国家形成戦争時代の幕開け

 交渉がまとまるや否や武装解除する本部所属の各アンダーグラウンドフォース。

 全会一致でナビス艦長のサンスが代表代理として選出された。


 宇宙戦艦ナビスが指定された海域に単独で到着する。

 対するトライレームもバリー率いるキモン級を中心に様々な艦が取り囲む。アストライアは海中で待機している。

 

 エンタープライズの巨体が異様だ。甲板に立つ大量のシルエット。他の艦をみても甲板にいるその全てが可変機や飛行能力を持つシルエットのようだ。

 それだけで、傭兵機構本部の直属傭兵たちは、自分たちが大きく時代から取り残されていることを痛感する。


 四キロ級の要塞空母到着に戦くナビス。この船は1.5キロ級の宇宙戦艦だ。かつて死闘を繰り広げたメガレウス程ではなく、中型戦艦といえる。

 それとは別に大量の戦闘機が上空を警戒しているのだ。

 兵器の圧倒的な質と量の差。まざまざと見せつけられた格好だ。

 

 二機のアンティーク・シルエットがキモン級に着艦する。アークエンジェルとアラトロンだ。

 会談はエンタープライズ内で行われる。アラトロンの後部座席には艦長のサンスが乗っている。アークエンジェルはライムンドを乗せるためだ。


 三人はファミリアに案内され、ラウンジではなく艦長公室に案内される。

 正式な来賓扱いされているということだろう。


 気まずそうにしている三人に対し、メタルアイリスのバリーとジェニーが対面にいる。その横にユリシーズからはケリーとゼネラルアームズ社代表であり艦長のロビンが参加した。

 少し離れた場所で壁を背に立っている青年もいた。黒髪に黒い瞳。前髪で表情は窺えない。


「もうすぐ来るはずだ」


 そういっている傍からライムンドがセリアンスロープに連れられて入室した。治療も施され、健康のようだ。


「ではそちらに座りたまえ。交渉を始めよう。ウーティスは捜索中だが、いまだ行方不明だ。よって俺が代理となった」


 バリーがふっと笑う。


「正直いって話に乗ってくれて助かった。宇宙から落ちてきたアレな。あれを装備可能な同型艦があと二隻ある。使いたくはなかったからな」


 その言葉に蒼白となって沈黙するロクセ・ファランクスの面々。

 バリーお得意のブラフであるが、嘘でもない。ホーラ級は三隻あり、同じ兵装は装備可能だ。


 ロクセ・ファランクスの面々は勝てるはずなどなかったと、改めて認識し直す。

 

「本当にね。私としてもはあんまりだと思う。パンジャンドラムがいつのまにやら戦略兵器になっちゃった」


 青ざめた表情の彼らを面白がるジェニー。


「パンジャンドラムはそういう兵器ではないと思ったが?」


 ライムンドが思わず口にする。彼の知っているパンジャンドラムは英国面の悪い意味での代名詞。失敗兵器の代表だ。


「進化したんだよ。アシア大戦でな。――話の本題にもなるが、あれを相手に使う敵はストーンズであって傭兵同士の戦闘ではない。そう思わないか」

「そうだな」


 絞り出すように答えるサンス。あんなものを投射できる戦力が三隻もあるなら、彼らの宇宙艦隊など簡単に撃破されてしまうだろう。


「そうとも。だから俺たちトライレームは新しい傭兵機構本部とは条約は結ばない」

「なっ! それは……」

「本来俺達が戦う必要なんて欠片も無いんだ。なら講話やら条約など必要あるまい。あれは殺し合い。相容れない者同士で、もしくは遠い未来で和解する組織同士が最低限のルールを確保するためのものだ」


 自分たちにを使わせないでくれという要請であろう。いつでもお前らには使うぞという脅しとも解釈できる。

 彼らにも創る事が出来れば使えるということにもなるのだが、あのスカイフック型パンジャンドラムを創るには、アシアが解放したコウしか所有していない技術とシルエットベースの地下工廠とホーラ級が必要だ。そんな勢力はネメシス全域に存在しないだろう。


「やましいことがなければ怖れる必要もあるまい。君たちの保有する現時点での資産。宇宙艦やシルエットは認められる。捕虜にしているパイロットは解放するが鹵獲兵器はこちらのものにさせていただく」

「その先が問題だ」

「まず交渉権として傭兵機構本部の権限はロクセ・ファランクスとライムンドが引き継ぐ。何よりこれが成立せんと話にならんのでな」

「それがオケアノスに認められるかどうかが問題だ。本部長や超AIぐらいしか無理じゃないのか。アシアが代行手続きでもしてくれるなら話に乗るが」


 ライムンドが苦虫をかみ潰したような顔をする。引き受けたくないし、そもそもオケアノスとコンタクトを取ること自体が難しい。

 サンスに押しつけることも考えたが、本気で殺し合いになりかねない。


「オケアノス。傭兵機構本部が機能していない。ロクセ・ファランクスと隊長であるライムンドに代表権を移してもらうことはできないかな」


 壁に背を預けたまま青年がオケアノスに呼びかける。


『可とする』


 ロクセ・ファランクスのメンバーたちは青年に対し瞠目した。オケアノスに端末もなしに単独で呼びかけることが出来る者が存在するなどとは思わなかった。

 ライムンドが凝視する。この男、ウーティスではないかと。先ほどの行方不明という説明も、ロクセ・ファランクスの人間は信用していない。


「どこを見ている? 問題は解決したなライムンド。あとはあんた次第だ」

「あ、ああ」


 上の空で生返事をするライムンド。

 疑念の眼差しを黒髪の青年に向ける。


「詳細は後日。大枠をざっと言おうか。まず賠償金として百億ミナ。返済プランはあとで提示するから好きなものを選んでくれ。次に傭兵機構本部に属する連合艦隊の制限。傭兵機構本部とトライレーム双方の承諾が必要。ない場合の本部勢力による艦隊禁止だ」


 百億ミナは日本円で約百兆円。エメが支払った額の百倍の金額だ。


「ま、待ってくれ。すぐに回答できる問題ではない」

「時間を延ばしても宇宙からあのローリングボムが降ってくるだけだぞ」


 ケリーが苦笑する。パンジャンドラムが戦略兵器として抑止力扱いになる日がくるとは思わなかった。


「一括払いなどは要求しない。傭兵機構の総資産を引き継ぐなら払えない額じゃないだろ。トライレームは出来たての組織だ。未来への投資みたいなもんだな」

「な、何を…… いや。傭兵機構の総資産を引き継ぐのか。ならば確かに払えない額ではないかもしれない」

「それに百億ミナでは、あの数の宇宙艦隊を揃えることはできまい」


 ロビンが指摘する。痛いところを突かれた格好だ。いくら金を積んでも状態の良い宇宙艦は手に入らない。エンタープライズは投棄された要塞空母を改修しているが、宇宙航行能力はまだ取り戻せてはいないのだ。


「君たちは私たちに何をさせたい」

「傭兵機構本部として、まっとうにやってくれることを期待だな」

「その先だよ。我々が傭兵機構本部として再編する。それか財産権の明文化の条件であることは理解している。その先に何かあるはずだ。君たちの意図が」


 ライムンドは結論を知りたがっていた。ストーンズへ特攻しろとでもいうのか。それとも他に意図があるのか。

 壁に背を預けている青年が口を開いた。


「傭兵機構は金銭に応じてストーンズ勢力へも傭兵を派遣していた。それは反対することじゃない。反対ならオケアノスがとっくに介入してるからな」

「君は? かのウーティスか」

「ん? 俺はコウ。一介のパイロットだ。最初にアラトロンとやりあったさ」

「やりあった? あの時の一人か…… アラトロンを撃破したパイロットが貴様か!」

「そうだ」


 両方とも凄腕のパイロット。その片割れだ。アラトロンを撃破したパイロットなら幹部であることは明白だろう。


 ウーティスその人であることも確信した。

 発端は彼の引き渡し拒否だった。一億ミナもの大金をぽんと振り込んできたのだ。


「そんなことはどうでもいい。あんたたちはマーダーの襲撃によりA001要塞エリアと軌道エレベーターを下位のアンダーグラウンドフォースに押しつけて本部機能を持ったゴルギアスを旗艦に護送船団で逃げ出した」

「何が言いたい?」


 コウは薄く笑う。前髪の切れ目からぞっとするほど冷たい視線が漏れ出る。


「そう苛立つな。確認だ。その後はきっと海底、もしくは海溝奥深くにある防衛ドームに逃げ込んだのだろう。要塞エリア級のコロニーだったかもしれないな」

「そうだ」


 サンスが割って入った。下手に嘘を述べても仕方ない。ではどこにいたのか問われても海中しかないのだ。


「つまり、だ。あんたたちもアシア大戦の動向は入ってきていたはずだ。興味はなくてもな。惑星アシア全域放送でのニュース、各地にいる傭兵機構本部に属する人間たちから。ここからが本題だ」

 

 コウはじっとロクセ・ファランクスを見据えた。


「食料も補給もなし。遠からず尽きたはずだ。栄養だけならレーションでもかじっていればいいさ。しかしあのレーションだけで一生を生き抜くのは無理だよな」

「仰せの通りさ。海底の閉塞感は君たちにはわかるまい」

「私たちもだぞ。傭兵機構本部に見捨てられA051要塞エリアが襲撃されたときに逃げ延びたゼネラルアームズの社員たち全員、大きいとはいえない防衛ドームに隠れ潜んでいたのだ」


 ロビンが怒りを堪えながら言う。ライムンドとサンスが気まずそうにした。

 傭兵機構本部はA051要塞エリアに最も近いA001要塞エリアにいたにも関わらず、見捨てた。


 ジョン・アームズ社とその協力会社ゼネラル・デフェンス社の多くは逃げ延び、海底の防衛ドームに潜んでいたのだ。彼らは傭兵機構本部を信用せず、BAS社以外に所在を知らせることはなかった。

 ロビンはこの抗議のためにここにいると言っても過言ではない。


「俺もレーション生活はしている。アシアは広いからな。居住エリアのコロニー外の生活は想像はつくよ」


 こんにゃくゼリーのようで甘みさえあればいいが、ものによっては味もしないレーションだ。

 本当に生きるためだけの生体用燃料といっていい。


「つまりあんたたちは遅かれ早かれどこかの拠点を強奪、そこから再建するしかなかった」

「その通りだ。そして傭兵機構本部はシルエットベースが最適と判断したんだ」

「場所を特定さえも出来ていないのにか。失敗して補給もできないようじゃ後がないだろ」


 コウが苦笑する。未だストーンズも傭兵機構本部もシルエットベースの正確な場所は掴んでいない。


「君の指摘の通りだ。このまま戦闘が終了しても我々は補給もままならん。君は何をいいたい」

「トライレームは軌道修正をあんたたちに命じるだけだ」

「軌道修正?」

「侵攻するならP336要塞エリアとシルエットベースのシェーライト大陸ではなく、スフェーン大陸とパイロクロア大陸に攻め入るべきだったんだ」

「……それは」

「知っての通りあらゆる勢力が入り乱れている。どう攻略するかは任せるさ。それだけの戦力があれば要塞エリアの一つや二つ余裕だろう。こっちは自分たちで手一杯だ。なんとかやってくれ。必要なら各地に散らばっている本部の人間をかき集めろ」

「支援もなしにやれというのか」

「俺達は支援もなしにやりあったんだよ。アルゴフォースとな。――惑星アシア最強といわれ、宇宙艦を多数保有するロクセ・ファランクスにできないとは言わせない」


 有無をいわせぬ迫力。ロクセ・ファランクスのメンバーは彼がウーティスだと確信した。


「拠点を作って補給なり徴税なり好きにしろ。行政機関としての起点を造れ。侵攻する場所はストーンズに限定した話じゃない。あんたらはストーンズを相手に商売もしているしな。混乱中の要塞エリア。防衛ドームは山ほどある。どれでもいい」

「スフェーン大陸とパイロクロア大陸。この二つはさらに混迷するぞ」

「結果論だが傭兵機構本部が逃げ出した時にこの流れは決まっていた。それは前本部のせいにしておけばいい。新しい傭兵機構本部には責任は問わないさ。今回の賠償は戦闘に参加したアンダーグラウンドフォースに対しての請求だ」

「責任を一つ免除された形か」


 惑星アシアで最大勢力のロクセ・ファランクスは傭兵機構本部と一心同体なのは明白。防衛義務の放棄など責を問おうと思えば可能だろう。

 とくにオケアノスと直接会話できるこの青年ならば。

 

 だがこの青年は彼らを追い詰める気はないようだ。


「今回のどさくさ紛れでアルゴフォースも行政機能を手に入れた。ストーンズ側の傭兵組織アルゴフォースとアシアを護るための組織トライレームの対立軸。中立、もしくは双方のコネクションを持つとしての傭兵機構本部。三勢力となり多くの下部組織が生まれるだろう」

「もっとも人類が滅んだら元も子もない。傭兵機構本部は多少こちら側で手綱は持たせてもらうがね。せいぜいうまく立ち回ってくれ」


 コウが今後の情勢を語り、バリーが釘を刺す形だ。

 厳しい顔になるライムンドとサンス。


「しかし、戦力が今回の戦いで喪われ……」

「何のための傭兵で、何のための資金だ。金はあるんだ。雇えばいいだろう。もう貯め込むばかりは許されないということだよ。ヒトもモノも戦争を引き金に流通している。今の時代の流れに取り残されているんだ」

「企業も有効活用をするべきだな。実感しただろう。局地とはいえ、専門性では惑星間戦争の性能に迫る……いや特化した機能性においては優位性さえある。ライムンド。それは君が一番良く知っているだろう」

 

 コウとロビンがロクセ・ファランクスを諭す。敵対関係になりたいわけではない。変革する時期が到来したことを告げている。

 

「戦争特需にでも期待するのか? 旧時代的な考え方だと思うが」

「それこそ幻想だ。戦争特需なんてのは消耗した物品の補充に過ぎない。復興も同様だ。喪ったものが大きいからこそ補うだけで特需のように見える金が一時的に動く。それで黒字になるなら二十一世紀の軍需産業体は合併もしないし国を動かして大規模な戦争をしていただろうね」


 ライムンドの思いがけない言いがかりにロビンが皮肉を言う。


 戦争に生産性はない。消耗するだけだが、一時的には消耗した分だけ補充も発生する。復興も同様に。それだけで莫大な金額が動き、総取りを狙う輩も出る。

 

 


「公共事業としての軍備は存在する。穴を掘って埋めるだけよりは命や財産を敵から護る軍備に回したほうがましだろう。だが戦争に生産性は無く戦闘は消費しかないからな。大戦ともなれば、なおさら」


 コウも思ったことを口にする。これは師匠やフユキからの請け売りだ。


「通貨管理はオケアノスが一元管理している。国債発行を行い経済を回すという地球時代の概念もない。ストーンズですらオケアノスが管理する経済のなかにいる。企業を邪推するのは筋違いだな」


 バリーがライムンドを諭す。


「それにだ。資本主義においては軍事力は財産権の保護によって正当化される。防衛、インフラ、正義、教育、そして安定した通貨。惑星アシアはようやくそれらが揃ったのだよ」


 ロビンの言葉にライムンドが渋い顔をする。資本主義など地球に置いてきた概念だと思っていた。


「金の世界に正義ジヤスティスは必要なのか」


 サンスも皮肉気味にいった。最も縁遠い言葉と思える要素にしか思えない。これは要塞エリアや防衛ドームで完結していた世界固有の思考だろう。


正義と公平ジヤスティスがないと汚職だらけの不正になるだろう? 契約の起点は信用だ」


 これはコウにもわかること。積み重ねた信用は一瞬にして崩れるものだ。だからこそ尊く、大切なのだ。

 条約などその最たるもの。その遵守能力なくしては行政府として見做せない。


「企業と連携、か」

「構築技士たちが企業を興し、傭兵相手に兵器を売却することで人類は戦力を整えた。俺だって去年までベアが愛機だった。今じゃこの一年で可変機に空飛ぶシルエットだ。あんたも認識を改めたほうがいい」

「どうやらそのようだ。この数十年、地球の古い技術など何の役に立つかと思っていたが…… 技術解放によるシルエットの変革も想像以上のようだ」


 ライムンドも認めた。技術解放が進んだ惑星アシアはかつてより確実に力を増しているのだ。

 ならば資産は地下にある遺跡だけではなく、各要塞エリアや防衛ドームから生み出されていることになる。


「アンダーグラウンドフォースが力をつけ、傭兵管理機構そのものが機能している以上、本部機能は必要なのか?」


 サンスが疑問を口にする。傭兵機構本部再編は難事業になると容易に想像できる。


「残り二大陸の現状は想像以上に酷い。あんたたちがA001要塞エリアを見捨て、本部機能がなくなったおかげで、各地でアンダーグラウンドフォース自体が略奪し合っているとの報告がある」


 バリーが現状を報告する。他の大陸などに気を回す余裕はないのだが、救援や支援の話はひっきりなしに入ってくるのが現状だ。嫌でも情報は入ってくる。


「略奪?」

「唯一の世界機構を喪った非公式な軍が暴徒になりやすいのはわからないか? 手綱を喪った暴力装置だぞ。スフェーン大陸とパイロクロア大陸は各地の要塞エリア、防衛ドームが兵力を雇用し独立、もしくは群れて国を興す動きも出ている」


 ロビンが皮肉交じりに告げた。

 社会学では軍隊を暴力装置とする。一種の警察等の公権力さえも広義では暴力装置の範疇であり、それらは正当性が必要とされるのだ。


「国など遙か昔、地球時代の概念だ」

「世界政府が逃亡したんだ。要塞エリアも独立するさ。それこそ地球の歴史にある、中世の荘園と変わらない」


 主権国家とは合法的な暴力装置の独占という言説もある。

 各要塞エリアが支持された上で暴力装置たる軍隊を保持した以上、主権を持った政府であろう。


 国家形成に必要な要素。二十世紀に定義されたモンテビデオ条約によれば定住している住人、土地、政府、そして他行政府との条約執行等の外交力。その四つが揃うのだ。


「国家形成戦争時代が到来しようとしている。旧本部、ストーンズ、俺達の支援もあるか。国家に左右されない軍事力をもった行政機構は必要だ」


 国にでもなったらどうだ。かつてヴァーシャの言った台詞だ。

 コウとしては癪に障るが、この未来まで予測していたかもしれない。


「国家形成戦争時代だと…… その後始末をしろということか」

「できるならね。出来ないなら、いろんな勢力への中立組織として確立してくれ。俺もこの流れを止めることが出来るとも思えない、だからこそ傭兵管理機構本部を再建し、惑星アシアの新秩序構築に一役買って欲しい。これが新しい傭兵機構の大義だ」

 

 コウは興味なさそうに言う。方針は決まった。あとは彼ら次第だ。

 いい加減傭兵を管理してくれ、という思いもある。


 ライムンドはじっとコウを見据え、やがてため息をついた。


「大義か。失政を取り戻すには大義がいるな」


 サンスは唸った。これはまさに人生を賭けるべき難事業となるだろう。


「君たちの言い分はわかった。ストーンズへの落ち武者にならずに済むだけでも大きな借りだ。中立勢力、本来の傭兵機構を目指してみるか」

「わかってくれて嬉しいよ」

「改めて問おう。君は何者なんだ?」


 真摯な問い。コウは目を瞑り、思考する。何者か。

 思い出したのはこの惑星で初めてアシアと会話した、あの日の出来事。

 

 コウは初めて柔らかく微笑んだ。


「大げさだな。何者でもないよ。俺はただの便利屋ブリコルールだ」

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