威力偵察
実機テストに出ていた四人が戻ってきた。
「装甲筋肉採用機は初めて乗ったが凄いな。あれは!」
黒瀬が興奮している。スムーズな重心移動や運動性が斬新だった。
以前装甲筋肉機に搭乗したことはあるが、比べものにならない。
「黒瀬さんは剣道四段だったか。初乗りでああまで使われると立つ瀬がねえよ」
兵衛が苦笑した。模擬戦とはいえ、黒瀬が駆るアラマサはラニウスよりさらに装甲重視ではあるが、兵衛のラニウスD型と互角に戦っていた。
ラニウスD型はコウの作とはいえ、基本を作ったのは彼自身である。
「アラマサは上々といったところか。どうだね。アコルスは」
狼型ファミリアであるハイノに尋ねる衣川。
「いいねえ! Dキャノンは一門にして装弾数を増やしてもいいかもな」
「ふむ」
「対空戦闘はミサイルが主流だ。Dキャノンはレールガンより射程は短いが反動も少ない。俺が乗っている大砲鳥より操縦しやすいのは間違いないな」
「そうか。あのじゃじゃ馬よりは乗りやすいか。まだまだ改良の余地はあるな」
衣川はハイノから聞き取りを行っている。
コウも兵衛とたー君から意見を聴き、端末を操作していた。
突如アストライア内に警報が鳴り響く。
「どうした?」
「周辺に駐屯している部隊が何者かに襲撃を受けています!」
アキの緊迫した声が響く。
「偵察車両より映像確認。戦闘指揮所内に映像、出します」
にゃん汰の声と同時に映し出された機体。
その場にいる者全員に見覚えがあるものだった。
「こ、これは……」
「まじかよ」
ケリーが呆然と呟く。
『敵機種判別終了。アンティーク・シルエットのエンジェルです』
アストライアが分析結果を告げた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「厄介なものを引っ張り出してきたな。ストーンズか?」
「いや、ヴァーシャはそんな浅慮ではないでしょう」
兵衛が苦虫をかみ潰したような顔で呟く。衣川はその言葉を否定する。ヴァーシャとて時間が必要なはずだった。
アンティーク・シルエット。惑星間戦争時代の発掘兵器。技術封印が為された現在と違い、発掘された兵器は当時の技術そのものが使われている。
講和は締結したが、あのヴァーシャがすぐさま破るとは思いにくい。
「敵味方識別装置反応なし。所属確認。……これはロクセ・ファランクスです!」
その言葉に一同が言葉を失う。
ロクセ・ファランクスこそ、惑星アシアで一番巨大なアンダーグラウンドフォースにして最強戦力。
宇宙戦艦や宇宙空母まで有し、傭兵機構本部と一体とまで言われている。
「なんであいつらが? アンティークは俺達の技術よりも数世紀は進んだ代物だ。迂闊に手は出せないぜ」
アンティーク・シルエットのスカンクを長年研究していたケリーが告げる。
「俺が出る」
無残に破壊された車両。そして随伴している傭兵たちが乗っていたシルエットの残骸が転がっている。
「ダメです! 敵はエンジェルだけではありません!」
アキの声は悲壮感に満ちている。
映像に二機のシルエットが映し出された。
「エンジェル二機。そして上位機のアークエンジェル二機。さらにこの機体は惑星間戦争時代でも高性能機のアラトロンまで確認できました。相当な戦力を持っています」
「次々と車両が撃破されている。現地で応答する暇もないほどに」
にゃん汰とエメも絶句する光景だった。普通のシルエットではここまで短時間にこのような破壊活動は行えない。
『分析完了。敵の戦力は五機。それぞれ単独行動で広範囲で攻撃を行っており、威力偵察の類いと思われます』
残っている兵器も迎撃にでるがレーザー兵器で焼かれている。
半装軌装甲車や装輪車両では相手になるはずもなかった。
『小中口径のレールガンでは傷一つつかないでしょう。ましてや上空にいるアンティーク・シルエットに対空機関砲では為す術もありません』
「装甲の差がそこまであるか」
そんな絶望的な状況でもファミリアたちは果敢に己の任務をこなすべく、応戦している。
「ロクセ・ファランクスが? 私たち相手に?」
エメが疑問を呟く。
「今はそんなことをいっている場合じゃない。奴らは敵だ」
コウは襲撃者を即座に敵と判断した。
ロクセ・ファランクスは傭兵機構本部と共に長らく行方不明だったはずなのだ。
「味方部隊に散開後撤退を。生存を優先に命令してくれ。まとまって行動すると部隊単位で焼かれる」
「了解です」
コウの代わりにエメが撤退指示を出す。
「アストライア。教えてくれ。今五番機とアンティーク。彼我の戦力差はどれほどの開きがある?」
『エンジェルはいわば惑星間戦争の最普及機。アークエンジェルはその強化版といえます。現在の五番機の敵ではないと。あえて断言しましょう』
「なら!」
『ですがアラトロンは別格です』
「為す術はなしか?」
『いいえ? 我々の兵器はあの時代ほど最適化できておりません。ですが――効率が悪くとも同等に近い戦力にまではなるはずです。電孤刀とDライフルなら対抗できます』
「なら決まりだ。ヴォイ聞こえるか。そんな状況だ。準備を頼む」
「そういうと思って準備済みだぜ」
通信にでたヴォイは親指を立てウインクする。コウはすぐさま戦闘指揮所を出て行った。
「俺たちもいくぜ」
「当たり前です。いきましょう兵衛」
「ダメです。アナライズ・アーマー試験を行ったためD型はまだ整備中です」
「なんだと!」
「再出撃準備は急がせます。少々お待ちを」
「ち。仕方ねえ。アンティーク相手だとな」
兵衛が渋々納得した。万全とはいえないまでも最低限の準備はいる。アンティーク・シルエットはそれだけの脅威だ。
アナライズ・アーマーを外し終え、戦闘機のほうであるボレアリスへの再装備に時間がかかっている。
「俺達がいくぜ。衣川さん。新しい機体壊したらごめんな」
「一暴れいってくるわ。レーザー相手に落とされるかもしれねえが、そん時はそん時だよな」
「気にするな。むしろ私たちの機体がアンティークに通じるかどうか。確かめてきてください」
「承知!」
黒瀬とハイノもやる気満々で出撃していく。
「各員戦闘配置。こちらに来るかもしれない。アサルトシルエット部隊はコウたちに追随。トルーパー部隊は防衛配置について」
エメが次々と指示を出す。
「傭兵機構本部、か。……この期に及んで第三勢力気取りの漁夫の利狙い?」
傭兵機構。正式名称は
下唇を噛みしめ、エメが考えたくもない懸念を呟いた。
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