アナザーレベル・シルエット

「そろそろ目的地に到着するね」

「そうだな」


 五番機はスロープを駆け抜ける。

 所々傾斜が強くなる場所や緩やかなカーブはあるが障害物などもなかった。

 

 突如大きな区画が現れる。目の前には大きなシャッターが降りている。


 五番機がローラーダッシュに切り替え進むと、シャッターは左右にスライドした。

 中にあるのは巨大な格納庫。


「これは…… 地下工廠に似ているな。巨大な工場か?」

「かなり古い施設。おそらくは開拓時代のもの」


 アシアの声も緊張している。


「え。二万年以上前?」

「そういうことになるかな。この時代の遺物は相当厳重に封印されているはず。もちろん惑星間戦争時代に改造された施設も多いけどね。ここはそのままだよ」


 アシアは不安げにうつむく。


「この時代のものがみつけるなんてそうそう無いの。隠蔽も完璧。惑星間戦争でも使われたと思うけど、改装する必要も無かったということね。ここの主人は何者かしら」

「会って確かめるしかないな」

「コウ。楽しんでる?」


 コウが楽しそうにしていることに気付いたアシア。


「楽しい? それもあるけど、懐かしいんだ。師匠に連れられて最初アストライアに出会った時もこんな感じでさ」

「懐かしい話をする。確かに似ているな」


 師匠が現れ、苦笑する。すぐにアシアに戻ってしまった。


「ゆっくりその話を聞きたいところね。エメもそういっている。でも先を急ごう」

「戻ったら話すよ」


 五番機は進む。誘導灯が点滅し、進む場所は迷わない。

 

「目的地付近ね。この扉は……」

展示室エキシビジヨンルーム?」


 幻想兵器と化している可能性もあるのだ。


 五番機が前に立つと自動的に扉が開く。


 中に入ると、何を飾っているのかすぐ判明した。

 破損した純白のシルエットがそこにあった。


 白銀の甲冑をまとったかのようなシルエットは左腕がなく、脚部も両足も破損が激しい。左腰部は大きくえぐれている。

 歴戦の勇士ともいえる面影があった。


「こ、これは…… だから展示室なのね」


 珍しくアシアが絶句している。


「知っているのか?」

「アンティーク・シルエットより古い時代のシルエット。つまり開拓時代に開発された戦闘用。アナザーレベルのシルエット」

別次元アナザーレベル?!」

「言葉通り。卓越したって意味。飛び抜けた性能を持つ機体よ」

「アナザーレベルとまで言われるとは。一番技術が進んでいるという開拓時代で飛び抜けた性能を持つ……」


 地球から転移したばかりの超技術で製造された戦闘用シルエット。

 想像も付かない戦闘力に違いない。


「惑星間戦争でも高性能すぎて奪い合い。アナザーレベル・シルエットの奪い合いで紛争も起きるほど。展示室ということは、誰も手を出せないように保管しておいたのね。現存しているものがあるとは思わなかった」

「かなり損壊している様に見える」

「これでも残っている方。相当凄いことなの」


 アシアも現存することが驚くレベルの代物らしい。


『その通りですアシア様。始めまして。私は当施設【レルム】を管理しているモーガンと申します。幻想兵器化された現在では、モーガン・ル・フェイとお呼びください』


 画面に長髪の白人女性が現れる。髪色は黒髪。血のような色のドレスをまとっていた。


「また面倒そうな名前のついた存在がでた!」


 アシアが悲鳴に似た叫びを上げた。


「モーガン?」


 コウはまったく知らない。


「伝説によれば英国のアヴァロンを統治する九人の妖精の一人にしてアーサー王の異母姉。ケルトの殺戮と戦争を司る女神モルガンと同一視されているわ。そして――」


 記憶を辿る。


「シチリア島の女神でもある。イタリア語で蜃気楼ラ・ファタ・モルガナの意。シチリア島にはエトナ火山やヘパイトス由来のヴァルカン島があるわ」

『解説ありがとうございます。わたくしはアシア様が語られた由来を持って、幻想兵器として生まれ変わった基地中枢AI。かのモーガンの城。水晶とガラスで出来た城レルムの名を持ち、アーサー王が蘇るその日までかの方を守護する場所にございます』

「アーサ王って英国だろ…… なんでイタリア?」

「アヴァロンがあった地は諸説あるけどその中の一つがエトナ山ね。詳しい話はあとで説明するから!」

「わ、わかった!」


 アシアの剣幕に黙る。どうやら歴史など、長い話になりそうな気配だ。


「私たちをここに呼び寄せたのはあなたね?」

『そうです。主人の願いに応え、あなた方に呼びかけました。ここは最重要封印区画の一角。許可が無ければ作業機械さえ入れません』

「主人?」

『そこからは私が話をしよう。よくぞ来てくれた。アシア様。ウーティス。五番機よ』


 眼の前のシルエットから音声が発せられた。


『私たちには君たちの力が必要だ。当代でいうA級構築技士ですら入ることは叶わぬ。何せこの場所テュポーンが封印されている、最重要封印区画『エトナ』。本来なら何人も進入できぬのだ』

「ここがエトナ……」

『そういうことだ。アシア。プロメテウス。そしてオケアノスの加護ありし者。EX級構築技士のみにしか入ることはできなかっただろう。私の存在を秘匿するため、数々の非礼を詫びる』

「呼ばれた理由はわかった。あなたの名を聞かせて欲しい」

『私はアナザーレベル・シルエットを元に誕生した幻想兵器クリプトスに属する者。熊の守護者アークトゥルスの輝きを持つ存在。――アーサーと呼んでくれ』

「キング・アーサー!」


 コウとアシアが同時に叫んでしまった。

 それは誰もが知る、伝説の王。

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