それはいつか見たラスボスのように

 司令席に座ったコウの姿が変わった。

 真っ青な髪に真っ青な瞳。そしてネイビーブルーの軍服。司令官風の装いである。

 アストライアがビジョンを重ね造り上げたのだ。


「そこまでだ。エディプス。俺が話をしよう」


 足を組んで肘掛けに腕を置き、大物のように演出する。

 アストライアのカメラが体の細かな震えは修正してくれるはずだった。


「誰だ? 貴様は?」


 突如割りこんできた男に対し、むっとしたエディプス。

 バリーが絶句する。何かをやらかす気なのは間違いない。


「俺か? 俺はメタルアイリスの所有者であり、ユリシーズの支援者、いわば権利者みたいなもんだな」


 見下すように笑うコウ。

 

「なんだと?」

「人の組織を勝手に解体などしないでもらいたい。これでも手間暇も金もかけているのだよ」


 ジェニーとバリーが目を見合わせ呆然とした。

 構築技士たちはにやりと笑うものや頷く者、様々だ。


 コウは演技している。

 それは遠い昔の、よくある格闘ゲームやRPGに登場したラスボス。そんなイメージで振る舞っているのだ。

 強大で尊大。傍若無人。それでいて訳ありな理由で戦っていた。記憶の片隅にある、それはいつか見たラスボスの様に。


「我々は傭兵機構に属する者全てに権利を有する。お前も例外ではないぞ」


 傲慢そのものの笑みを浮かべ、小馬鹿にしたように告げる。


「そうか」


 コウはその言葉を聞いて笑い返した。


「俺は傭兵機構に属していないぞ」

「間抜けか貴様。IDを所持する者は等しく傭兵機構に属する。つまりオケアノスの管轄下だ」

「ならばオケアノスに確認してみろ。俺という存在をな。偽装が通じないことは貴様らが一番よく知っているだろ?」


 エディプスがオペレーターに視線を飛ばす。

 確認中だ。


「画像の男、存在しません」

「目の前にいるだろう!」

「存在しないとオケアノスが!」


 オペレーターは画像を転送する。エディプスは手元の画像を確認した。

 確かにオケアノスは存在しないと回答していた。


「何者だ…… 貴様は。ストーンズか?」


 ストーンズでも半神半人ならば登録されているはずだ。肉体がある以上、彼らにも生存権や金は必要だ。


「俺の名はウーティスだよ。ただの誰でもないウーティスさ」


 蒼い髪の男は高らかに宣言した。


「傭兵機構本部、エディプスよ。お前は超AI、ファミリア、セリアンスロープ、ネレイスに対しモノと言ったな」

「お前もか。そうだ。なんどでもいってやる。彼らは我ら人類に貢献することが存在意義の造られたモノである」

「ならば俺はお前の考えを理解し、その前提で話をしてやろう」


 コウは鷹揚に頷いた。

 軽く驚くエディプス。少々拍子抜けしたようだ。


「話がわかるではないか」


 その言葉もまた各地に様々な反応を呼んだ。


 ファミリアたちは悲痛な目でコウをみた。

 セリアンスロープたちは不安そうな瞳。

 ネレイスも同様。ただし二人だけ違う反応を示す者がいた。


 微笑を浮かべたブルーと、含み笑いを漏らすジェイミー。


「ジェイミー。何が可笑しいんです?」

 

 ネレイスの少女が驚いたかのように尋ねる。


「理解すると言っただけだよ、我らのボスは」

「あ!」


 認めたわけではないのだ。

 少女は希望の眼差しで語るコウを見つめた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「彼らはモノだ。二言はないな」

「ないとも。彼らは人類発展のために製造され、人類に寄り添うという存在意義がある以上、我ら傭兵機構本部の所有物といっても過言ではない」


 傲岸不遜に言い放つエディプス。


「そうか」


 ウーティスは一呼吸置いた。


「ならば宣言しよう。超AIアシアは俺の所有物である」

「は?」


 間抜け面とはこのこと。ぽかんと大きく口を開けて呆然とするエディプス。


「機動工廠プラットフォームであるアストライアも同じくだ。そしてかの観測者プロメテウス。彼もまた俺の友人である。お前の言葉を借りるなら所有物だ。俺は発見者だからな」

「何を言い出すんだ貴様は!」


 てっきり超AIが製造した存在に対する人権問答になると思って居たエディプスが慌てる。

 所有宣言とはまったく予期しなかった。


「オケアノスが定めた法だろう? 古代の遺跡や兵器、構造物は発見者が所有者だ。お前たちはその法を最大限に活かし、大量の古代兵器を所有している」

「それとこれとは話が違う!」

「モノだといったのは貴様らだぞ? プロメテウスが設計し、アシアが生産したファミリア。セリアンスロープ。ネレイス。その他の創造物。それらの所有権は俺にあるということだ。お前らの誰か一人でも、超AIを発見したか?」


 ファミリアたちの目が輝いた。

 セリアンスロープたちがお互いの顔を見合わせる。


「ふざけるな! そんな道理がどこにある!」


 エディプスが激怒した。

 バリーが噴き出しそうになるのを堪えた。

 これほどの意趣返しはなかろう。


「馬鹿め。わからんか。ヒトの深淵たるテーマは愛。AIアシアやアストライアと俺を引き裂くことはできない」

「そんな理屈わからんわ!」

「ならばわかりやすい表現をしてやろう。――俺の女に手を出すな」

「ハァ?!


 惑星アシア全土を揺るがす宣言が今、為されたのだ。

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