原野大戦車戦

 双方の航空部隊同士が激突する。

 一進一退、ではない。


 引き返し、撃墜されても双方逐次戦力が投下される。

 飽和攻撃同士の衝突の様相を見せていた。


「敵部隊確認しました!」


 斥候のシルエット部隊が叫ぶ。戦車より背が高い彼らは、偵察任務にはうってつけだ。

 

「こちらは迎え撃つ側だが……」


 指揮官のリックが呟く。


「こちらは機兵陣形。シルエットを護りつつ戦車部隊の防御陣形。敵は陸上戦艦を主軸にした輪陣形。対極のような陣形だな。消耗品であるシルエットが一番外側に多数配置され、戦車の脅威を取り除くわけだ」


 シルエットを護りながら支援を受ける陣形と、シルエットを外周に配置し、旗艦戦力を防御する陣形。

 メタルアイリスとアルゴフォースの思想の違いが如実に表れている陣形同士の対決となる。


「長期戦は覚悟してくれたまえよ」

「一週間程度で決着が付く戦闘ではない、か。持久戦は覚悟しているよ。敵は数多の奇策を弄することだろうな」


 コウが五番機から呟く。


「P336要塞エリア周辺にアストライアとキモンを配置。海上にはユリシーズの艦隊、旗艦はグレイシャスクィーン。護衛にはペリグレスとジュンヨウの空母打撃軍。R001の軌道エレベーターはアリステイデスとソウヤを中心とした艦隊か」

「R001の軌道エレベーターはやや手薄といえるか」

「心配ない。各地の企業が集まっているので、一番戦力があるかもしれない。企業も御統重工業と五行が移籍している。護りは万全だ」

「なるほど。ユリシーズの企業体が集まっているのか。やはり、とくに何もないP336が急所だな」

「ここはシルエットベースとも繋がっているからな。宇宙戦艦メガレウスの着地位置から考えてもP336が主戦場だ」

「ふむ。よくそこまで分析したな」


 コウの成長にリックは満足そうだ。


「俺にも何かできることがあればいいんだが」

「補給ラインを整え、支援部隊を確立し、早期警戒に努めた君がかね? これからは我々が気合を入れる番だ。信頼したまえ。一人では戦局は変えられん」

「そうだよな。わかった。俺は前線で敵に斬り込むだけだ」

「カバーはするが、突出はやめてくれたまえよ」

「もちろんだ」


 無論、ファミリアたちはコウの動向には細心の注意を払っている。

 

「さて、コウ。さっそくだ。ここで何が重要かはわかるか?」

「機動防御、か?」

「そういうこと。防御だって能動的に行わないと効率的ではない。とくに相手は大火力だ。殲滅力は向こうが上。制空権もまだ確定していない」

「戦車の数は向こうが上だな」

「支援車両はこちらが数倍だ。数の劣勢は苦にならん」

「ああ。支援車両にシルエットの戦闘能力も上がっている。対抗はできるな」


 コウは冷静に分析するように努める。

 軍略は苦手だが、そこも視野に含めて構築しなければいけないのだ。


「戦線が広大だ。地形にあわせて陣形はシフトさせていく」

「大戦車戦なんて地球にあったのかな?」

「あった。クルスク戦車戦というヤツだな。WW2では陸戦の代表だ。双方約六千もの戦車が激突した」

「結果は?」

「双方微妙な結果、かな。ドイツ軍の勝利、といえるが作戦目標は達成できなかったのだよ。別に連合軍も相手にする必要があったこともあり、様々な要因があった」

「白黒すっきりというわけにはいかないか」

「過去の歴史から学ぶと、要所、いわゆる防衛ドームの奪い合いになる。要所の防衛ドーム、そして兵站のための防衛ドーム。そこが拠点になるからだ。陸戦は極めて重要だ」

「拠点がないと戦線を維持できない、か」

「そうとも。航空戦力で一方的な空爆というのは、戦力差があるのみに有効な戦法だ。ただ、過去ばかりみていられない。宇宙戦艦や空中空母など、空飛ぶ巨大な輸送艦は過去なかったからな。陣地は必ず突破されるとみている」

「俺もそう判断している。どんな手段であれ、奴らはP336に乗り込んでくるだろう」

「そこまで理解しているなら十分だ。いくぞ、コウ」


 無数の戦車隊が進軍する。

 小隊編成は四輌。履帯は唸りながら土埃をあげ、その後ろにシルエット四機で構成された小隊が続く。


 後に原野大戦車戦といわれる陸戦が始まろうとしていた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 メガレウス艦内の戦闘指揮所。カストル、ヴァーシャ、アルベルトが忙しなく指示を出している。


「カストル様。スフェーン大陸のA001要塞エリアより通信が入りました。ポリュデウケス様です」

「繋げ」


 外套を被った男がモニタに現れた。

 繋がったことを確認すると、顔をあらわにした。金髪の美青年がそこにいた。


「ごきげんよう兄弟。相変わらず顔は出さないか」

「ごきげんよう兄弟。そちらと違って髪も体格も貧相なのでね」

「その肉体も悪くはないと思うが…… まあいい。頼まれものは送ったよ。ささやかな贈り物だ。使い潰してくれ」

「感謝する。まったくふがいない兄ですまないな」

「兄弟といっても同時期にB級構築技士の肉体を接収しただけだからな。気の合う兄弟でよかった」

「私もだ」


 二人は笑い合う。


「君の送ってくれたアベレーション・シルエット。実に面白い。感謝するよ。毎回楽しませてくれる。この肉体は戦闘に特化していてね。せっかくのB級構築技士の能力も活かせないんだ」

「君の贈り物は構築した物の賜だろう? それぐらいさせてくれ」

「ならば、これで貸し借りはなしだ。カストル。また何かあったら頼ってくれ」

「そういってもらえて嬉しい。こちらも新しいものが出来たら見せるよ。ポリュデウケス」

「楽しみに待っているぞ、兄さん」


 ポリュデウケスは悪戯っぽく笑い上機嫌で通信を切った。

 アベレーション・アームズの技術を持っているのはカストルとポリュデウケスのみ。ストーンズの半神半人のなかでもディオスクロイと呼ばれる実力者だ。


「何がささやかな贈り物だ。返せないほど送ってきよって」


 カストルが苦笑した。


「それは向こうも同じように思っているでしょうね。カストル様。アベレーション・アームズの優位性はストーンズのなかでも飛び抜けていますから」

 

 ヴァーシャが答える。二人の力関係は開発能力が優れている分、カストルのほうが上だ。

 ポリュデウケスのほうがカストルを必要としていると、ヴァーシャは見ている。


「あれがスフェーン大陸を落としてくれてよかったよ。他の半神半人は頼りにならんからな」


 二人は兄弟という結びつきを選択し、完全平等と規律とするストーンズでは異端に属する。


「アルベルト。戦車部隊はどうだ」

「万事抜かりはありません。敵にはファミリアたちを軸にした諸兵科連合ですが、あんな運用は制空権があってのもの。戦車とシルエットで対抗できます」


 アルベルトは邪悪な笑みを浮かべる。

 彼の本領、火砲。直線から曲射まで様々な兵器を用意している。


「アレの対策はどうなっている?」

「アレ? ああ。パンジャンドラム対策は万全です。幾度か大量に転がってきてましたがね」


 カストルはパンジャンドラムに関しては口にもしたくないようだった。


 アルベルトもまた、十分に対策をしている。所詮転がるだけの自走爆雷である。落とし穴、ネット、有線ミサイル、クラッシャー。ありとあらゆる対策を講じていた。

 逆説的に対策を強いられているとも言えるのだが、対抗する気は無かった。資源の無駄である。


 アルベルトの答えに満足したカストルは、ヴァーシャに尋ねる。


「ヴァーシャ。例の地中部隊はどうだ」

「は。地中部隊の到着時刻に合わせ陸上部隊を侵攻させております。地中部隊は思わぬ迎撃を受けている模様ですが、地上部隊の侵攻に問題ありません」

「地中で迎撃? どういうことだ?」

「ドリルとのことです」

「……もうよいい。頼んだ」


 カストルはドリルについて考えることをやめた。

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