超ドリル合体!

 荒野と化した大地をアルビオンマーク1と新型のドリル戦車が往く。

 敵部隊の再展開も遅れている。


「凄い衝撃だな。メガレウス付近が爆心地か」


 マーク1車内に待機している五番機から、コウが呟く。


「師匠。わかりやすくどれぐらいの威力か説明できる?」


 エメに繋いで聞いてみる。空母爆弾はドームの形状を活かした威力だが、これはまた別種の破壊力だ。

 師匠の意思が表層に出てくる。その威力に感心しているようだ。


「そうだね。イチガヤあたりに着弾して周辺がクレーターに。半径およそ7キロ、鉄道環状線であるヤマノテセンの全範囲焦土化になるぐらいかな? 相当な威力だよ」

「うっわ」


 山手線を利用したことがあるコウが絶句する。市ヶ谷は新宿線のはずだ。


『こちらで観測した地面の揺れもマグニチュード7以上よ。よくもまああんなものを考えたわね、コウ!』

「え、やっぱり俺のせいになるのか」


 アシアが笑いながらコウに告げ、コウが弱々しく返事をする。


「それがメガレウス攻略になったのだから感心するよ」


 師匠がにやりと笑う。


『本当にあなたは凄い逸材を連れてきましたね』


 アストライアが無表情に会話に入ってきた。感情がなく、褒められてはいないのだろうとコウにもわかる。


「お前ら。あまりコウを虐めるなよ。造ったのはあの英国紳士ヘンタイだからな?」


 ドリル戦車に乗っているヴォイがフォローしてくれる。

 新型のドリル戦車は、先端に二本の巨大なステップドリルが装備されていた。上にはフユキが搭乗している工兵シルエットのマケドニアクロウがいる。


「はーい」


 エメが軽快に返事をする。さらりと師匠は戻っていた。


「空戦が発生したな。そろそろ、か」


 荒れ地を難なく走るアルビオンマーク1。

 吹き飛ばされた兵器の残骸が残っている光景は不気味だった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「戦闘工兵の本領を発揮する時。突破口は我々が拓きます」


 戦闘工兵アサルトパイオニア――別名を先鋒。戦場を先駆けて味方を有利にする工作を行う。

 もっとも危険で、困難な裏方の仕事である。


「あの吊られた男ハングドマンの威力は絶大でしたね。敵の防御網も埋設された地雷原も全て吹き飛ばしました。一つ仕事が減るというもの」


 メガレウスを中心とした巨大な爆風は、対メタルアイリス用に敷かれた防御網ごと吹き飛ばしていた。

 工兵の仕事は地雷処理なども含まれる。その杞憂がなくなり、破壊工作に専念できるのだった。


「迅速に、主力部隊より前へ。いきますよ、皆さん」


 マケドニアクロウを駆る工兵部隊。作業用ながらもベースはラニウスのB型。戦闘力は高い。

 ドリル戦車に跨乗している。


「こっちも準備オッケーだ、フユキ! ドリル編隊、アナライズ・アーマー準備完了!」


 フユキの機体はヴォイのドリル戦車に跨乗している。

 通信で合体の準備完了を伝える。


「敵部隊がメガレウス護衛に集まる前に、メガレウス内部への潜入経路を確保。これが我々の仕事です」


 惑星間戦争時代のメガレウス外観図の映像を取り出すフユキ。


「宇宙戦艦メガレウス。宇宙も海底も航行可能かつ装甲は宇宙戦艦同士の撃ち合いを想定したもので全方位対応の装甲。しかし――搬入用や艦載機用のエレベーターもありますからね」


 目星をつけた地点が光る。それぞれの位置に、工兵部隊が向かうのだ。


「いきますよ、ヴォイさん! 今こそ!」

「超ドリル合体!」

「ちょっと待って! なんですか超ドリルって!」

「勢いが大事だぜー!」


 二人が掛け合いしている間にもマケドニアクロウにアナライズ・アーマーが装着される。

 巨大なドリルが左右の腕部装甲に装着された。巨大な弾倉が目を引く。


 巨大なバックパックに、作業中身を守るための追加装甲。

 通常のシルエットを超える巨大サイズ。10メートル近い大きさになる。


 車体部分のヴォイは支援車両形態となる。

 これこそコウとフユキが開発したメガレウス攻略兵器。アナライズ・アーマー『エランド』だ。


「破壊目標は側面艦載機用エレベーター。要所を穿孔し、潜入経路を確保。各隔壁は即時破壊します」


 命令はシンプル。任務内容は極めて過酷だ。

  

 次々と右舷と左舷の閉ざされたエレベーターに対し、ドリルを用いる工兵部隊。

 パイルバンカーのを応用したハンマードリル。超高熱のたけのこ状のドリルで孔を穿つのだ。


「コウ君は冷間の穿孔とかいっていましたが、これは助かりますね」


 先端があっという間に摩耗し、使い物にならなくなる。巨大なステップドリルチップを、弾倉型式で交換するのだ。


 工作機械ならば先端だけのチップ交換になるが、短期決戦用の破壊器具。ステップドリルごと使い捨てる。

 冷間――熱さずに加工する。熱耐性が極めて高い高次元投射装甲相手での破壊工作は、ドリルのほうが早いと判断したのだ。


「く。防衛部隊か!」


 飛行形態から変形し、斬りかかってくるアルラーを巨大なドリルを叩き付け、一撃で破壊する。対戦艦装甲用のドリルの破壊力は凄まじく、一瞬にして腹部に孔が空く。

 戦闘工兵は最前線で作業をしなければいけない。一番危険で、しかも応戦する余裕はないのだ。


「思ったより数が……」

「フユキさん!」


 別のアルラーが邪魔をしようとした瞬間、地上から五番機が飛翔し斬り伏せた。

 激突しそうになるが、姿勢を制御し戦艦の側面を蹴り上げ、さらに上にいるアルラーを両断する。


 アルラーが射撃モードになり、距離を取る。こうなれば楽なものだ。地上からの対空射撃で牽制すればよいだけだ。

 工兵部隊は作業に専念できる。


「邪魔はさせない! 作業を!」

「わかりました。ここはなんとしてでも、破壊しますよ」


 工兵部隊が次々にドリルで孔を開け始める。

 ステップドリルチップを使い果たした者は交代し、弾倉を補充に向かう。


 五番機は工兵部隊に群がる敵を蹴散らすべく、さらなる獲物を求め飛び上がる。Dライフルに持ち替え、狙い撃つ。


 複数箇所の同時攻略。迎撃を出したいところだが、メガレウス艦内も混乱中だ。

次々と手を打つメタルアイリスと、それどころではないメガレウスの艦内だった。

 


 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 メタルアイリスの戦車部隊本隊がメガレウスに近付く。

 四輌ベースの隊列に後続はシルエットと装甲車。

 

 戦車だけで数千輌。さらに数倍のシルエットと装甲車両。

 まさに総力戦の様相をみせた。


「しかし……」


 戦車に乗るリックが呟く。


「なんでがいるんだ……」


 戦車とシルエット、装甲車が隊列を組み圧巻な進軍をするなか、並走するパンジャンドラム『うなぎのゼリー寄せジヤリドゥイール』がいるのはシュールな光景だった。

 少数ながらメロスもいる。余った自走爆雷たちが同行してきたのだった。


「自走爆雷としての本分を果たしたいとかで? 先に特攻する意思があるみたいですよ」


 うさぎ型のファミリアが返答する。


「誰から聞いた?! むしろ意思があるのか!」

「要塞エリアの保全設備機器が交信できたようですよ。金属水素の補給にきたときにやりとりしたと。明確な意識があるわけではなさそうですけどね」

「うむ…… 保全設備と自走爆雷が会話するとはどんな世界か……」


 リックは予想外な出来事に絶句した。

 マーリンシステムという代物だろう。爆雷として突撃するのが己の役割だということはわかっているようだ。


 メガレウスに到着し、包囲を始める。敵の本体はまだ到着していなかった。

 外周からアルゴフォースの地上部隊と交戦することになる。


「敵は重戦車が仇となったな。外周を制圧するぞ!」


 リックが戦車部隊のファミリアに号令をかける。

 敵の戦車は脅威だが、退避から現場復帰には時間がかかってしまった。それは彼らの主力戦車よりも機動力が低いからだろう。


 機動力を活かした戦車隊の運用こそリックの得意とするところだ。

 

「リック。敵の数は多い。制圧した部隊ごと包囲されるのは避けてくれよ」

「誰にものを言っているのだね。バリー。そんなへまはしないさ」


 敵の主力の航空部隊はいったんメガレウスから後方の要塞エリア二カ所に退避している。

 陸上部隊は途中にある小型の防衛ドームに避難していたようだが、『吊られた男ハングドマン』の投下タイミングがわかっているリックの戦車部隊のほうが展開速度は速かったのだ。


 砲撃戦も始まった。

 うなぎのゼリー寄せジヤリドゥイールも次々にシルエットに突進し、敵とともに爆散していく。戦車相手に分が悪いのは理解しているらしく、厄介なアベレーションシルエットなどを対象に突撃していった。


 防衛ドームからはクアトロシルエットによるトルーパー部隊や高速打撃群である戦車駆逐車両の装甲車が待ち構えている。

 合流タイミングを遅らせることが出来れば、敵軍の総合的な打撃力の低下が見込めるのだ。

 

「シルエット部隊も展開している。このまま押せるな」


 アサルトシルエット隊を率いるジェイミーが、歩兵の役割で戦車を敵の遊撃から護衛している。

 

「副砲もダメージを受けているな。完全にメガレウス内に籠城か」

「退避させた戦力は十分にある。タイミングをみてメガレウス内の戦力も放出するはずだ」


 リックは敵の作戦が読めない。だが籠城は今回のように救援が来るという前提ならば有効な戦術だ。

 バリーも挟撃を警戒している。


 メガレウスの戦闘能力が消失状態とはいえ、その強固な装甲と副砲、様々な兵装、内部に格納している兵器群は健在のはずだ。

 バリーが知る由もなかったが、メガレウス内部の兵器類は悲惨の一言だ。稼働率は半分を切っている。


「フユキたちが侵入経路さえ確保すれば、一気に押せる」


 フユキたち工兵部隊は同時攻略を行っている。

 敵の猛攻にあっても、どこか一カ所さえ破壊できれば状況が変わる。


「敵の航空部隊は健在だ。こちらは海戦で数を割いているからな」


 制空権はなんとか取りたいところだが、敵は可変機であるアルラーが主力。

 メタルアイリスも航空部隊は豊富だが、P336要塞エリア防衛戦で相当数、消耗している。全機稼働にはほど遠い。

 

「バリー司令。お任せを。周回軌道上よりファミリアによる航空支援を開始します」

「それは本当か! ありがたい!」


 アベルが通信で通達する。

 素直に喜ぶバリーに、不安を隠せないリックであった。

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