星海の狙撃手

「感覚が研ぎ澄まされている。これがネレイスの――星海うみに住む種として生み出された者たちの、真の力だというの?」


 ネレイス。テレマAIが組み込まれた製造意識体のうち、最後発の生命体。

 加速し減少していく人類を補うべく。そして人類の技術を継承すべく寿命も人間より二倍程度として設計された、海の娘。

 ここでいう海は惑星の海に非ず。星海である。オケアノスが星系の大海を管理し、海の娘たちネレイスと息子である海の男ネレウスが人類と混じって人間を補完していくのだ。


 MCSによる能力がさらに研ぎ澄まされるとはブルーも想定外だった。

 無限射程の宇宙において、センサーで捕捉さえ出来れば十分だった。


 ヘルカルレールガンを用意しているフェアリーブルーのシルエット、カナリー。

 宇宙空間においても作用・反作用は当然ながら発生する。大口径ヘルカルレールガンの反動も凄まじく、大きく後方に飛んでいく。


 反動で宇宙空間に移動した瞬間、先ほどまでいた甲板の表面に反撃のレーザービームが着弾する。

 威力が減衰しているとはいえ、喰らい続けては機体も耐えきれない。


 そして同じくレールガンで射撃を行うラニウス隊。

 パイロットは女性のネレイスが中心だ。


 彼女たちもまた、認識の広がった自分の感覚をすぐに制御し、狙撃を行う。

 カーラケーラは回避行動を取りながら着実に反撃する。

 

 コウもカーラケーラの凄まじい運動性能に舌を巻く。


「見た目はテルキネスもどきだというのに。カーラケーヤは反応速度も運動性能も桁違いだ」


 見た目は歩兵型マーダーであるテルキネスの発展型のようだ。

 動きはまったく別物で、テルキネスを連想することは難しい。


『恐るべき幻想兵器の実力です。あれが我らの敵テラスなのですね。私にとっても未知の兵器。決して油断してはいけません』

「心得た!」


 今までの惑星間戦争時代はアストライアが対処法を検討してくれた。

 マーダーも惑星間戦争時代の宇宙艦やシルエット、様々な兵器は本体のアストライアの手による兵器が多くを占める。

 しかし幻想兵器は違う。


『テラスは超AIリュビアが何かしらの生態系技術を応用して作り出した未知の兵器です。どんな機能が潜んでいるかもわかりません』


 アストライアの警告にコウは違和感を強くする。


「マーダー? 生態系技術?」


 ふと脳裏によぎった違和感は疑惑に変わる。


 敵も回避行動を取り始める。そうなると命中率は双方とも悪い。予測はできても機体の手の動きがついていかない場合もある。

 何よりこちらはまだ宇宙空間の戦闘に慣れていない。


 「――それでも」


 コウはカーラケーヤの機敏な動きに対し、疑惑を早急に確かめる必要性を感じるのだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「試す! ブルー。支援を。殺すな!」


 コウは違和感の正体を確かめるべく、行動にでた。


「殺すな、ね。了解!」


 ブルーはすかさずコウの意図を察した。


 五番機が流星のように加速する。

 相対速度を意識し、カーラケーヤとの衝撃を最小限に抑えるため、一瞬を見極め振り抜く。


 敵を腰から一刀両断する。

 しかしここは宇宙。腰から下がなくても行動はできる。


 ブルーがタイミングを合わせ、カーラケーヤの右腕を撃ち抜いた。


「サンキュ! ブルー!」

「相方の仕事は久しぶりね」


 要求された仕事を果たし、満足そうに微笑むブルー。

 反転した五番機が左腕を斬り飛ばし、無力化する。


「どうした、コウ! こんなときに! 暢気に解析する暇はないぞ!」

「そうじゃない黒瀬さん。すぐ終わる!」


 五番機はカーラケーラを掴んだままアストライアに戻る。

 何かを察した敵部隊は、コウに向けてレーザー砲を発射する。


 プラズマバリアを展開し無力化を試みる五番機。


「コウ兄ちゃん! こっちに投げて!」


 甲板に出てきたフラックのカレドニア・クロウ。マールとフラックにも宇宙航海ということで戦闘用のこの機体が与えられていた。


「フラック! 頼んだ!」


 全力でフラックのカレドニア・クロウのいる方角に向けて投げる五番機。

 敵の狙いが変わった。


 友軍である無力化されたカーラケーヤに対しレーザー砲を発射したのだ。

 だが、それも無駄に終わる。


 フユキ直伝のデトネーションコードを利用した、ロケット推進のアンカーを飛ばしフラックが機体を手元に引き寄せたのだ。

 機体を抱えたまま、カレドニア・クロウはアストライアの艦内に戻る。


「フラック! 格納庫では機体から離れろ! MCSを取り出し、内部を確認。ヴォイ。ファミリアたちだけで作業できるか?」

「当然だぜ! わかった!」


 周囲にいたウッドペッカーが解体作業にあたり、ヴォイたちが宇宙服を着て待機する。


『私としたことが。その可能性を考慮するべきでした。コウ、成長しましたね』

「まだ確定じゃない。推測で話したくない」


 コウは戦闘に戻る。


「そうか。私にもわかったぞ。君たちの危惧していることが」

「暢気に謎解きしている場合じゃないぜ! 何を察したんだ、コウは!」

「憶測で言ってはいけない事柄なのだよ」

「そこまで言われたら気になるっちゅーねん!」


 黒瀬の焦燥は当然だ。この戦闘に意味ありげな会話が繰り広げられているのだ。気になって仕方がない。


「……コウ。答え合わせは終わった。正解のようだぜ。状態もお前さんの予想通りだ。口にもしたくねえ。察してくれ」


 ヴォイがいつになく、暗く真面目な顔でコウに伝える。


「助かるか」

「無理だ。一目見ればわかる。溶けてるようなもんだ」

「わかった」


 コウはユリシーズ宇宙艦隊に向けて、通信を行う。


「みんな。カーラケーラの正体を確認。あれはアベレーション・アームズの一種だと思ってくれ。人間を組み込んで性能を向上させているんだ。――倒すことをためらうな。彼らは助からない」


 コウの予想した懸念。その正体が伝えられた。

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