混乱のアストライア
「アーサーたちは自発的には動くことが出来なかったんだな」
「人間がいないのに勝手に再稼働するわけにもいかない。そしてこんな最重要施設の再稼働手続きはA級構築技士でも無理」
『残骸となった超AIに、人が存在しない施設AI。半壊したシルエットに出来ることなどありません。そして人間もこの場所では、どんな役職、肩書きであろうと入場は拒否されます』
モーガンは哀しげに呟いた。最重要封印区画であるこの場所に、人が踏み入れることはできない。
「【誰でもない者】しか入れないわけか」
『ええ。リュビア様にも関わることだったので我々はポリメティス様の力を借り、アシア大戦、尊厳戦争の経緯は全て存じております。あなたたちの到着をお待ちしておりました』
コウの知らないところで、彼の到着を待っていたものがいた。
それだけで惑星リュビアに来た意味はあった。コウはそう思えた。
「ではまず、期待された役割を果たさないとな。どうすればいいアシア?」
「オケアノスに呼びかけて、拠点レルムの再稼働とBAS支社アヴァロンをこの地に創設すると宣言すればいいよ。アルビオンと同じ扱いになるはずよ」
コウは虚空に向かって呼びかけてみる。
「オケアノス。このレルムの再稼働。及びBAS支社アヴァロンの創設したい。何が必要か」
『申請を確認。転移者企業条件を満たしている。ポリメティスと名付けられたAIより、BAS所属シルエットを確認。兵器の新規構築計画と製造計画を承認する。これよりはBAS支社アヴァロンとして稼働するがよい。最重要封印区画への入港はトライレーム在籍艦のみ許可しよう』
「ありがとうオケアノス」
手続きはスムーズに終わったが、コウがふと我に返る。
「ん? アヴァロン所属シルエットと兵器の新規構築と製造計画?」
『アーサーはすでにBAS社に登録されています』
「なんで?」
アシアが思わず尋ねるぐらい予想外だった。
『かのマーリン。さらには円卓の騎士にちなんだシルエットを持つ転移者企業に、何故アーサーがいないのでしょうか? そのほうが不自然では』
「いや、それを言われても……」
コウも思わぬ成り行きに困惑している。危険な組み合わせかも知れないと懸念した。
「確認事項も山ほどありそうね。向こうのペースに乗せられている気がする」
『アシア様とウーティス様を謀るつもりはございません。モーガンの名に賭けて」
「アーサーとモーガンの名に誓って?」
モーガンのビジョンはにっこりと微笑んだだけだった。
「く…… やっぱりうさんくさい!」
ぼやくアシアを放置して、コウが呟く。
「次は何をやるか」
その呟きを察知したポリメティスが点滅する。
アシアがはっと顔を上げた。
「そっか。一番大事ね。コウ。準備して」
「何を?」
「それはね――」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「聞こえるか。アストライア。こちら五番機のコウとアシアだ」
コウとアシアからの通信が入り、騒然とするアストライア艦内の戦闘指揮所。
ポリメティスに促され、至急連絡を取ることにしたのだ。彼にしてみれば、無理矢理二人を拉致したようなもの。
「こちらは一切の問題無し。通信が遅れてすまない。まずはアストライアたちのみに連絡をしたかった。そちらはどうだ』
『ご無事で何よりです。こちらも問題ありません。トライレーム艦隊は無事、クリプトス保護下の要塞エリア廃墟と合流しており、現地の人間や幻想兵器と交流を開始したところです』
「そのまま進めてくれ。イズモは大丈夫か。カコダイモーンと交戦していたようだが……」
『あの顕生代の生物兵に似た無人兵器群はカコダイモーンと呼ぶのですね。イズモも合流しております。クロセが単機で敵テラス中枢を破壊に成功しました』
「そうか。情報共有しないとな。まずこちらはプロジェクト・クラシカルヴァルプルギスナイトの詳細を知った。アシアがデータを転送する。次にカコダイモーン。残骸を利用したテラスの下位グループに属する無人兵器群とみて間違いない」
『データを確認いたしました。あなたはどこで、何をしているのですか? これは真相そのもの。テラスを創り出したものはリュビアではなく、テュポーンだということに』
艦の外では現地人との交流を率先して行っているリュビアがいる。
人間にもクリプトスにも大変な慕われようだ。
「そうだ。テュポーンはすでに停止状態に入っているが、その意を汲んだエキドナを倒さないといけない。そのエキドナは別たれたリュビア本体の一つだ。そのために拠点造りを行っているのが現状だ」
『拠点を作る? このリュビアに? いったいあなたは何をしているのです』
『何から話せば良いのか。幻想兵器と化した施設モーガンと接触。あとは開拓時代のアナザーレベルシルエットを発見し、アルゲースの同型機の手伝いがあって最後に開拓時代に消滅したヘパイトスの残骸に遭遇してね……』
『お待ちください。一切の問題なし、で済まされません』
アストライアから一切の表情が消えた。
アキとにゃん汰の顔も痙攣している。今の一言だけで、あり得ないレベルの案件が複数ある。
とくに最後の一言は衝撃的であり、重要人物以外には絶対に傍受されたくない最重要機密に属する話だ。
『確かにそれはアストライア内だけに留めておいた方がよい事象でしょう。どうしてそのような状況に?』
「ひょんなことからかな……」
どうしてと聞かれても答えようもないコウだった。
『アシア?』
コウに説明能力が無いと見抜いたアストライアはすぐにアシアへの質問に移った。
『あなたがいながら何故このような大イベントが一度に起こるのです?』
「えっと。私に言われてもよくわかんないかなーって」
『演技してとぼけない』
アストライアは淡々と、そして凄まじい圧を放っている。
「怖い。わかったわ。レポートを送る」
アシアは用意していたレポートをアストライアに転送する。
『――何をどうすればこんなことが起きるのか。想定外です』
レポートを分析したアストライアは表情が変わらない。
「それは私に言われても、ね?」
『状況は把握しました。そちらは人類の拠点を作成するということですか』
「そうだ。うまくいけばそちらにいる保護された人々も保護できるようになるはず。それなりの戦力も作れることが出来るかもしれない」
これにはコウが返答をする。すぐ戻るわけにはいかない。
『了解いたしました。帰還にはまだ時間がかかりますね』
「そうだな。こっちも事態の展開に追いつけないのが本音だよ」
『私も同じ思いです。では提言を。まめな連絡をお願いします。とくにアシアへ』
「わかったわ!」
『あなたが初めて知るような事実が判明するなど、本来起こってはいけないレベルの事象ですからね?』
「長生きはするものねー」
二十億年の年月を経過した超AIが万感の思いを込めて呟く。
『しみじみ言わないでください。ヘパイトスとアテナに関しては私の存在意義が揺らぐほどの衝撃を受けているのですよ』
彼らの後継機たるアストライアが知る初の事実。今や端末に過ぎないアストライアが衝撃を受けるのも当然だ。
「それはプロメテウスにいってね!」
『ええ。もちろんです。ではいったん通信を遮断します』
アストライアが通信を切り、心配そうに見つめるにゃん汰とアキに告げた。
『無事ですよ。心配はいりません。ですが説明もしたくないような出来事が山ほど起きています。相談に乗ってください。もうなんてことに……』
人間に例えると、混乱し狼狽しているとしか見えないアストライア。
こんな状態のアストライアなど、誰もが初めて見た。
「アストライア大丈夫にゃ?!」
「私たちで良ければ話を聞きますから!」
アストライアが音を上げたことに驚愕する二人だった。
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