武器腕
局地戦。
戦線が停滞し、点在する局所での戦場。
P336要塞エリアの包囲網打開から二週間。局地戦は頻発しているが大規模戦闘は発生していない。
だが、確実に異変は起こりつつあった。
「前線の戦車部隊が壊滅状態?」
戦車部隊が全滅とはただ事ではない。
制空権も均衡状態を保っている。コウのいる場所ではむしろ航空優勢状態だろう。
「高火力部隊に遭遇したとのことです。コウ。いけますか?」
アキからの通信だった。
「気になる情報が。敵機体は腕部と砲身が一体化した武器腕状の装備をしていたという報告があります」
「武器腕ではシルエットは動かないはずだ。新手のアベレーション・アームズか?」
新しい情報に緊迫した空気が流れる。
「ちょっと待って? 続報です。航空支援部隊も壊滅。一機のみ支援のため残っているそうです。対空能力も極めて高いとのことです」
「単機では無茶だ! すぐ帰投するよう連絡を。こちらも急行する。ファミリアたちの脱出は」
「半々ぐらいです…… フォローしているシルエット部隊も後退を開始しています。攻撃機とシルエット部隊の撤退の援護をお願いします」
「ラニウス隊。動けるものはついてきてくれ」
ネレイスたちが駆るラニウスを中心としたアサルトシルエット部隊を引き連れ、局地戦が発生した場所に急行したコウ。
「シルエット反応あり。これが高火力兵装のシルエットか」
戦車やアベレーション・アームズではないようだ。
「複数いる。対空も可能。かなりの高火力らしい。皆注意してくれ」
「了解!」
ローラーダッシュをやめ、歩行で進軍するラニウス隊。
「ビッグボス、下がって!」
死角からミサイルが迫る。有線の、だ。
ウィスが通っている。迎撃できるかどうか不明だ。
五番機は電磁バリアを発生させるが、予想通り迎撃できない。
直撃を受ける五番機。強固な誘導兵器とは相性が悪い。
五番機の電磁装甲を抜くほどではなかったが、追加装甲がなければ危なかった。
間髪をいれず敵の猛攻が始まる。
大口径の機関砲掃射がラニウス隊を襲う。
「みな下がれ! これはきついな……」
ラニウス隊は電磁装甲装備機ばかりだが、コウの五番機のような金属水素生成炉を持つ機体は二機のみ。
貯蔵された金属水素が無くなれば、ただの強化装甲だ。
「ジェイミー!」
「おうさ! ビッグボス!」
二機のラニウスCは二手に分かれ、襲撃者を襲う。
五番機は孤月の柄に手を添え、敵との距離を詰める――
前方にいた機関砲を構えたシルエットに向かおうとし、脚を止める。
敵は二門の機関砲を構えていた。
それは異形の腕。腕そのものを砲に換装しているもの。
シルエットのMCSでは本来動かないはずの、
「武器腕、だと……!」
ありえない武装に言葉に詰まる。
異形のシルエットの一斉射撃。
両肩に装備された砲と両腕の機関砲が五番機を襲う。
後ろに引いたら直撃を受ける。ラニウスは敵の右方向に向けて加速する。
同様に敵シルエットも左にブースターを利用した高速移動を開始した。よくみると脚も二脚だがブースターのような推進機構を持つ形状をしていた。
武器腕シルエットはラニウスを射程内に収め、そして距離をとり続ける。その機動力もまた侮れなかった。
「コウ! 引いて! あなたと相性が悪すぎる!」
「持ち替えて! 相手は距離を取るよ!」
アキの悲鳴に似た指示。にゃん汰の切迫した助言が飛ぶ。
ガンナータイプとコウとの相性が悪いのは以前から指摘されていた。
高機動瞬間火力型シルエット――ラニウス殺しともいうべき恐るべき仮想敵が登場してしまったのだ。
「くっ……」
引いたら死ぬ。敵は射撃武器なのだ。距離を詰めて斬るしかない。
飛べば的となる。五番機の装甲を信じるしかない。しかも視界外からの援護射撃もあるのだ。囲まれているとみたほうがいいだろう。
加速しようと腰を沈める。被弾ダメージは増えるが、他に手はない。射撃武器に持ち替えたところでダメージレースは圧倒的な不利となる。
敵も高速加速が可能。弾切れを狙えるかも不明だ。
敵の武器腕シルエットは、五番機の動きを見てから対応すればよい。
防御側の優位性だ。
空に浮かぶネメシス。赤色矮星に影が発生した。
その影から火砲が発射され、敵シルエットが被弾する。
「へへ! ボス。一人で戦うなんて無茶だぜ!」
垂直に近い戦車砲による急降下爆撃。
見覚えがあるその機体は、コウが改良した攻撃機。
パイロットはハイノ。歴戦の狼型ファミリアだ。
「お前か!
一機のみ残って戦闘を継続していた航空機は彼だったのだろう。
敵シルエットが迎撃するべく両腕の機関砲で対空射撃を行う。
普通ならば、これで攻撃機への迎撃が完了する。
普通ならば、だ。
重装甲を特徴とした大砲鳥は普通では無かった。被弾上等の空飛ぶ戦車ともいうべき機体に仕上がっている。
「効かねえなあ?」
不適に笑いながら狼は墜落もあわやと思わせる急降下を続ける。ネメシスの陽光を背に。
対空射撃は機首のMCS中心とした重装甲を貫くことはできなかった。
「おらよ! こっちも戦車砲と有線ミサイルだ!」
大砲鳥は火を噴き、パイロンから発射された対地有線ミサイルは戦車を絶対破壊する意思で装備されている。
機動力は腕でカバーする。太陽を死角にした急降下による奇襲には高機動シルエットといえど対抗できなかった。
「シルエットも頭上は死角。
対戦車ミサイルを受け、バランスを崩す武器腕シルエット。
大砲鳥は急上昇に転じる。
別の場所から大砲鳥を狙う対空射撃が行われる。バレルロール軌道を取りながら回避した。
「帰投といったはずだ!」
「引き返したさァ! 弾の補給にな! でないとあいつらは殺れねえ!」
どこまでも不敵な狼だった。
「やるぞ、ボス。まだこの武器腕野郎は何機かいる! 早く止めを!」
「わかった!」
大砲鳥に気を取られていた武器腕シルエットはコウへの反応が遅れた。
その隙で十分だった。
刃が届く間合い。一気に胴体を貫き、武器腕シルエットの動きを止める五番機。
装甲はさほど厚くないのが幸いした。
「鹵獲完了。アストライアに持ち帰り解析を行う」
「こちらジェイミー。すまない。一機はなんとか倒したが、予想以上に手強い。撤退した」
「了解。正しい判断だ」
「早く二人は戦場から離れて。ハイノ。支援感謝します」
ハイノがいなければ危なかっただろう。
狼は通信超しにサムズアップを行い、無言で飛び去った。
「コウの後退開始を確認。――にゃん汰?」
さきほどの武器腕シルエットの画像を見入るにゃん汰。
「まずい。あの手の敵はコウの天敵……」
にゃん汰が一番怖れていた仮想敵が遂に登場してしまったのだ。
心なしか声も震えている。大砲鳥がいなければ本当に危なかったところだ。
「私たちは想定していました。ついに現れたというところでしょうか」
「あの猛射の瞬間火力を五番機に与えないといけない」
「継戦能力が高いとは限りません。まず敵機の解析を」
「そうね。情報が欲しいところ。アストライア。所見を聞かせてよ。武器腕なんて可能なの?」
『本来は不可能です。可能にした例をたった今確認したところです。解析しないと無理ですね』
「あなたが無理なら私たちにわかるはずもない、か。ユリシーズにまず一報を。全構築技士が知らなければならない情報ね」
武器状の腕部を持つシルエットが現れる。
ユリシーズ所属の構築技士たちにも激震が走る一報だった。
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