アナライズ・アーマー――ラニウスC陸戦仕様

 戦場は無数の砲弾が飛び交う、嵐が如く。


 戦車砲が吼え、装甲は穿かれる。それでも前へ、前へと進む戦車たち。

 履帯は荒野を踏みにじり、それでも進んで行く。


「戦車の側面を取らせるな! シルエットはシルエットで対処しろ!」


 コウが声を振り絞り、叫ぶ。

 戦車の天敵はシルエットだ。シルエットもまた戦車に弱いのは事実。

 だが、構造上近付かれては為す術もない。そのための僚機のシルエットなのだ。


 五番機は長く戦闘行動に参加している。

 機動力があるラニウスCではなく、僚機である戦車が狙われるのだ。


 その間に五番機が斬り込み、敵戦車やシルエットを倒すのだが、やはり長く戦場にいると被弾も相当だ。

 ラニウスC飛行型の追加装甲は限界にきていた。


 ラニウス隊のほとんどは後退している。巨大な人型兵器は狙われやすい。C型はその機動力にものを言わせ、敵の優先順位を大きく下げているからこそ戦場にとどまることができる。


「ボス! アストライアに戻って!」

「もう少しだ! お前も被弾しているだろう」

「こっちは戦車ですぜ? まだやりまっせ!」


 まだら模様の猫型ファミリアに帰投するよう言われるコウ。

 

「こっちのシルエットも被弾で少ない。俺が粘らないと」

「大丈夫だって。俺達が支える! ちったあ信じてくれ!」

「……わかった。頼む!」


 イノシシ型のセリアンスロープがエポスでやってくる。後退したラニウスの代わりとなる援軍だった。


 敵に背を向けないよう緩やかに後退し、戦闘区域から離れると全力でアストライアに帰投するコウ。

 連絡を受けていたマールとフラックのウッドペッカーが待っていた。


「コウ兄ちゃん! 無茶しすぎ! みんな心配するから早く戻ってきてよ」

「そうですよ、コウさん。追加装甲を外してください!」


 二人に促され追加装甲をパージする。この素の状態は高機動型。加速性能が最も優れた機体だ。


「予備の飛行用追加装甲は?」

「今はそれが最適じゃないとアストライアが」

「アストライアが? わかった」


 そこに現れたのは新型戦車のラーチャーだ。

 被弾して後退している。


 この戦車はアシアの解放された新技術が使われている。それは――


「アナライズ・アーマーを纏えと言うことか!」


 コウはアストライアのその意図を察した。


 アナライズ・アーマー。

 それはアシアの新技術の応用であり、また車座でファミリアたちとの会話で生まれた新機能。

 

 戦場での補給が困難な場合、ニコイチ的な応急修理を簡単に行えるよう、よりモジュール化を進めたのがこのアナライズ・アームズだ。

 シルエットでその場で分解、組み立てや他車両への部品にできる兵器群だ。


 アベレーション・アームズが特化した性能を発揮するための兵器ならば、アナライズ・アーマーは究極の汎用性を追求したものといえよう。

 そしてファミリア達が望んだもの。それは自分たちが行動不可になった場合、その機体をシルエットなどの武装にならないか、と考えたのだ。


「俺達はね。MCSから降りて飛んで逃げることもできる。でもほら、兵器が全体が破壊ってそうないし、もし武装が生きていたらもったいないじゃないですか。そのままシルエットの追加装甲とかになるような戦車があればいいですよね」


 とはファミリアの一人が言った言葉だ。

 

 実際戦車に変形する可変機も実在する。

 シルエットの追加装甲になる前提の兵器。それがアナライズ・アームズだった。


「搭乗者のファミリアはもうアストライアに避難しています。弾の補給も装甲の応急修理も終わったけど、履帯の転輪が破壊されているから戦場にいけない。使ってください。コウさん」


 まーちゃんに促され、コウはラーチャーに近付く。


「よし、纏えるか。五番機。いくぞ」


 ラーチャーと連動させ、分解し、その装甲をまとっていく。

 履帯を護るスカートアーマーは脚部に。側面装甲は両腕に。正面装甲の一部は胴部を覆う。

 砲塔はそのまま巨大な防盾となり、主砲の155ミリレールガンを装備する。

 ユニット式のパワーパックを背中に装備し、動力を確保する。これで計三つのリアクターを装備することになる。背部には60ミリ機関砲も装備している。


 その重量はラニウスの倍近く。四十トン近い。


「過積載で飛行能力は喪ったが…… これで前線で戦えるな。加速もそこそこ維持できる。ありがとう、二人とも」


 ラニウスC飛行型の追加装甲でも重量は限界だった。レールガンに戦車の装甲をまとった今では、飛行を諦めるしかない。

 もっとも戦場で人型兵器が空を飛んだら的である。いっそ飛べないほうがいいかもしれないとは思った。飛行が必要なら全てをパージすればいい。


「気をつけて!」

「いってらっしゃい!」


 五番機はスラスターを加速させ、戦場に舞い戻った。


 見送ったあと、二人に通信が入る。


「二人とも。ありがとう」


 エメだった。


「これでコウ兄ちゃん飛べないし、一人で突進することはないよ」

「ファミリアたちも連動しやすくなる。一機だけ機動力が飛び抜けているのも問題よね。エメちゃんの言うとおり、あの重武装でいいぐらい」

「うん。コウが斬りにいくにしても、ラニウスCは陸戦だと不安。マッハを超える弾を避けることなんてできないんだから。あれがいい」



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「よお! ビッグボス! ドレスチェンジかよ。様になってんな!」


 両手でレールガンを構え射撃を行う五番機。戦車たちに合わせて行っている。

 進軍速度も足並みが揃っている。過度な機動力を持ったラニウスCにはこのアナライズ・アーマーの重量調整が上手くいっているようだ。


「これでやっと足並み合わせてくれるってか!」


 白ウサギのファミリアが笑う。


「ん? いつも通り斬り込むぞ」

「いいぜ。それなら俺達がついていくのはまだ可能だからな!」

「そういうこと! 援護できるってなぁ!」


 イタチのファミリアも薄く笑う。

 いつも前線を一人で飛び交うラニウスに追いつくことが必死だったのだ。


 確かに斬り込み方も変わった。

 今までは側面から次々に斬り込み、離脱する。戦場を疾走する戦闘機のようなものだった。


 今は慎重にタイミングを図りながら斬り込んでいる。無茶な機動は許されない。


 コウ自身は以前のほうが戦いやすいが、今のスタイルのほうが僚機のファミリアには好評のようだ。

 味方の戦いやすさも重要だと改めて認識し、右手にレールガン、左手に太刀を構え斬り込むタイミングを伺うコウだった。

 

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