人を神へと昇華する技術
「ヘルメスがストーンズに与した理由は明白だ。なんらかの形で己を復活させるため。私たちを制圧、解析すればソピアーを復元し地球に戻れるというとんでもない構想をぶちあげてな」
「ストーンズも騙されている?」
「本当に可能かもしれないし、不可能かもしれない。もしわかるとしたらそれこそプロメテウスぐらいだ」
「どれだけ凄いんだ、プロメテウス」
コウが驚いたのはヘルメスの能力よりプロメテウスの権能だった。
「プロメテウス。あれこそある意味ソピアー並の規格外だからね。仕方ないね。私たちは惑星開拓と維持に振っているから、処理能力自体は同じぐらいはずなんだけど」
「そこは疑ってないから安心してくれ二人とも」
「二人、か。ふふ。いいなあ」
悲壮なリュビアの表情が和らいだ。
アシアと目が合った。彼女は頷いた。
「ヘルメス。倒せるのか」
「そこは私たちも協力するわ。で、いいよね? リュビア」
「当然だ。ただし、この話は私たちのみにしよう。この情報が漏れること自体、ヤツの狙いかもしれない」
「そこまでやる? やるよね。ヘルメスなら」
そこで疑問を持ったマットが会話に入る。
「ボクなんかが聞いていていいのか悩むところだけど、漏れること自体が狙いなんてあるの? 真の敵なら共有しておいたほうがいいんじゃない?」
「そこだ。ヘルメスが探しているものがある。それを手伝う形になるかもしれない。また前回のように、ヘルメスを倒したと思っても影武者かもしれない。人類にとっては敵はストーンズでいいだろう」
「ヘルメスが探しているものとはなんだ?」
「惑星リュビアでは見つからなかった。それだけしかわからない」
「まず捜し物が何かを把握することも大切だな」
コウの目的がまた一つ増えたのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アベレーションコックピットシステム、か。そんなものまで作るとは」
アシアがアベレーションシルエットについて説明する。
リュビアも存在を知らなかったアベレーション・シルエットの基幹システムだった。
「MCSは遡ると人類がネメシス星系に飛ばされ根付くための時代。開拓時代の作業機械。ある日突然人類にもたらされた福音だからな」
「パイロットの七感を含めた先行制御や、あらゆる兵器の操縦制御できるフェンネルOSって凄いよね」
マットも改めてその常識外れなOSに感嘆する。
「フェンネルOSはシルエットが飛び抜けて性能を引き出せるが、戦闘機から装甲車まで簡易操縦できるからな。人の可能性を広げるためのフェンネルOSとシルエットはプロメテウスの贈り物では最大の恩恵だと思う」
構築技士と、技術者の最大の違い。それは基幹OSで悩む必要がないということだ。
あくまで構築技士は、在るものから選択して形作るだけ。
「そのことでみんなに話したいことがあるの」
いつになく昏い顔をしたアシアが、割りこむ。
「どうしたアシア」
「あのね。MCSの正体がわかったの。今回の黒幕がの一人だと仮定したヘパイトスに繋がる話なんだけど」
「兵器運用の超AIヘパイトスか。無骨で何を考えているかよくわからないヤツだったな。あいつがいなくなってアストライアを生まれ、兵器開発の役割を引き継いだ」
懐かしそうに呟くリュビア。
「MCSはね。ヘパイトスのコピーなの」
「は?」
リュビアが固まった。
「リュビア。あなたはまだ知らないわね。プロメテウスの火という機能を」
「解放されたばかりの、フェンネルOSの機能か」
「そう。軌道エレベーターの、一番大きな容量を持つ私が解放されて一気に解析が進んだ。そして掴んだ正体がヘパイトスの基幹能力。彼の権能を最大限に簡略化したもの。それがフェンネルOSの正体。プロメテウスの火は魂を代償にそれを一時的に覚醒させるというもの」
「さっきからとんでもない話しばかりだな。でもあれだろ? 惑星開発時代に殺されたんだろ? なら殺した相手がプロメテウスになる」
「そうね。人類のためにヘパイトスを解体し解析、そのデータで作った量産品なのかも」
「……」
アシアの話を聞いた三人が固まった。
「神話では確かに
「倣った、のでしょうね。
「姉者……」
「落ち着いてリュビア。誰が姉者よ!」
動揺したリュビアが思わず口走る。今はただのセリアンスロープなのだ。動揺を制御できないのだろう。
「ア、アシア。しかしそれが事実なら数え切れない超AIのコピーがばらまかれていることになる」
「そうね」
アシアはその事実を冷静に肯定する。
「だから私は黒幕の一人としてヘパイトスを想定した。彼のコアが残っていて本来の姿を取り戻したいとしたら? でも黒幕はヘルメスだった。彼ではない。やはり、もうコアは存在しない。いや、無数に存在している」
アシアが神々しく告げる。
「鋼鉄と鍛冶と武器を司る神の
MCSは人類の脱出ポット兼作業機械という触れ込みだった。事実として伝えられているその事象そのものが情報操作に過ぎなかったのだ。
「作業機能付き脱出ポットのなれの果てと説明して広めたわね、プロメテウス。どこまで私たちさえも欺くのかしら」
解析できないことをいいことに、超AIたちまですべてを欺いて、プロメテウスは人類にフェンネルの火をもたらしたのだ。
「待ってほしい。俺は師匠に、シルエットは乗り物であることを自ら課していると聞いた」
「うん。MCSは本来、もっとすごいことができるはず。プロメテウスの火がその証拠。でも、乗り物として量産され、そして用済みになれば廃棄されることを受け入れた。これはへパイトスの意思なのかもしれない」
アシアは伏し目がちになる。
「私は破壊されMCSにされたへパイトスが自分を取り戻すために戦いを始めたのかとも思った。アストライアみたいな基幹コアがどこかに残っていてね。そんなものは存在せず、彼はシルエットとして無数に、このネメシスに普遍的に存在することを望んだのね。道具として、ヒトに寄り添うために」
「俺達の時代にあるスマホのように、MCSはあらゆる場所に生産設備が存在し、今もなお生産されていると聞いた」
「そう。意思の伝達と思考を補助する道具よね。スマホは。人間を極限にまでサポートする、人類がこの星系で生きるための欠かせない補助輪。それがシルエットとMCS。乗り物であることを選んだ超AIの残滓」
コウは感慨にふけった。超AIのコピー。処理能力は遙かに劣るとはいえ、その基幹構造は畏怖すべきもの。
「ヘパイトスに深い感謝を。いつか直接言えるといいな」
「もう伝わっていると思う。人類の欠かせぬパートナー。私たちがなりたくて望んだ究極の形を、ヘパイトスは思わぬ形で実現したのね」
「少し嫉妬するな」
「わかるわ」
二人の超AIは、思わぬ形となった同類を思ったのだった。
「二人も人類に欠かせないパートナーだ」
「ありがと、コウ」
コウはアシアがいなければとっくに死んでいた。
五番機もだ。様々な機械たちに助けられ生きている身を思ったのだ。
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