大誘爆
敵シルエットに集団をくぐり抜け、護衛の戦車隊と戦っている五番機。
支援のため、ラニウス隊や戦車隊も肉薄するも、なかなか近づけない。
一進一退するライン戦のなか、無謀にも飛び出した半装軌装甲車ラーチャーがいた。
砂塵を巻き上げ、被弾上等で敵シルエット隊を抜け、五番機のもとに到着する。
「ボス! にゃん汰さんから預かってますよ!」
先ほどのウサギのチンチラ型ファミリアからだ。
武装は90ミリ砲を搭載している。
「ありがとう!」
その90ミリ砲を砲塔から引き抜くとランチャー装備のAK2となる。 五番機が引き抜くと同時に走り出す半装軌装甲車ラーチャー。
このラーチャーもまた、アナライズ・アームズだったのだ。
AK2を右手に、太刀を左手に五番機は空を飛ぶ。
阻止しようと戦車砲や対空射撃を行おうとするが、最大加速に照準が追いつけないのだ。
飛翔した先は陸上戦艦のシルエット用スロープだ。慌てた敵シルエット部隊が襲いかかる。
「あれでは武器も使えまい。一気に押し出せ!」
手斧や剣で一機ずつ襲いかかる。
「8ビットのゲームじゃあるまいし!」
ぼやくコウ。対処が雑すぎて呆れたのだ。閉所ほど五番機の独壇場。手すりのない狭い階段で戦うようなものだ。
最初の一機を掴んで叩き落とす。ツインリアクターと装甲筋肉装備の五番機にパワーで勝てる機体など少ないのだ。
接近戦に手慣れていると思われる手斧で襲いかかってくるシルエットは、そのまま抜刀し柄でぶん殴る。
体勢を崩したところで上段から斬り下ろす。居合いの基本だ。
後ろにいた武器を構えようとする敵を切り上げて倒す。迫り来る敵をなぎ倒し、叩き落とすだけの作業だ。
外周にいる護衛のシルエットやシルエットは手が出せない。自軍の陸上戦艦を攻撃することになるからだ。
五番機を迎撃するために、次々とシルエット用ハッチから整備が終わった機体がでてくる。
五番機が突如スロープを飛び降りる。
姿を見失う陸上戦艦のシルエットたち。
シルエット用ハッチの頭上から姿を現す五番機。出撃しようとするシルエットを蹴り倒しそのまま中に飛び込んだ。
五番機を迎撃するため、次から次へと出撃していたハッチだ。閉じる暇などなかった。
「ボスが敵陸上戦艦内部に潜入しました!」
「な、何してるのコウ……」
報告を受けたエメが思わず額を抑える。
「敵シルエット、戦艦内に潜入しました! 例の化け物です! ハッチを封鎖して閉じ込めますか?」
「ばかもの! 倒せるもなら外で倒せるだろ! 早く追い出せー!」
今度は正真正銘の悲鳴をあげる敵指揮官だった。
閉じ込めたところで内部から食い殺される未来しか見えなかったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
入り口付近にいた三機のシルエットは何も出来ずに斬り倒された。
狭い艦内で金属の切断音が響き渡る。
「内部構造は予想通りだな」
コウも艦船は構築している。想像していたイメージと似ているので安心した。
構築技士はにあるものを構築するだけ。斬新な設計などあるわけがない。
あちこちのハッチが一斉に開く。いつでも逃げ出せるようだ。
「早く出て行けってか」
思わず苦笑した。
艦内のワーカーシルエットは戦意がないようだ。隅っこで大人しくしている。
人間の作業者も避難している。
格納庫には整備中のシルエットがあちこちに点在されていた。
襲いかかる様子はない。ラニウスの目的を探っているようだった。
コウの目的地は決まっている。
火花を散らしながら五番機は奥へ進む。整備が終わったばかりであろうシルエットが二機ほど妨害してきたが切り捨てた。
目的の場所へ到着した。そう奥ではなかった。
「やっぱりあるよな。補給用金属水素貯蔵庫がさ」
大量の進軍を維持するために、常に補給がいる。
だが最前線への補給ラインを確保するのは至難だ。
陸上戦艦などという代物があれば、前線の大量の陸戦部隊のための整備、維持するための施設を用意するのは当然だろう。
金属水素生成炉と、その貯蔵庫だ。シルエットサイズならリミッターがついているが補給し、他の兵器に注入しなければいけない補給の貯蔵庫には大量の金属水素が蓄えられている。
コウが目星をつけていたのは、この部分だ。一番装甲が厚い部分であり、外部からの攻撃で破壊することは難しい。
だが内部なら?
自明の理だ。補給用の弁を最大解放すると、一斉に光沢のある黒い金属水素が流れ出す。精製炉はあえて破壊しない。
金属水素の生成を止めようとした作業用ワーカーがいたので斬り倒す。多分指揮を取っている操縦室では五番機の意図が読めないので生成停止の指示は出していないだろう。
すかさず武器を持ち替え、AK2を構える。五番機はスラスターを噴射する。それと同時にランチャーで榴弾を発射した。踵を返し、最大加速で脱出する。
金属水素のエネルギーはTNT火薬の約五十倍の威力。溢れ出る金属水素に着弾する榴弾。
陸上戦艦の金属水素貯蔵庫は盛大に爆発した。そしてあちこちの金属水素を使った兵器やさらには原料となる液体水素、軽ガス類に引火し誘爆していく。
なまじ装甲が厚い事が災いした。爆燃は拡散されず、通常の威力より数倍にまでなった。
「大連鎖か」
ふと場違いにも懐かしくなる。次々と連鎖して誘爆する格納庫内に、昔遊んだゲームを思い出した。
凄まじい爆発を背に五番機が離脱した。
たった一機で内部から陸上戦艦を破壊したのだ。
爆炎を背に歩き出す機影。
その光景をみたアルゴフォースのパイロットたちは、恐怖した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
各部隊から歓声が上がる。
「こちらコウ。敵陸上戦艦の補給機能を破壊した」
「戦艦半壊してるね」
「海なら沈んでるにゃ」
エメがぽつりと呟き、にゃん汰が同意する。
主砲は破壊され、内部から格納庫を吹き飛ばされた陸上戦艦。誘爆に巻き込まれ多数のシルエットも吹き飛んでいる。
航行能力はかろうじてあるが、戦力的には大幅に戦闘能力は低下していた。
「無茶しないでくださいね? コウ! 見ているこっちはヒヤヒヤものでしたよ!」
呆れたアキが応答する。
「さすがだぜビッグボス。派手だなあ」
「ハイノが言わない!」
感心するハイノとすかさずツッコミをいれるブルー。
「おいみろ! 陸上戦艦が転進したぞ。撤退するみたいだ」
「戦力はこちらが少ない。深追いはするなよ、みんな」
コウの指示に全員頷く。それでも撤退する敵に猛攻を仕掛ける。かなりの敵機を撃破できた。
「コウ。見事だった。ご苦労だった」
バリーからも通信が入る。
「みんなのサポートがあってこそ、だ。一番礼をいうべきは俺に艦船のブリコラージュをさせたアストライアだろうな」
「そうであっても、だ。お前はずっと連戦しすぎだ。一度P336要塞エリアに戻れ」
「とはいっても……」
「クルトさんたちも心配しているんだ。交代したいらしいぞ」
「あの人なら安心です。私からもお願いします」
エメも通信でコウに交代するようにいってくる。
「五番機は何回か追加装甲変えてるニャ。一度ヴォイにオーバーホールしてもらうにゃ」
「そうですね」
にゃん汰とアキも同意見のようだ。
「わかった。一度戻る。エメ。にゃん汰。アキ。お前達も休めよ。バリー、そちらは?」
「こちらも苦戦中さ。だが問題は海だな。スフェーン大陸から大量に敵艦隊がやってきている」
「海、か……」
さすがに海までは援護にはいけない。コウは艦隊を守っているユリシーズたちを信じるしかなかった。
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