敗北で屈してなるものか!

 五番機とフラフナグズを戦闘に、制圧されている建物へ向かう。

 大型の整備拠点だが、空母爆弾によって廃墟と化している。そこをレイヴンが制圧。臨時の基地として使っている。


 そこを強襲する二人。見張りのカザークはすぐに気付いた。


「敵襲!」

「敵機は二……」


 言い終えることは出来なかった。クルトの大剣が無造作に横薙ぎされ、胴体を両断する。

 五番機は音もなく串刺しにした。


 レイヴンや強化型シルエット、クルィーロ・カザークが迎撃に現れた。


「たった二機で!」


 敵パイロットが憤慨した。彼らは精鋭なのだ。

 左右に別れた五番機とフラフナグズ。どちらを追うか悩む増援。


「周辺区画は制圧した。つまり」


 コウが呟く。


「部隊展開が容易だ」


 夜間で視界が悪い。センサーで補うのも限界がある。

 市街地の区画を完全に把握したファミリアたちが搭乗する車両が各地に潜んでいた。


「撃て!」


 周辺に待機していた半装軌車両の自走砲が次々と間接支援射撃を開始する。

 その攻撃タイミングの間隔に、エポナ二機とジェイミーのラニウスCが突入を敢行した。


「それでも五機だ! 野営地の周辺部隊は装甲車両の排除を!」


 アルゴフォースのパイロットも冷静な対処に務める。

 だが、暗夜の死角は彼らだけではなかった。


 空は警戒していた。だが、ブーン以外の伏兵もまたいたのだ。


 夜戦仕様の攻撃ヘリ。野外では撃墜されやすいが市街地戦、とくに夜戦のために生まれてきたようなこの兵器をメタルアイリスは以前から運用してた。

 ビルの合間を低空ですり抜け、猛攻をかける。


「ヘ、ヘリなんか用意してやがったのか!」


 後方では連続的に爆発音がする。作業中のシルエットワーカーがにゃん汰によって制圧射撃を受け、一瞬で壊滅した。


「くそ。この場所は放棄する! 後方へ下がれ!」


 アルゴフォースもまた精鋭兵揃い。混乱することなく、後方へ前線を下げることを選択する。


 敵の後退行動時を狙撃手ブルーは見逃さない。

 闇夜をスラスターで高速移動しているブルーが狙撃して撃破する。


「畳みかける!」

「いきましょう! コウ君!」


 追撃する五番機とフラフナグズ。難敵であるレイヴンを逃さない。できるだけ数を減らしたいのだ。


ラニウスとフラフナグズは建物の上に飛び乗り、敵を攪乱する。

 彼らを追うために飛び立つレイヴンを一機ずつ切り伏せていく。


 仁王立ちから剣を振り回すフラフナグズ。近寄ると斬られ、ストーンズの援護射撃による被弾にはもろともしない。

 腰を落とし低い姿勢から素早く抜刀し一撃離脱の五番機。

 対象的な二機に敵は翻弄された。


 アルゴフォースにも増援からの援護射撃はあるのだが、それが目印となって友軍の攻撃ヘリとブーンが総攻撃を仕掛ける。

 三両の半装軌装甲車からは90ミリのレールガンが放たれ、その場に釘付けとなる。視界の悪い夜間と地形把握を最大限に活かした連携攻撃を仕掛けてくるのだ。


「いまのうち! いくよ! バルム!」


 にゃん汰がバルムに呼びかける。


 エポナ二機は周囲の敵を無視し突入する。

 目標は臨時の整備施設。


「ワーカーを一網打尽にするにゃ!」

「了解!」


 家屋の奥には整備するためのシルエットワーカーの集団がいた。

 意思を奪われた彼らは不眠不休でシルエットの補給や修理を行っている。


 その場所を狙いにゃん汰はDライフルで制圧射撃を行った。弾帯ベルトから次々に砲弾が装填されていく。

 作業用に専念しているシルエットの集団は瞬く間に爆散。


 バルムは護衛を切り伏せて、離れた敵はDライフルで牽制する。

 アルゴフォースも高性能機揃いだ。一撃では倒せない。


 周囲から敵部隊が応援に駆けつけるが、それらを半装軌車両群が砲撃で食い止める。

 空中からはバーンアウルが後方機銃で掃射し、援護を行った。


「敵部隊、後方に下がります」


 コウたちはレイヴンを主として狙っている。

 狙われなかったカザークたちは散開し、逃走した。


「そうか。深追いは無用だ。向こうも下がれば戦力は充実している。それに……」


 コウは口をつぐんだ。逃走したカザークたちの末路を思って。


 カザークたちはビルの合間を抜け、後方に下がっていった。

 その背後を音もなく転がり追跡する、真夜中仕様の触手型自走爆雷『うなぎのゼリー寄せジヤリドゥイール』に気付くことはなかった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 それは夜明け前。

 薄闇のなかを戦闘機たちが奮戦していた。


「皆。お願い。もう少しだけ……」


 集中攻撃を受けているのは、海洋艦隊の一角を守るジュンヨウ。艦長であるエリは祈るような気持ちだ。

 夜間に特化した援軍の戦闘機も到着している。御統重工業の新型双発戦闘機『ムーンライト』も奮闘しているが、敵の数が圧倒的だ。

 何せ手つかずのストーンズ支配下のスフェーン大陸から、大艦隊が押し寄せているのだ。


 メタルアイリス艦隊はシェーライト大陸への上陸を阻止すべく、艦隊戦を続けてきた。

 補給があるとはいえ、物量の差は激しい。エウノミアの救援が来なければ前線を下げざるえなかっただろう。

 

 ジュンヨウも護衛の駆逐艦も二隻喪った。やはりAスピネルでは耐久性に限界がある。ジュンヨウはAカーバンクル採用艦だが、このまま対艦攻撃を受け続けるわけにはいかない。他の護衛艦は数発の被弾で沈む。彼らを護るために艦載機たちは限界を超えて戦っていた。

 

 可変機シェイプシフターの零式は耐久力がないにも限らず、凄まじい粘りを示し奮戦しているが、数の差は埋めようが無かった。


「夜明けの希望、か。そんなの本当にあるのかしら」


 隠者の予言。P336要塞エリアから伝えられた援軍。

 他企業の戦艦は彼女よりもっと強大な敵を引き受けている。

 

 当然ながら空母は戦艦より装甲は薄く、構造的にも劣る。その積載兵器による機動力と運用の柔軟さ。それが空母の強さだからだ。


「聞こえるか。ジュンヨウ。こちらジョン・アームズとゼネラルデフェンス合同軍。今よりそちらの援護に向かう。あと少しだけ持たせてくれ。待たせてすまない」


 突如流れた音声。画面には神経質そうな眼鏡をかけた白人の姿が現れた。


「本当に? わかりました。あと少し、持たせます! 皆、深追いをしないで。援軍が……きます!」


 エリの言葉は前線のファミリアや可変機を駆るパイロットたちを勇気づけた。


 通信はキモン級のバリー総司令にも入る。


「バリー司令。これより我らも参戦する。IFFはBAS社と同様のものを使わせていただこう」

「合同軍か! 助かる!」

「緊急時に申し訳ないが、我々ジョン・アームズとゼネラルデフェンスを中心とする米転移者企業は合併。これよりゼネラルアームズインダストリィとなる。代表は私、ロビン・H・ヴェーバーだ。ジャックの意思を引き継ぎ、ストーンズの好きにはさせない」


 通信の男性が名乗りをあげた。


「遅いぞロビン! 待ちくたびれたぜ」


 同じ米国出身の構築技士であるケリーは知人だったのだろう。通信に入ってきた。


「すまないね。ケリー。我らは女神の導きにより、来たるべき日に備えて戦力を蓄えていた。ジョン・アームズが陥落した日からね」

「また女神かよ。その女神はきっと陰謀好きの性悪だな!」

「否定はしない。我らの前ではフェロニアを名乗ったが、真の名は別にあるのだろう。だが、今はそれよりも――」


 言葉を句切り、改めてロビンはバリーに語りかける。


「バリー司令。我らが到着したら、ペリクレス及びエウノミアをP336要塞エリアへ。ここは我らが抑える」

「なんだと! 単艦で抑えるだけの力があるっていうのか!」


 もしそれが本当なら恐るべき戦力だ。大艦隊に匹敵するほどの戦力。


「期待しすぎは禁物だよ? しかし我らゼネラルアームズとBAS、アトゥ。加えて五行がいるのだ。我々は勝利できる」


 勝利と断言した。自信ではない。この男は淡々と事実を口にした。


「あの艦隊相手にか?」

「そうだ。我らはストーンズの襲撃によって拠点を喪い、惨めにも敗走したさ。だが敗北で屈してなるものか! 反攻の時だ」

「わかった。夜明けがくる。そろそろあんたたちの戦力を見せてくれ」


 バリーがじれったい気持ちを隠そうともせず急かす。


「承知した」


 日が昇りつつあった。

 海面を割り、巨大な『島』が姿を現す――


「バリー司令…… 海中から浮上した友軍の艦…… 島といえばいいのでしょうか。全長約4キロの巨大艦です」

「これが女神の用意した切り札か!」


 防衛ドームを小型化したような人工物。ドームに描かれているエンブレムは厳かな絵画のようだ。美しいストロベリーブロンドの月桂樹の冠にトーチを掲げた自由の女神像風の少女を象っている。


「お待たせした。これが我らの移動拠点。軍事基地空母ミリタリーベース・キヤリアー『エンタープライズ』だ」


 ロビンが告げたその艦の名は、伝説の艦名と同様のものだった。






☆ ☆ ☆ 後 書 き ☆ ☆ ☆


いつもお読みくださりありがとうございます!  カクヨム様に後書き機能がないので初めての本文後書きです。


さて今日は皆様への当小説のゲーム化にむけた活動報告です。


東京の緊急事態宣言前、地方から上京し出版社の方とゲームメーカー様に訪問し、本作がゲーム化に向けて何が必要かお話をさせていただきました。

まだ書籍にもなっていない本作ですので、実際に採用されるとか企画に乗るという話しではなくて、もし実際に目指すなら何が必要かアドバイスを頂いたような感じです。


しかしやはり厳しい小説事情。書籍化にはならず。書籍化ができないということは、ゲーム化へ向けてのスタートラインに立てないこともわかりました。

皆様に良い結果を報告したかったのですが、無念です。でも自分の限界を超えて頑張った気がします!

このコロナ禍の中、お話を聞いてくれたメーカー様と出版社様にはこの場でも御礼申し上げます。


しかしそれでも皆さんにシルエットやハーフトラックに乗って遊んで貰える道筋をつけたかったです。


決して屈しない! 絶対に屈しない! の英国面の精神で今後も頑張っていこうと思います。

never give in, never give in, never, never, never!


今後はカクヨム様や小説家になろう様でのWEB公募等で活動を続けます。

この話が実現した鍵は、この小説限定にあるのです。


何が必要かはわかりました。砂浜にダイヤモンドどころかカミオカンデでニュートリノ観測ぐらい無理ゲーかもしれませんが、可能性はある以上追求していきたいと思います。貴重な経験になりました。

出版できたらゲームメーカー様には今後もご相談には乗って頂けると思います。知名度が上がれば出版社様にお願いして企画を提案していけるような状態も目指せますので、引き続き頑張っていきます。


皆様の応援のおかげです。おかげでこんな話ができたんだよ、と是非ご報告してくて今回は本文の後書きを掲載しました。


今後とも応援よろしくお願いします!

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