どの攻撃目標に狙撃すれば効率がよい戦果を出せるか

「五機!」


 ブルーが淡々と上空の可変機を狙撃し、撃墜した機数をカウントする。

 瓦礫の山から山へと移動し、場所を変えながら敵を狙撃しているのだ。


 現在のカナリーの武器はレールガンに戻してある。にゃん汰の自爆、そしてカナリーの大破。敵に鹵獲された場合の危険性を考慮され、アンチフォートレスライフルは回収されている。


 アンチフォートレスライフルを回収した者たちに対し新たな武器をにゃん汰とアキが作成した。

 ブルーに対しては120ミリヘリカルレールガン。敵狙撃部隊の鹵獲武器を参考に造り上げた新兵装はブルー用の調整を施された。

 ある程度まで速射性能を向上させ、それでも一撃で軽装甲なシルエットを破壊できるだけの威力を持つ。


 本来エネルギーを大量に消費する兵装と相性が悪い装甲筋肉を使用したカナリーではあるが、可能にしたのは五番機同様ツインリアクターだった。

 装甲筋肉を反動制御に活かし、じゃじゃ馬ともいうべきヘリカルレールガンを使いこなしていた。


「戦闘機、かなりの数。あれだけの可変機シェイプシフターを!」


 頭上から敵戦闘機編隊が潜入してくる。アルラーとその改良機らしき機体だ。

 メタルアイリスも垂直離着陸機であるエッジスイフトが迎撃に出ているが、同時出撃は限られる上、滑走路が使えず他の機体が出撃できない。

 

 制空権は完全に敵側にある。劣勢だった。


 地上部隊はクアトロ・シルエットと傭兵部隊のシルエットが迎撃に出ているが、敵の高性能機に阻まれ苦戦している。

 とくに最初に突入してきたアラクネ型は凶悪なほどの破壊力、そして地形走破力がある。

 

 メタルアイリスの戦車隊も善戦するが、護衛のシルエットが先に排除され後退を余技なくされているのだ。

 言いたくはないが援軍も見込めず厳しい状況だと、ブルーは感じる。

 

 後方の装輪車両の間接射撃。装軌装甲車や半装軌装甲車は戦車駆逐車両に換装してはいるが、敵のほとんどが電磁装甲を採用しており、致命打にならない。

 対空車両は優先して排除されている様だった。


「ブルー。制空権は敵にある。狙撃部隊はとく注意だ」

「了解、コウ」


 コウからの通信に応答する。

 狙撃機を片付けるには空中からの爆撃は有効だ。警戒しなければならない。


「敵アサルトシルエットの侵攻も早い。狙撃部隊、下がって。目標は敵哨戒機、戦闘機を優先。地上の戦闘支援は状況に応じて」


 友軍にそう指示したところだった。


 空中から次々とシルエットが降下してくる。――パラシュート無しで、だ。

 護衛であろう、見たことがない新型の戦闘機の編隊まで現れた。


「これが本命?! どれだけ新型を隠し持ってるというの!」

 

 ブルーが思わず呻くほどの大戦力。


 上空からスラスター噴射のみで降下してくる漆黒のシルエット群。

 レイヴンを中心とする新型機の集団だ。コルバスの姿もある。


「この破壊された一帯を制圧する気ね。みんな前線ライン下げて」


 指示を飛ばしながら自身も交代しつつ、降下中の敵新型機を狙撃する。

 被弾した敵は大きな火花を散らし、転倒しそうになる。だがスラスターを全開噴射し、姿勢を立て直していた。


「電磁装甲…… あの出力。まさかあの敵たち、みな金属水素生成炉持ち、か」


 ブルーに気付いた新型機。すかさずスラスターを最大加速し、その場を離れる。

 空中を飛んでビルからビルへと連続移動する。


 半壊しかけのビルに身を潜める。

 彼女を探しているのか、新型の戦闘機が上空を旋回していた。


「新型の可変機まで」


 自分を追ったなら好都合だった。その分、脚の遅い狙撃部隊は距離を取ることができる。

 カナリーの機動力なら逃げ切ることも可能だろう。


 TAKABAとクルト社の部隊が迎撃に集まる。通常のシルエットでは対応できない程の高性能機なのだ。

 この二社のパイロットは選抜部隊とも言える精鋭揃い。


 ブルーや後方に下がった狙撃部隊も支援に入る。空は航空部隊に任せるしかない。

 ヘッドショットなどは効果は薄いが無駄ではない。センサー類の低下は敵の侵攻速度を遅らせることにはなるのだ。


「落ち着いて考えろ、ブルー。この状況下でどの攻撃目標に狙撃すれば効率がよい戦果を出せるか。考えろ」


 自分に言い聞かせるように――


 生身の人間の狙撃と違い、対シルエットでは即死させることができないことが狙撃機の不利な点だが、重要目標を効率的に破壊せしめることは変わりはない。このような乱戦状態では敵指揮官や哨戒機が目標となるだろう。

 だが指揮官機であろうコルバスや新型の特殊機は全身が装甲筋肉を何重にも覆われているフッケバインの同型機だ。狙撃で倒せる相手ではない。


 ならば――狙いはあれしかない。

 未知数の新型可変機を落とすことを決意するブルー。現在コルバスたちが降下するために警戒行動のため、大きく旋回しながら飛行している。


 新型の可変機群だが、一機だけ形状が違う機体がある。パイロンからミサイルも搭載せず、主砲らしきものを一つ積んでいるだけの、特異な機体。

 指揮官機とみたブルーは狙撃を行う。可変機なら一撃で落とせるはずだ。引き金トリガーを引く。


 弾頭は戦闘機の下部、胴体部位を貫く。だが、小さな爆発が起きたあと、大きな弾痕が残っただけだった。

 戦闘機はあり得ない急旋回を行う。メインジェットのほかに上昇用のスラスターノズルが並列に二発ついていたのだ。


 第二射も戦闘機正面の左胴体付近に直撃させるか有効打にはなっていない。


「なんて装甲の厚さ……! 装甲筋肉機並ね」


 焦りを覚えるブルー。戦闘機とは思えぬ装甲の厚さだ。

 かなりの距離はあるが、敵新型機はブルーに向かってくる。ブルーは迷わず回避するためビルから飛び降りる。 敵制圧地域となった現在地は潜伏場所は少ない。


 地上のシルエットサイズの路地を移動を開始。最小限のスラスター移動でビルからビルの間を駆け抜け、最後にビルの上へと移動し身を潜める。

 大きなビル付近の小さなビルの上に立つ。最前線から近くですぐに狙撃行動に移れるように、この場所を選んだのだ。


 ロックオンアラームが鳴り響く。

 

「どこ?!」


 敵を引き離せなかったことに驚愕する。念入りに巻いたはずであった。空中からは追えるはずがないルートを通ったつもりだった。

 念入りに周囲を警戒するが機影は見えない。


 カナリーの死角。背後から急上昇する垂直に上昇する戦闘機に気付くのが一瞬遅れる。機首の下に取り付けられた主砲はカナリーを捉えている。

 戦闘機が底面を見せ、目の前で変形を始める。

 胴体下のリフトエンジンとなるノズルが背面に。入れ替わるように機首の一部が胸部に降り、脚部装甲と化す。戦闘機の機首を胸部に備えた、異様な胸部だ。

 

 メインの推力偏向ベクタード・スラストノズルは背中中央にせりあがり、主翼は翼のように展開する。メインエンジンがそのまま大型ノズルとなり、補助の上昇用推力偏向ノズルはサブスラスターに変形する。三発もの推力偏向ノズルを備えていた。

 水平尾翼と垂直尾翼はそのまま脚部装甲として換装され、変形を終えた。


「背後に? 垂直離着VTOL機! 」


 兵装は主砲のみ。機首が降りるときにぶら下がるようになっていた主砲を手に取り、カナリーに向かって構える。

 カナリーが背後に振り返る動作を取る前に引き金を引いていた。

 

 数発の弾頭が撃ち込まれた。


「くっ」


 背面のスラスターを破壊される。MCSやリアクターはなんとか無事のようだ。


「何、あの武器……!」


 見たことがない武器だった。ライフル程度だが口径はさほど大きくはない。

 だが弾速はレールガンに近く、速射してくる異様な兵装だった。


 射撃が止んだ。理由は不明。すぐにこちらの止めを刺す気はないらしい。

 破損した機体で振り向き、敵機と相対する。


「はじめまして。フェアリーブルー。お目にかかれて幸栄だよ」


 敵が単独の通信で話し掛けてきた。


「ヴァーシャ!」


 ブルーも知っている。

 自らの意思でストーンズに付いたA級構築技士ヴァーシャ。


「こちらこそ、作戦の切り札であろう人物が姿を見せるなんて、ね」

「ふむ。私だけが管制権を奪取できるということはやはり周知済ということか」


 どうやら敵は会話をしたいらしい。

 ブルーには意外だった。敵兵との会話など興味なさそうな人物と思っていたからだ。


「さて。その機体、ラニウス系統とみるがどうかな。あなただけの専用機。アシアの騎士から拝領したとみるが?」


 背筋に戦慄が走る。カナリーは量産されていないが、そのことを知る者は僅かだ。それどころかラニウス系統などという情報は一切漏れていないはず。

 ヴァーシャは情報を集め、推測したのだ。つまり敵の狙いは敵の狙いは――


 コウ。EX級構築技士。


 ブルーの目前に、最大の敵が恐るべき目的をもって現れたのだった。

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