陸上戦艦攻略戦
バリーからメタルアイリスの主要メンバーに通信が入る。
「コウの読み通り、敵は総攻撃を開始。三方向からだ。P336要塞エリアを起点にディケは七時の方向。アストライアは五時の方向。ユリシーズの海洋艦隊を九時の方向に配置した」
「こちらアストライア。敵主力陸上戦艦を二隻確認。防衛線に入ります」
アストライアにいるエメが返答する。
「頼んだ。情けない大人たちですまないが…… 頼んだ。エメ提督。こちらは俺とジェニ-、リックで防衛する」
「そちらのほうが防衛範囲は広いのです。むしろ私は配慮されていますので。お心遣い感謝いたします」
八歳と思えぬ子供だ。バリーは苦笑した。指揮能力も異様に高い。何か秘密があるのではと思うほどに。
エメのいう配慮とは、彼女の率いる部隊にコウ、ブルー、そしてプレイアデス隊がいる。オペレーターににゃん汰とアキ、後方部隊にはマールとフラック兄弟を配属させたことだ。
エメの精神的負担はバリーが思った以上に軽くなっていた。何よりエメ提督の名は一種のカリスマと化しつつある。アストライアにはエメが必要なのだ。
「戦力もアストライアのほうが薄い。そこが不安だが、随時P336要塞エリアから必要に応じて増援を分配する」
「北西部の森林地帯は?」
「そちらはフユキの戦闘工兵部隊に任せてある。頼んだぞ、フユキ」
「お任せを」
フユキが通信に出て頷く。奇襲に備えるという意味で一番負担の大きい配置でもあった。
「こちらは因縁の陸上巡洋艦の軍団だ。単艦の戦力は高くはないが、数が多い」
「なに。こっちも十分な戦力がある。止めてやるさ」
リックが応じた。
「海上はジョージ提督にお願いする」
「こちらグレイシャス・クィーン。海は任された」
「私たちも援護します」
軌道エレベーターがあるR001要塞エリアから移動したグレイシャス・クィーンとジュンヨウを中心とした海洋艦隊だ。
今までアルゴフォースは海軍が貧弱だった。時間も経過していれば強化しているのは間違いないだろう。すでに他の大陸は彼らの手に落ちているのだ。
「さあ。アシアとP336要塞エリアを護り切るぞ。そのあとこそ反撃だ」
『みんな、力を貸して!』
アシアが全員に呼びかける。
本格的な防衛戦が始まろうとしていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「敵陸上戦艦、哨戒機捉えました」
「6時の方向より現在戦車隊が敵先行部隊と交戦中」
オペレーターたちから次々と情報が伝達される。
「敵の戦力はこちらに向かっているのかな。これは飽和攻撃狙い。そうはさせない」
エメは主力戦車を中心とした防御部隊の他、高速打撃部隊とシルエット隊に指示をし、迎撃に当たらせる。
「二隻の輪陣形艦隊、か。敵主砲は超大型の艦砲。ある程度は耐えられるけど……」
レーダーを確認するにゃん汰とアキ。
「エメ。まずい。4時の方向から敵艦隊確認。陸上戦艦よ」
艦長であるエメに報告する。
「三面攻撃、か。でもここで食い止めないと。今アストライアを後退させるわけにはいかない。P336の縦深が浅くなる」
「エメ! こちらは手一杯だ。すまない」
地上部隊の指揮であるリックが謝罪する。彼もまたキモン級に向かう大戦力で、尽きることのない戦闘を続けていた。
「いいえ。ここは私の指揮下の戦力で何とかします」
『キモンと違ってこちらは基地モードはありません。狙うならこちらでしょう』
アストライアも敵の戦術を分析する。
「第三の敵艦隊に対応する部隊がいない。エポナで私たちがでるニャ」
「俺とこちらの戦車隊がいく」
コウからの通信が入った。
エメに最前線を立たせているのは自分だ。絶対に護ると決めている。
トラウマではない。責任感でもない。身勝手なエゴだとわかっている。
だがエメやアキ、にゃん汰がいるアストライアを優先して守りたい気持ちがある。その気持ちがある以上、自分に司令官の資格はないと思っていた。
エメは一瞬躊躇した。コウが率いるのは戦車中隊。16輌の戦車に16機のシルエット。陸上戦艦を中心とした敵部隊の戦力には遠く及ばない。無謀といえるだろう。
「……間接砲撃で支援します。制空権はいまだ取れません。ごめんなさい」
本当は反対したかった。ぐっとこらえた。コウを信じたのだ。
「エメが謝ることじゃない。両翼と中央の軍。片翼を足止めできれば楽になるはずだ」
陸上戦力は厚いとはいえ、陸上戦艦三隻の大隊を相手にするのは苦しい。
コウのような遊撃部隊が足止めが出来れば上出来だ。
「高機動打撃部隊、急いで編成し派遣します」
「無理はしなくていい。ローテーションもあるだろう。だが、やはりここは護らなくてはならないラインだ」
「はい。このラインは死守します。まだ戦闘も序盤、だから」
「エメは俺が護るよ。にゃん汰やアキも、みんな。――じゃあいってくる」
コウが通信を切る。
戦術指揮所の三人は頬を赤くし、俯いた。
そんな彼女たちをからかうように、羨ましそうに見つめるネレイスやセリアンスロープのオペレーターたちだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「すまねえ、コウ! まだ航空優先を取れやしねえ」
「大丈夫です。ヤスユキさん。あの数相手に互角に持ち込んでくれている」
空ではヨアニアやアエローたちが激戦を繰り広げている。
「かといって間接射撃が厄介ですね」
ファイティングブルに搭乗している白猫のファミリアが歯噛みする。
「対空車両も大量に持ち込んでいるな。アベレーション・シルエットかもしれん」
フレンチブルドッグのファミリアも敵の防御の厚さに辟易していた。
「コウさん。一人で突っ走ってはダメですよ」
ラニウス隊のネレイスの少女が苦笑する。
「そういうこった。ボス。俺らもちゃんとついていきますから!」
お調子者のネレイスの青年がコウに釘を刺す。放っておくと置いていかれるのだ。
現在ラニウスAたちも重装甲モードになっている。機動力が特徴のアサルトシルエットだが、戦車隊と行動を共にするときは重装甲を装備している。
「わかっている」
土埃で走り出す戦車隊とラニウス隊。
彼らを支援するため、半装軌装甲車が随伴する。こちらは中隊編成だ。
「エメが高機動部隊も手配してくれている。合流を待つ時間はないな」
敵は輪陣形に似た陣形だ。外周のシルエットは使い捨てのヘロット。
アベレーション・アームズやアルマジロなどが大量にいる。
「十六機の戦車とシルエットで! 何が出来るか!」
陸上戦艦に乗っている指揮官が思わず吐き捨てた。選ばれしラケダイモンからみて、そんな少数の戦力で陸上戦艦が落とされてはたまったものではない。
「ゆくぞ」
一言呟いて陸戦仕様の五番機が突撃する。
レールガンを背にぶらさげ、太刀を構えて。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「敵が! シルエットが突進してきます!」
「TAKABAのラニウスか? ローラーダッシュしながらとは正気か。あれを狙え! 直撃したら転ぶぞ」
土埃をあげ、腰を落とし前屈姿勢で駆け進む五番機。スロラームで回避行動を取りながら、外周のシルエット群に向かっている。
レールガンや砲弾の直撃を数発受ける。
以前、土埃をあげ進む五番機。
「な、なんだあいつは!」
「違う! あれはローラーダッシュじゃない! スラスターを使って地面を削りながら向かってきやがる!」
背面から爆燃を利用したスラスターで加速する五番機は、ローラーダッシュなど使っていない。
腰を落とし、安定性を確保しながら地面を擦るように移動していたのだ。
すれ違い様、アルマジロの胴体を両断する五番機。
「ひ、ひぃ!」
「なんだあの武器は!」
アルゴフォースのシルエットは射撃武器を構え終えたその瞬間、両腕部を斬り飛ばされていた。
刀を知らない惑星アシアの住人には、凶悪な武器として印象づけられる。
「距離を取れ! 集中しろ!」
五番機は時速四百キロ近くで地面を駆け巡っている。うまく補足できないところへ、戦車隊とラニウス部隊が攻撃を仕掛ける。
「なんだ、あの機体は――」
ヘロットたちには五番機が悪鬼に見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます