パンジャンドラムの同類…… 違う! 歩いている!

 コルバス二機が封印区画へ侵攻した。

 構築技士しか入れないため、防御機構は発動しないが迷宮のように入り組んでいる。


 要塞エリアや防衛ドームは地表が危機的状況な状態に陥った時のため、シルエットサイズの地下街が何層も作られている。

 中規模要塞エリアであるP336要塞エリアは封印区画だけでも相当な広さである。


「カストル様。封印区画に入られたようですね」

「ヴァーシャか。コルバスの右腕を一本持って行かれたが剣士は倒したぞ。バルドも鷹羽を倒した」

「それは何よりです。こちらは敗北し、右胸部ごと切断されました」

「なんだと? それほどの凄腕が守っているのか!」

「詳細は合流してからお話します。まずは三機で制圧。該当の構築技士を捕縛しましょう」

「それほどの腕前ならうまく使えば戦力としても役立つな。わかった。まずは合流だ」


 第三層まで降りた二機。以前の要塞エリアから用意した情報だと、大広間だ。

 ここは封印区画以外の様々な深層区画とつながっているはずで、注意が必要となる。構築技士の資格を持つ伏兵がいるならここであろう。


 次のフロアへのエレベーターはもうすぐ。そこから先は一本道。


 果たして、フロアではなく通路で立ちはだかる者がいた。

 変わったシルエットだ。


 巨大なラウンドシールドを持っている。ほぼ全身が隠れるサイズだ。

 さらに同様の盾にも担いでいる。一見防御特化だ。


 コルバスの二人にしてみれば忌々しい。盾と剣術は相性が悪い。 

 とくに日本の剣術は盾をあまり想定していない。介者剣術という鎧を想定した剣術はあるが、戦国時代に使われた手盾や移動式の壁盾までは想定していない。


「構築技士がまだいたか。しかし鷹羽兵衛と千葉ほどは強くはあるまい」


 カストルが尊大に告げる。侮っていることがわかる。


「私の名はマルジン。以後お見知りおきを。はっきり言いましょう。弱いですよ! ここから先は通すわけにはいきません。」


 通信に現れた者はつい先ほど演説した仮面の男だった。


「貴様、増援の英国人か。お前二人で我らを倒せるとでも? 時間の無駄だ。それともそれが狙いか?」


 盾特化で攻撃手段などなさそうなシルエットだ。時間稼ぎとみていいだろう。


「ご明察。時間稼ぎですよ。――熱いお茶でもいかがかなHow about a hot cuppa?」

「馬鹿にしているのか? 雑魚に用はない。機体性能も戦闘技術も差は歴然としている」


 カストルは事実を告げる。パイロットの癖はシルエットの待機状態に出る。きっと目の前の男は戦闘技術に関しては素人だろう。


「私のシルエットであるマーリンは手品が多少得意な程度。フッケバイン系統二機に勝てるほどの機体性能はありませんし? ちょっとした手品でお相手します」

「どかないなら排除するだけだ」


 バルトも苛立ちを隠せない。どうも小馬鹿にされている感じがする。


「あなたたちこそ。たった数名の構築技士で、強行突破? 確かに封印区画は構築技士しか入れません。それが罠になるとどうして思わないのです? この機体ですら足止めできます」

「ふざけるな。できるわけなかろう!」

「できますよ。これを盾だと思いましたか? 盾に爆雷を仕込む間抜けはいませんよ」


 マーリンは背面の盾のような円形の代物を取り出し、構えていた盾と接続した。

 それは巨大な糸車状となる。


「ば、爆雷とは……」


 カストルの貌が引きつった。

 バルドが思わず絶叫を放つ。


「まさか…… ふざけるな、クソ! いつものかよ! いい加減くどいんだよ!」

「喰らうがいい! 携行型パンジャンドラム『隠者ハーミツト』を!」


 別人のようにマルジンが叫び、通路で転がり出すパンジャンドラム『隠者ハーミツト』。

 

「ちぃ!」


 流体金属剣で斬りつけるが、かなり厚めの装甲を持っていたようだ。斬り込みは入るが止まらない。


「カストル様! いったんお引きください!」

「わかった。すまんバルド!」


 バルドの機体がパンジャンドラムを受け止める。こんな真似は全身が装甲筋肉であるコルバスでないと不可能だ。

 それでもじりじりと押され続ける。ロケット噴射の勢いが凄まじい。


「凄いパワーだ。どれだけ持つか!」


 全身の装甲筋肉をフル稼働させて、ようやく押しとどめている。


「持たせる必要はありませんよ」

「なんだと?」

「ハァ!」


 マルジンが必要のない裂帛の気合いを発すると『隠者』が炸裂し、吹き飛ばされる。爆雷なので当然爆発するのだ。

 周囲が煙幕に包まれた。


 ようやく起き上がったコルバス。バルドは血の気が引いた。

 正面にはすでにマーリンの姿は無く、コルバスに向かって走り寄ってくる別種のパンジャンドラムが複数迫ってきていた。


 その頃、カストルも通路を後退していると、不気味な振動音に気付く。


「ま、まさか」


 十字路の左右から、先ほどの『隠者』とは違う、巨大なパンジャンドラムが迫っていた。

 急いで正面を突き進み、小さな部屋に辿り着くとそこは――


「なんだ…… これは……」


 製造中のポップコーンのように、跳ね回るパンジャンドラムの群れがそこにいた。トゲがついているが、これに触れると爆発する仕組みとなっている。

 大きさはシルエットの半分程度。パンジャンドラムというよりは米軍が開発したローリングボムに近い。カストルはスーパーボールを連想した。


 カストルを見つけると寄ってくる。これはマーリンシステムが発動しているのだ。

 背後を見ると同じタイプのパンジャンドラムが迫ってくる。


「パンジャンドラムの結界か!」


 恐るべき状況に気付いて絶句する。

 跳ねてきたパンジャンドラムを無造作に斬り飛ばす。大爆発を起こし、吹き飛ばされるところへ別のパンジャンドラムの追撃がくるのだ。


 背面のブースターを全開にし、通路を突っ切ることを選択したカストル。

 今度は何かを踏んだ。マーダーを思わせる何かは光学迷彩の擬態地雷。

 巨大な円形状の筒に、蜘蛛のような無数の脚がついている。その脚でコルバスの足下へ移動するのだ。


「ん? なんだこれは。新種のアレか? パンジャンドラムの同類…… 違う! 歩いている!」


 カサカサと歩いて近寄る歩行地雷。パンジャンドラムであろうはずがない。むしろマーダーよりもさらに無機質な何か。

 普段ならセンサーですぐに感知できるはずが、飛び回るパンジャンドラムとの合わせ技。どこにあるか確認する余裕がない。執拗な罠だった。


「自律型の歩行地雷だと? 大きさから大した威力ではあるまいが…… 見えている地雷を踏むヤツはいない」


 踏まないといえど、歩いて近寄ってくると話は別だ。

 いきなり跳ねて体当たりする歩行地雷。コルバスの右脚部に当たり、爆発する。


「ぐぅ!」


 飛び跳ねるパンジャンドラムと同じく、地雷の足がセンサーになっていたようだ。僅かに接触しただけで爆発する。その威力は高くはないが、確実に脚部にダメージが蓄積する。


 次々と近寄りコルバスの足下で爆発する地雷。シルエットの脚部へダメージを与え続ける嫌らしい兵器だ。

 大きく飛んで回避したのも束の間。跳ねて追撃してくるパンジャンドラムと、地雷なのに天井に張り付いていた歩行地雷が落下してきたのだ。


「降ってくる地雷などと! 天雷とでもいうのか? 蜘蛛のつもりなら少しは似せろ!」


 地雷を回避したところを背中からパンジャンドラムが激突し爆発。弾き飛ばされる。

 お手玉のように爆風で吹き飛ばされ続けるカストルのコルバス。吹き飛ばされて地雷を踏み、さらに別方向に跳ね飛ばされるといった連続の罠を数度受け続けた。


 機体の装甲が厚い為どれも致命傷にならないことが幸いだが、お手玉にされる屈辱は頂点に至った。

 しかしこのまま全ての爆発を受けるとなると、確実に機体が破壊されることは明白。


 パンジャンドラムが跳ね回る、Pの結界を抜け外へ抜けるしかないだろう。 


「おのれマルジン。絶対に許さんぞ! 絶対にだ! 手段を問わず必ず殺してくれる!」


 憤怒が抑えきれぬカストルであった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 


「カストル様? バルドも応答しない。何が起きている?」


 カストルとバルド双方から緊急救援信号が発せられた。

 ただごとではないと、上半身の三分の一をなくしたヴァーシャのボガディーリが元来た道を戻る。

 

 エレベーターを登った先に、信じられないものを見た。


 小型球形状に近いパンジャンドラムが無数にある。それをせっせと手作業で組み立てているシルエットがいたのだ。

 

 側面の扉が開いている。そこは確か一般区画と繋がっているはずだった。

 外からコンテナが押し流され、部品を組み立てているシルエット。左右二つ合わせるだけで軸の部分は太く短い。


 どうやらコンテナはファミリアたちの輸送車が運んでいるらしい。ファミリアたちが中に入れないのでコンテナだけ送り込んでいるのだ。


「何をしている! 貴様ァー!」


 ヴァーシャは察した。カストルとバルドが応答しない理由。

 これしか考えられなかった。


「え?」


 マルジンは今更ながら背後に気付いた。

 背後のボガディーリに気付いたマーリンが慌ててパンジャンドラムの部品を盾にする。

 すかさず射撃されるヴァーシャのMP機関砲に破壊されてしまった。爆発を起こし、自分の兵装に吹き飛ばされるマーリン。


「これまでか。あなたがヴァーシャですね。この迷宮追跡型パンジャンドラム『魔術師マジシヤン』で歓迎いたします。お手玉みたいでしょう?」

「待て! 貴様!」

「せーの! ついでに歩行地雷『デビルフィッシュ』も置き土産です!」


 部屋にあった自走爆雷と自走地雷を同時に発動させる。

 すかさず側面の扉に飛び込み、外側から閉じてしまった。


「これだけの量の自走爆雷を同時起動だと! ふざけるな!」


 無数のパンジャンドラムと自律自走地雷が同時に発動し、ボガディーリに向かってきたのだ。


「邪魔だ!」


 ボガディーリのME機関砲で爆発する『魔術師』。

 即座に次の行動を移る。


「引き返すと私が捕虜になる…… ええい。突き進むしかないのか!」

 

 半壊した機体で無傷に近いコウのラニウスCを倒すのは不可能だ。

 引き返したところでパンジャンドラムに追われています、では捕まるだけだろう。


 自走爆雷のなかを突き進むしかないのだ。

 異様な光景に顔がひきつる。


「くそ。あのシルエット。絶対に殺してやる!」


 珍しく激情に駆られるヴァーシャ。一対一の戦闘で死ぬなら本望だが、自走爆雷に激突での戦死だけは避けたかった。

 無情にも眼前には飛び跳ねるパンジャンドラムたちが迫ってくる。


 数時間後、カストル率いるアルゴフォースのみならずストーンズ配下の軍隊アルゴナウタイ全体にとある人物の抹殺指令が降りた。

 史上最高額の賞金首が今ここに生まれたのだった。

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