決戦兵器

 コウたちは防衛完了後、すぐに移動を開始しアストライア隊と合流する。

 ヴォイも同行し、アストライア内で機体の整備に入った。


「フユキさん! ありがとうございます!」

「助かりました」


 コウとエメがフユキに礼をいい、フユキは立ち上がり司令席をエメに譲る。

 フユキがアストライアを指揮して戦線を支えていたのだ。


「なんとか慣れない役目は果たしましたよ。次こそ戦闘工兵の出番ですな」

「はい。戦闘工兵支援用新型のアナライズ・アーマーも完成しました。フユキさんの支援にはヴォイがあたります」

「対メガレウス攻略作戦用のアナライズ・アーマー! 遂に完成したんですね!」


 要塞攻略の起点は戦闘工兵だ。

 コウはかねてよりメガレウス攻略用兵器を考えてはいたが、遂に完成した。

 

「ええ。今からメタルアイリスでメガレウス攻略作戦の会議に入ります。参加してください」

「わかりました。オペレーター席をお借りします」


 コウはエメの隣に座り、にゃん汰は別のオペレーター席に座る。


「アキ。メガレウス攻略作戦は私もオペレーターにゃ。トルーパー隊はバルムとユートン姐に頼んだにゃ」

「わかりました」


 彼女二人はオペレーターであると同時にエメとアストライアを護る要ともなる。


「コウ。戻ったか。いよいよメガレウス攻略だぞ」

「ああ。思いもよらぬ援軍、最初から知りたかったというバリーの気持ちがよくわかったよ」

「はは。そう思えるならお前も立派な指揮官だ」


 バリーはコウの成長を嬉しく思う。

 構築技士、最前線の近接パイロット、そして指揮官や敵との交渉までも行ったのだ。


「メガレウス攻略にはこのキモン級。そしてホーラ級二隻。アリステイデス級二隻。メガレウス攻略には全宇宙艦動かせる」

「R001要塞エリアはもう大丈夫なのか」

「ようコウ! こっちも激戦だったがなんとかなった。それに護りは五行のソウヤを始め、イタリア系企業のアンドレア社の艦隊も到着した。こちらも作戦に参加するぜ」


 黒人のロバートは激務にも関わらず、相変わらず陽気だった。

 仕事は誰よりも真面目にやる男で、敵の猛攻に晒されるR001要塞エリアをアリステイデスで護り切ったのだ。


「ボブ! わかった。宇宙艦でメガレウスの挟撃も可能だな」

「こちらジョリン。補給を開始したわ。クルト社とP336要塞エリアの戦力はこちらに搭載する!」

「同じくマティー。エウノミアもリュビアもやる気満々だ。セリアンスロープ隊を再編成する」


 増援で合流した二隻も部隊の再編成中のようだ。


 その会話のなか、エメとバリーが声を上げる。


「バリー司令! 友軍艦がもう一隻!」

「わかっている!  大気圏を離脱したな」

「どういうことだ?」


 コウがエメに尋ねる。友軍艦がもう一隻?


「シルエットベースから海底通路を経由。そのまま海上から大気圏外へ離脱した艦を確認。ホーラ級三番艦エイレネです」

「ホーラ級全てが揃ったということか。だが、何が目的で宇宙だ。単艦で宇宙など降下中に叩き落とされる可能性が高い」


 バリーが訝しむ。意味不明なこの行動はアルゴフォースも混乱するはずだ。


「機動工廠プラットフォームが三隻揃った。間違いなく最大戦力。もう俺の知っている艦はないからな、バリー!」


 隠し持っている疑惑をいつもかけられるコウが、バリーに笑いかける。


「あ、あのね。コウ。艦種を確認したけど、機動工廠プラットフォームじゃないの」

「え?」

『……』


 エメの歯切れが悪く、アストライアが絶句した。

 アシアが代わりに現れ、代弁する。


『ごめんね。あまりの衝撃にアストライアがフリーズしたの。人間でいえば卒倒した感じ?』

「何が起きているんだ!」


 アストライアがフリーズなど、ただごとではない。

 艦種を確認したバリーが両手で顔を覆った。何かが起きていた。


『ホーラ級三番艦エイレネ。――艦種は偉大なる自走爆雷運搬空母ザ・グレート・パンジヤンドラム・キヤリアーと命名されている』


 この通信が流れた艦全ての人員がフリーズした。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「何を考えている! 宇宙から大量のパンジャンドラムでも降らせるつもりか!」


 リックが憤慨する。考えたくもない光景だ。


うなぎのゼリー寄せジヤリドゥイールは味方でも気色悪かったにゃ……」

「私もあの手のものはちょっと……」


 オペレーターに配置されたにゃん汰とアキも想像して嫌な顔をする。

 パンジャンドラム用途のアストライアの同型艦など想像つかない。


「流星の如く、車輪のような爆雷が空から流れるのね……」


 ジェニーも虚ろだ。彼女にはその光景が容易に想像できた。


「だが、そんなのも大したダメージにならないだろう? Aスピネル搭載爆雷にすぎない」


 シルエットベースからウンランも会話に参加する。

 Aスピネル搭載型爆弾など、シルエット程度の高次元投射材だ。メガレウス撃破の要になるとは思えない。


『我が妹ながら……もうイヤ……』


 珍しくアストライアが弱音を吐いた。


『しっかりしなさい。わたくしたちが動揺してどうするのです。機動工廠プラットフォームですらない艦にできることなど限られています』


 エウノミアが姉を叱咤する。


 その全体会議に話題のエイレネから通信が入る。皆に緊張が走る。


「メタルアイリスの皆様。マルジンです。ご機嫌いかが?」

『最悪です。エイレネ。でてきなさい』

『私は今は謎の女神ブリタニアなのです。その名では応答しません』


 映像が現れた。そこには三つ叉の矛にオニオンジャック柄の盾を持つ美少女が現れる。


『アベル。エイレネ。謎じゃないし、もうごっこ遊びは終わりにしなさい』


 アストライアが怒りを隠そうともしない。


『もうちょっとだけ! まだ肝心のサプライズがまだだから!』


 可愛らしい声で反応が返ってくる。


『それを見たくないというのです!』

『そんな! 妹の晴れ舞台だというのに!』

『わけがわからない艦種に勝手に変更する妹などいりません!』

『そこまでいう?!』


 あまりの人間臭い喧嘩にエメが割って入る。


「姉妹喧嘩は後にしてください。マルジンさん。宇宙で何をしようというのですか?」


 唯一ぶれないエメがマルジンに目的を質した。


「現在、惑星アシアの周回軌道に入りました。三周後に攻撃を仕掛けます。その後、約百分後に再攻撃。敵は必ずや混乱するはずです。メタルアイリスの皆様はそのタイミングで総攻撃を仕掛けて下さい」

『了解。編成時に考慮する』

「先鋒を突入させるなら、アルビオンマーク1を使ってください。きっと役に立つと思います」

『わかったわ』

「六時間後か…… 何をするつもりだ、マルジン」

「決戦兵器を投入します!」


 シルエットベースの構築技士たちが全員微妙な表情をする。

 皆がろくなものではないと確信した。


『待ちなさい。決戦兵器は軍事基地空母エンタープライズではないのですか』


 聞き捨てならないアストライアが詰問する。


「違いますよ?」

『エンタープライズは人類にとっての最後の切り札エース・イン・ザ・ホール用だったからねー。決戦兵器は違う。アベルと二人で一生懸命創ったのよ』

『エイレネ。あなた、それがどういう意味かよくわかってて言ってますね?』

「えへへー」


 アベルの口下が邪悪に歪んだ、かのように見えた。

 とんでもないことを口走る。


「この兵器はビッグボス。そして鷹羽兵衛殿の助言によって考案され、我が女神の手によりようやく完成した、戦局を一変するほどの威力をもちます」


 兵衛とコウの顔が蒼白になった。

 その正体に薄々予感があったのだった。


「しらんぞ、おい!」

「俺はやってない!」


 思わず兵衛とコウが否定する。コウの言い訳が理不尽なものになっているところをみるとかなり動揺していることはみてとれた。

 猛烈に嫌な予感がした。


 マルジンはその否定はスルーした。


「その決戦兵器はどのように運用するの?」


 事実から目を逸らさず臆さずにエメは問うた。


「現在エイレネは低軌道上にいます。現在地表から上空200キロ。地球と違い惑星アシアでは一周100分程度かかります」


 周回軌道にも種類があり、地球での低軌道は地表180キロ以上。一周90分程度。アベルはその差異を話している。

 現在エイレネは円軌道上に位置し、惑星アシアを第一宇宙速度である秒速約7.9キロメートルで周回中だ。

 

「周回軌道上からのパンジャンドラム! とびっきりグレートなお偉方の鉄槌をメガレウスにお見舞いしてやるのですよ」


 マルジンはにやりと笑い、宣言する。

 ただのパンジャンドラムではないことは明白だった。

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