極太レーザーかオプションかボムをくれ!

 惑星リュビア大気圏内を飛ぶハルモニアに通信が入った。


『その進路のまま五分後、輸送機から離脱せよ五番機』

『アヴァロン社というヤツから連絡が。誰だ?』

「ヴォイ。構わないから投下してくれ」

『しかし!』

「最初のトラクタービームもあったろ? 俺を狙っている勢力は複数いる可能性もある。下手に逆らって別の勢力に捕まるほうが危険だ」

『そういうことかよ! わかった。もう四分もねえ。準備しとけ』


 指定空域に入り、ヴォイは五番機を投下する。


「じゃあなヴォイ! さくっといってくる! お前はアストライアに戻ってくれ!」

『さらっといいやがって! いってこい!』


 トラクタービームは五番機を補足し誘導を始める。

 促されるまま、飛行を開始する。墜落はなさそうだ。


「コウ。着陸したアストライアたちが交戦中という信号を発してきた瞬間、通信が遮断されたわ」

「どういうことだ? 交戦中とは……」

「わからない。行くしかないね」

「未知の惑星にも程があるな。惑星リュビアは」

「本当にね! 以前はもっとも穏やかな惑星だったのに」


 アシアのエメが苦笑する。


 地面に着地した瞬間、風景が消え人工物の通路になる。スロープになっており、

 直線だ。MCS内部のモニタに目標地点は千キロ以上先と表示される。


「本州横断に近い距離の通路だと……」


 五番機はスラスターを使い巡行を開始した。


「かなり大がかりな施設ということね。レーダーも通信もジャミングされたわ。今の私はエメが肉体を完全に移譲して対策してくれた」


 エメの意識が奥底に眠り、今はアシアの表層意識のみと言うことだろう。

 アシアに一任することで、エメはコウの安全性を最大限に配慮してくれたのだ。


「地下工廠以上の秘密基地ね。リュビアはこの施設の存在を知っているのか?」

「どうかな。惑星アシアでも地下工廠に似た施設は無数にあったから。隕石雨の関係で地下空間はやはり有利なのよ。全てを把握していたとしても、すぐにどれに該当する工廠かを特定するのは無理かも」

「アシアも無数、か。以前聞いたな。それでも探索者が掘り当てた遺跡は僅かしかないと」

「惑星アシアでもそうなのだから惑星リュビアはもっと多いと思う。サイズは宇宙艦やシルエット基準になるわけだから」


 延々と続くスロープ。


「ブルーのラジオでも聴きたいところだな」

「そうだね。みんな大丈夫かな」

「アストライアもリュビアもいる。安心だろう」



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「第一種迎撃準備! 迫り来る敵兵器を殲滅せよ!」


 エリの号令が響く。


「アストライアとペリグレスを先に要塞エリア跡地に。ここは殿しんがりのイズモが食い止めます」


 海上で孤軍奮闘するイズモ。

 零式部隊とヨアニア隊が次々に発艦する。全てLDライフルを搭載している。


「こちら黒瀬。敵兵器の映像を送る!」


 ドラゴンスレイヤーに搭乗しヨアニア隊を率いる黒瀬から映像が送信された。

 映し出された物体は、兵器とは言えぬような代物。


「なんだあれは…… 古代魚でみたことあるぞ。甲冑魚というやつだ」

「別の映像は…… これは昔みたことがある。ギーガーというスイスのイラストレーターが描いた絵に似てる…… 何あのグロいエイリアンみたいなの。ジゴクめいた何かとしかいえない光景」


 絶句する衣川。嫌悪感を隠そうともしないエリ。

 生物とも機械ともいえないようなものが飛行している。


「コウが出てくるかもといってたアレかにゃ。魚みたいな化け物って」

『見事にフラグ回収しましたね。本人はいませんが』

「コウがフラグ立ててたのかよ!」


 にゃん汰発言に憤る黒瀬。


『顕生代の中でも古生代の生物に似ていますね』


 アストライアも形状を分析し、そう判断した。恐竜よりも前世代の生物に似ているようだ。


「魚と四足生物の移り変わりの時代か」


 衣川が呻いた。あの時代の生物は確かにグロテスクともいえる。 


「俺も見覚えあるな! ガキの頃遊んだ横シューで出てくる敵だ」

「横シューって?」

「え? エリ艦長横シュー知らないの?」

「知りません」


 敵の姿より横シューという言葉が通じなかったことにショックを受ける黒瀬。


「少なくとも幻想兵器ではないな。リュビア。アレも生まれる予定だったのかな」

「そんなわけないだろう。MCSが採用された人間が搭乗する前提のものしか影響しないはずだ。あれが何であるか私にもわからない」

「しかしこれは…… 脆い」


 迫り来る敵の群れ。

 しかしこれらには耐久力が無い。LDライフル一発で霧散する。AK2でも対処できるだろう。


 その証拠にイズモの対空レーザーですら一瞬の照射で迎撃出来ている。


『解析しました。敵の原形は惑星間戦争時代の大型無人兵器。マーダーの基礎にもなった兵器です。かなり原形から外れていますが、間違いありません』

「あれほど大型の無人兵器を作る必要があるのかね。いや、MCS対策か」

『簡易なAIではMCSはコントロールを奪取できます。小型ドローンタイプではまず対応は不可能。対策するためには大型化する必要があるのです』


 ネメシス戦域で有線ミサイルが多用される理由の一つだ。

 指示を受けた自己判断プログラムはフェンネルOSによって書き換えられ、MCSは発射されたミサイルを奪取することができる。対抗するには巨大な構造物に内包されたジャミング装置が必要だ。


『マーリンシステムは比較的楽だったかな。パンジャンドラムは大きさに制限ないからいいよね』

「問題は現状の敵です。何せ数が多い!」


 弾がもったいないと判断した零式パイロットの中にはシルエットに変形して切り捨てている者までいる。


『見た目に騙されずに。襲撃している敵の多くは動力はケーレスと同じくバッテリーを搭載。大型はMCSと同様スピネルのリアクター搭載型ですね。母機となっているテラスがいる可能性が高いと思います』

「しかしこのままでは消耗戦を強いられる。黒瀬。お前は横シュー得意だったろ。いってこい。単機でボス撃破したらなんとかなるかもしれん」


 他人事のように檄を飛ばす衣川だった。


「こいつら立体3Dで襲ってきてますぜ! 無理っス! せめて極太レーザーかオプションかボムをくれ!」

「ボムは縦シューではなかったかね?」


 場違いで冷静な指摘をする衣川。容赦がない。


「おう。なんだかよくわからんが火力だな!」


 衣川の無茶振りに黒瀬が悲鳴を上げる。

 何もしらないハイノがさらなる火力を要求していた。

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