機雷地雷爆雷はみんなマイン
「ゴルギアスはどうだ?」
ロクセ・ファランクスのライムンドが艦長であるサンスに確認を行った。
「まだ応答はない。諦めたほうがいいかもしれん」
マグマの海に沈んだ空母など助けようもない。
宇宙戦艦ナビスも海中でようやく体勢を整えることができた。艦内では復旧作業が進められている。
映像のゴルギアスは致命傷を負ったかのようにぴくりとも動かない。
「他艦隊はどうだ」
「姿勢を立て直しにはすべて成功している。第一陣はすでに空中艦隊として進行。敵と交戦を開始した模様」
「よもやあれほどの戦力でそう遅れを取るとは思えないが……早めに合流しよう」
嫌な予感がした。傭兵機構の宇宙艦隊所属のシルエットは最新鋭の高級機を揃えてある。
空戦も可能な性能を持つ。エンジェルの数は足りなくても、十分な戦力は整えてある。
「我々の準備は?」
「そろそろだ。他艦隊と同時に浮上。第二艦隊として陣形を整える」
「頼んだぞ」
緊急アラームが格納庫に鳴り響く。
「今度はなんだ?!」
「敵から攻撃を受けている! 我々だけではない。他の艦もだ!」
思いもよらぬ攻撃に悲鳴をあげるサンス。
「落ち着け。海中だぞ。敵の宇宙戦艦か?」
「機影を確認中だ。……
「潜水艦? 奴らは潜水艦まで所有しているのか? そんなことまで想定しているというのか!」
ライムンドは混乱した。潜水艦が存在するという状況が想定できなかったのだ。
今の惑星アシアで海洋資源を争うことはない。人類の生存地域はコロニーである要塞エリアや防衛ドームで十分。惑星間戦争時代にあった海底のは全て打ち捨てられたような状態だ。
つまり海での戦争など発生せず、潜水艦など不要なのだ。しいていうなら、海底コロニー探索用の遺跡発掘職である
海洋や海中での重要性。戦術や戦略という概念が希薄だったのだ。むしろ誰もいないからこその安全地帯、マーダーさえ寄らぬほどの場所だという認識さえある。アルゴナウタイですらアシア大戦が開戦しようやく気付いたのだ。傭兵機構がその重要性に気付かぬのも無理はなかった。
どんな優秀な指揮官でも、今まで意識したことない戦場に対し警戒しろというのは酷な話だろう。そして彼らは正式な訓練を受けた軍ではないのだ。陸海空それぞれの軍経験者がいる転移者とは海洋の重要性に対する認識が違いすぎた。
「機雷らしきものがぶつかってくる。凄い威力だぞ。糸車状の物体が次々にやってきているんだ」
「自走機雷か?」
海底での機雷は陸上よりも威力が高くなる。喰らい続けては危険だった。
「ナビスは大丈夫だが、強襲揚陸艦がまずいな」
「エンジェルで対処させるか。水中ではレーザーも荷電粒子砲も使えん」
エンジェルの汎用性は群を抜いている。水中でも活動は可能だ。
惑星間戦争時代の前線では、このエンジェルをいかに揃えるかが重要だったといわれている。
「了解だ。さすがに機雷程度で落とされるとは思わんが、各艦長が悲鳴をあげている。至急対処させよう」
海中ですら安全地帯は無いと知り、騒然とする傭兵機構本部の艦隊だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お見事です。ウーティス」
「ありがとう。マルジン。あなたの読みもあたりました」
周回軌道上のエウノミアから連絡が入る。仮面の男ことマルジンだった。
「敵は戦術の転換期を見誤りました! そう! かのスペインの無敵艦隊のようにね。旧世代的に接舷し乗り込み多数で制圧していた艦隊に対し、英国は女王陛下の海軍をもとに新戦術と戦略、新技術を採用しました」
【星】が生み出した成果に興奮のあまり饒舌になっているマルジン。このときばかりは聞き手に回るコウ。
「それはどのような?」
「鉄製の大砲をより靱性に優れた青銅の大砲にしたのですよ! 青銅はまたの名を
「傭兵機構本部所属の軍もまた、転換期を見誤ったということか。あの兵器をみてもわかるが……」
「左様。ろくな実弾兵器を施さずにね。レールガンはあくまで当時の代替兵装。状態が良すぎた宇宙艦が仇となりましたね」
大量の高性能だった旧式機。そしてレーザーと粒子砲など光学兵器の欠点を無視した運用。補給も必要なければ、整備できる技術力もない兵装が仇となっている。
弾代も弾の置き場所も節約できる分、格納庫はシルエットに回せる。宇宙艦として効率が良いのは確かだった。
ロクセ・ファランクスは遺産の力をそのままに勝てると踏んでいたとしか思えない戦術を取っているのだ。
「いよいよ、次は【
「ありがとう」
マルジンと通信を切り、コウは潜水艦部隊に指示を行う。
「ディープワン部隊。水陸両用パンジャンドラムである【
潜水艦からウォータージェットで推進するパンジャンドラム【節制】が投下される。
「ねえ。コ……ウーティス。機雷がパンジャンドラムである必要あるのかな。むしろ魚雷でよくない?」
潜水艦部隊を率いるマットが思わず聞いてしまう。
「無差別に機雷を撒くより、自走させたほうが味方も安全だろ? 地上や地中で爆発しようが海中で爆発しようがマインであることには変わらない」
「納得だ! その通りだね」
ジト目でマットを見ているリュビア。
「勢いに飲まれてないか…… いや、無差別に機雷を撒くのは反対だが」
次々に着弾する【節制】。装甲の薄い部分に直撃すると確実にダメージを与える。
「パンジャンドラムは揚陸艇に載せて敵に転がしてぶつけるという運用。ならいっそ水の中で動けるようにしたら揚陸艇も不要だと考えたんだけどな」
「ミサイル飛ばしたほうが早いよ。ウーティス」
そこは迷わず進言するマット。そっと目を逸らすコウ。
迎撃にエンジェルが出撃し、【節制】を破壊しはじめた。
ブレードで斬るしかなく、爆発をまともに受け水中を漂っていく。
「破壊力が予想以上に凄いな」
「本命は対艦魚雷。宇宙艦を想定しているしね。海の中ではバブルパルスが最も効率的になるようにしている。威力も上がるさ」
「そろそろだね。エウノミア。準備よろしく」
『もう完了しておりますよ』
「トリトン部隊も出撃。エンジェルを排除へ」
「了解だ。セリアンスロープ、ネレイスのみんな。水の中の天使を排除だ!」
コウの指示をそのまま伝達するマット。
エウノミアの後部より海中へ人魚型シルエットが投入される。
「魚雷発射!」
各潜水艦から魚雷が発射される。どれも有線であり、破壊力を増している。
とくにAカーバンクル搭載艦であるエウノミアから発射される超巨大魚雷は、一撃で宇宙用強襲揚陸艦の左舷に大穴を開ける。対象の敵艦はダメージコントロールに大わらわだ。
水中でパンジャンドラム対策に追われるエンジェルに対し、次々現れるトリトン型シルエットのニクシーたちが襲いかかる。
専用兵装を専用で備えているニクシーには機動力で圧倒的に差を付けられる。エンジェルの多くが深海の闇に沈んでいった。
「エイレネ。【節制】の目標の変更は可能か?」
『え? 私? 【節制】もマーリンシステムは搭載しているから可能だよ』
「わかった。では【節制】の目標変更。敵旗艦ゴルギアスの穿孔し大破した部位から艦内に潜入。内部より炸裂させてくれ。今は海中となっている。艦付近の水温も下がってきたからいけるだろう」
『ゴルギアスを完全に葬り去る方向だね! りょーかい!』
「ただの追い打ちだよ。葬り去るとは人聞きが悪いな」
苦笑するコウ。エイレネは察しといった様子をみせると【節制】に指示を与えた。彼らは向きを変え、ゴルギアスに集結していく。
ゴルギアスに生存者がいれば悪夢のような光景だろう。
エメも敵に憐憫の眼差しを向ける。かの魔術師マーリンの父は夢魔ではあるが悪夢ではないはずだと内心思ったのだった。
「念には念を、だ」
コウは周囲が驚くほど入念な準備を行い、周到な戦い方を行っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
傭兵機構本部に属するナンバー2のアンダーグラウンド・フォースである【ハイランダー】が所有する旗艦は宇宙戦艦ファライコス。そして空母アグラオニケなど数隻の宇宙艦を保有する。
現在、アグラオニケは進軍する宇宙艦隊の再編成のため移動中であった。
「ファライコスはまだ海中から浮上できないのか」
艦長である男が苛立ちを隠そうともせず、部下に確認する。
「無理です!」 ゴルギアス付近にいたため……」
ゴルギアスを守るべく、輪陣形に似た編隊で戦艦が配置されていた。
アグラオニケは三時の方向にいたため、被害が少なかった。
しかし前方に配置されていた艦は次々と落とされ、通常火力で二隻も撃沈している。
気が気ではない。
「制空部隊出撃しろ。敵戦闘機部隊が大量に近付いている!」
アグラオニケから次々と飛び立つシルエット。強い衝撃があったため、全機とはいわないが、多くが復旧作業を済ませ出撃準備を整えていた。
迎撃部隊は短時間なら飛行行動が可能な機体ばかりだ。少数精鋭のシルエット部隊も存在する。
空に浮かんだ友軍のシルエットが次々と爆散していく。
無敵であるはずのアンティーク・シルエットでさえ墜落している姿を見て艦長は絶句した。
エンジェルの装甲は強固であり、大気圏内なら無限飛行さえ可能な超兵器がだ。
「な…… 何が起きている……」
「敵戦闘機部隊、相当な射程、火力を備えています。レーザーが減衰している友軍に対し、レールガンや有線ミサイルで狙い撃たれています」
「レールガン? 戦闘機にか!」
「はい」
思わぬ事態に狼狽する艦長。アシア大戦では機関砲の火力不足により中口径のレールガンを副砲、ないし主砲として採用する戦闘機も増えている。
これはアストライアに配属されたプレイアデス隊の重戦闘機部隊中心の航空戦力だ。
「しかし、エンジェルの装甲まで抜けるとは聞いていない!」
「あれはロクセ・ファランクスの偵察情報にあった新砲弾採用機と思われます!」
想定もしていない上空から急降下で鈍足のエンジェルを襲撃する
エンジェルが繰り出す対空レーザーなどもののともせず確実にエンジェルを撃破していく。
「ダメです! こちらの対空レーザー砲、二門破壊されました!」
「このままでは丸裸にされてしまうな……」
空母の武器は艦載機である。宇宙艦も同様だ。
「おのれ。仕方がない。
「了解です!」
アグラオニケは宇宙空母のなかでも特殊な変形構造を持っていた。艦名の由来であるアグラオニケは人類史上初の女性天文学者である、月堕としの魔女として有名だ。
巨大艦載機運用能力があり、本来ならな一・五キロ級だが、魔女モードでは二キロ近い巨大な滑走路になる飛行甲板と対空兵装を展開できるのだ。惑星間戦争時代における大型艦載機運用の名残だ。
地上制圧用部隊のシルエットがエレベーターにより、現れ対空行動を行う。
それだけでは間に合わない。シルエット用のキャットスロープを最大限に解放し、甲板に送り出す。
あっという間に百機近くが配置についた時、モニターの眼前で信じられないことが起きた。
「ほ、報告。て、敵戦闘機が……」
「言わなくていい」
艦長の声が震えていた。
眼前のモニターで展開される光景。それは――
「戦闘機が人型に変形するなどと! あれだけの数の可変機なぞ!」
百機近くのシルエットはあっという間に駆逐されたのだ。
次々に変形し、甲板に乗り込んでいく。
「次々と敵機体、艦内に潜入! 撃退できません!」
戦闘はアコルスを駆る黒瀬を先頭に、アグラオニケ艦内に躍り込んだ。
「か、海賊か。奴らは……」
空しく響く爆発音と、モニターに映る一方的な虐殺劇。
「どうして艦内に入ってくる? 何故ハッチが開いたままなのだ!」
シルエット用の側面ハッチが全て開いたままに気付いた艦長が激怒する。
「閉じろという指示もなく…… 閉じればシルエットが甲板に上がることもできません!」
「馬鹿者! 早く閉じろ!」
「ダメです! 艦内側の格納庫が制圧されて閉じることができません!」
「な、なんてことだ。とにかく迎撃しろ!」
射撃で応戦しようとするアグラオニケのシルエットに対し、閉所であることを利用し接近戦に持ち込むトライレームの可変機部隊。
戦場はアグラオニケの艦内に移行しつつあった。
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