BAS支社アヴァロン
『BAS社が我々より先回りしてリュビアに到着し宇宙港を整備するなどあり得ません』
「絶対無いだろうな。それぐらいはわかる。惑星リュビアに英国由来のものがある?」
「ないぞ!」
きっぱりとリュビアが言い切った。何故か言いがかりをつけられたように感じてしまうものがある。
『さらに通信がありました。――悪ふざけにも程が! BAS支社アヴァロンを名乗っています。アルビオンに続いてアヴァロンなどと!』
アストライアは侮られていると思ったようだ。
怒りを隠しきれていない。
『かのアーサー王が眠る地。リュビアにあるわけがないのです』
「アーサー王とBAS社はフリー素材並に扱いが軽いな」
思わず笑ってしまう。アルビオン社もアベルが勝手に自称して作り出した子会社だ。
「いや。ちょっと待って。思い出した。シチリア島にあるエトナ火山をアヴァロンと見立てた説は確かにあった…… 惑星リュビアには地中海の火山を由来とした【エトナ】が存在する」
リュビアが思い出したようだ。かの地名はたとえマイナーな伝承でも彼女にとっては大切な源流なのだ。
『なおさら厄介です。かのエトナ。最厳重封印区画ともいうべきテュポーンがいる場所などと!』
コウは苦笑する。これは間違いなくお誘いだ。
何故だか危険はないだろうと思えてしまう。
「ヴォイ。行こう。BAS社アヴァロンということなら……きっと悪ふざけが過ぎるだけだ」
「三枚舌かもしれねーぞ!」
「酷いことをいう。大丈夫、とは言い切れないが。エメと一緒にそちらに行く」
二人は急いで五番機の元に向かい乗り込む。
すぐさまクレーンが動き出し、五番機をハルモニアに格納した。
『ハルモニアの投下を開始します』
アストライアの後部ハッチからハルモニアが投下される。
「うぉ! 確かにコウが呼ばれているようだな!」
牽引ビームの照射先がアストライアからハルモニアにすぐさま変更されたのだ。
出力も応じて弱まったらしい。
「いってくる。アストライア」
『ご武運を。帰還をお待ちしております』
「私もいるから大丈夫だって!」
アシアのエメが満面の笑顔で請け負った。
『アシア! いくら何でも登場が早すぎないですか』
「何があっても対応できるようにするから。あなたとも連絡取りやすくなるしね」
『それは確かに。相手の目的が見えない現在はそれが最良でしょう。お願いしますアシア』
ハルモニアは惑星リュビアに降下していく。
アストライアは周回軌道をもう一周し、二艦と合流するための降下準備に入っていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『アベル。よく聞いてね。通信が入ってきたわ。通信元は惑星リュビアにあるBAS支社アヴァロン」
いつになく真剣な顔で、エイレネがアベルに通達する。
「なんですと?!」
エイレネ艦内で一人構築に勤しんでいたアベルのもとに、思いも寄らぬ報せが入った。
BAS支社アルビオンも、彼が勝手に名乗ったことが発端だ。支社アヴァロンなどあるわけがない。
「惑星リビュアに転移者はいません。ましてやBAS社など」
『そう。だからこそ私たちのやったことを知っている存在。もしくは調べ尽くした存在がいたということね』
「なんたること…… かの次元観測超AIであるプロメテウスでは?」
『プロメテウスではないと言い切れる。ていうか私と完全同期してのリアルタイム量子通信よ。とんでもない存在! 話してみる?』
「むろんですとも。ビッグボスに関係している事柄の可能性が高いですので」
アベルもエイレネに【愚者】の顛末は聞いている。
ブラックホールを創り出す量子加速器は必要だったのだ。己の狭量を恥じていたところだ。
『聞こえますかアベル。私は幻想兵器と呼ばれる存在』
エイレネと視線が合う。間違いなく、ヴリトラに匹敵する存在の可能性が高い。
「聞こえていますよ。幻想兵器さん。あなたはクリプトスですか?」
『分類上はそうなると思われる。罪無き人々に仇為すことはないと誓約しよう』
物腰が柔らかい、穏やかな人物というべきか判断に迷う。穏やかなAIと見受けられた。
『ひょっとしてひょっとするとテュポーン?』
恐れおののきながらそっと尋ねるエイレネ。
超AIを破壊するために生まれた存在、最終兵器であるテュポーンの名は極力口に出したくない
『そんな大それた存在ではないよ。このたびは故あってアストライアと接触時にBAS支社であるアヴァロンを名乗らせていただいた』
「必要なら仕方ありません。しかしBAS支社を名乗る必要があったと。そういうことですか?」
代表であるジョージには事後報告すると即座に決定するアベル。
『その通り』
「幻想兵器はモチーフになる存在がいるはず。改めてあなたの名を聞かせていただきたい」
『今はまだその時ではありません。マーリンを駆る者。しかし呼称がなければ不便ではあると察する。今はアークトゥルスと名乗ろう』
アークトゥルスに関する逸話を照会開始するエイレネ。
「了解しました。アークトゥルス。あなたはどこまでご存じなのです?」
分析はエイレネに任せ、アベルは接触してきた幻想兵器との会話に専念する。
『アシア大戦や尊厳戦争の範囲までなら全てを』
思わず絶句する。惑星リュビアにいながらそこまで把握できる存在。リュビア本体に近い性能を持つ超AIが関与しているとしか思えないのだ。
「……そこまで権能が優れた幻想兵器が、この一介の構築技士に何を求める?」
『二つあります。ウーティスを助けるために――一つはBAS社に一機のシルエット登録をお願いしたい。もう一つは貴方自身とエイレネへの助力を請う』
「シルエットの登録は容易いです。しかし惑星リュビアにいるあなたに対して私に何が出来ると?」
『色々と出来るとも。B級構築技士アベル』
アベルとエイレネが驚愕を隠さない。
それは二人しか知らない事実。
アベルはC級からB級構築技士にランクアップしていたのだった。
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