トリプルドリル・フォーメーション

 リュビアとマットに別れを告げP336要塞エリアに戻ったコウは戦力の拡充を優先した。

 敵の動きも活発化する。ヘルメスの存在は確かに気になるが居場所がわかったわけでもないのだ。


 そして異変が起きた。


「アストライア。回線を開け」

『了解いたしました。ヴォイに繋げます』


 通信が開いた先にヴォイがいた。MCSに搭乗している。


「ヴォイ。やはり?」

「そういうこった! コウ。お前の読み通り、アベレーション・アームズが地中からやってきやがった! 多分先行部隊だ。次は陸海空宇、どれから来るかわからんぞ!」

「わかった。ドリル隊、迎撃戦闘を開始だ!」

「任せとけ! ドリルは地中じゃ最強ってところを見せてやるぜ!」


 遂に地中での戦闘が始まった。

 地中を進む虫、ケラ状モールクリケツトのアベレーション・アームズが地中を潜航している。

 両腕はモグラに似ており、穴を掘ることに適している。

 

 だが、ヴォイたちは地下索敵音響アンダーグラウンドソナーを利用し、坑道を掘り続けるアベレーション・アームズを強襲したのだ。

 

 まさか頭上や地面からドリルが襲いかかるとは思わず、為す術もなく倒されるアベレーション・アームズ。


「地中で助かったぜ。こいつ、多分飛行可能、水中行動もいけるはずだ」


 ヴォイがこのモールクリケット型を分析する。

 ケラは多芸無芸の代名詞。五能と呼ばれる飛ぶ、登る、泳ぐ、掘る、走るが可能だが、一流ではない才能の持ち主の例えにも使われる。。

 兵器としての行動範囲としては優れた汎用性を持つのだ。


ヴォイが使用兵装を叫ぶ。彼は何故か叫ぶのだ。


「ドリルミサイル!」


 地中ではレールガンもミサイルも使えない。頼れる武器は――ドリルしかない。

 土を穿ちながら突き進むドリルミサイルは射程が短いながらもモールクリケット型には有効だった。


モールクリケット型のパイロットたちは混乱に陥った。

 一方的な奇襲なはずだった。それどころか自分たちが奇襲を受けている。

 地中戦など想定はしておらず、あるのは掘削用の爪状のアームだけだ。


「ヴォイさん。俺達も出る!」

「オッケー! 頼んだぜ!」


 新型のドリル戦車は機兵戦車だ。

 つまりシルエット。


「行くぜ。地上地中両対応のドリル特化シルエット『アダックス』だ」


 名も無き兵士は呟いて、両腕にドリル型アームを装備したシルエットを出撃させる。

 二本のドリルは短距離なら穴を掘り進めることができるのだ。


「シールドマシンのドリル形態とアダックスによるダブルドリル。三本のドリルに、耐えられるかな?」


 ヴォイが不敵に笑う。


 彼らは次々にモールクリケット型のアベレーションアームズを地中で迎え撃つ。

 決して早くはないが、迎撃で戦闘態勢を整えているシルエットとドリル戦車に、為す術もない。


「トリプルドリル・フォーメーション!」


 ヴォイが再び叫ぶ。


 モールクリケット型のアベレーション・アームズは地中から装甲を穿ち抜かれ倒される。

 悲惨なものはパワーパックなど動力だけを破壊されたものだ。救出されなければ窒息死するしかない。


「行けるぜ、コウ。ちと敵の数は多いがな!」

「頼んだぞ。ドリル隊!」


 ヴォイ達は慣れぬ地中戦で迎撃を開始する。

 アルゴフォースは悲惨の一言であった。


 相手は明らかに地中戦を想定しているのだ。

 ドリルの地中用誘導ミサイルなど、そんな馬鹿な兵器を開発するとは――


 地中戦など誰が想像するだろうか?



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「バリー。地中から敵部隊、相当数を確認。おそらくは陸海空、宇宙からも同時侵攻もありうる」

「コウ! 地中を想定していたというのか?」


 コウからの通信に驚くバリー。


「もちろんだ。俺達はアシアを奪回するとき、二度も地中経由だったんだ。敵が意識しないはずないだろう」

「少しはあると思ったが…… そうか、アベレーション・アームズで地中からの侵攻が可能になったのか!」

「そういうことだ」


 この発想は構築技士ならではだ。地中戦車を作る物好きなど、コウぐらいだとバリーは思っていた。

 確かにアベレーション・アームズなら地中対応生物を模倣し、侵攻が可能だろう。


「少し待て。どうして同時侵攻だと思う?」

「フユキに教えてもらっている。侵攻ルートで一番時間かかるのは坑道だってね。なら一番遅い部隊にあわせて機動を――作戦行動を行うだろ?」

「すっかりビッグボスが板についてきたな、コウ! 俺の代わりにどうだ!」

「勘弁してくれ。俺は大局を観ることは苦手だよ。P336の防衛ラインを考えるのが精一杯だ」


 コウはうんざりしていった。

 構築技士の授業には戦術面の教育も入っていた。そこはリックが担当し、念入りに指導された。されてしまった、という実感だった。


「ということは次は……」

「総攻撃かな」


 コウは軽く嘆息した。


「遂にくるか。わかった。部隊配置はすでに済んである。お前はどうするんだ?」

「予想するに、絶対ここに乗り込んでくる。敵の主力がね。どんな手を使ってでも、だ。ならこっちも精鋭、クルトさんと兵衛さん、企業部隊を配置して迎撃だ」

「お前は?」

「俺は前線にでる。何かあったらすぐ戻るさ」

「お前も防衛にいろよ! いい加減立場を理解しろ!」

「前線に出る将も必要だろ? じゃあ、そろそろ出る。指揮は任せた」

「ちょっと待てー!」


 バリーの悲鳴にも似た叫びを強引に打ち切り、コウは五番機を動かし出撃した。

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