night strikers

 MCS内で仮眠を取っていたコウとエメ。兵衛たちと交代し、機体は整備中だ。

 アシアはエメから離れてファミリアたちの指揮を執っている。


 アラームがなる。三時間ほどの仮眠が終了したのだ。

 その間に整備も終わっている。


『お目覚めね、コウ』

「アシアか。状況は?」

『敵侵攻速度は加速している。南部郊外や瓦礫となった地域は敵勢力下ね。市街地へ徐々に広がりつつあるわ』

「要塞エリアの一部が敵勢力下か。きついな」

『それでもマルジンの救援のおかげで時間稼ぎだけは出来たよ。押されてはいるけど間接支援の展開も終了し、滑走路が使えるようになった分かなり違う』

「そうか。ありがとうアシア」

『いいえ。エメ、そっちいっていい?』

「いつでも!」


 エメも元気よく返事をし、エメの双眸が金色に輝く。


 現在もまだ防戦を継続しているのはアシアのおかげだ。

 彼女が的確に部隊を編成、消耗した車両などを速やかに統合し、ファミリアを適時に指示し交代させていく。

 

 夜は明らかに防衛軍が有利となる。視界はセンサーでなんとかなるが、眠らずに済むファミリアに協力する要塞エリアそのものにアシアの指揮が加わる。

 

「いこう。コウ。夜戦は敵の勢いも弱まる。少しでも敵を減らす好機」


 ストーンズには人間しかいない。不眠不休での行動は不可能だ。どこかで休息は必要だろう。

 それは人間という枠組みである以上、夜が適している。交代制にしても昼ほどの猛攻はないはずだ。


「わかった。アシアのエメ」


 整備を担当していたヴォイから通信が入る。

 五番機の破損した装甲は換装され、弾薬は補充されている。


「起きたかコウ。ちと相談があってな」

「珍しい。なんだ、ヴォイ」

「アキからアストライア内で完成したDライフルが五丁あってな。クルトさんが二式航空艇で持ってきてくれた。使い手はフラフナグズのグングニルⅡ。カナリーの狙撃用。にゃん汰のエポナ用の連射重視の制圧用分隊火器仕様。それぞれに渡してある」


 三人も夜戦に備えて休息している状態だろう。

 合流する予定になっていた。


「助かるヴォイ。残り二丁が問題か?」

「そうだ。鷹羽の爺さんと千葉さんのアクシピターに渡す予定だったんだが…… 爺さんは最深部へいっちまったしな。予備に取っておくかい? 砲弾はアシアがここで生産中だ。補給は出来る」

「今は出し惜しみしている場合じゃない」


 コウは少々考え結論を出す。


「パルムのエポナとジェイミーのラニウスCに渡してくれ。そのまま二人のものでいい」

「了解だ、コウ。あの二人なら使いこなせるだろうさ」


 五番機はラニウスC強襲飛行型のまま。Dライフルと大小二本の刀に、予備の弾倉を三本追加した。

 

「コウさん! Dライフル拝領しましたが、いいのでしょうか」

「こちらジェイミー。おいおい、こんな武器渡されたら、老体に鞭うってハッスルするしかないじゃないか」


 パルムとジェイミーから通信が入った。


「夜戦で敵の勢力を少しでも減らしたい」

「了解です。これは素晴らしい。あの憎きアラクネともやりあえる」


 多脚型のアラクネにやられるクアトロ・シルエットは多い。パルムは興奮していた。


「こちらはあのラニウスもどきにやり返さないとな。敵のほうが機体の質がいいってのは厄介だ」

「本当にな。ジェニー達も来てくれてはいるが、純粋なシルエット性能は厳しいのが本当のところだ。だが、俺達は違う。二人は俺達と合流してくれ」

「夜戦用の即席特殊部隊か。面白い」

「敵を一掃できる部隊ですね」


 ジェイミーがにやりと笑い、パルムは興奮する。


「五機のシルエットで戦局は逆転はできないが、足止めぐらいはしないとな。ファミリアたちもこれ以上死なせたくはない」


 人間は睡眠を取る必要がある。そこをファミリアたちの戦車や装甲車で補っている分被害も大きい。

 セリアンスロープも夜には強いが多少の睡眠は必要だ。


「これから防衛隊へ全体通信を行う。アシアのエメ、頼む」

「了解です」

『聞こえるか。みんな、よく持ちこたえてくれた。各隊長の指示に従い交代し、継続戦闘に備えてれ。敵は短期決戦だ。敵の侵攻はまだ続く』


 各部隊、耳を澄ます。アシアのエメではなく、コウの言葉は珍しい。


 アルゴフォースも交代制で休ませているようだ。優秀な人材を揃えて作られた部隊とはいえ、睡眠は必要。

 不時着した空母を即席基地にして補給や休憩を行っているのだ。緒戦と違い敵の数は減りつつあるが、間接部隊や支援部隊は充実してきている。


『明日の朝、援軍が来る。今日きてくれたアルビオンのマルジンが告げた言葉だ。それだけを信じて戦うわけではないが形勢を逆転する援軍だと思っている。あと一夜耐えきろう』


 援軍と聞き驚きの声を上げる者までいた。どこの戦線も手一杯なのは、わかっていた。


『次善の策としてはシルエットベースも今増援に向けて戦力を検討中だ。俺達も苦しい状況が続いているがここが正念場。みんなの健闘を祈る』


 コウは生粋の軍人ではない。ここは本来嘘でも援軍が必ず来ると言うべきだった。

 あえて自分の言葉を選んで語ることにした。嘘をついたらファミリアたちは見抜くと思ったからだ。


 マルジンの告げた援軍はきっとくる。コウ自身、祈るような気持ちだ。


「なかなか良い演説だったわ、ボス。次は私とラジオね」

「さらりと恐ろしいことを言うなブルー」

「たまには人前に出なさい。私たちは合流したわ。あなたがきたら出撃よ」


 ブルーからの通信に応答し、背後にいるアシアのエメに声をかける。


「俺達もいくぞ」

「了解」


 五番機は最前線に向けて出撃した。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 日が沈んだ。夕焼けで染まった世界は、薄闇と星空の煌めきの天幕と化す。

 

 本来なら明るいはずの都市部に灯りはなく、小さな爆発音とときどき発する閃光により戦闘が続いていることを示している。

 MCSである以上、どの機体もある程度の暗視装置は備えている。


 反攻の旗手は意外な存在だった。


「いくぞ、お前ら」

「おう!」


 それは木と水の戦闘機ブーン。要塞エリア特化型のこの航空機を夜間戦闘型に改造していたのだ。

 エンジンによる発光もなく、静粛性の高い電動モーター。ナノセルロースとアクアマテリアルによる金属を使わない機体はレーダーに対しても有効だ。


 ビルの隙間を飛び回り、有線対地ミサイルで攻撃し、敵戦闘機の真下から対空ミサイルを放つのだ。継戦能力を重視しミサイルを諦め機関砲に変更したものもいる。

 敵のレーダーをくぐりぬけ、音のセンサーも感知しない。沈黙の暗殺者と化した。

 パイロットは主に夜行性のサーバルキャット型や狸型のファミリアだ。


 攻撃を受けないようビルの隙間に逃げ込む敵シルエットであるカザーク。

 音もなく崩れ落ちる。


 背後にいたのは五番機。音もなくMCSを背後から貫いたのだ。

 五番機は走る。一切スラスターは使わない。


 閃光一閃。敵の小隊を瞬く間に切り伏せる。


「な!」

「そこにいる! 追え!」


 追いかけようとすると次々と爆発が起きて倒れる。

 ブルーの狙撃だった。ブルーのカナリーはマークスマンとスナイパーの中間のような戦闘スタイルにカスタマイズされている。狙撃とは言え常に移動しながらの戦闘を行うのだ。


「敵のエース部隊か!」

「いったん固まれ。そして下がれ」


 小隊が固まったところで、物陰からエポナが姿を現した。


「死ねにゃ」


 にゃん汰のDライフルは制圧用の分隊火器仕様。ベルト型給弾方式により、連射。敵を制圧せしめるものだ。

 流体金属弾の制圧射撃はさすがにきつい。


 そこにブルーの援護射撃に加え、パルムのエポナとジェイミーのラニウスCも射撃戦に加わる。

 装甲が厚い機体とはいえ、Dライフルによる集中砲火はたまったものではない。


「さ、散開!」


 固まっていたら殺される。

 それぞれの方角へ逃走を図る。


 逃走を図った機体のうち、瞬く間に三機のシルエットが両断された。

 クルトのフラフナグズが両手剣グラムを構え、そこにいた。


 逆方向に逃げた敵シルエットもまた、五番機によって切り裂かれる。


「制圧完了だ。次だな」

「いきましょう」


 コウが次の獲物を定め、クルトが淡々と仕事をこなす。


「この区画の敵は制圧した。次の区画へ向かう」

「了解!」


 六機は後続部隊に場所を任せ、次の戦場に向かう。

 

 即席チームの戦闘能力は高く、援護している味方の士気も上がる。

 メタルアイリス所属のパイロットや傭兵たちにも噂になっていた。


「ビッグボスたちやっぱ強いな」

「強いのは当然か。むしろはやいというべきだ。次々に制圧し転戦している。さながら夜襲攻撃隊ナイトストライカーズだ」

「ナイトストライカーズか。確かにそんな感じだな」


 六人の戦いはナイトストライカーズとして瞬く間に広まる。


「ビッグボスとアシアのエメがいるんだ。俺達への指示も万全。信じて戦うのみだ」

「おう。撤退ルートまで指示してくれるもんな。ありがたい」


 兵器の質も高くパイロットは精鋭であるアルゴフォースに対し、戦力人員ともに劣る彼らが戦えるのはアシアのエメによる指揮が大きい。

 いくらレーダーやセンサーが優秀な兵器とはいえ、夜になり視界が悪く、加えて迷路みたいなビル街ではスムーズに行動できない。


 ところがファミリアたちは地形やルートも万全。地の利を生かした戦闘を常に行えるのだ。

 要塞エリア施設まで味方。本来とうに陥落してもおかしくないはずの防衛隊がまだ戦えている。


 一方アルゴフォースは次々と区画ごとに制圧され、戦線を下げるか進むか迷う事態に陥っていた。

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