いつかボイジャーとの邂逅を夢見て
「遂に打ち上がりやがったか」
次々に打ち上がるトライレーム宇宙艦隊を見守るケリーが感慨深げだ。
ロビンが同席している。
「あのダミーのパンジャンドラム目立ちますね。【
「だな! このR001のアシアが設計と製造を担当。さらにアストライアとエウノミアとエイレネのサポートで完成させたそうだ」
「……ダミーですよね?」
ロビンの脳裏にはマグマの海に沈んだゴルギアスがある。
ダミーにアシア三人分にホーラ級兵器開発AIが三人分必要があるとは思えない。あの見た目に騙されてはいけないから【愚者】なのだろうか。
「パンジャンドラムではないとコウは断言したぞ。アベルとエイレネが強硬にパンジャンドラムにするよう迫ったらしいがコウが強引にダミーとして推し進めたらしい。エイレネが折れて製作に協力したそうだ」
「アベル氏なら宇宙爆雷としてパンジャンドラムを運用したいでしょうね」
アベルが反対するとは本当にパンジャンドラムではないらしい。
「今回はアベルも絡んでいない。【愚者】の由来について聞いたみたんだ。コウ曰くこんなものを使うのは愚か者だってな! あのサイズを創るには時間が足りなかったのだろう。軌道エレベーターを管理するアシアがここR001軌道エレベーターの工場で完成させたそうだ」
「こんなものに騙されるの間違いでは? しかし安心しました。ストーンズもこれほど大がかりなパンジャンドラム状の物体をダミーだとは思わないでしょう。欺瞞作戦としては英国のパンジャンドラムと同等の不信感を与えます。だから【愚者】なのか?」
「味方側に憶測を呼びまくるのもパンジャンドラムらしいな!」
パンジャンドラムでなければ大した兵器ではないだろう。アベルが絡んでいないなら危惧することもない。
「これは遠征計画の一つに過ぎない。我々の企業活動も遂に他惑星に進出するんだ。それなりの用意はしないとな」
「ケリーも行きたかったでしょうに」
ロビンが苦笑する。
「は! ユリシーズが宇宙に行くのは当然だろ?」
「ボイジャー計画にユリシーズ計画ですか」
かつて彼らの祖国が送り出した深宇宙探査機こそボイジャー一号と二号であり、その後の名もユリシーズ計画であった。
「パイオニアやユリシーズは止まっちまったが、ボイジャーは今頃どこを飛んでいるのかな」
「意外と近くかも知れません。地球の二十一世紀から見て約三万年後にはオールトの雲を越えると言われていましたから。ひょっとしたら邂逅もあるかもしれませんよ」
ネメシス星系はオールトの雲と呼ばれる領域外にある。
「SF小説じゃあるまいし都合良すぎな未来だな! 二十五世紀の人間が地球からネメシス星系へ転移したのは何十億年後だったか。さすがにそんなご都合主義はないだろう。お前も結構なロマンチストだ」
「そこはお互い様ということで。ここが異世界ではなく地球と繋がっている証拠にもなります。地球からどの方角にあるかもわかりませんけどね」
彼らの祖国米国は宇宙開発に一番熱心な国だったといっていい。
ボイジャーを題材にした映画や小説も存在する。
「とても強い人間原理とやらに期待しようじゃありませんか」
「そうだな。なんといっても我々はここにいる」
ロビンに対し自慢げに笑う。
「言っていなかったな。第二次リュビア遠征隊の要員として俺もリュビアに行く予定になった」
遠征隊が一次だけなど出来る範囲も限られる。エウノミアを中心とした第二次遠征計画も予定されていた。
「は? ユリシーズは誰が見るんですか」
思わぬ裏切りにロビンが真顔になった。
「クルトにウンランにヒョウエがいるだろう! お前がいればオーバード・フォースも心配いらないしな!」
「嘘だ。私も行きたい!」
ロビンもまた宇宙に対し強い憧れを持っていたのだ。
「これは譲らんぞ!」
言い争いに発展した二人を止める者はいなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『全艦惑星リュビア航行コースに入りました』
「順調か。よかった」
初めての宇宙だ。といっても天井もあれば地面もある。
もっと無重力空間になると思っていた。
『航行用シールドを展開しています。現在三艦とも、二重の円筒のシールドを展開しています。宇宙塵対策と同時に重力を発生させる装置も兼ねているわけです』
「宇宙の飛来物は凄まじい速度なんだっけ」
『そうです。もともと高次元投射装甲は宇宙塵対策でもあり、惑星地表における隕石対策のために解放された技術ですから』
「宇宙か」
宇宙にきたという実感が湧かない。
宇宙服も無ければ無重力空間もないので当然だ。
外に出たら大気がないといわれてもぴんとこないものだ。
『テザーをつけてダミーのパンジャンドラムに乗りますか?』
コウの実感を察してアストライアが珍しく冗談を言う。
想像して思わず笑うコウ。
「目が回りそうだ。無重力なら車輪は必要ないだろうな」
『あれはロケット兵器ですから移動はできますよ』
「やめとくよ。ラニウスの宇宙装備で遊泳は考える」
『そこはアルゲースが準備中です』
念のため百機近いシルエットが宇宙用装備に換装している。戦闘だけではなく船外活動も考慮している。
「……本当に宇宙に来るなんてな」
『宇宙に思い入れがあるのですか?』
「俺が子供の頃にね。日本が小惑星探査機が初めて小惑星まで飛んでサンプルリターンに成功してさ。その実際のカプセルを父親と見に行って宇宙に憧れがあったんだ」
数少ない家族との思い出を語るコウ。
『キヌカワ氏の名前を冠したプロジェクトですね。彼が行方不明のあとに行われた探査機【ハヤト】による小惑星キヌカワの宇宙探査初のサンプルリターンは、人類史に残る偉業として記録されていますよ』
「え? あの衣川さんなの?」
構築技士衣川と、プロジェクトの名前の衣川が結びつかなかった。
今更ながら有名な宇宙開発者が行方不明というニュースを思い出した。
『知らなかったのですか』
「俺が子供の頃の話だし…… 知らなかった……」
改めて衣川の偉業を実感する。宇宙へのこだわりを見せるはずだった。そういえば構築技士で最も高齢なのも彼であることを思い出した。
アストライアが衣川を手本とすべし、と常々言う理由を改めて理解した。
『彼は転移者のなかでもコウと時代が少々ずれていますね』
「そういうこともあるんだな。意外と神隠しや失踪したといわれる人物はこの時代にきているのかもしれない」
『あり得ますね。何せアバウトさがウリのプロメテウスですから』
宇宙について語り合う二人を見守る女性陣がいた。
「割りこむ隙がない。
エメが無表情に嘆いた。
「どうするにゃ。まさかアストライアがあそこまでデレるなんて」
「しかも得意分野の宇宙ですからね……」
「コウだって宇宙初日なんだから興奮もするわよ。私だってネレイスなんていいながら、初めての宇宙だし」
にゃん汰とアキが落ち込むなか、コウに理解を示すブルー。
「当分艦外は無理だし、交流時間が増えると思うこと。逃げ場もないんだし。どうやっても捕まえることはできるんだから」
しばらくは宇宙艦内での生活。
コウと接する機会は増えるはずだと思うようにするエメだった。
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