるんじゃないか」

『そのようです。私の悲願がようやく成就されようとしています。感謝いたします。ウーティス様。アシア様』

「おおげさだな」

『幻想兵器となる前の想いも残っているのですよ。この地に、この工廠にもう一度多くの人がいたら。かのアナザーレベル・シルエットがかつての姿を取り戻したら。――アシア様ならわかっていただけるかと』

「うん。わかるわモーガン」


 しみじみと頷くアシア。


「良いことをしたのかな」

『間違いなく』

「ならその感謝を惑星リュビアに残された人々を守ることに向けてくれたら嬉しいな」

『当然だとも! 我が名アーサーとモーガンの名に賭けて!』


 アーサーが通信に介入する。


『そうです。我が名モーガンとアーサーの名に賭けて、リュビアの人々に対し守人となりましょう』

『今、作業機械たちによってステロペスに移動中だ。感謝するウーティス』


 よほど嬉しいようだ。機体の修復に向けての第一歩となるだろう。


「アーサー。復元するには現在の技術では難しいのでは」

『そこは仕方がない。現在使える最高の技術の協力を希望する。五番機のCX型のようにね』

「そこまで知っているのか!」

『アシア大戦や尊厳戦争の情報は全て把握している。それはかのへパイトスの残骸。今のポリメティスが観測してくれた成果だ』

「そんなことまでしていたのねポリメティス。いえ。怒ってはないわ。安心して」


 ポリメティスが点滅している。アシアに謝罪していたようだ。


「アシアも何か嬉しそうだな」

「亡くなったと思っていた親戚? とでもいうのかしら。仲が良かった親戚のお兄さんが生きていたような感じかしら?」

「言いたいことはわかる」


 仲が良かったという表現が使われるならば関係は良好だったのだろう。その超AIが今も稼働しているなら嬉しいはずだ。


『ところでウーティス。怒らないで聞いて欲しいのだが』

「どうした。いきなり」

『実はこのレルム全体が、惑星アシアのシルエット・ベース地下工廠のとある場所と繋がっている』

「うそでしょ?!」


 アシアが絶句した。彼女を構成するデータがある場所の一つである。

 気付かぬ間に繋がっていたとは、あり得ないはずだ。


「いつの間に……」

『では説明するより話してもらおうと思う』

「いきなり振らないでくれ!」


 慌てるコウだったが、通信は無慈悲に繋がった。


「ビッグボス? 聞こえますか」

「アベルさん!」

「なんで?」


 かつてない最強のなんで? と首を傾げるアシア。


『それはこのエイレネと繋がっているからです。アシア』


 エイレネが会話に参加する。彼女は今シルエット・ベースの地下に格納されているのだ。


「なんでこんなことに?」

『アーサーから接触があったのです。極秘で』

「アストライアは知っているの?」

『言えるわけないよね? 知ってるよね?』

「知ってる!」


 納得したアシア。


「エイレネはヘパイトスのこと知っているの?」

『ちょっと待ってください。何故ここでヘパイトスの名前が出てくるの? このリアルタイム通信を可能にしたのは、ひょっとしてヘパイトスの権能ですか?』

「話せば長くなるけど、そういうことね」

『聞かなかったことにします。私は何も知りません。アベル、あとはよろしく』

「待ちなさいエイレネ!」


 あまりの事態にエイレネが逃げた。


「一つだけ。確かに【愚者】は必要でした。申し訳ありません」

「とんでもない! そういうふうに意見をしてくれる人が重要だ」

「いえ。私も浅慮だったと反省しています。それでですね。一番重要な話題を。どうしてこんな事態になったのか事情をお聞きしたいのですが」


 アベルが恐る恐る切り出した。


「それはこちらもなんだよ!」


 エイレネと直通とは思いもしないコウとアシア。


「何を企んでいるの? モーガン」


 モーガンは笑顔で回答した。


『先に知られたら反対されそうな計画です』

「笑顔で言わないで」

『今この場なら言ってもいいでしょう。我々クリプトスは数が圧倒的に少なく、敵のテラスはミアズマでカコダイモーンを量産しています。ならばこちらはヒュレースコリアを複製しクリプトスやアガトダイモーン。人を守る無人兵器を創造し対抗しようと思ったのです』

「大丈夫なの?」

『設計段階で人に悪意があるような兵器でなければまずアガトダイモーンになると思われる。そこでアベルに頼み、基幹となる兵器の設計を依頼した』

「悪意がないような兵器の概念を教えてくれ」


 そこだけは聞き逃すことが出来なかったコウだった。


『もともとは兵器を想定していない、もしくはユーモア溢れる笑い話になるような兵器だ。英国――アベルにぴったりだろう』


 虚ろな瞳となったコウ。アシアも同じ表情を浮かべた。嫌なフラグで戦慄する。


「クリプトス用やアガトダイモーンの基幹となるものは即席で構築しました」

「早まらないでね」


 アシアが懇願した。


「お任せください!」


 コウはいたたまれず話題を変えた。


「以前から動いていたのか」

『工場も動き出した。生産性が高い物はすぐさま生産に入る』

「何をそんなに急いでいる? 何かあるのか?」


 言いにくそうなアーサーが、告げる。


『人類の居住区画へテラスの侵攻が予想される。構築技士がいる可能性が高いからだ』

『テラスではなくてもカコダイモーンによる飽和攻撃も予想されます』


 アーサーの言葉にモーガンが補足する。


「なんだって! すぐにアストライアに連絡しないと」

「今通信を送っておいたわ!」


 アシアも迅速に行動し、急いでアストライアにメッセージを送る。


『テラスたちは縄張り意識も強い。どれぐらいの数が呼応するかは不明だ』

『ですが数が多ければ取り分も減るということ。リスクを負うかどうかも検討するでしょう』

「そんなところまで計算しているのか! 厄介すぎる!」


 自分達が捕食される側ということを実感するコウ。


『せめてこの機体が全盛機にもどればと思うが』

「それはかの願いを叶える聖杯があっても無理でしょうね」


 アシアが嘆息した。アーサーの願いもわかるが、現状では不可能と断言できるレベルだ。


「襲撃に備えないとな。一度俺達も出る必要もある。襲撃を撃退したとしてトライレーム艦隊をこちらに移動させることは可能かな?」

『三艦程度であれば余裕で収容できるでしょう。ただ食料の関係もありますので、生存者たちまで移動するのは推奨しません』

「わかった。そこらはみんなと相談して決めよう」

「そうだね。まずは私たちもここで出来ることをしましょう」


 アシアの言葉に頷くコウだった。

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