オーパーツ兵器VS現高性能機

「五番機。発進準備完了」


 にゃん汰がカタパルトスタッフから伝達を受ける。

 シルエット用のカタパルトから射出される五番機。


「五番機の巡行速度なら五分もかかりません。十分に警戒を」

「了解!」


 エメからの指示にコウは頷いた。そして端末に向かってアストライアを呼び出し話し掛ける。


「アストライア。エンジェルや惑星間戦争時代のシルエットは具体的に何が違う? 性能面でだ」

『装甲材質やリアクターの概念まで違います。最普及機のエンジェルですら大気圏内では無限飛行が可能、宇宙での戦闘にも対応しています』

「無限飛行か……」

『大気をプラズマ化させる技術ですね。これも当時ではごく普通の技術だったのです』

「当時との技術格差が絶望的だな。他に特筆するべきところは?」


 現在の液体金属を使った飛行も大気の僅かな水素を取り入れ変換しなければいけない。

 直接大気をプラズマにする技術などあれば、効率的に飛行できるだろう。


『基本構造はワーカーやベアと同じです。ですが装甲は当時の材質、宇宙戦艦と同種のもの。レーザーや粒子砲の威力は減衰し、レールガンや大口径砲でも威力半減といったところでしょうか』

「当時からシルエットの構造は大きく変化していないということか」


 ワーカーの基礎が出来たのは惑星間戦争時代のさらに前。開拓時代と呼ばれる年代のものだ。

 プロメテウスが設計した以上、当初から構造の完成度は高かったのだろう。


『装甲筋肉の発想はありましたが、あくまで巨大兵器用。現在のシルエットは構造的には遙かに複雑ですが、効率は悪くとも惑星間戦争時代の技術に近いものを可能にしているのです』

「工夫で当時の技術に近付いているということか」

『現在のシルエットが性能面で優秀な部分も多いですよ。カストルがコルバスに乗っていたことが証明しています。ストーンズこそ大量にアンティークを保有しているはずですから」

「確かに何度か戦ったな」

「アンティーク・シルエットのエンジェルは量産効率を重視し、低コスト帯としては性能は高いですが特筆すべき点はありません。最適化の弊害ですね』

「高い技術水準がゆえに、無駄を省きすぎたシンプルすぎるシルエットか」

『その理解で問題ありません』

「オーパーツともいえる兵器に対する現高性能機といったところか」


 究極の汎用性といったところだろうか。だが、それはつまらないとコウ自身は思う。

 トルク重視や小回り重視、馬鹿みたいに馬力がある車。それぞれ味があって良いと思うのだった。


 ふとコウは脳裏によぎった疑問を思い切ってアストライアにぶつけてみる。


「……気にするなら回答しなくてもいいけど、あのシリーズも開発はアストライア本体?」

『コウこそ私に気を遣いすぎです。そうですよ。ギリシャ神話が由来とされる超AIの勢力に対抗するため、異なる神話体系に属する天使系由来の命名が特徴です。他の神話系も含めると全五系統あります』

「そうか。何か対策は?」

『普段通りに。無限飛行といっても加速は知れています。装甲が強固といってもDライフルに用いられている特殊弾頭を防ぐ構造にはなっていません』

「わかった」


 アンティークシルエットが脅威なのはわかっているが、決して臆することはないのだ。

 コウは戦場に向かうべく、最大加速を行った。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「撃て撃てぇ! ぐわぁ……」


 犬型ファミリアが絶叫する。


「そこのシルエットの兄ちゃん! 早く逃げな!」

「あんたら残して逃げられるかよぅ!」


 気弱そうな青年は、ベアで距離を取る。

 彼が狙われないよう、装輪装甲車たちが盾となる。


「俺達は復活できる可能性がある! でも人間は無理だ」

「逃げても後ろから撃たれるだけだ…… なら最後まで戦う! あんたらこそ俺の盾になるな! 早く撤退してくれえー!」


 実際逃げようとした数機のシルエットは、背後から撃たれ地面に転がっていた。MCSこそ破壊されていないものの下半身を狙われ無残に転がっている。

 後方移動しようとして戦線を離脱しようとする機体さえ、集中的に狙われて破壊されている。


 ファミリアが載っている装甲車には容赦ない破壊の有様だ。


「そういうわけにもいかなくてな」


 そういった瞬間、黒猫型ファミリアが載った装甲車が爆散する。大出力のレーザーガンだ。


「なんでだよ…… 俺から殺せよ!」


 青年は自分が餌代わりにされることがわかっていた。生き地獄だ。


 敵は上空。エンジェルとアークエンジェルがレールガンを用い一方敵に攻撃しているのだ。

 供給電力が大きく、威力を増している。


 さらに上空ではアラトロンがレーザーガンで丁寧に装甲車を焼いている。。


「くそ。高見の見物かよぅ!」


 青年は自分の盾となって死んでいくファミリアに耐えきれず、アラトロンを集中狙いする。

 AK2では直撃してもかすり傷にもならなかった。


 アラトロンは彼のベアを一瞥し、興味なさそうに他の車両を狙い始める。


 エンジェルの一機が上空から降下し、彼を護ろうとする装甲車に斬りつけようとしたその瞬間――


 そのエンジェルの胴体が吹き飛んだ。下半身がどすんと落下し、遅れ様上半身が落ちる。

 その後響く轟音。


 TSW-05Cラニウスこと五番機が抜刀し、その場にいた。


「よく耐えたな」


 コウが青年に声をかける。


「あ、ああ……」


 青年はそう返事するしかなかった。


「ファミリアと残存シルエット。散開し後退せよ」


 コウの号令とともに、ファミリアが整然とした動きで後退を開始する。


 なおも狙おうとするアークエンジェルに対し、黒瀬のアラマサが真っ二つに切り裂いた。


「な! アンティークだぞ、こっちは!」


 本来なら現存するシルエットに対し、無敵ともいえる装甲を誇るアンティークシルエット。

 それが易々と二機も両断されたのだ。


「認識が古いようだ」


 コウが吐き捨てた。

 無残に破壊された装甲車たち。MCSが剥き出しになり、黒焦げになったファミリアさえ見える。

 殺意が抑えきれない。圧倒的上位者が気まぐれに為した、その殺害。戦う理由すら不明瞭。心の奥底の声が抗えと囁くようだった。

 

「貴様ら全員、斬る」


 コウの宣言に迷いはなかった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「TAKABAのラニウスか。あんなに強かったか?」


 アラトロンに乗るパイロットが呟く。

 アシア大戦でメタルアイリスの勝利は知っていたが、兵器の詳細までは知らなかった。

 シルエットが為した、その進化さえも。


「もう二機近付いてきます! これは新型のシルエットと戦闘機のようです」


 アークエンジェルのパイロットが通信をしてくる。


「し、信じられませんがシルエットが戦闘機に乗っています!」

「我々が水の底にいる間、シルエットが短期間にそこまで技術進化したとは思えにくいが……」

「ですがリューク隊長。一撃なんです。あり得ないことが起きています」


 リュークと呼ばれた男は冷静に眼下を確認した。

 こちらを見上げるラニウスと目が合ったような気がした。


 なんともいえない妙な感情が湧く。不愉快なので殺すと決めた。


「それにエンジェルとアークエンジェルを喪ったんです。我々のほうが被害が桁違いです!」

「あとで請求書をメタルアイリスに回そう。アンティークの価値をわかっていないようだ」


 たかが装甲車両相手の威力偵察で、予想外の戦力相手にアンティーク・シルエットを二機喪ってしまった。

 別に奴らの命などどうでもいいが、機体価値分ぐらいはメタルアイリスから回収したい。


「我々は襲撃種です。素直に払うでしょうか」

「払わせるさ。こちらは傭兵機構本部だ。理由はなんでもいい」


 リュークはそのまま部下たちに告げた。


「適当に車両部隊を蹴散らして即応部隊の反応をみたかったが…… 厄介な連中を引き当ててしまったようだ」


 こんな高性能な機体を持つものは、エース部隊か企業の直属部隊だろう。 

 普及しているとはまったく思っていない。今まで倒した装甲車やシルエットは彼の知っている範囲での性能だったからだ。


「どうやら接近戦が得意なようだ。各自距離を取れ。撃ち殺してやればいい。我々が用いるレールガンは奴らのソレより数倍のエネルギーが使える。逆に奴らの射撃武器は我々に傷付けることなどできやしない」

「は!」

「掃討する!」


 残り三機のアンティークシルエットは距離を取り、ラニウスとアラマサに対し狙いを付けた。

しかし、狙いが定まらない。


 高速に回避行動を取りながら両機移動していたのだ。

 確かに照準さえあえば、必中に近い。しかしラニウスはしゃがんだような姿勢で狙いにくく、アラマサは戦闘機に乗って高速で移動している。

 

 通常のシルエットより巨大なアラマサに集中することにする。戦闘機に乗っている分、的としても大きい。

 高威力のレールガンが直撃するが、鈍い音を立てるだけだった。


「なんだあれは! 本当に現在の機体なのか!」


 御統重工業の新機体に、オーパーツの代名詞であるエンジェルのパイロットが歯噛みした。

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