殺意に満ちたパンジャンドラム

 開戦時、エイレネは惑星アシアの周回軌道にいた。


「傭兵機構本部。我がフレンドたちをモノ扱いなど決して許しはすまい」


 仮面の男――マルジンが呟く。珍しく声が冷たく、怒気が籠もっている。

 彼にとってファミリアは紛れもなく、家族であった。


『私もよ。自由と尊厳なくして何が平和か。私たちは手を取り合って生きていく。ね、マルジン」

「そうですとも我が女神。ウーティスの言葉に偽りなし」


 二人は声を揃えた。


「貴様らなどパンジャンドラムで十分だー!」

『貴様らなどパンジャンドラムで十分だー!』


 二人の合わさったかけ声とともに新型パンジャンドラムを投下した。パンジャンドラムは、ロケット噴射しさらに加速する。

 周回軌道上からゴルギアスめがけて投下される様は流星のよう。有線の火球となって落下していく。


「グッモーニング。モーニングコールはどうでしたかな。新型パンジャンドラム【スター】は。夜明けの軍団オーバード・フォースと朝をかけて、モーニングスターですよ」


 ゴルギアスへの挑発は空振りに終わった。通信を送ってみたが返答がないのだ。

 敵艦はそれどころではなさそうだ。

 ぐらいならいいが、永眠した可能性もある。


 モーニングスター。かつて中世欧州の戦場で使われた武器。メイスやフレイルなどの打撃武器だが、複数の凶悪な棘付きだ。【星】の形状は吊られた男と同じヨーヨー型ながらも凶悪な棘ともいえる突起が付いている。


 地表での惨劇が起きたのはその後のことだった。

 位置エネルギーも加えた【星】は着弾とともに衝突過熱による大爆発が発生し、海面はこの世の終わりを思わせるうねりを見せる。


『さすがビッグボスね。地殻津波を発生させうる質量兵器――まさに力こそ平和パクス!』

「私もこのパンジャンドラムの発想を聞いたときは思わず震えましたよ。地殻津波型パンジャンドラムなど。悪魔の化身かと」


 アベルは感激、内心怯えていた。この素晴らしい発想の兵器に加担できるという事実に。

 この上なく光栄な出来事だが、あまりにも威力が大きすぎた。


『この【星】を海面で使ったらどうなるか、もね。ビッグボスは角度をできるだけ垂直に、加速させてとか、本気で恐ろしいこと言ってたよね』

「確実にゴルギアスを葬りたいといっていましたからね」

『今回はスリングのように振り回すのでは無く最小限のモーションで鋭くコンパクトに振り抜けと。狙いを定めた瞬間からの金属水素によるP-MAX。それに加えタングステン・レニウム合金による重金属の合わせ技に惑星アシアの位置エネルギーさえ加わるのです。これに耐えられる宇宙艦はそうないでしょう』

 

 コウとアベルはアシア大戦終了後から【吊られた男ハングドマン】に対しさらなる改良を重ねていた。実際にはもう使うつもりもなかったが、フユキたち工作部隊が穿孔作業に苦戦している姿をみて思いついたのだ。

 最初から突起を付けて穿ち抜いてしまえばいいのだと。


『プラズマバリアを展開。吹き飛ばされたマグマが急速に冷却され、岩石となって衝突してくる』

「了解です。この速度域でも逃れらぬとは凄まじい威力と範囲ですな」


 周回軌道上のエイレネは秒速十一キロ。それでも多少の被弾は発生した。

 地表のゴルギアスはマグマの海に沈んでいく。その間に【星】を巻き上げ回収を開始した。


『よくオケアノスの許可が降りたと思うわ。投下角度と速度の限界値、私に直接送られてきたのよ。全てお見通しってわけ』

「公認で使えるなら万々歳ではありませんか」

『ほどほどに、なんてメッセージをオケアノスに直接もらったのAIはきっと私ぐらい…… オケアノスの印象が悪くなったらどうしよう!』


 もう手遅れでしょうな、という言葉は紅茶とともに飲み込んだ。 


  本来【星】は講和の過程で使い道はなくなったのでお蔵入りしたのだが、講和とは関係が無い敵ならば話は別だ。参戦決定後、エイレネと周回軌道上で待機することにした。


コウも同様の考えだったようで礼を言われた。まさに以心伝心の仲である。


『あの【吊られた男】は爆雷性能も重視していた。新型は突起を付けて敵の甲板に孔を開ける発想も入れて構築されたもんね』

「見てください。ゴルギアスの甲板に複数の孔が…… そこからプラズマかマグマかよくわからないものが大量にがなだれ込んでいきますね」

『隔壁で止まるのかな、あれ』

「止まったとしても浮上できるか疑問ですな」

『大気も海面もプラズマ化しているのね。極めて局地的の地殻津波。マグマ化した土砂とプラズマが同時に穿ち抜かれた艦内になだれ込む宇宙空母は初めてみた…… あれどうなるんだろ。下手したら超高温プラズマが無尽蔵になだれこむんじゃ』

「マグマの海に沈んでいますしね。なまじ高次元投射装甲だったばかりにあんな状況になるとは。一撃で爆散していたほうがましだったかもしれませんよ」


 アベルは人事のように呟いて、巻き上がる【星】を確認する。

 エイレネは結果に興味津々だ。


『空母は戦艦ほど撃ち合いは想定していない。下手したら真っ二つかもしれない』

「メガレウスに与えたダメージとは比較にならないほどの威力……」

『【星】は突入角度はえぐいから。投下速度も吊られた男の倍近い』


 天体衝突で重要視するべき天はその大きさで、質量、そして速度と落下する角度である。角度の僅かな差によって威力が大きく変わるのだ。

 大気圏に突入する物体は垂直に近いほど威力を増す。


 吊られた男と同じ運用をすれば、これほどの威力は出なかったと思われる。 


「私もあの速度や角度の許可があるとは思いませんでした。これほど殺意に満ちたパンジャンドラムもないでしょう!」

『殺意の正体。それは囚われのアシアを解放する為に動きもせず、過去より呼び寄せた転移者への支援もろくに行わなずに政治に腐心し保身に走った傭兵管理機構の本部へのウーティスの怒り。オケアノスの代行者を標榜しながら本来の責務を投げ捨てた行政機構への罰』

「敵意は手強い敵より無能な友軍に行くこともしばしばです」

『ストーンズのマーダーは現時代において生粋の侵略者。そしてアルゴナウタイはその黒幕みたいなもの。全力をもって戦うべき。しかし傭兵機構本部は違う』

「そうですな。彼らは惑星アシア全域の行政機関でもありました。いわば世界政府」

『苦心して集めた転移者たちが優秀すぎたとはいえない。現アシア人があまりに戦争を忌避し、何もしないことが最善手と考えた。それこそが最大の罪だというのに』

 

 エイレネは無表情にゴルギアスを眺める。 

 本来なら平和のための旗艦であるはずだった、過去の遺産兵器。平和と保身は違う。傭兵機構本部の財産と地位を守るため、多くの者が死んだ。


『あれほどの艦隊を持ちながら平和を守ることができぬ無能など滅べばいいのです』


 いつもの明るいエイレネとは違う。彼女は【平和を維持すべき兵器開発AI】。これが本来の姿なのだろう。


「奴らにはこれですら生ぬるい。【タワー】と名付けたいほどの威力ですな」

『それね。【塔】はアストライア姉さんに反対されたからね』

「アストライアも関係しているのですか?」

「もっと破壊力のあるものに名付けたいと。アシア大戦の後、小言を言われながらも手伝ってくれたわ。地殻津波効果をねじ込んだのも姉さんよ。ビッグボスが【星】を提案したおかげだね。投入角度と速度についてはオケアノスの指示を守っているし。今回【スター】のプロデューサーはアストライア。監修オケアノスよ』

「スター誕生秘話など知るもんではないですね」


 アベルさえもこれ以上破壊力のある兵器はさすがにそれはどうか、と思い悩む。


「もはや事実上の天意の罰ではないですか。むしろ【世界ワールド】と名付けたい威力です」

「アルカナでは【星】と【世界】は同じ意味を持つとする解釈もあります。このテザーフック型の原理を利用した次のパンジャンドラムは【世界】となるでしょう」


 果たして次はあるのだろうか。アベルでさえ疑問に思う。

 これはあらゆる勢力が禁止したいだろう。当のアベルでさえ若干引いている破壊力なのだ。


 マグマの海に沈んだゴルギアスは今や確認できない。今は煮えたぎった海水に覆われている。蒸発よりも海水量よりも補充される海水量が上回った結果だ。

 海溝ではないのが幸いなのだろうか。むしろ不幸なのだろうか。深い海溝なら蒸発した海水はさらに増え、惑星アシアは一ヶ月以上、雨雲に覆われるだろう。


「しかし、彼ら宇宙からの攻撃をまったく警戒していなかったですね」

『本当。もう少し警戒すると思っていたのに。アシア大戦が終わった程度の認識で海底から出てきたとしか思えない』


 傭兵機構本部の艦隊の悲惨な現状。

 周囲の護衛艦の甲板にいたシルエットも横転した際、海に投げ出されている。


 エイレネに対応しなかったと認識を責めるのは酷だろう。吊られた男は周回軌道から狙いをつけてぶんまわしてぶつけるだけだが、今回は狙い撃ち落としたのだ。


「二投目は百分後。三回目は放てるかわかりません。次は投下速度を落とす必要があるでしょうね。ほどほどでいきましょう」

 

 アベルは【星】の設定を秒速三十キロから半分の十五キロ程度に一気に落とす。これ以上海底火山や活断層を刺激したくはない。万が一に備え、爆雷として爆発するようセットする。


 表情一つ変わっていないが、背筋が凍る思いだったのは実のところアベル本人だ。

 この変人ですら、ネメシス星系を滅ぼしかけたと言われるアストライアと、一番警戒されたといわれるエイレネに対する認識を改めた。

 

 彼女たちは本来兵器開発AI。最も効率的な破壊効果をもたらすものを作り出すことこそ、彼女たちの本懐。コウはその彼女たちに魅入られているとさえ言える。


 彼女たち。そして友人であるコウに対し自分がブレーキにならなければいけない! アベルが決意する。


 本当に頼むよ


 老人の疲れた声が聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。


「威力は落ちますが小型艦なら一撃でしょう。もう【星】も持ちません。次で最後になると思います」

『あと二回ぐらい落としたかったねー』


 周回軌道のエイレネはさらりと恐ろしいことを言ってのけた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「生きているか?」


 一瞬意識を喪っていたロクセ・ファランクス隊長のライムンドはまず隊員の身を案じた。

 爆風と津波でこの宇宙戦艦ナビスも転覆沈没し、海の底に居るのだ


 機体を乗り換えている。アラトロンではなく、所有している最強の機体に乗り換えている。それほどにメタルアイリスの新型を脅威と感じていたのだ。

 機体名はアスモデル。壁に激突した衝撃程度では傷一つ付かない。


「こ、こちらなんとか」

「は! 申し訳ありません。気を喪っておりました」


 皆、格納庫の壁に叩き付けられたのだ。荷電粒子砲の直撃さえ耐えうるはずの宇宙戦艦も、大気圏内での衝撃波と津波は想定していなかったのだ。

 

「こちらナビス。ゴルギアス、応答せよ」


 しばらく待ったが、応答はない。


「一撃でゴルギアスが粉砕された?」


 思わず疑問を口にする。それにしても不可解だ。アシア大戦では質量兵器の投下で決着ついたのはライムンドも知っている。

 現在ストーンズとの戦争条約でも禁止兵器として真っ先に挙げられたはずだ。それが使われた。条約違反などをすればオケアノスが動くはずなのだ。


 では別の兵器という線を検討するが、それもありえない。仮にも超高速で飛び交う宇宙空間を想定した宇宙空母。

 多少の攻撃では一撃で破壊は無理なはずだ。

 宇宙から別の宇宙艦で体当たりしたとしても、双方が粉砕されるだけ。被害はもっと大きいだろう。そんな使い捨てのような使い方をする者はいないと思われた。


「艦長サンス。応答せよ」

「こちら戦闘指揮所よりサンス。艦は転覆したままだ。浮上するにはまだ時間がかかる」

「遅いな」

「宇宙とは勝手が違う。宇宙にいったことはないが。気密性が高いのが幸いだな」

「仮にも惑星間戦争時代の戦艦だ。水漏れなんてしようものなら宇宙で行動などできん」

「そりゃそうだ。こちらはまだましだ。ゴルギアスはな……」

「どうなっている?」

「映像を送る」


 ゴルギアスが映し出される。


 宇宙から飛来した、棘付きの巨大な糸車状のものが甲板に衝突。

 甲板に複数の孔が空いていた。衝突の衝撃で大気と海水が吹き上がり、巨大な水柱、そして津波にへと変化していく。ナビスは衝撃で叩き落とされ、この津波に飲まれたのだ。


 ゴルギアスは海面に叩き付けられ、そのまま海に押し込まれる。プラズマと沸騰した海水が孔に吸い込まれ、一瞬でマグマの海に沈没した。

 燃えさかる海中のなか、幽鬼のように佇むゴルギアスの姿は無残だった。


 現在も水柱は存在しているが、徐々に高さを失っている。

 

「ゴルギアスの艦機能はかろうじて生きていると思う。だが応答はない。気絶しているか、あの質量兵器の衝撃で中味がミンチになっているかもしれん」

「宇宙空間からの質量兵器は条約違反ではないのか。オケアノスは何をしている」

「それがだな。俺も確認したんだが…… 傭兵機構は例のアシア大戦における条約に一切絡んでいないのだよ」

「何故だ。我々は傭兵機構本部だぞ。下部組織のアンダーグラウンドフォースが結んだ条約は適用されるべきではないか」

「それは屁理屈でも無理だ。俺たちは一切戦闘もしていなければ交渉に立ち会ってもいない。傭兵機構という組織は一切絡んではいなかったんだよ。あの講和と戦争条約は企業連合ユリシーズと防衛軍であるメタルアイリスという組織のみに適用されているようだ」

「……なんてことだ」


 いわれてみれば、そういう解釈のほうが妥当だ。むろん企業も傭兵機構に属している。

 しかしアシア大戦は、彼らに押しつけたP336要塞エリアと所有物であったシルエット・ベースを護るための戦いであり、傭兵機構本部は何もしていないしする義務もない。

 拒否されたがメタルアイリスのA001要塞エリアの奪還を命じたほどだ。


 のこのこ現れて講和と戦争条約に混ぜろといったところで相手にされないだろう。恥の上塗りである。


「当然だがその権利というか条約を結んだ行政機構はトライレームが引き継いでいる」

「だろうよ」

「俺達は海の底にいたからな。本部は戦争が終わって即座に講和交渉、戦争条約交渉中のときに割りこむべきだったな。今更遅いが」


 盲点を突かれた形だ。これではオケアノスが罰する理由もない。


「三隻も喪ったんだぞ。さらに要塞エリアそのものが殺意剥き出しで襲ってきているんだ。どうするんだ」


 殺意を持ったインフラなど想像もしたくないサンス。

 防御機構が己の意思で彼らを攻撃してきている上、支援攻撃もあって火力も馬鹿にならない。


 敵艦隊はまだ姿すら見せていないのだ。前菜どころか席についた瞬間負けたようなもの。


「まだ艦を三隻喪っただけだ。完全に喪ったともいえん。いまだ戦力はこちらのほうが上のはず」


 このまま降伏では情けなさ過ぎる。ゴルギアスも艦自体はまだ生きている。

 宇宙巡洋艦エウイトスは轟沈。宇宙強襲揚陸艦スタサンドロスは航行不能となって海中にいる。


「喪ったのは旗艦だけどな」


 サンスは諦めにも似た呟きで応じた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「想定以上に立ち直りが遅いな」

『いやいやいや。極小規模とはいえ地殻津波を引き起こす衝撃は無理だってば』


 アシアが若干呆れているが、コウは二キロを越え高次元投射装甲を持つ宇宙艦を一撃で粉砕できるとは思わない。


『宇宙艦であることと、海中における潜水艦機能の挙動に関しては別問題です』

「つまり、まだ時間はあるということか」


 コウが再び指示を下す。


「潜水艦部隊ディープ・ワン。応答せよ」

「こちらディープ・ワン。現在目標海域に接近中」


 アザラシ型のファミリアが応答した。


「海中での衝撃波に気をつけてそのまま該当海域に向かってくれ」

「了解した。作戦海域に到着後、戦闘行動に移る」


 再びオーバード・フォースへ通信を行う。


「こちらアストライア。敵艦隊は空中に沈没したまま、浮揚に苦戦しているようだ。このまま大型潜水艦二十隻、小型潜水艦五十隻で強襲をかける」

「潜水艦部隊を先行させていたのか! 了解した」


 潜水艦部隊の運用経験を持つ軍はメタルアイリスのみであろう。これもアシア大戦の貴重な戦訓である。

 実戦での運用実績は共有されているが、巨大マーダーさえ破壊した実績があるのだ。


「逃しはしない。破壊できなくてもゆっくり追い詰めていくさ。頼んだぞディープワン」

「お任せを。深海の猟犬の力、見せてやりまっせ!」


 次はアシカ型ファミリアが応答する。

 海中での奇襲は決定打にならなくても心理的圧迫は凄まじい。


「潜水艦部隊の旗艦はホーラ級エウノミア。水中型クアトロ・シルエットが中心の部隊となる。連中を海から叩き出した後、空を我々が制する」

「無論だとも。ウーティス。海上での空戦は任せたまえ」


 各企業それぞれ自慢の海軍機を所有している。彼ら以上の海洋戦力はないと断言していいだろう。

 さらに旗艦としてエッジスイフト有するアストライアなのだ。


「信頼しているよ、ロビンさん。あいつらを海から追い出したら次の段階だ」

「ロビンでいい。我らの命はウーティスに預けてある。気楽に命令したまえ」

「了解したロビン。海上航空戦で負けるわけにはいかない。傭兵機構本部はアシア大戦の最初期に姿を消した。つまり、だ」


 ロビンが頷く。彼らもまた、海底の防衛ドームに避難していた。


 使用することがないと思っていたエッジスイフト。優秀な戦闘機だが自分の趣味に走りすぎたので量産するつもりもなく封印した。

 それがエメを救い、アシア大戦末期まで戦い抜いた名機とまでなった。制空権の重要性はその身に経験となって叩き込まれた。


「航空機をそれほど調達しているとは思えないんだ。惑星間戦争時代の戦闘機はそう数はないと聞く。例えどんなに硬いといえど、アンティークのエンジェル程度が主力ならば対応できる」

「そうだウーティス。航空機をこの惑星アシアで研究していた変人は俺と衣川とクルトぐらいだ。つまりメタルアイリスが主な納入先ってことだな」

御統みすまる重工業も基本的は企業直属の傭兵部隊運用がほとんどだ。彼らが所持している可能性は少ないだろう」


 ケリーと衣川が会話に参加する。それぞれエンタープライズとジュンヨウに乗り込んでいた。


「クルト・マシネンバウもP336要塞エリアで生産していた。航空機を運用できるアンダーグラウンド・フォースは極少数。やはり相手の制空能力は貧弱だ。宇宙艦の防御兵装にだけ注意だ」


 コウが命じる。


「敵の制空戦力はシルエットが中心ということか! 確かに負けるわけにはいかんな!」

「今こそ空を征こう。海の空は我らにあり。哨戒機で。要撃機で。多目的戦闘機で。爆撃機で。敵戦力をすべて見通し、それらを蹴散らすことが目標だ」


 薄く笑う。 


「各パイロットに告ぐ。構築技士が戦場を生き抜くために作り出した戦闘機や可変機の数々。修理もできない欠陥兵器なぞ敵ではないことを骨董品乗りどもに教えてやれ」


 別人のようなコウにアキとにゃん汰が興奮している。

 エメやブルーも顔を見合わせた。


「了解!」


 コウの激に対し、戦闘機に乗るファミリアも可変機に乗るパイロットたち。もはやアンティーク・シルエットを怖れることはなかった。


「ビッグボスが覚醒したように別人だな」

「あれほどの男だったんだな、彼は」


 ロビンとキーフェフが作戦に舌を巻いている。一網打尽とは恐れ入った。確かに宣言通り、無力化だ。彼らの指導者は地殻津波を用いて有言実行してみせたのだ。

 津波で宇宙艦は破壊できないが、中味は別。ゴルギアス付近にいた艦は直接的なダメージさえ受けたのは間違いない。


 オーバード・フォースへの海中潜航という指示も宇宙艦相手のレーザー対策だけだと思っていたのだ。


「ん? 私は知っていたよ。何せアシアを助け出した男だ」


 ジョージが自らのことのように誇らしげだ。


「私もですね。彼は優しくて強いですよ」


 ジョージとエリだけは不思議に思わない。R001軌道エレベーター攻略の際、先頭に立ちにアシアを救い出した彼を知っている。

オーバード・フォースの盟主として紛れもなくカリスマを発揮しつつあった。

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