アベレーション・シルエット

 鹵獲したアベレーション・シルエットの解析はアシア、アストライアの両AI主導で行われた。

 その解析結果をもとにブリコラージュ・アカデミーで秘密裏の緊急会議が行われた。

 議長はアストライアである。


『解析が完了しました。結論からいうと武器腕型の正体不明機はシルエットです。アベレーション・アームズではありません。予見されていた異形の人型兵器アベレーション・シルエットと断じて良いでしょう」


 画像が展開される。

 武器腕と両脚のブースターが外されたシルエットがそこにあった。


 その姿はまさに異形。両腕は確かにある。両足も確かにある。だが――


「なんだ。これは動くのか!」


 ケリーが思わず叫んだ。

 アベレーション・シルエットにも腕も脚もあった。だがその長さは通常のシルエットの肘や膝まで程度の長さだった。


「短い四肢のシルエット、ですか。通常のMCSでは動かないですよね?」


 クルトの問いにアストライアは頷いた。

 怪訝そうに眉を潜める。小型化で手脚を短くするシルエットは誰もが一度は想定し、試行錯誤し、諦める。MCSが認めないからだ。


「胴体と顔がそのままのドワーフみたいな体系だな」

『ゲームですか。でも言い得て妙かもしれませんね』


 アストライアは21世紀のドワーフと呼ばれる小人画像を比較する。腕の長さは相違があるが、脚の短さは似ていた。


『動かすにはアベレーションコックピットシステム、ACSとでも言うべき改造コックピットが必要ね。人間を改造せずにMCSを改良したもの』

「MCSはプロメテウスが設計したものだろう? 改良なんて出来るのか」

『普通は無理。協力した超AIがいる』

「そんな超AIがいるのか!」

『候補は何柱かはいるわ。とうに消滅したと思った超AIのうち、基幹AIが生きていたいずれかがストーンズについたと思う……』

「消滅、か……」

『ええ。惑星間戦争で消滅した超AIは多いです。私、アストライアもその一柱ですからね。ただ今の私ではMCSの改良は無理です』

『このACSでも人間への負荷は高いけれど、人体改造までは必要ない。普通の人間もそのまま搭乗できる。負担は相当なものだから、パイロットたちは専用スーツをきていたけれどね』

「アベレーション・アームズはやはり過渡期の兵器にすぎなかった、か」


 衣川の言葉にアストライアは頷いた。


『ACSというコックピットシステムが必要とはいえ、こんな抜け道を用意するとは思いませんでした。この短い手脚を操作し、さらに義腕義足を操作するという手法です』

「あの短い腕で武器腕を動かしてるってことかい?」

『そうです。手を細く短くすることで腕状の専用砲を装備。関節が一つなので操作も簡単です。腕部相当の部位も砲身化できるので装弾数と大口径化を実現しています』


 兵衛の質問にアストライアは解説する。


『ファミリアの映像もある。これをみて』


 画面に映し出されたのは鹵獲した武器腕シルエットと同タイプの機体。

 背中に装備しているのは、レールガンではなく腕だった。


『腕にさらに戦闘用や作業用の腕を換装できるみたいね。写真のものは戦闘用大型腕部。弾切れになったとき、これで格闘戦に移行するため』

「セリアンスロープたちが使う戦闘用クロウと同じ使い方か」


 セリアンスロープたちも戦闘用クロウを愛用する。護身用兵器なのだろう。


「予備腕とは厄介な。僕達は使えないというのに」


 ウンランが少し悔しそうだ。

 腕部を交換できるならどれほど兵装に選択肢が増えるか、夢想するからだ。


『補助腕と補助脚ですね。腕より脚のブースターのほうが厄介かもしれません。用途や場所によって履帯やホバーなど自在に換装できるようです』

『アベレーション・アームズよりこっちの開発が本命だったようね。間違いなく一種のシルエット革命ではある。犠牲も大きそうだけど』

「この形状にデメリットはあるのかな?」

『あるわ。クアトロ・シルエットと同じような制限があるみたい。つまり追加装甲や背面のバックパックによる追加能力などのサポート機能は無効化される』


 アシアの説明にアストライアが補足する。


『脚部の拡張機能が優れていますね。今回はブースター型搭載脚部でしたが、様々な脚部も想定する必要があります』


 A級構築技士たちも隣席にいる者に話しかけ、思うところを話す。


『胴体を中心にした特殊な腕部脚部の換装が可能なシルエット。これがアベレーション・シルエットです。汎用性は劣りますが尖った兵装を装備できることが強みといえましょう』


 アストライアがアベレーション・シルエットの構造を総括した。


『汎用性、人間と同じ動きをすることができるシルエットの本質からは外れた兵器ね。警戒は必要だけど』

「局地戦用に特化するにはこれほど厄介な敵もいないですなぁ」


 アシアの言葉に衣川は懸念を示す。


「ACSは俺達では使えないのかね?」

『データが敵に筒抜けになる恐れがあります。どんなブラックボックスがあるか不明です。やめておいたほうがいいでしょう』

「そうだよな」


 ケリーもACSを使ってみたい気持ちはあったのだろうが、危険性を考慮して諦める。


「ラニウスC型も苦戦を強いられている。コストは向こうが十分の一程度だろう。実に厄介だよ」


 ウンランも戦闘データをみながら考察する。ラニウスCは量産機のなかでもとくに高性能なシルエットの一つ。

 相性なども絡むとはいえ、データからみる戦闘力は対処を講じる必要性を感じるほどの脅威と思われた。


「コウを遠距離ガンナーにしたほうが早くないか? 無理か。無理だな」

「それは無茶ってもんだよ」


 勝手に提案し、そして納得したケリーと思わず苦笑する兵衛。

コウは決して射撃が下手というわけではない。問題は立ち回りなのだ。とにかく近付いて相手の死角をつく剣士ゆえの立ち回り。

 それを今から矯正することは難しい。ブルーの戦闘スタイルをインファター型に転向させることが難しいように。


 そして構築技士たちは対応するための会議を始めた。

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