防衛成功
五番機のMCSに通信が入る。
コウの背後にいる、アシアのエメが防衛隊に伝達を行う。
「ペリクレス及びエウノミアがP336要塞エリアに到着。みんな、あと少し」
「ありがたい!」
ペリクレスからは可変機と戦闘機が次々と出撃する。
エウノミアからはワイルドハント部隊が飛び立った。
セリアンスロープが駆る新たな空飛ぶ機体。地上で防戦を行っていた彼らが沸き立つ。
ドーム内ではその運動性を生かした戦闘力は増す。
「待たせたね! コウ!」
マットが通信する。ジャリンも同じく会話に参加した。
「ええ。こっちも忘れずに。私たちの会社をめちゃくちゃにした連中は絶対に許さない!」
二人の会社ギャロップ社とアイギス社はP336要塞エリアにある。
大規模破壊に対し、誰よりも怒りを抱く当事者たちであった。
「待っていたさ。奴らを追い返すぞ」
「もちろんさ。この都市のセリアンスロープの皆にもガーゴイル型がようやくお披露目できるしね!」
マットはにやりと笑う。
この街のセリアンスロープは、ギャロップ社のクアトロ・シルエットに惹かれてやってきたのだ。
空を飛ぶシルエット。待ち望む彼らにようやく見せることができるのだ。
ワイルドハント隊は想像通り、地上のセリアンスロープたちを魅了した。
「凄いな、アレ! 噂に聞いていたガーゴイル型か!」
「落ち着いたらこっちでも量産かな。そのためにもあいつらを追い返さないと!」
いずれギャロップ社でもガーゴイル型が生産されることだろう。セリアンスロープが遂にシルエットで空を飛ぶのだ。
「こちらバリー。敵が撤退行動に入った」
「こちらフユキ。同様に敵が撤退行動を開始。深追いはしませんよ」
前線で防衛線を張っているアストライアとキモンから通信が入る。
「こちらアシアのエメ。敵部隊、P336要塞エリアより撤退していきます!」
「航空部隊と砲撃部隊を適時攻撃。こちらも深追いは禁物だ」
「了解。そのように指示します」
アシアのエメは味方にコウの指示通り、遠距離攻撃を中心とした追撃を指示する。
「俺達も追撃を仕掛ける。ドーム内でのみ戦闘を行う」
「お任せを!」
「撤退戦は敵も手強くなります。皆さん油断しないように」
冷静なクルトが釘を刺す。
「そういうことだな。よし、狩るか」
追撃戦を楽しむかのようなジェイミー。
「うちとブルーは楽しく安全に撃ちまくるにゃ」
「ちょ! 私を入れないで。クールにスナイプするわ。コウたちの支援にね」
「ああ。頼んだよ二人とも」
フラフナグズを先頭に、二機のラニウスが左右の後続につく形で斬り込む。今やジェイミーもインファイターと化している。
画面で六人の戦闘をみているヴォイに言わせれば、Dライフルを撃てよと思うところだが、彼らの戦い方に口は出さない。
エポナの二機はDライフルで周囲を牽制する。とくににゃん汰の制圧火器仕様のDライフルは暴力的な威力を発揮していた。
逃した敵はブルーが確実に仕留めていく。
市街地を抜けると、戦車も合流する。王城工業集団公司の戦車部隊だ。
戦闘は黒と黄金のエポナ。黒獅子と異名される機体はにゃん汰を助けてくれたユートンに贈呈したものだ。
「ビッグボス! さすがだな! 本当にあいつらを撃退しやがった! 野戦ならこいつらに任せな!」
「頼んだよ、ユートン姐さん!」
「おうさ!」
この姉貴分の虎型セリアンスロープは皆の信頼も厚い。コウもいつの間にか姐さんと呼ぶようになっている。
戦車が編隊を組み、敵に突撃する。追撃態勢に入ったのだ。
敵は速やかに後退。撤退行動に以降している。
シルエットが背後を警戒しながら退却し、殿を護るのはアラクネ型だ。
ブラックウィドウは対シルエット戦に特化した多脚戦車だが、欠点もある。
通常の戦車には分が悪いのだ。
誘導式の主砲に電磁ネット。戦車ではありえない柔軟な機動力。
だが、巨大な箱である戦車。どんな動きをしようが見逃さない、スラローム射撃が可能な砲塔。陸の覇者には正面からの撃ち合いを想定した戦闘力では一歩劣る。
「奇怪な戦車にはお帰りを願うぜ!」
「畳みかける!」
王城工業集団公司に所属するファミリアたちの戦車隊が次々と郊外に進出し、追撃を行う。
その戦車を倒す役目は、ブラックウィドウを駆るブラックナイトの役目だが――
「側面は俺たちが護る。みんな頼んだ!」
飛翔して側面から戦車の履帯や砲塔を破壊しようとするブラックナイトを、同じく飛翔して一瞬のうちに斬り飛ばした五番機。
すかさず武器を持ち替え、上空にいる別のブラックナイトをDライフルで叩き落とす。
地面に落下したブラックナイトは戦車隊の集中砲火を受け沈黙した。
「ビッグボスの護衛ありかよ! こりゃ無敵だ!」
「戦車隊、進め! 撃て!」
ファミリアたちの士気が上がる。
ブラックナイトはまだそれなりにいるがクルトたちもカバーに入る。
戦車より背後から半装軌装甲車が支援砲撃を行い、撃破していった。
被弾にある程度耐えていくが、集中砲火は耐えきれない。次第に大きな孔が増え動かなくなる多脚戦車。
それでも彼らは淡々と己の役割。退路の確保のために戦い続けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「カストル様。P336要塞エリアから撤退を開始しました」
ヴァーシャがカストルに報告する。敗戦の報だ。口は重くなる。
「仕方がない。宇宙要塞空母まで出てきては、な」
メガレウスを超える戦闘能力を持っていないとは誰も断言できないのだ。
「味方艦隊は数日後にスフェーン大陸に引き返すそうです」
「数日後とは義理堅いな、我が兄弟は。くそ。あいつらはいくつ奥の手を持っているのだ」
宇宙戦艦のデータから、敵の増援は宇宙要塞空母ソフォイ級タレスと同型と判明した。
彼らのメガレウス同様、復元艦であると思われるが戦闘能力は未知数。かつ搭載できる兵器の数が桁違いだ。
機動工廠プラットホームも新たに参戦している。企業と一介の傭兵チームとは思えぬ戦力にカストルは苛立つ。
「敵はメガレウスの攻略に入るだろう。だが我々のシルエット、その他兵器は敵よりも多く、質も高い。違うか?」
「左様ですな。敵戦車など所詮シルエットを意識したものばかり。戦車として追求したエーバーⅡ、そしてヴァーシャの高性能シルエット。十分に敵を迎撃できます」
アルベルトが開発したエーバーⅡ重戦車はメタルアイリスでも難敵として認識されている。
運用さえ間違えなければ高性能シルエット三機でも撃破は難しい。可変機や装甲筋肉採用の近接特化シルエットに分が悪いが、その弱点は補うのは同様にシルエットだ。
「その後に待つのは持久戦だ。つまり敵の初太刀を外してしまえば我らの勝ち。ストーンズは別の大陸を抑え、補給も潤沢だ。奴らはどうだ?」
「軌道エレベーターを一つ抑えたのみ。商社からの補給に頼るしかありませんね」
「そういうことだ」
シルエットと可変機を中心に構成されたP336要塞エリアの空挺部隊は撤退させた。
防戦になれば戦車や陸上戦艦などと連携する。
戦争は防衛側が有利だ。そして防衛の拠点は鎮座したメガレウス。
敵の反撃こそ、戦力を削ぐ最大のチャンスでもある。
「こちらも前線から傍受した敵の映像だ。これをみろ」
「これは…… エメ提督ですか?」
映し出された画像には瞳が金色に輝くエメがいた。
「指示の内容がアシアのものと思われる。つまり、アシアとエメは一種の融合状態にある」
「そんなことが可能なのですか」
「現在ヘルメス様自ら解析中だ。これが可能なら、敵の部隊運営に一切無駄がなかった理由もわかる」
「確かに」
「封印区画を守る者の背後にいたらしい。お前と戦った相手の後ろにいたようだな」
「アシアの騎士か! 申し訳ありません。気付きませんでした」
ヴァーシャは内心納得する。あの男の元が一番安全だろう、と。
そしてアシアは彼らの会話を聞いていたのだ。彼の本意を知ってくれた。嬉しい誤算だ。
「よい。P336要塞エリアは思いの外、奴らにとって重要拠点だった。反撃は激しいぞ」
「でしょうね」
空母爆弾をぶつけたのだ。彼らの怒りは激しいだろう。
「あと気になる報告が……」
深刻な顔のヴァーシャにカストルは気を向けた。
「どうした。いってみろ」
「たった今敵の機動工廠プラットホームの同型艦が海中から出現。宇宙へ飛んだそうです」
「まだあるのか」
さすがにうんざりする。機動工廠プラットフォーム。何度も苦渋を舐めさせられた相手だ。
「どんな動きをしている?」
「周回軌道に入ったまま、何もしていない模様ですね。地上からの迎撃は困難です」
「何をたくらんでいるかわからんが、せいぜい宇宙からの強襲だろう。その時は主砲で叩き落とせ」
「了解しました」
機動工廠プラットホームは宇宙戦艦ほど装甲は厚くない。
大気圏再突入中の被弾は一発でも致命傷になるはずだ。
「戦術的な位置取りを狙うなら三隻同時に飛ばすだろう? メガレウスにぶつけるなら強襲揚陸艦のほうが向いている。何を画策しているやら」
「敵も宇宙艦の損耗は避けたいはず。可変シルエットや飛行可能シルエットでメガレウス内に乗り込むつもりかもしれませんね」
「その程度なら数で押し返せる」
メガレウスに搭載されているシルエットも高性能機、パイロットも精鋭揃いだ。
強引に乗り込むつもりでも侵入経路は限られる。むしろ対処はしやすい。
「地上からの進軍はまだ時間はあるはずだ。その進軍に合わせると踏むがな」
「私もそう思います。周回軌道なら惑星アシアを一周するのに二時間もかかりません。タイミングを測り降下するはずです」
「存在さえ掴めば対処はいくらでもできる。一度宇宙から自走爆雷が降ってきたが、あの時は全て撃破した」
「アレは命中してもメガレウスの装甲にダメージを与えることは不可能です」
「問題は制空戦闘と地上軍の同時進軍だな。何せ敵は宇宙艦の数だけは多い。機動力を活かした戦闘を仕掛けてくるはず。こちらは護りを固めよう」
カストルは新たな宇宙艦の存在も冷静に対処しているが、指揮の頭数が足りない。もう数人、優秀な将校が欲しいと切に感じていた。
自由意志を奪うストーンズ側の人員は優秀な人間でも独自の判断が苦手な者は多い。ストーンズの性質上、そういうふうにしてきたのだから仕方がない。優秀で忠実な構成員が必要なのであって、リーダーシップや独立心は不要なのだ。
むろん
そんな能力も経験も、ストーンズ配下として生きるには不要。優秀、とは彼らが指導する社会構造に貢献できる能力。すなわち知力身体能力ともに秀でていることである。
現場での指揮官不足は深刻だ。
「まさか我ら三名が前線を退いただけで、こうも総崩れとは……」
あれだけの数、戦力で拠点制圧すら出来なかった。
夜戦に持ち込まれ、敵のエース部隊の遊撃が追い打ちをかけた。
「仕方ありません。自立できる人間など、ストーンズには不要です」
カストルの愚痴に対し、慰めるヴァーシャ。
ストーンズの平等主義、という理念も弊害をもたらした。上官下士官一般兵という軍隊では当たり前の階級構造を嫌がった。
あるのは能力による選別のみ。平等はその階級のなかでのみ保障される。
方面隊の一種であるアルゴフォースは市民階級を士官にするという手を取ったが、アルゴフォース全体ではまだ混乱が続いている。
ヴァーシャの祖国もかつて建前としては階級社会を拒否した。その歴史の知識を活かし進言して創りあげた人事制度を適用した軍隊がアルゴナウタイ内の組織、アルゴフォースであるといえる。
ストーンズの平等主義は彼の祖国にあった思想が似通っていたことが幸いした。
ストーンズも半神半人を増やし対応しているが、元となる人間の能力が全てだ。融合した人間が指揮官に向いているとは限らない。
ゆえにアルベルトのような生粋の技術者やバルトのようなならず者まで指揮官として駆り出されるのだ。
これらのストーンズ内組織の構造欠陥ゆえにヴァーシャが組織内でのし上がることができた理由でもある。
「防戦では
ヴァーシャも新たに防衛を命令する。防戦で敗れるつもりなど微塵もなかった。
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