惑星リュビア遠征計画
次なる戦争のための準備期間
シェーライト大陸は尊厳戦争終了後は小康状態を保っている。
新傭兵企業連合【トライレーム】は、所属するユリシーズとメタルアイリスの幹部が管理運用という、従来の形に落ち着いた。
傭兵管理機構と同じ権限を持つが、運営は基本的にオケアノスが管理する。
トライレーム本部がやるべき中心事業は、兵器の出荷先の調整や、他大陸の傭兵派遣の準備となる。
中立の傭兵機構本部、人類側にいるトライレーム、ストーンズ側のアルゴフォースの勢力図が完成した。
「今回のコウの功績は、誰が敵か味方か所属がはっきりしたところだろうな。勢力争いとしての紛争は苛烈になるだろうが」
「そうだな。だが誰が敵かわからんよりはましかな」
「トライレーム所属の傭兵は制限なし。傭兵機構には、主に中古の量産機を卸すことになるか」
最新兵器は当然トライレーム優先で手配する。
「といってもなぁ。やはり仕方ないとはいえ。こういうのは苦手だ。ロビンに任すわ」
「お任せください」
ロビンはオーバード・フォース代表で参加している。
ここにいるのはバリーとケリー、ウンランの四人だ。
「中古兵器が紛争を引き起こすとはままあるものだ。紛争地域の各勢力に中古兵器を大量に押しつける結果になっちまったな。それでもまだ足りないが」
「仕方ありません。我々は随時新型兵器にアップデート。他大陸は戦力が喉から手が出るほど欲しい。たとえベアの追加装甲型でもね」
「結局はストーンズ側の傭兵も使うのが辛いところだけどな」
「割り切りです。進んで売るわけではありませんがね。シェアをアルゴフォース製量産機に取って代わられるぐらいなら、こちらで提供してしまえばいいのです」
「そういう駆け引きだけは戦争してるって実感するよ」
「そこがケリーらしいですね、アルゴフォースの量産機も本来はジョン・アームズ製の新型量産機。そこからヴァーシャ製のアルゴフォース量産機に変わっていくでしょう」
敵のA級構築技士ヴァーシャは量産機からエース機まで様々な構築な分野で優秀な兵器を作り続けている。
鹵獲したアルラーを研究したユリシーズの面々は絶句したものだ。このコストでこの性能が出せるのか、と。
「その点メタルアイリスはラニウスA1とBが中心だからな。エース用のC型も増えてきた」
バリー自身も最新のC型を運用している。
「ありゃメタルアイリスだからこそ可能だ。普通の傭兵たちには十分高嶺の花さ」
「確かに」
ケリーはコスト管理に厳しい。ウンランも隣で同意する。
「装甲筋肉を採用していない、普及型であるシュライクでもそこそこするからなぁ」
ラニウスに搭乗できるパイロットは限られている。艦載機に限定されているのだ。
「傭兵も戦闘がなければ喰っていけない。ただ、戦場はここにはなくても各地にある。しばらくは供給が需要を上回ることはないだろうね」
「そうはいうが、ウンラン。命を預けるヤツは高性能機に乗りたいだろう」
「だからこそのトライレームじゃないか。金属水素生成炉を持つ機体はトライレーム経由じゃないと手に入らないからな。アルゴフォースも入手できるようになったとはいえ、生産量は半分ぐらいじゃないかな」
「入手し製造するにはオケアノスの許可がいるからな。A級構築技士の数と直結する。こちらはコウ入れて六人。向こうはヴァーシャ一人。他にも何らかの手段で入手しているかもしれんが……」
「そういうこと。ヴァーシャならアルゴナウタイを優先するはずだ。ストーンズ側のシルエットを傭兵が手に入れるのはまだまだ時間がかかるね」
「鹵獲機体も研究しているが、本当にあいつは費用対効果の高い機体を作りやがるな。敵ながら見事だよ」
「そういうところは学ばないとね。我々も」
ウンランの言葉にケリーは頷く。高額で優秀なのは当然そうであるべきだが、必ずしもそうではないのが工業製品の常だ。
「新しい傭兵管理機構本部はどうだ？」
企業側は新しい流通経路として新しい傭兵管理機構本部を認識していた。
「監視としてファミリアとネレイスを運営陣に組み込んだの。二つ要塞エリアを占拠して、拠点は築いたみたいね。問題は本部業務を嫌がるアンダーグラウンドフォースが出るかもだけど」
「それぞれ割り当てられた借金を返すまでは傭兵管理機構本部として登録される。そこはご愁傷様だ」
ジェニーの言葉にケリーが継ぐ。
「アルゴナウタイは変な動きがあると聞きましたが」
クルトが噂を口にする。
「ああ。間違いねえ。なんか傭兵を引き抜いているぜ、あいつら。あとは……どんなもくろみがあるかはしらんがうちの系列会社へ楽器の注文があった。迂回注文だがアルゴナウタイが背後にいることは間違いねえ」
TAKABAは兵器だけではなく、地球からの技術として様々な楽器などを提供していた。娯楽が少ない惑星アシアでの人気は上々だ。
「楽器、ですか？」
衣川も音楽にうるさいほうだ。アルゴナウタイの意外な注文に驚いた。
「石ころが何故楽器を注文するかはわからんが…… 戦争の道具にしようがないからな」
「一応注意しておきましょう。新しい洗脳手段とも限りません」
「そうだな、注意はしよう」
楽器の発注とは今までにないストーンズの動向だ。
構築技士たちに緊張が走る。
「ところで我らがウーティスはどうした」
コウの意見を聞きたかったケリーがバリーに確認する。
「今日はオフだよ。ちと気の毒だが、自分が撒いた種だ」
「なんだなんだ」
「映像を見たらわかる」
コウの姿が映し出された。
自分が撒いた種という言葉の意味を実感する映像だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
今日はP336要塞エリアはお祭りのような雰囲気。
だがファミリアたちはひそかに厳戒態勢を取っている。
それはある一団がいるからだ。
コウの隣に美女が並んで歩いている。アストライアのビジョンだ。その隣にはエメ。背後に一歩遅れてヴォイがいる。荷物持ち担当だ。
オフなので約束通り服を買いにきたのだ。
その隣の一団も異様だ。女装したギャロップ社社長マティーにセリアンスロープの形態を取る超AIのリュビア。そしてエウノミアとエイレネのビジョンがいる。
超重要人物が一堂に会して買い物を楽しむというイベントに、ファミリアたちは自発的に集結していた。
それぞれの建物には無数の鳥がいる。ホラー映画さながらだが、上空からの警戒。一度エメが酔漢に絡まれ殴打されそうになったところに、鳥型ファミリアが割ってはいったことがある。そのため情報が共有されてしまい要塞エリア内におけるエメの警護は鳥型ファミリアの仕事となっていた。
猫、犬、ネズミ型ファミリアは各地に潜伏し、先回りして警護している。
ファミリアの協力者としてはセリアンスロープたちがいる。通行人のふりや、露天営業をしているなかに紛れている。コウたちは気付いていない。
プレイアデスメンバーとトルーパー四部隊は念願の合コン中。黒瀬とエイラは当然不参加だ。
コウも誘われたが、買い物を理由に断った。
「なあ。マット。こういうとき、どういう服を選んであげたらいいんだ」
小声でマティーを愛称で呼びかけ、アドバイスを求めるコウ。期待が辛い。
「簡単だよ。本職のアパレル店員におすすめの服を三着ほど見繕ってもらう。そのなかから本人の意見を聞きながらコウが時間をかけて選べばいい」
「時間をかけて？」
「即答すると何も考えてないようにもみえるだろ。色々会話しながら買うんだ。大事なのは服そのものじゃない。君がどういう理由でその服を選んだのか、その過程だ」
「ありがとうマット。そっちもよろしく」
「任せてくれ。楽しいからね。この女装趣味を受け入れてくれるAIがこんなにいるとは、さすがギリシャ神話に倣ったAIたちだ」
コウは頷いた。ギリシャ神話はあらゆる倒錯した性の起源であるといわれても驚かない。
リュビアやエウノミアも何も思わないらしい。エイレネとは様々な女装分野の話で盛り上がり、まわりが若干引いているぐらいだ。
「アシアを呼べばよかったな。次誘おうか」
「最初から誘いなさい。コウ」
エメの瞳が金色に輝いている。アシアのエメだ。
「最初からいるし！」
「推参しました。エメが誘ってくれたから良かったものの、こんな機会めったにないし！」
「そうすると思ってましたよ。私は」
アストライアが微笑む。楽しいようだ。
「んー」
「あら何かご不満かしら」
「いや。エメの服を買うから。アシアに服を選んであげられないな、と」
「ちょっとまって。しまった。でも今日はエメと一緒にいたいし。つ、次お願い！」
本気で焦るアシアのエメに、笑うコウとアストライア。
「わかった」
そんな様子をみて、ファミリアが呟く。
「アシア様…… エメちゃん…… その光景は完全に仲良し夫婦の娘。親子ですよ……」
「お労しや……」
貫禄が身についてきたコウに、気品溢れるアストライアが並ぶ姿は恋人同士というより仲睦まじい夫婦のよう。その中心にアシアのエメがいるのでなおさらだ。
だがそれは決してアシアとエメの本意ではないはずだ。ファミリアたちは二人の立場を憂う者が多かった。
次回の護衛における課題となったことは言うまでもない。
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