実況生放送配信!
「第一工兵部隊、穿孔完了。各リーダー、状況を報告せよ」
「第二工兵部隊。穿孔作業終了しました!」
「こちら第三工兵部隊。現在作業中です!」
フユキのもとに次々と報告が入る。
状況を確認し、フユキは回線を偵察部隊に繋げる。
「第一、二、五が終了です。マーカー設置完了。いけますか?」
「こちらアリステイデスのロバート! 第一マーカーはこちらに任せろ!」
「ジャリンです。第五マーカー狙います」
大がかりな作戦が開始されようとしていた。
「作業完了した部隊は散開せよ!」
「了解!」
マケドニアクロウたちがその場を離れる。
「アリステイデス。グラウンドアンカー発射準備!」
ロバートの号令が飛ぶ。ファミリアたちが機器を操作し、船首に取り付けられた砲塔をメガレウスに向ける。
巨大マーダーにして最強の一角、エリスを倒した時に用いた兵装だ。
「照準器システム準備。射角調整完了。――グラウンドアンカー、投錨!」
メガレウスに対し、5時の方角にいたアリステイデス。距離は約50キロ。直線では地面に激突する。砲撃と同じく射角を調整し、グラウンドアンカーを発射した。
マーカーを目標に発射される巨大な銛状ハープゥーンの錨がメガレウスに直撃する。
「宇宙戦艦のエレベーターもハッチ式とはいえ舷側配置が中心。重量物を載せて昇降するエレベーターは周囲の装甲よりむしろ頑丈です。しかし――」
距離を取るフユキのマケドニアクロウ。仕事の成果の確認だ。
「簡単な応力集中の原理ですよ。頑丈なエレベーターとなる部位の
厚い宇宙戦艦のエレベーターハッチに巨大な銛が突き刺さり艦内に押し込んだ。ハッチ周辺の装甲が破壊され、格納庫の奥にまで押し込み、外壁に衝突して砕け散る。
Aカーバンクルによるウィスの供給がなくなり砕けたのだ。
艦内で待ち伏せていたシルエットの一部は巻き添えになった。
格納庫をつなぐ側面エレベーターの周囲に孔を開ける。爆破で一気に破壊したいところだが、宇宙戦艦の装甲が許さない。
そこでグラウンドアンカーを直接叩き付けて破壊する。
「ペリクレス、グラウンドアンカー、投錨!」
続けてベリクレスのグラウンドアンカーが投錨された。彼女はメガレウスから見て11時の方角にいる。
挟撃する格好だった。
ベリクレスのグラウンドアンカーも第五工作部隊が破壊工作を行ったエレベーターハッチを貫く。
艦内への侵入経路が二カ所、確保された。
「こちらバリー。全軍に告ぐ。メガレウスへの侵入経路を二カ所確保した!」
メタルアイリスに歓声が上がる。
無敵の宇宙戦艦と思われたメガレウス。確かに突破口は開かれたのだ。
フユキの目論み通りの結果。
戦闘工兵たちはメガレウス攻略のための破壊工作を無事完了させたのだ。
しかし油断はできない。
最前線にいる戦闘工兵の危険はここからだ。
「内部から敵が迎撃にでます。いきますよ」
フユキの号令で内部に潜入を試みる戦闘工兵部隊。後続部隊がくるまで戦線を維持するまでが彼らの仕事だ。
待ち構えていた敵高性能シルエットであるカザークが斬りかかってくる。
一歩下がり、敵の攻撃を回避したフユキのマケドニアクロウは
リアクターごと破壊されたカザークは導爆線の爆発によって四散する。
その凄まじいドリルの威力に、たじろぐカザークたちだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『ダスクバスターの時間です。今日は実況生放送配信! 我々は遂にストーンズの宇宙戦艦メガレウスを攻略しようとしています!』
フェアリー・ブルーのラジオ、ならぬ映像付きの生配信が始まる。
カナリーはマークⅠに乗りながらのラジオ放送だ。
コウから実況生配信はウケると力説されてしまったのだ。地球では架空キャラ的なアバターを使用したゲームなどの配信が流行していたらしい。
士気高揚のためと言われたら断ることもできない。
「それなら私もアバター使用したいわ。アストライアなら即席で作れるでしょう?」
『可能です』
呟いたブルーに応じるアストライア。
コウは素で、
「知名度もあるし、そんなもの必要ないほど可愛いんだからそのままやればいいんじゃないかな」
そう応えた。
思わず顔が真っ赤になり絶句するブルーと微笑みながら嘆息するアストライア。思わぬ不意打ちだ。
ニヤニヤ見つめるフユキとヴォイ。コウは気付いていない。
そのまま近寄ってきたエメに頬をつねられていた。
さすがにこんな流れでは断ることもできない。
ブルー決死の攻略生放送配信が開始されたのだった。
『天空から飛来した謎の物体によって地面に押し込まれた巨大宇宙戦艦の運命は? 実際私も参戦しながら現地で配信しております!』
さきほど投下した『吊られた男』の正体をぼかしながら実況するブルー。敵に情報をくれてやることはない。
実況しながら問答無用で敵航空機を狙撃し撃墜している。
容赦ないのだが、そこは映像に流さない。
『ご覧下さい。戦闘工兵たちによるドリル攻撃を。ドリルは最強無敵! いかなる装甲を貫きます!』
対宇宙戦艦用ドリルだ。シルエットの装甲など容易く破壊できるのは当然だが、敵は未知の兵器に恐れおののくだろう。
『これは! 最強のドリル攻撃が決まりました! 刮目せよ! 敵を捕縛し動きを封殺しなドリルで風穴を空けるこの瞬間! こんな死に方はイヤでしょう?』
ブルーが即座にフユキの視点に切り替え、その瞬間を流す。
胸部に大きな孔がほんの数秒で発生する。加工用ドリルの穿孔特有の甲高い金属音を添えて。それがより恐怖を募らせるのだ。
MCSがあるはずの位置に大きな孔が空いている。パイロットならば誰もがぞっとする光景だった。
リアルタイムで行われている様々な戦闘。どの場面をチョイスするかで実況者の腕は問われる。
内心コウを恨むブルーである。
『現在我々は二カ所もの艦内侵入経路を確保しました。アルゴフォースのみなさーん? もし聞いているなら降伏は早いほうがいいですよ!』
煽る。
そこは実況の醍醐味なのだ。
『おっと速報です! 三カ所目のハッチ破壊ですね。列車砲による直撃弾です! これで我々の艦内潜入経路は三カ所になりました。アルゴフォースの皆さん? 絶対絶命ですよ?』
メガレウスから1時の方向。300キロ離れた地点より、巨大レールガンを発射したばかりの複式軌道走行式列車砲メィクイーンが鎮座している。
Aカーバンクルの路線エネルギーを復旧させ、待機していたのだ。
直撃シーンをすかさずセレクト。巨大なハッチが艦内に押し込まれる瞬間の映像を放映したのだ。
『メタルアイリスが航空優勢のようです。敵戦車部隊に対し、大砲鳥部隊が向かったようですねー。彼らの戦車に対する執念は果たしてどこからきているのでしょうか!』
敵の重戦車部隊に対し、大砲鳥部隊が果敢に接近し攻撃を敢行する。
レールガンを相手に低空飛行も辞さないイカれたタンクバスター部隊の名は有名になりつつあった。
航空優勢はブルーのブラフである。メガレウス上空の戦闘機による制空権争いは拮抗している。
大砲鳥部隊は制空権があろうがなかろうが、戦車を狩りに行く。
敵してみれば、攻撃機が襲ってくるのだ。航空優勢を取られたと判断するだろう。
『一機、二機…… 次々と狩られています。大砲鳥も墜落していますが彼らはめげません! 修理を行いすぐに再出撃します!』
墜落した大砲鳥は味方のクアトロシルエットにひきずられ、後方に戻る。
後方の修理部隊に応急修理を受け、即座に飛び立っていく。その一部始終が流れている。
『最前線の映像はファミリア隊戦車隊の協力を得てお届けします。それではまず一曲目!』
ブルーが戦車隊の映像に切り替え、曲を流す。
戦闘が激化している。
狙撃兵として参戦するためだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「コウ君。ブルーはノリノリじゃねえか」
兵衛は思わず笑った。
「そうですね。やはり慣れています」
コウも苦笑した。提案したとはいえ、やはり彼女以上の適任はいない。
「生放送を盛り上がるためになんとか格納庫あたりは制圧したいところです」
「そうだな!」
二人は会話しながらも、敵と斬り合っている。
「そう簡単に突入はさせちゃくれないか」
甲板に次々降り立つアルラーたちを斬り伏せながら、兵衛は状況を分析する。
クルトも離れた位置で戦っている。
「敵もアサルトシルエットが待ち伏せしていますね。私たちが突入しましょう」
クルトが指示を出す。バズヴ・カタ部隊が集まってきた。
「クルトさんが突入部隊の先陣を切るか。バズヴ・カタ隊なら間違いねえやな」
艦内の戦闘は閉所となる。
バズヴ・カタならば接近戦で有利に戦えるだろう。
個人通信が入る。相手先は不明。
兵衛の個人回線を知る者は少数だ。回線を繋ぐ。
「聞こえるか。ヒョウエ」
思いもよらぬ相手だった。
外套を深くかぶって顔は見えないが、すぐに誰かはわかる。
「てめえは……カストル!」
カストルが何故兵衛の個人回線を知っていたかは不明だが、相手はアルゴフォースのトップ。
なんらかの手段があっても不思議ではない。
「よくもまあ、のこのこと俺に通信をよこせたもんだな、てめえ」
結月は一対一で倒された。その結果に何か言うつもりはない。
そうはいっても個人の感情は別だ。
「そうとも。そこでお前と決着を付けようと思ってな。千葉の刀は俺が持っているぞ」
別の映像。コルバスだろうシルエットが手に持っているのは、紛れもなくTAKABAで作成した電磁刀だった。
「望む所だ。決着をつけてやらあ」
「一対一だぞ。いいのかな?」
「ふざけるな。それこそ望むところだ、てめえ!」
「ならばこの座標に一人で来い。今は廃墟の防衛ドームだ」
座標が示された。
兵衛の額に青筋が浮かび上がる。
「てめえ。とことん舐めた真似してくれやがるな」
カストルの口下が笑みに歪んだ。
それはかつてTAKABAが存在した防衛ドーム。
修司が戦死し、コウが五番機と出会った場所。
彼にとってすべての始まりの地。
「ここで待つ。メガレウスからはそう離れていないだろう?」
距離にして200キロもない地点だ。
「おう。首を洗って待っておけ」
回線が切断された。
「コウ君! クルトさん! ちと野暮用が出来てな。ここは任せていいかい?」
「了解です。ヒョウエ。突入排除はこちらでやりますよ」
「わかりました!」
念のため二人に一声かけておく。
アクシピターは舞い上がり加速する。
決着を付けるために。
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