精密射撃

「く。間接砲撃が激しくなってきやがった」

「航空支援が欲しいところだがな」


 戦車隊は奮闘しているが、敵の数は多い。

 アルマジロを中心にした敵シルエットは両肩に榴弾砲を装備した間接攻撃に徹したものも多い。


「いるだろうがっ! 俺達がよぅ!」


 上空を覆う影。

 ファミリアのなかでも屈指の戦闘狂の集団、大砲鳥カノーネンフォーゲル部隊だった。


「お前ら! 何故待てなかった!」


 ヤスユキが叫ぶ。鈍足攻撃機など戦闘機の獲物に過ぎない。


「そこに戦車がいるからさぁ! さあやるぜ! みんな行くぜ!」

「おう!」


 相変わらずのハイノだった。

 戦闘機が苦手な低空を維持し、大砲鳥たちが航空支援を開始する。


 だが言っている傍から一機撃墜されている。やはり相当危険を冒しているのだ。


「コウ。私も支援するわ。さっさとあれを倒しましょ」


 ブルーからも通信が入る。修理されたカナリーからだ。機兵戦車に乗って駆けつけたのだ。

 そして大量の半装軌装甲車。高速打撃部隊だ。戦車よりもはるかに早く戦場に到着することができる。


「ああ!」

「そしてね。私は護ってくれないのかしら?」


 少し拗ねたように尋ねるブルー。除け者にされた気分だった。


「今ここでいうか。――ブルーも護る。そして背中は預けた。援護を頼む!」

「よろしい! いきましょう」


 その答えに満足したブルーは珍しく微笑んだ。パートナーとして背中を預かるのは誇りに思う。


 通信を傍受していたエメは帽子を目深く被り直す。誰にも見られることがないように。

 そして悔しそうに唇をそっと噛みしめた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「硬いな、おい。打つ手なしか」


 ハイノがぼやく。陸上戦艦は装甲がかなり厚い。

 電磁装甲を何重にもまとっているようだった。155ミリレールガンでは有効打は難しい。


「ちぃ!」


 手こずっていると敵に補足される。僚機も数機すでに撃墜されている。


 ハイノが駆る大砲鳥は低速度の旋回性能は高いが加速能力も低く最高速度も出せない。

 敵戦闘機が上空から獲物を見つけたとばかり対空ミサイルを放ってくる。

 

 電磁バリアで叩き落とすが、数発は直撃する。被弾しても電磁装甲によって継戦能力は高い。

 再度の攻撃に備えていると、爆散した。


「聞こえる? ハイノ。こちらブルー。支援するわ」

「フェアリーブルーか! 光栄の至りだな」

「まだ百キロ近く離れているから。空の敵を落とすぐらいしかできないわ」

「その距離で超音速の戦闘機に当ててんのかよ!」


 戦闘速度とはいえ、敵は上空。その高度だと超音速は出ているだろう。


「直線的な動きだからリードと偏差を意識すれば当たるわ。それより、コウをよろしくね」

「とはいってもこいつが硬くてな」

「何言ってるの。あなたしか狙えない、とびっきりの弱点があるでしょ」

「弱点? は? ハァ?!」


 ハイノはブルーが言わんとすることを察し、驚愕した。

 敵の巨大艦砲。その砲口である。


 確かに弱点であり、これさえ破壊すればアストライアへの負担は相当減ることになる。この巨大な艦砲は攻城兵器なのだ。


「無茶言うな、フェアリーブルー! 敵は戦車じゃねえ。陸上戦艦だぜ?」

「ただのでっかい戦車よね? タンクキラーのあなたなら出来るでしょ。援護はする」

「人を乗せるのが上手いな、さすがラジオDJだ。――ああ。陸を履帯で走るなら戦車だ。やってやるさ」


 その意図を気取られぬうちに、再び大砲鳥は天高く舞い上がる。

 

 地上では五番機が陸上戦艦を護衛している敵を次々に斬り倒す。

 ハイノが空高く舞う。ブルーと何か作戦を交わしたようだ。

 

 敵の護衛はシルエット以外にも対空車両やアベレーション・シルエットもいる。

 その五番機を半装軌装甲車たちが駆け抜けた。


「こちら高機動打撃部隊。突撃破砕射撃に移行します!」


 猫型ファミリアが伝達し、次々と榴弾砲による弾幕が張られる。

 アベレーション・シルエットは集中砲火を受けすぐに撃沈した。


 もちろん半装軌装甲車は防御力自体は高くない。次々に被弾し、少しずつ数を減らす。

 新型の半装軌装甲車ラーチャーは前輪も駆動するタイプだ。転輪が破壊されても前輪がある。前輪が破壊されても履帯がある。

 彼らは走り続けた。


「無理をするな!」

「これぐらいやりますよー」


 ウサギ型のファミリアが可愛らしい声でコウに返答する。


「ハイノからこちらに敵を引きつける事さえできれば!」


 ハムスター型のファミリアが敵の攻撃を次々回避しながら有線式の対戦車ミサイルで敵戦車の注意を引きつける。

 対空も兼ねた多連装の機関砲で攻撃を続ける。


 意図に気付いた戦闘機がハイノに向かうが次々に撃破される。ブルーの狙撃だ。戦場に近付くにつれ、正確さも増す。


「ちゃんと座っていてくださいよ! 戦車から膝撃ちとか無茶です!」


 機兵戦車を操縦する犬のファミリアが悲鳴をあげる。


「運転は任せたわ」

「私にも無茶振りしてますよ! フェアリーブルー!」

 

 それでもできるだけ起伏が少ない地形を的確に走る機兵戦車。支援のための狙撃を行うブルー。

 ハイノを援護するべく、ヨアニアやアエローも集まる。死にたくないアルゴフォースの戦闘機群はハイノではない敵機を探すことにした。

 

 その時だった。

 ハイノが急降下してきた。


 ハイノの狙いはただ一点。巨大な砲口だ。チャンスは一度きり。反動で機体がまともに制御できないからだ。


「ここだ」


 正確無比な精密射撃。砲弾はぶれることなく正確に砲身のなかをまっすぐに突き進み、砲塔を直撃した。

 巨大な爆発が起き、ハイノが神業を為したことをその場にいるもの全てが知った。




 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「こちらハイノ! 陸上戦艦の主砲を破壊に成功だ!」

「よくやったハイノ!」


 五番機は敵をかき分け、陸上戦艦に近付く。


「ハイノがやってくれた。だが、まだ陸上戦艦は稼働している。どうやって無力化するか」


 陸上戦艦の移動基地としての能力と強力な火砲は健在だ。

 分厚い装甲に阻まれ戦車砲も決定打にならない。


 陸上戦艦のほうを見ると、巨大な履帯の上にある船体のハッチから次々とシルエットが降りてくる。

 戦車搭載機能は捨てているようだ。


「ん? あれか」


 何かに気付いたコウは意を決して敵の中央、陸上戦艦に向かう。

 五番機は砂埃をあげ疾走する。


 後続部隊は慌てた。一気に引き離されたのだ。

 だが、これは単機のほうが向いている。


「援護を頼む!」

「何をするんですか! 無茶はやめてくださいよ!」


 ラニウスAに搭乗するネレイスの青年が慌てる。


「大丈夫だ! ただレールガンは放棄する。何か武器があれば……」

「それなら任せてね!」


 ウサギのチンチラ型ファミリアが請け負った。


「わかった。行くぞ」


 五番機が近付くにつれ敵の戦力も集まってくる。

 車体と砲塔の接合部分を狙って抜刀し、斬り飛ばす。無力化は十分だ。

 ただ、一撃で破壊したため敵の目を引いたようだ。無数の敵にロックオンされている。


 集中砲火に合わせ、陸戦仕様の装甲をパージ。最大加速を数秒行い離脱した。

 追加装甲の残骸が爆発したが、煙のなかから五番機が飛び出す。


 その加速を利用し、また別の戦車の砲塔を斬り飛ばす。甲高い金属音とともに後方に転がっていく砲塔。

 すかさず距離を取って、別の戦車の砲身だけを斬る。


 ラニウスは地を蹴ってさらに加速した。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「何が起きた!」


 陸上戦艦を指揮するラケダイモンが叫ぶ。


「主砲の砲口に射撃が叩き込まれたようです」

「馬鹿な! 機関砲程度ではあんな破壊は起きないだろ! ミサイルでは無理だ」

「それが戦車砲を搭載した攻撃機のようで……」

「は? 馬鹿な。そんな攻撃機があるものか! 映せ!」


 画面に映し出される大砲鳥。

 見覚えのある155ミリレールガンは確かにメタルアイリスの主力戦車に採用されている戦車砲だった。


「なんて奴らだ。めちゃくちゃだ……」


 強力な副兵装はまだまだある。

 搭載している大威力のミサイルもあるのだ。だが、主砲を喪ったのは痛い。

 

「艦長!」

「今度はなんだ!」

「化け物が迫ってきます!」


 画面に映し出された化け物。一目でわかった。例の刀を持った、戦闘力が異様に高いラニウスが映し出される。

 エースなどではないのだろうか。特徴的なカラーも識別マークもない。なのに見た目が他のラニウスと同じで中味がまったく別物と思われる。それが嫌らしかった。


 戦車の車体から砲塔を斬り飛ばす五番機の姿がそこにあった。陸上戦艦に向かってくる。

 阻止しようとする敵部隊。


「アレはまずい! 集中して倒せ!」


 ラニウスに向けられる数多の砲口。


「この武装もそろそろ限界だからな。いくぞ」


 一斉射撃が放たれる。

 爆炎とともに土埃が舞い上がり、ラニウスの姿はかき消えた。


「やったか?!」

「いや、いないぞ!」

「どこ……」


 最後の一人は言い終えることができなかった。

 陸戦仕様の追加装甲を外した五番機。ラニウスC高機動型が虚空から太刀を振り下ろしアルマジロを両断したのだ。


 そのまま加速し、戦車の砲塔を斬り飛ばしながら、一気に加速し別の戦車に襲いかかる。

 他にいるラニウスと同じ形状なのに、一機だけ化け物じみた戦闘力を持っている。その場にいるもの全てが恐怖した。


「あいつを止めろ!」


 艦長の悲鳴に似た命令が、周囲に響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る