みんなで帰ろう

 五番機はアストライアに戻るため巡航速度で飛行している。


 上空にはタキシネタ率いる戦闘機編隊が現れた。


「お疲れ様です。ビッグボス」

「やめろよジェニー」


 敬礼しているジェニーに対し、コウが照れた。

 プレイアデスのヨアニア隊も合流する。


「俺も秘剣飛燕返しみたかったぜ!」


 黒瀬が敬礼しながら現れる。カストルの戦闘を聞いたようだ。

 眼を輝かせながらコウに言う。この年下の友人は難行を成し遂げたのだ。


「おう。そりゃ見事な業だったよ」

「秘剣じゃありませんってば」


 黒瀬の言葉に兵衛が請け負う。

 ますます恥ずかしくなる。生身で再現不可能な技を自慢できるはずがない。


「一回みんなで稽古しませんか。なあコウ! いいだろ」

「お、いいねえ!」

「私も参加したいー!」

「恐れながら私も……」

『稽古用の道場の設計を開始しましょうか』

 

 黒瀬の提案に乗り気の兵衛。エポナを駆るバルムとエイラも参加を希望した。

 アストライアまで参加してきた。


「俺がへっぽこなのがバれるな」


 身体能力ではセリアンスロープに勝てるわけもなく、内心本気で言っている。


「へっぽこだからこそ稽古がいるんだぜ!」

「いいこというねえ。黒瀬君。その通りだ。コウ君の生身のほうは俺が鍛え直してやらねえとな」


 どうやら稽古大会は実施決定らしい。


 五番機の後ろに戦車や半装軌車も集まってくる。

 隊列を乱さず、軍事パレードのようだ。


「おい。大事になってないか。これじゃ凱旋だ!」

「お、いいねえ」


 彼らのために地上へ降り、ローラーダッシュに切り替える。

 五番機の後ろには、戦車、装甲車、半装軌装甲車が大量の後続車両が走っていた。


「凱旋だろう?」

「凱旋よね?」


 黒瀬とジェニーが笑いながら告げる。戦闘機部隊は祝うように大きく旋回していた。


「かの半神半人ヘーミテオス。しかも最強シルエットの一角であるコルバスを、御大将自ら倒し講和がなった。これを凱旋せずに何を凱旋しろと?」


 リックが珍しく笑いながらに通信を送ってくる。

 コウが講和の道筋を付けた。それは彼にとっても誇りだった。


「安心したまえ。この凱旋は極秘だ。一般にはビッグボスもカストルのことも内密にしてる。我々ファミリアにとっては公然の秘だけどね?」

「意味ない気が……」


 背後に並ぶ機体の群れは凄い数になってきた。


「ねえコウ? メタルアイリスとユリシーズにはともにこの凱旋を、勝利をわかちあうべきでしょう?」


 ブルーも会話に参加している。見たこともない穏やかな笑顔。

 確かに彼個人の勝利ではない。


「そうか。喜んでくれるなら、いいか」


 戦争を一人で戦ったわけではない。

 皆で分かち合うべき勝利であり、それが凱旋という形になるならやるべきだと思い直した。


『そうだよ。コウ。寄り道しないで帰ってきなさいね。皆戦闘指揮所で待ってるからね!』


 アシアの笑顔がモニタに映し出される。


「了解!」


 コウは勢いよく返事をし、まっすぐにアストライアに向かった。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 アストライアの甲板エレベーターから五番機が格納される。


 装甲部が開き、MCSが剥き出しになる。小型の搭乗橋が寄せられ、コウと兵衛はそれに乗り待機室に向かう。

ファミリアやセリアンスロープたちが遠巻きに手を振っていた。軽く手を振り返す。


 遠目にマールとフラックも見えた。

 手を振ると、小さくマールが手を振り返し、フラックがぶんぶんと全力で手を振り返してくる。思わず笑みがこぼれた。


「俺は会社の連中に連絡してくるわ。皆心配してるだろうしなあ」


 TAKABAの社員も気が気ではないだろう。


「わかりました」


 兵衛と別れ、早足で戦闘指揮所に向かう。


 戦闘指揮所にコウが入ってきた瞬間、エメが走って抱きついてきた。


「おかえりなさい!」


 受け止めるコウ。

 腰にしがみつき、お腹に顔を埋めている。その頭を撫でてやる。


「心配かけたな。エメ。アシアもだな」


 すぐにアシアのエメであることに気付いた。二人に声をかける。


「本当によかった」


 にゃん汰とアキが近寄ってくるので両手を広げる。

 それぞれ腕に飛び込んでき。二人を抱き寄せ包み込む。


「にゃん汰。アキ。ありがとう」

「当然です。ああ、嬉しい」


 涙目のにゃん汰は語尾ににゃをつけるのも忘れている。


「本当に……心配したんですよ。お帰りなさい」


 そして巨大なモニタに向かって語りかける。


「今戻ったよ。アストライア」

『ご無事で何よりです。コウの無事ほど喜ばしいことはありません』


 アストライアのヴィジョンが現れ、恭しく頭を垂れる。

 コウはそっと手に取り、自分のほうに引き寄せる。驚いたアストライアだったが、されるがまま。四人しがみついているような状態だが、誰も気にしない。


「みんな。ひとまず終わったな」


 それぞれが頷いた。もはや周辺に戦闘の気配もない。

  

「これからどうしよう?」


 エメが小首を傾げるように尋ねた。

 今まで一丸となって目標に向かい走り続けていた。目指すべきものがなくなった時の状態に陥っている。


「難しく考える必要はないよエメ。戦線にいる味方部隊の撤収が完了したのちに」


 コウが優しい笑みで応える。


「みんなで帰ろう。シルエット・ベースに」

「うん!」

 

 アシアのエメも笑顔で答えるのだった。

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