前線の声
アストライア内にある
以前は使ってないものだったが、要人が多数集まってきたことにより解放された。幹部の自覚のないコウはここで食事するよう、皆にきつく言われている。
コウが朝食をとっていると、朝から白熱した議論をしている二人組がいた。
ケリーとジェニーが笑いながら談笑し、時には怒鳴り声をぶつけあっている。
それが終わるとお互い爽やかな顔で握手し、離れていった。
「どうしたんです。ボス」
「ごきげんようビッグボス! タキシネタ改良のための打ち合わせだ!」
いつのまにやらビッグボスと呼ばれているコウに対し、ケリーは不敵に笑いながら言う。
こちら側へようこそ! といっているみたいである。
「やめてください。それは。ジェニーに直接聞いたんです?」
「いつもそうだぞ。メールや通信でな。ジェニー用のカスタマイズをしているのさ!」
「聞き取りをですか。意外だ」
「重要だぞ? 確かに誰が使うか考えて兵器は作るが、遣い手の声だって大事さ。使いにくいものを渡しても仕方あるまい」
「でもどうして怒鳴り合いにまで」
「真剣に考えているからこそ、だな。どうしても実装して欲しい機能や不要な要素と思える部分が乗り手と設計者では違うのはよくあることだ」
「なるほど……」
「上っ面でふんふん頷いているヤツよりよっぽどいいね! あとでこんなはずじゃ、って死なれても嫌だしな」
「死なれても、か…… それはそうですね。俺も今度、聞いてみます」
「良いことだ。どんどんやれ!」
タキシネタだけでも十分に高性能だと思うが、さらなる性能アップを目指すのだろう。
コウも前線に立つファミリアの話は聞くが、方向性を持って明確な話を聞いていたわけではなかった。
リックと合流すべく、コウもまた連絡を取ることにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「すまない。リック。呼び出して」
「講義はちゃんと受けているか?」
笑いながら尋ねるリック。このセントバーナード型のファミリアがアカデミー設立に動いたようなものだ。
「受けているよ!」
「それは良かった。そのことに関連する話だと聞いたが」
「ファイティングブルの撃墜率が気になってね」
「あれは素晴らしい戦車だ。敵がそれ以上の重戦車主体だった。それだけのことだ。とくに改良の必要はないと思うがね?」
「そうかなあ」
コウは撃破されているファイティングブルを多くみた。
機兵戦車はあくまで補助的なもの。最前線を征くのは常に主力戦車なのだ。
「コウ。君はたまに献花台でみると聞いた。気を病むにはまだ早いぞ」
「いや…… そんなことは」
長期にわたる戦争だ。死者は多い。人間も、ネレイスも、セリアンスロープも。そしてその十倍以上のファミリアたちが死んでいる。
コウは常に自問しているのだった。
ぽつりと呟くように問う
「装甲をこれ以上あげるのは?」
「回避行動取れなくて死ぬよ」
「機動力を上げるのは?」
「装甲が薄いと死ぬよ。そして不安になる」
「火力をもっと上げて先に撃破するのはどうだろう」
「自走砲で良い。戦車は火力、装甲、機動力。ウンラン氏にも叩き込まれただろう?」
「そうだよな…… 全部の両立を、か。小型化は?」
「積載がなくなって継戦能力が落ちるな」
「大型化は被弾面積が増える、か。小型高性能って難しいな。高くなるし」
「高価すぎる戦車は数を揃えられないよ。死ぬよ」
「難しいな」
「君はよくやっている。機兵戦車は歩兵の代替であるシルエットの連携を可能にした。ファイティングブルはバランスがいい。君が設計したとは思えないぐらいだ」
「ひどいな!」
「はは。たまには褒めないとな!」
リックは本気でコウを褒めたいようだ。
コウはファミリアに対してはお人好しと思えるぐらい甘い部分がある。
「転移者が現れるまでは我々は電気自動車に工具用インジェクションガンを改良したもので戦っていたんだ。それがない場合は……体当たりだ」
「アシアに聞いた。マーダー一機倒すのに、たくさんのファミリアが犠牲になっていた時代もあったと」
「そうとも。そしてアシアが封印され、ファミリアの生産も極小に。我らも兵器に頼らざるえなくなった。君がきて技術解放してくれたから私たちはまだ生きているよ」
「そのせいで多くのヒトも、ファミリアも死んだのかもしれないと思うとね」
「もっと犠牲が多くなっていたさ。無人のマーダーに押し潰されてね」
「ヴォイに最初言われたんだよな。技術解放で世界が滅んでもお前のせいじゃない、と。だがやはり一端は俺にあると思う」
「怖いかね? いや怖いだろうな。電子励起爆薬を使った兵装の封印もそのあたりかね」
「そう、なんだろうな。多分」
「ふむ。ならば一緒に行こうじゃないか」
「ん?」
リックに連れられてコウは移動した。
それは整備工場だった。
多くのファミリアがファイティングブルや装軌装甲車などを整備している。
動物たちが玉掛のクレーンや重機を利用して整備する様は微笑ましくさえある。
「今は新型装甲に順次改装中だ。これで君が気にする撃墜率も下がるだろう。……ファミリアの死傷者数もね」
「後者が重要だ。新装甲もシルエット改良優先だから追いつかない」
「シルエットを優先したまえ」
セリアンスロープが操縦する作業用のクアトロも忙しく動いている。戦車の整備は断然こちらが楽だ。
「整備性も性能だが、ファイティングブルはよく考えられている。地球では鷹羽氏の会社に勤務していたんだな」
「納期遅れは厳禁、安全もコスト。物流改革。そんな話しばっかりしていたよ」
「こちらでもそれは変わらないさ。おっと君。戦車隊の人員も集めてきてくれ」
「はい!」
通りすがりの黄色いヘルメットを被った猫型ファミリアに声をかけたリックは、戦車兵たちを集めた。
愛機の整備に参加している者がほとんどなのだ。
「リック。どうした」
プードル型のファミリアを中心に、戦車隊が集まる。
「ビッグボスがお前らの話を聞きたいらしいぞ。ファイティングブルに不満はあるかね?」
全員、コウの正体に気付くと気をつけをして敬礼した。
コウは思わず苦笑する。
「いや、普段通りでいいよ」
「ビッグボスに進言いたします! ファイティングブルに不満などありません!」
それぞれ顔を見合わすファミリアたち。
「電磁装甲もあり、誘爆の危険もないレールガンと対空機関砲装備。無駄のない設計であります!」
グレイの猫型ファミリアも背筋を伸ばしたままこたえた。
「汎用のランチャーで有線ミサイルや煙幕弾なども使えますからね」
「むしろもっと増やして欲しいであります!」
「そ、そうか……」
そこまで前線で好評だと知らなかったコウは若干面食らう。
「大口径化とか必要ないかい?」
「これ以上方針が長くなると、実際の運用に支障をきたします。それは21世紀にも同様の事象があったと聞いております」
そんなことは知らなかったコウは無表情で頷き、いったん取り繕う。
「市街地戦に不適となった例があったな。お前ら。せっかくの機会だ。ビッグボスに欲しい機能を相談しておけ」
「そうだな。みんな座ってくれ。もう少し話そう」
「はい!」
車座になって座るコウとファミリアたち。
白熱した議論となり、リックに相談したのは間違いではないと改めて思ったのだった。
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