降下機兵のエアボーンによる都市制圧

 迫り来る三隻の空中空母。形状は以前確認しているものと同じだ。

 先行で二隻、後続に一隻。護衛の航空機や小型の輸送機も無数にいる。


 P336要塞エリアの防衛網もあらゆる火力を叩き込んでいる。

 山岳地帯に配置された対艦用レールガン。航空機のミサイルや弾道ミサイルは電磁バリア、そして対空装備に阻止されるのだ。

 対艦弾道ミサイルは一度弾道軌道に打ち上げることを考慮すると高速移動する空中空母に狙いを定めるのが難しい。

 アストライアやキモンから発射される超大型の高速滑空弾。ウィスのリアクター搭載をしている大型高性能ミサイルは、直接空中空母への打撃となる。

 

「もう少しで一隻は撃墜できる」


 バリーが焦燥感を隠せず呟いた。

 先頭の空中空母は火を吹き始めた。


「敵空中空母、搭載兵器投下します!」

「なんだと! 距離はまだあるだろ」

「あれはアラクネ型。そして例のホバー型アベレーション・シルエットです」

「アラクネ型があんなにあるのか!」


 金属水素生成炉を持つアラクネ型は相当なコストのはずであった。その数、二百機以上と表示される。

 一機ですらエポナと互角以上の力を持つ。


 ホバー型のアベレーション・シルエットは鹵獲したものと同種のタイプだ。

 それだけでも千機近く確認できる。


「二列目の空中空母からも部隊が降下。新型のシルエットが落下傘降下エアボーンを開始しています!」

「半壊した要塞エリアじゃ車両も封じられる。降下機兵のエアボーンによる都市制圧をやるつもりか」


 次々とパラシュート降下するアルゴフォースの新型シルエット。

 無数ともいえるその数は見る者を圧倒させる迫力があった。

 

「俺達も似たような戦術は取ったが桁が違うな。P336要塞エリアの残っている部隊を再編。……だめだ。数が足りない。要塞エリア内へ移動させろ」

「噴煙で無理です!」

「落ち着いてからでいい。向こうもすぐに突入できないはずだ」

「先頭の空中空母。転進を試みるも撃破しました。不時着する模様です。二隻目の空中空母も現在転進中。三隻目、さらに加速します!」

「三隻目が本命か。くそったれ! 三隻目に攻撃目標切り替え! P336要塞エリア、航空部隊は壊滅か?」

「ビッグボスの指示により、地下格納庫や掩体壕バンカーに退避させていますが、現在滑走路が使い物にならず復旧作業中です」

「そうだよな。すまなかった。まだ爆炎は収まらないか?」

「はい。P336要塞エリア内部はいまだ続く噴流で、兵器展開は厳しい状況です」

「シルエット部隊による市街地戦ということは、敵は温存していた精鋭部隊ウォーフェアエキスパートといったところか」


 今までの敵シルエットは住民階級であるペリオイコイと奴隷階級のヘロットが中心だった。今回は市民階級ラケダイモンを動員したのだろう。


「パラシュートの空挺機兵はどれぐらいだ?」

「およそ二千機と思われます」

「これまた思い切った数だ。三隻目の空母も同じぐらい搭載しているだろうな」


 そして最も緊迫した報告が上がる。


「バリー司令!」

「どうした!」

 

 オペレーターの尋常ではない高い声。


「緊急です! アシアとエメ提督が合体しました!」

「……え?」


 何をいっているかまったくもって理解できないバリーだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 


 五番機に乗り込んだ二人は、状況を確認するため各種データリンクを行う。


「現在の状況を確認。空中空母三隻中、一隻は撃破。二隻目も後退。だけど、搭乗兵器は展開済み。敵種別はおよそアラクネ型二百機に新型のアベレーション・シルエットが五百機、及びパラシュート降下の機兵が二千機」

「凄い数だな」

「これも囮かもしれない。本命の最後尾が加速。P336要塞上空を通過。低速度で旋回しながらエアボーンによる新型の機兵戦車やシルエットを展開している」

「都市圧作戦、か。厄介なことに機兵戦車まで投入するか」

「最後の空中空母の護衛らしき敵可変機アルラーとその改良型が千機ほど。空中空母からP336要塞エリア周辺に展開した機体も、まったく別の新型。そしてレイヴン部隊も確認された」

「アルゴフォースの精鋭部隊、か。これが奴らの本気……」


 レイヴンの性能は強化されたラニウスC型に匹敵するはずだ。むしろそこまで強化してようやく追いついたというべきだろう。それほどに運動性能の差があるのだ。

 加速や飛行能力などを考慮すると総合性能では今やラニウスC型に分があるともいえる。


『P336要塞エリア、防衛部隊へ。私はアシアのエメ。私はアシアの巫女として、今降神……いや合体しています。防衛部隊の指揮を執ります』


 エメはP336要塞エリアに通達する。言い直したのはアシアは神ではなくAIだからだ。この惑星の住人の多くがアシアを女神と認識しているなか、アシア本人としては気が引けるということだろう。

 各地でざわめきが起きた。


『現在地下設備網を使って部隊を再編中。崩壊した地上での戦闘活動は大幅に制限を受け、不整地踏破力が重要です。今は装輪装甲車での走行が難しい地形が増えています。間接支援車両へ換装を。私から直接データ交信をします』


 五番機の背後端末を通じ、次々と処理していくアシアのエメ。

 瓦礫の山と化した市街地で求められる能力は超壕能力や超堤能力などの不整地踏破能力だ。そこはやはり履帯に軍配が上がる。


『……ハーフトラックなら? みなの半装軌装甲車好きが幸いしています。戦車部隊とハーフトラック部隊を編成します。市街地戦ではやはりシルエットが重要になる』


 戦闘用シルエットの数を確認する。


『シルエット部隊はメタルアイリスとユリシーズ、傭兵部隊をあわせて三千強。クアトロ・ワーカーも追加武装を施して出撃してくれるから数は用意できる。通常のシルエットワーカーは補給作業に専念を』


 作業機に追加武装を施したところで、やはり戦闘能力は限られる。

 精鋭部隊相手に厳しい戦いとなるのは目に見えていた。


『それでは各部隊個別に指示を送ります。みなで守りましょう』


 エメは守備隊にそう声をかけ、全体通信を遮断する。各部隊の状況をみながら細かく指示をだしている。

 文章での緊急通信が入り、確認する。


「シルエット・ベースの地下工廠、アストライアの端末より通信。地下鉄網の一部開放認可要求を求められている。全体通信中だったから文章できている」

「構わない。Aカーバンクルを使った列車は使えないだろ?」

「うん。軌陸車かな? 予備戦力の臨時派遣、登録されているファミリアも確認。兵器群は後ほどデータを送るって」

「今までは予想外の隠し戦力に助けられていたが、今はこれが最大限だろうな」

「実は私もこっそり用意していたの。ブーンを千機ほど」

「え?」

「兵器生産ラインじゃなく生活物資ラインで量産できるの、あれ。噴煙が収まったら展開する予定。滑走路も短くていいしね。プロペラだし!」

「さすが水と木で出来た機体だな…… ありがとう、アシア」

「ふふ」


 今は行方不明のアベルが造った航空機ブーン。樹脂であるナノセルロースとほぼ水が成分のアクアマテリアルで出来ていた、電磁装甲完備のプロペラ機。

 拠点防衛用としてアシアがこっそり量産していたのだ。


「エメちゃん! なんか凄い事になってるな! アシアのエメちゃんと呼んだほうがいいか?」

「驚いたわ! どういうことよ!」


 バリーとジェニーが同時に通信を求めてきた。


「ひょんなことから色々あって。今の私はエメでもアシアでも自分と認識するから大丈夫だよ」

「どんなひょんなんだよ……」

「わかった! コウ君を想う気持ちが結びついて二人を一人にしたのね」

「なんでわかったの? ジェニーの言う通りだよ」

「こんなときに何を言っているんだ!」

「こんなときに合体しないでくれ」


 コウの抗議とぼやくバリーに思わず笑うジェニーとアシアのエメだった。


「こちらは今可変機部隊を集めている。タキシネタ隊とプレイアデス隊、そして二式飛行艇で出来るだけの機体は送る。なんとか持ちこたえて」

「R001要塞エリアからは零式部隊も向かっている。工業地帯の生産ラインを零式にして大量生産していたのが幸いしたところだ。零式部隊だけでも三百機。頼むコウ」

「わかった。頼んだ二人とも」


 アキの睨んだ通り、零式に惚れ込んだコウが御統重工業に依頼し、五行重工業からライセンス生産を行っていたのだ。ベテランパイロット用として安価に供給している。

 二人と通信を切り、後部座席にいるアシアのエメに話しかける。


「エメ。防衛隊の準備は?」

「即応の再編部隊は指示を終えた。守りたいね」

 

 部隊の管理を終えたエメはコウに報告を行う。


「ああ。守り通そう」


 このとき、通信が入った。


「こちらクルト社のミュラー。バズヴ・カタ部隊は全機出撃できます。ビッグボスにアシアのエメ」

「ミュラーさん! 避難しなかったんですか」


 コウが驚く。構築技士全員に対し避難命令を出したはずだった。


「コウさん。私たちがもしここを引いてしまうと、三度目です。住処を三度追われることになるのです。これは誰のためでもない。我々の戦いなんです」

「そうですねミュラー。これは我々の戦い。コウ君。もう少し待ってください。こちらも今、P336要塞エリアに向かっています」

「クルトさん!」


 そして予想外の人物が通信に現れる。


「会社がある住処を追われた気持ちってのは痛いほどわかるぜ。二人とも。そこの五番機だってな!」


 兵衛だ。その顔は悲痛だ。五年前のことを思い出したのだろう。


「TAKABAの選抜隊、参戦します。そうですよ。あの時は本当に辛かった。それを三度もクルトさんたちに味わせるわけにはいきません」

「あのTAKABAが落ちた日を知っている私たちもまた、この場所を守りたいのです」


 川影と結月も加わる。二人もまた、その場所にいたのだ。

TAKABAの部隊も避難しなかったのだ。

 

「ありがとうございます!」

「気にするな。ミュラーさんたちも言っているが、これは俺達の戦いでもあるんだ。あとは何機斬れるやらなあ」

「会長。楽しそうにいわないでください」

「おっとすまん」


 結月が釘を刺される兵衛に苦笑するコウ。


「兵衛さんとクルトさんにお願いがあります。それは――」


 コウはAカーバンクルを引き抜く方法以外に、A級構築技士による最深部制御室の開放権限について話した。

 元々P336要塞エリアは敵の支配下だった。地下構造も把握されているだろう。


「わかった。コウ。おめえは最深部に待機してろ。すぐ近くだろ? 今から守り通せ。どんな手段で潜り込むか想像もつかねえからな」

「いや、それなら兵衛さんが!」

「てめえがアシアを守るんだよ。だいたいお前さんのすぐその後ろにいるだろうが。背後に守るもん、たくさん背負ってるのを忘れるな」


 アシアを守る。最深部を守る。それは一緒のことだ。言われて気付く。

 彼の背後にはたくさんの者がいる。最深部を守りきること。今彼にしか出来ない最優先事項だろう。


「コウ君を信じていますよ。ただ、万が一の場合は私とヒョウエが権限を奪い返します。これで少しは気が楽になりましたか?」


 クルトが笑いながら言う。


「おう。さすがクルトさんだ。いいこというねえ!」

「わかりました。地上はTAKABAとクルトさんたちに任せます!」

「おう。任された! いくぞ、川影。千葉」

「はい!」


 噴煙が止む時が開戦の合図。

 惑星アシア最大の市街地戦が始まろうとしていた。

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