対ネメシスプログラム(2022/01/16加筆)

 P336要塞エリアに警報が響き渡る。


 コウは要塞エリアのコントロールタワーに急行した。

 急ぎ地下格納庫に五番機を置き、管制室に向かう。管制室そのものは地下にあるのだ。


 管制室にはエメとにゃん汰、ブルーが待機している。


「状況は?」

「メガレウスが動いたみたい」


 画面にメガレウスが映し出される。

 地上を這いずるように前進するメガレウス。


「ブリコラージュ・アカデミーの全人員、及び一般住人全てをシルエットベースに退避させるように指示した。路線用Aカーバンクルも同様に停止、回収。線路は使えないようにしたよ」

「ありがとうエメ。その判断でいい」


 P336要塞エリアとシルエットベースは地下鉄道網で繋がっている。

 搬送後、偽装工作を行い線路を遮断する。線路を辿られてシルエットベースへの侵入経路となることを防ぐためだ。


『コウ。メガレウスは約600キロ地点到着。射程内に入った』


 アシアが画面に映り警告する。


『砲撃を確認。十分後に着弾』

「どれぐらい耐えられる?」

『相手は宇宙戦艦の主砲だからね。ネメシスの流星雨に耐えうるシェルターでも、定点攻撃を側面に受け続けたら破壊される怖れもある』

「防ぎきれると?」

『想定外が起きなければね。砲撃で破壊されるようなら惑星間戦争時代でとっくに破壊されているよ。ただ、ずっとは無理』

「砲撃だけで終わるはずがない。仕掛けてくるはずだ。別の奇襲があると思う。最大限の警戒をしてくれ」

『わかった。対ネメシスプログラムを発動する』


 対ネメシスプログラム。

 赤色矮星ネメシスから降り注ぐ隕石雨に対抗するための措置だ。


 ネメシス星系を地球と似た環境に作り替えたソピアーといえど、ネメシスを取り巻く無数の隕石群までは対処できなかった。

 改造された三惑星の居住区には念入りな隕石対策がされている。その最たるものが居住区を覆うAカーバンクルを利用した高次元投射材のシェルターであり、同様の処理を施した建築物なのだ。

 万が一貫通したとしても、よほどのことがない限り破壊はされない。


 だが、ネメシスの流星雨は人類に容赦なかった。

 そこで各居住施設に必ず地下施設を作ることにしてあるのだ。小規模な防衛ドームでも地下だけでも数十年は生活できるレベルのものが備わっている。


 要塞エリアや防衛ドームのシェルターが破壊された時に備え、住人を無条件に地下へ誘導、保護する。

 ファミリアたちが最寄りの住人を片っ端から地下へ匿う。


「バリー。そっちはどうだ」


 バリーが通信に出た。


「こちらもアストライアも攻勢に出てきている。何か仕掛けてくるのは間違いない」

「俺達がアリステイデスでやったように、メガレウスで突進は?」

「数時間防衛部隊が持たせてくれたらメガレウスをアストライアと背後からR001のキモンで挟撃できる。俺ならやらないな」

「そうか。わかった。俺はそのままP336要塞エリアの防衛に回る」

「そうしてくれ」


  さらなる警報が響く。


「今度はなんだ?」

『巨大飛行体接近中。宇宙戦艦ではなくアルゴフォースが作った空中空母。Aカーバンクル採用型よ』

「メガレウスの前進は囮か? 迎撃開始!」


 コウは即座に命じた。山脈各地に隠されている対宇宙艦用迎撃ミサイルや大型レールガンが敵空中空母に発射される。

 メガレウスを警戒していたため、後方から高速で飛来する空中空母の対応が遅れたのだ。


『後続部隊の空中空母も数隻確認。先頭の艦を犠牲にするつもりかしら? 先頭の空母だけ形状が違う』


 映し出された先頭の空中空母は、全高がなく、全長が異様に大きい。細長い筒のような艦だった。


「異様に細長い形状だな。アストライア。解析できる余裕はあるか?」

『全長600メートル級ですね。ただシルエット基準で考えれば全高がありません。一層か二層式の格納庫と思われます。一種の装甲空母でしょう』

「矢のように要塞エリアのシェルターに突き刺すつもりか?」


 空中空母はメタルアイリス軍による遠距離攻撃の集中砲火を受けている。


「被弾覚悟で特攻?」

「集中砲火に耐えている。宇宙艦の装甲材は再現不可能とはいえ、相当な厚さの装甲を有しているにゃ」


 エメがその光景に疑問を抱く。にゃん汰はその強固な装甲に驚きを覚えていた。


「強襲揚陸艦ではないな…… 輸送艦か? あの形状はバウバイザー型。あの空母でシェルターに突っ込んで、攻撃してくるということか」


 船体の前面に搬入ランプウェイを備えた輸送艦がバウバイザー型と呼ばれる。構造上、事故が起きやすく多くの船では後方ハッチ型のウェルドックが主流となっている。 

 突進するならば、アリステイデスのようなバルバス・バウ型のほうがいいはずだ。前面に開閉式のギミックを設けるのは大きく強度を損なう。


「シェルター内の迎撃部隊はすでに待機してある」

「到着までに迎撃は無理か」

「信じられない。あのサイズの軍艦を…… しかもAカーバンクルを使った兵器を使い捨て?」


 ブルーが首を振りながら、その存在を否定する。


『装甲が相当厚いね。内部の積載を犠牲にしているはずよ。本当に使い捨てるつもりできている』

「あれだけの装甲。中の戦力はたいして搭載できないはず。後続が本命? 孔をあけるだけなら、空母にする必要はないのに」


 ブルーもその空中空母に疑問を抱く。違和感が絶えないのだ。


 迫り来る空中空母。大型ミサイルは電磁バリアによって誘爆を引き起こされている。

 レールガンが被弾し、装甲に孔が開いていくが、致命傷には遠い。


『到着までに破壊できない。シェルターと衝突まで残りわずか』


 迎撃兵器たちが奮闘するなか、敵空中空母は高度を落としながらも突き進む。撃破することができなかった。

 P336要塞エリア全体を揺るがす衝撃とともに、空中空母はシェルターに突き刺さるように突入した。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 ほぼ水平に突き刺さった空中空母からバウバイザーが開く。

 変わった開き方だった。四方が開き、ランプウェイを形成する。


 中から意思を奪われた住民階級であるペリオイコイ用装甲重視型シルエット、アルマジロ部隊と現れた。電磁装甲などはない、単に装甲が厚いだけの機体で単体での戦闘力は低い。

 武器は斧で射撃武器を持っていない。

 防衛に出ようとしたファミリアたちが躊躇する。なかで燃料タンクが被弾したのか、どの機体も金属水素まみれだ。誘爆を引き起こしかねない。


「見てコウ。艦体から金属水素が漏れ出している。精製炉の暴走かな?」


 にゃん汰も気付いた。敵空中空母の装甲から水のように金属水素が漏れ出す。


「誘爆しなかったみたいね。武器が斧なのもそれで?」

「それはおかしい。金属水素が漏れ出す前提の設計なんて。衝突の影響で金属水素貯蔵庫があふれ出した?」


 ブルーの疑問ににゃん汰が即座に否定する。


「あの形状には違和感しかない。何故艦体に近い大きさのバウバイザーが必要なんだ。内部は三十メートル以上あるのに。そこまで巨大な兵器を搭載するためとは思えない。それにしては艦艇規模が小さいんだ」


 コウは何か引っかかるものを感じた。形状に疑問を抱くが、答えがすぐに見つからない。


「楽器みたい」


 エメも感想もぽつりと言う。 


「楽器……? アストライア! あれは空母なのか?」


 何か気付いたコウが叫んだ。楽器に似たロケットランチャーがかつて存在したことを思い出した。


『違います。あれは――』

「アシア! 要塞エリアのシェルター、全ハッチを開放しろ!」


 アストライアが言い終える前に全てを察したコウが続けざまに指示を出す。

 アルマジロたちはバウバウザーから落下するかの如く出撃していくが、後続が出撃しようとした矢先内部隔壁が降りた。


『分かった!』

「各人員に告ぐ! 急いであの空母からできるだけ離れろ! 地下だ! 無理なら遮蔽物に隠れて! 前線の者もすぐに地下へ!」


 コウの指示を聞いたファミリアたちの車両部隊が全速力で後退する。

 バウバイザーからのろのろとアルマジロが出撃していく。


「コウ?」

「あれは空中空母なんかじゃない。あの艦体は砲身、バウバイザーは砲口だ!」

『もう時間が無い。対閃光防御準備完了。衝撃に備えて』


 アシアが警告する。

 バウバイザーに見えたものは、紛れもなく砲口であった。

 格納庫と思しきものは砲塔。垣間見えた物体は巨大な弾頭。シルエットごと、金属水素のプールのなかに沈んだ。


 巨大な艦体が震える――


 直径三十メートルの砲弾はP336要塞エリアの中心部に向けて放たれた。

 艦体は巨大なレールガンでもあったのだ。ワイヤーは動力であるAカーバンクルの機関部ユニットに直結されている。

 この巨大砲が突き刺さった角度には狂いがあったのだろう。ビル街の地面に向けて放たれた。

 着弾したその瞬間、大地を揺るがす大爆発が全員を襲った。


 ――爆心地グラウンド・ゼロには灰さえも残さず。文字通りの焦土が広がっていく。高温に触れた物体はただ融けゆくのみ。

 直視できぬほどの閃光。ほんの少し間をおいて襲いかかる衝撃波。ありえない規模の爆轟波。

 音速を超える衝撃がP336要塞エリアの中に一瞬で広がる。


 続く爆音と高熱。炎の噴流は天高く舞い上がる。天蓋のハッチ上空に天を貫く火炎柱が舞い上がる。左右の開かれたハッチからも炎の波が血走りとなって吹き出ていた。

 野外の防衛隊や、上空を警戒している航空機が爆風によってまとめて吹き飛ぶ。


 着弾地点には巨大なクレーターが発生し、その周囲は一瞬にして蒸発。

 爆風の圧力によって、周囲のものはありえない方向に曲がり、押し潰されていた。


 吹き飛ばされた車両やシルエットはましなレベルといえた。

 高温状態で爆心地周囲の建造物が急速に溶解していく。Aカーバンクルでは全ての建物は強度な高次元投射材のはずだが、嘲笑うかのような破壊力だった。


「なんだこれは……」


 コウが思わず片膝をつく。転倒しそうなエメを支える。にゃん汰とブルーは手をつく程度で済んだ。

 地響きはすぐに収まらない。


『人工太陽を撃ち込まれたようなもの。被害状況を確認。敵兵器の解析中』


 アシアは最善を尽くすべく、敵の正体を解析することに努めた。

 バウバイザーと思われた部位から凶暴ともいえる熱量の放射が続く。

 アルマジロたちは溶けていったものもあれば、砲弾のように吹き飛んでいくものもいた。


『都市区画十分の一を消失。六分の一が大規模な損壊。死傷者数不明。地下にも甚大な被害がでている』


 密集したビル群が倒壊していき、瓦礫となった。

 Aカーバンクルを用いた高次元化処理を施された建築物は隕石雨からも耐えうる。決して壊れるはずのない市街地が破壊されたのだ。


『概算死者およそ八千人。一区画を吹き飛ばされたから被害も甚大。なんてこと――』


 アシアがその被害規模に苦悩する。彼女が庇護すべき人間たちはたった一発の爆発で吹き飛んだのだ。


「爆風で吹き飛ばされた二次被害も甚大。負傷者は数万単位。着弾地点付近は融解している。塵一つ残さずに。それほどのもの。私がAIでなければ、狂っていたかもしれない」


 要塞エリア内に煙と火炎がいまだに続く。

 着弾地点の死体は目視すら不可能だった。ただ黒煙と巻き起こる炎の灼熱地獄。遅れて鳴り響く爆音のみ。

 その光景を見た者は、一人残らず言葉を失う。


「あんなものを作るとは…… 砲撃卿、アルベルトの仕業か!」

「彼ならありえる」


 コウの呟きにクルトは通信で肯定する。クルトの知人でもあるアルベルトなら、これぐらいやりかねない。 


 煙はシェルターの天蓋ハッチに集まり、火炎柱に代わり巨大なきのこ雲――対流雲が噴き上がる。

 サイドのハッチからも黒煙が吹き出ている。


『分析完了。金属水素を使った通常爆薬でおよそ十万トン。威力は推定5メガトン以上』

「通常爆薬ですって。あれが?」


 ブルーは絶句する。これほどまでの破壊力で通常爆薬など、あり得ない。


『コウの時代にあった原子力空母をそのまま砲弾にした様な代物よ』

「なんでビルに孔が? 散弾のように何かを撒き散らした?」


 倒壊したビルには何かを受けたような破壊痕が残されていた。


『シルエットやハンガーキャリアーを爆薬にそのまま混ぜたの。格納庫が弾頭そのものだから。爆弾に金属片を入れて威力を高めるように、奴隷階級であるヘロットが搭乗していたシルエットを散弾のように撒き散らした。Aスピネルの高次元投射装甲を持つシルエットをあの筒に詰めたの』

「八メートルサイズの散弾なんて!」

「ウィスの通ったシルエットを弾代わりか! わかっていたが、人間なんてどうでもいいんだな。奴ら」


 シルエットを散弾のように撒き散らすなどという発想など、誰が想定できるというのか。


『ストーンズにとってヒトの価値は路傍の石同然なの』


 アシアは哀しそうに告げる。

『対ネメシスプログラムを発動させておいてなお、これだけの被害は過去に例がない。シェルター内の地表は現在生身では行動不可能。高温状態かつ、即座に酸欠で倒れることになる』

「あれはアリなのか?」


 核分裂、核融合などの核反応兵器は禁止されている。もし使用を試みるだけでも、最悪オケアノスに存在そのものを消されるのだ。


『効率の悪さは尋常ではないわ。性能の良い爆薬を積み込んだだけの空母型ロケットランチャーか火炎放射器みたいなもの』

「くそ……」

『コウの警告でシェルターのハッチを全開放し、対ネメシスプログラムを発動させたおかげで、これでも被害は最小限。それでこの威力なの』


 地上にいた人間は爆風による衝撃波、そして酸欠によって即死していただろう。現に逃げ遅れた車両は衝撃波で壊滅状態だった。物陰に隠れようが圧力は容赦がない。 


「アシア。砲身がまだ火を噴いている」

 エメが画像をみて指摘する。

 恐るべきことに巨大な砲身はいまだに火を噴いていた。


『空中空母に備えられたAカーバンクルの機関部、大型の金属水素生成炉は生きています。酸素剤のほかに後部から外気を取り込んで大量の金属水素を燃焼させ巨大なバーナー代わりに。密閉された要塞エリアそのものを炉のようにするつもりだったのでしょう。シェルターのハッチ全解放は正しい判断です』


 アストライアが解析を報告する。


「要塞エリアそのものをできの悪い焼却炉にするわけか」


 コウが怒りのあまり吐き捨てる。


『いくらAカーバンクルで強化されていたとしても、地上の建物は高温で脆くなる。あの砲身もそうもたないはず。しばらくすれば爆発すると思うわ。それが第二波の攻撃』

「空母サイズの有線ロケット弾に巨大バーナー、最後は空母爆弾……」


 エメが呆然と呟く。ブルーが地上の様子を確認し報告する。


「地上部ではしばらく生身での行動は無理」


 そのためのシルエットではあるのだ。極限環境で行動するために生まれた搭乗型人型機械。戦場では電磁バリアや無酸素状態での行動を可能にするために、歩兵代わりにシルエットは使われてきた。


「あのバウバイザーに似せた砲口が嫌らしいな。爆燃の指向性を持たせている」

『P336要塞エリアを本気で燃やし尽くされるところだった。空母爆弾の第二波も警戒。もうそのまま爆発させたほうがいい』


 アシアは何かに気付いたようだ。すぐに映像を切り替える。


『敵後続の空中空母もきたわ。数は三隻。ハッチを開かなければ焼却炉。開いたら侵入経路を自ら作り出すようなもの。強制選択を強いられるとは…… でも今閉じたら熱を逃すこともできない。シルエットベースへの退却も必要かもしれない』


 コウは首を振った。


「アシアが俺達のために作ってくれた要塞エリアを守りたい」

『その気持ちは嬉しい。でも…… 持ちこたえられるかどうか』


 被害が深刻だ。アシアとしては、コウたちの生命を優先したかった。


「奴らが都市を制圧する手段はAカーバンクルを抜くしかないのか? 地下の封印区画化は済んでいると聞いている」

『うん。地下の最重要施設は構築技士しか入れないし、私のデータも即座に軌道エレベーターや地下工廠に移せるようにしてある。けど……』

「けど?」

『私を解放したときと似たような手段がある。地下の最深部制御室でコントロール権を奪取できるわ。それはA級以上の構築技士しかできない』

「つまり…… ヴァーシャなら可能か」

『そういうことね。彼が来るかも知れない。地下は敵味方とも構築技士しか入れないよ』

「来るだろうな。ここまでやるなら」


 コウは確信していた。


「空中空母は攻撃指示を出している。頼む、もたせてくれ」

「こちらアストライア代理指揮フユキ。同様です。今ここを引くと渡河した敵の地上部隊までP336要塞エリアに雪崩れ込みます」


 バリーとフユキからの連絡も入る。二人ともP336要塞エリアの惨状に焦燥感に駆られているが、現状としては下手に動けない。


 両艦ともメガレウスがあるため高度がある飛行はできない上、敵地上部隊の猛攻を凌いでいる。

 どちらかの艦が引いた時点で挟撃され、防衛線は崩壊するだろう。

 かといって本拠地であるP336要塞エリアが落ちたらひとたまりもない。


『――総員、緊急避難継続! 第二波くる! 空母が爆発するわ! 衝撃に備えて!』


 アシアが空母の爆発の兆候を捉えた。


『何をするのあなたたち? 無茶よ。やめなさい!』


 アシアが何かに気付き、声を荒げる。

 どこからか黒点のようなものが、空中空母に突入していく。その黒点は一つ、また一つ増えていく。


 アシアのみ、その光景をつぶさに捉えていた。黒点にみえたもの。それは戦闘機の表面が熱によって黒色化し、なお耐えて飛行していたのだ。


『空母砲身、崩壊――』


 空中空母が自ら吐き出す熱に耐えきれず、爆発した。

 空母の艦体に亀裂が入り、内部からの爆発に耐えきれず空母の艦首、船尾両方から爆炎が漏れ出す。


 閃光ととともに爆轟がP336要塞エリアに広がり、地響きとともに天体衝突にさえ耐える強固なシェルターが砕け散るのであった。もはやP336要塞エリアを守る一角は崩壊した。


「今、何が起きた?」

『P336要塞内に向けられた爆轟が、蓋されて方向がずれたの。ぎりぎりのところで助かった』

「ちょっと待って。それは――」

『コウ。解明は後回しに。彼らへの感謝があれば十分』


 何が起きたか察しがついたコウと、制止するアシア。コウに思考する時間を与えない。

 犠牲は尊く、大きすぎた。眼前で起きた光景は人間では精神がもたない。はっきりと彼らの最後が見えないことは幸いだったと思うアシアだった。


 蓋をされた空母爆弾の爆発は、P336要塞エリアに向けられていた。しかし砲口咆哮ともいうべきバウバイザーは彼らによって蓋をされ、爆発は砲身内部に留まり、直撃は避けられた。


 ――奇跡を可能にしたものはスピリットリンク。アシアは口に出さなかったが、深い感謝を彼らに捧げた。

 シェルターはもはや孔ではなく、一画が天頂部分まで崩壊する。噴煙が収まれば惑星アシアの空が見えるだろう。


「――わかったよ。今は防衛しないと」


 コウはアシアに告げる。とにかく今は凌ぐことが大事なのだ。


「にゃん汰。私たちは先にいくわよ」

「おっけーにゃ」


 ブルーとにゃん汰は管制室を出た。

 コウとエメ。そしてアシアがその場に残された。

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