ブリコラージュ・アカデミー
コウのための講習は予想以上の大事となった。
リックが主導で進めていたウンランの陸戦想定兵器の開発基礎の講習予定が、クルトと衣川の航空機講座も加わる。
俺も混ぜろと乱入してきたケリーに、面白半分に参加した兵衛。現役のA級構築技士全員が集まったのだ。
各兵器について通信を使った
P336要塞エリアはアシアが自ら設計した重工業地帯。試作機生産能力も高い。
参加できるのは当然ながらユリシーズに参加している企業の所属の構築技士のみ。
今日は講義ではなく、構築技士たちによるアベレーション・アームズ対策だった。
「結論から申しますと、アベレーション・アームズに兵器としての優位性は決して高くありません」
衣川がそう断じた。
「そうだろうな。否定はしないが、戦闘機のアベレーション・アームズは確認されていない。乗り物であることが重要であり、アベレーション・アームズの基礎概念である
ケリーも認めた。
「そこですね。戦闘機や戦車は乗り物として最適な形を模索していた。生物ではありません。車輪は費用対効果に優れた優秀な移動手段ですよ」
「彼らにはファミリアがいないからね。戦車や戦闘機運用だけに人員が割けない。思考能力を奪いすぎた末路だが、それを活かすために生体部品と化した。いわば代用品だ」
衣川の言葉をウンランが引き継ぐ。
「現在の脅威はアラクネ型のみですが、あれも多脚戦車に高性能シルエットを組み合わせただけのもの。それ以外のアベレーション・アームズは手足がある軽戦車に過ぎません」
クルトの言葉に、兵衛が割りこむ。
「とはいっても足があるんだ。深林地帯なんかにゃ脅威だな」
「利点はそこだけかもしれません。シルエットと移動できる範囲を随伴できる戦車、ということです。全てを作業用シルエットで賄う必要があるアルゴナウタイ全体の欠点を補っている。彼らなりの補給線維持の工夫でもありましょう」
ユリシーズは自動車や輸送機を使って物資を運搬。ファミリアたちが重機を操作し、人手不足を賄う。
シルエットが作業する。今やクアトロ・シルエットも加わり効率性は増している。
「アベレーション・アームズは非効率な兵器だと言う結論でいいか」
「現状では。開発されたばかりです。最適化を徐々に図るのでしょう。現在マーダーは既に時代遅れ。空いたラインを使って生産する急造兵器という認識でよろしいかと」
ケリーの言葉を肯定する衣川。
「だが、衣川氏。それだけでは終わらないと?」
クルトが疑問をぶつける。
「はい。まだ仮定の段階ですが、そう遠くない未来には現れるはずです。かの技術を応用した『アベレーション・シルエット』が」
全員驚いてはいなかった。
予想はしていたからだ。
「アベレーション・アームズで培った技術を応用したシルエットってことだな!」
「今のままでは人間を改造する。それではやはり非効率です。ならば異形のシルエットを作るほうに舵を切るでしょう」
「MCSがそれを許すのかねえ?」
「手がある獣脚型が確認されましたからね。抜け穴はあるはずですよ」
「俺達だって変形するシルエット作ってるもんな。構造的にはジェットパック背負ったロケットマンなんだけどよ」
ケリーが苦笑した。変形するシルエットは設計的には背負っているか身にまとっている、という型式を取っている。
「我々はどのような兵器が開発されるかを想定して兵器を構築しています。ですが異形までを考えると難しいですね」
「クルト! そこはあれだ。もっとシンプルに考えようや。兵器として目的に最適化するだけだよ、俺達は」
「そうですね。最適化を進めましょう。我らにも新たな技術がある」
クルトはモニターを展開し、ラニウスCを表示した。
「では、ツインリアクターの実戦データを開示、解説をします。これはさらなる出力増加という目的を達成できましたが、より積載兵装に制限を……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「コウ。ちゃんと聞いているわね」
ジャリンがコウの五番機と通信する。彼女も構築技士だ。この講義は欠かさずチェックしている。
「俺の指導のための講義だからな」
「マットが生きていればね……」
「そうだな……」
「ちょっと! 勝手に殺さないでよ!」
マットが通信に割りこんできた。
「僕もちゃんと聞いているからね」
「知っている。リュビアから通信許可が出たのか」
「でたよ。何が起きてるかはまだ話せないけど!」
「束縛が強いヤンデレ彼女に監禁されている優男みたいね」
「やめて」
コウは苦笑した。ケリーのもとで学んだ、大切な友人たちだ。
学生時代だってこんな気心の知れた友人はいなかった。会社に入ったあとの修司ぐらいだろう。
「アベルさんの安否はまだわからない?」
「うん。リュビアも不思議がってる」
「あの人の口癖はファンタスティックだが、本人が一番ファンタスティックだ」
不思議系構築技士である。今回のアカデミー設立になったのは兵器の講習が目的だった。
コウとアベルが作ったパンジャンドラムが遠因であることは間違いない。
「それよりもコウ。五番機のツインリアクターの問題点って?」
「ウィスの出力は今まで以上に上がったんだけど、重量がきつい。今五番機はAK2と太刀と大脇差を模した騎馬型武者の拵えを参考にした武器を搭載している。砲身の長いAK3でも辛いな。これ以上重くなると運動性能に影響がでる」
「なんで刀が二本いるのよ。でも装甲筋肉でも無理なのね」
「二そこは装甲筋肉なればこそ、かな。装甲筋肉と光学兵器は相性悪かったが、ツインリアクターでカバーできるかもしれない。必要かどうかも含めてね。アサルトシルエットは前線で戦うタイプだから実弾系のが向いているからだけど、ツインリアクターは即正式採用というわけにはいかない」
「バリーさんはぶん回して戦っているみたいね」
「あの人は俺みたいに接近命じゃないけど、前線で被弾上等で戦うからな。見ているほうがヒヤヒヤする」
「コウ。それは鏡を見て言っているのか」
マットに指摘され困惑する。自分ではそれほど無茶をしているつもりはない。剣士が斬る間合いに入らなければ戦えないからだ。
気まずい空気を変えるべく、話題を変える。
「それはともかく。マットは何故通信出来たんだ?」
「大きなネズミがいるってリュビアがぼやいているよ。資材がなくなるらしい」
「ネズミ?」
「よくわからないけどね。アシアとアストライアに伝えておいてくれって」
「わかった。姉妹なら自分で伝えたらいいと思うんだけどな」
超AI同士の関係性はよくわからなかった。
「そっちの秘密計画はどうなんだ?」
「僕のほうも地獄の猛特訓だよ。コウと同じさ」
「何ができるか楽しみにしているよ」
「あまり期待しないで欲しいね」
マットが苦笑しながらいった。リュピアのサポートはC級構築技士でも、様々な可能性を追求できるだろう。
コウはマットが自分を超えたセリアンスロープ用シルエットを作ってくれると信じていた。
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