アシア大戦後編―決戦! 宇宙戦艦撃破作戦

ツインリアクター

 獣脚型アベレーションアームズが森のなかを進行していた。

 数十機もの恐竜型兵器は進軍する様は、人に潜在的な恐怖を与える。


 だが人類も負けてはいない。

 物陰から飛び出たのは待ち伏せに優れたランドストローム社の無砲塔戦車ヴァーリだった。


「あのアベレーション・アームズは所詮恐竜。バランスも悪い。戦車の敵ではない!」


 指揮官が叫ぶ。だが、彼らには戦車にはない、恐ろしい手――攻撃用のクロウがあった。


「確かにその巨大なクロウは脅威だな。だが――」


 さらなる森の奥からブースターを加速しながら突進する機体。

 ラニウスC型――コウの五番機だった。


 迎撃するべく、その巨腕を振り回す恐竜型ダイナソータイプ


 五番機はブースターを止め、土煙をあげながら滑るように懐に飛び込む。

 予想外の動きに一瞬動きを止める恐竜型だが、すぐに腕の攻撃に映った。


 大型クロウが宙を舞う。抜刀し、カウンターで斬り飛ばしたのだ。


「やはり恐竜型はウェイトが足りない。軽量型シルエット程度じゃないか?」


 コウはだいたい15トン前後と予想した。

 装甲筋肉採用機は見た目よりもウェイトがある。斬り合いになれば敵ではない。


 そして後退し射撃に移ったとしても、欠点がある。

 40ミリ機関砲が火を噴いた。


 五番機の装甲の前には効果がなかった。


「こちらも新装甲に換装してある。機関砲程度では電磁装甲を抜けない」


 コウは新たな五番機の力をチェックするかのように、戦っていた。


 五番機はスラスターを駆使しながら滑るように滑走し、敵を斬る。

 四肢が若干、太さを増していた。


「コウ。調子はよさそうだな」


 バリーもコウと同じく新しい装備、巨大な大剣を背負っていた。

 異様なのは、スラスターのような噴射口が装備されている、肉厚な大剣だ。


「そっちの新兵器もな」

加速補助ブースターブレードか。えげつねえけど気に入ったぜ!」


 振るう度に炎が峰に当たる部分から噴射される大剣。

 それはアルゴフォースの金属流体剣を解析し、メタルアイリス用に応用した大剣だった。


 流体金属を飛ばしたり燃やすのではなく、純粋に燃料として用い、敵を両断する。

 以前なら制御不可能な片刃の大剣である。

 

 それを可能にしたのは、二機のラニウスの新設計にある。


「ツインリアクター。ここまで効果が出るとは」


 アシアが解放した新技術を早速応用したのだ。

 本来は定格であるリアクターとパワーパック。パワーパックを構築ブリコラージユできるようになり、小型リアクター二基搭載したり大型リアクターを搭載し大出力も可能になった。

 リアクターとパワーパックは構築技士の腕の見せ所だ。ラニウスC型のリアクターは兵衛が作成したものだった。


「お前のためにあるようなものだな。機体の出力も上がり、装甲も増し、装甲筋肉の制御もより容易になる」

「ああ!」


 高まるコウの要求に対して確実に応えてくれる愛機。

 コウは日々の戦闘も苦にならなかった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 戻ったコウは実験データを兵衛に渡す。


「ふむ。ツインリアクター、調子いいじゃねえか」

「ありがとうございます!」

「効率は決してよくない。良くないんだが……それでも制御するパワーは高いほうがいい。そんな近接機、つまり俺達用のリアクターだな」

「はい。そう思います」

「万一リアクターの片方が死んでも、動けるのも大きい。以前より直進番長っぽいのはご愛敬さ」


 長所が増えると同時に短所も増える。

 そこはチューニングの要であろう。


「そうですね。戦闘機も単発機、双発機とありますが、単発機で事足りるなら無理に双発にする必要はありません」


 クルトもそこにいる。

 ここはブリコルール・アカデミーと言われる新設された施設だ。


 コウの補講のために集まった構築技士たちだが、 ケリーまで加わっての個人授業ではあまりにもったいない。

 そこで構築技士による研究施設を急遽作ったのだ。設計はアシアなので万事抜かりはない。


「双発機が要求される戦闘機とは?」


 ここは質問せねば怒られる場面である。クルトは優しく、そして厳しい教官だった。


「まず信頼性が増しますね。海軍機に採用が多かったのはこの信頼性です。片方がトラブルを起こしても帰還できる可能性が増します。次に搭載量が増えるので航続距離が増し、兵装も多く積めます。最後に加速性能といったところでしょうか」

「欠点は?」

「重量の増加と、コストですね。整備性も悪くなります」

「なるほど……」


 コウは納得して席を離れようとした。

 そこをクルトに肩を鷲掴みにされる。


「コウ君。この前の高性能戦闘機構築の課題に関してですが」

「はい……」

「君の考えた超高性能戦闘機である八発機。いくらシルエットベースとはいえ、採算度外視で考えすぎです」

「八発はダメですか。格好いいかな、と……」


 見た目と浪漫で片側上下に二発機、計八発の戦闘機を構想した男がここにいた。


「輸送機なら。設計思想は加速力重視。そこはわかりますが過剰すぎです。戦闘機で八発ものエンジンは必要ありますか? よく考えましょう」

「戦闘機はクルトさんに任せてるからな。頑張れや、コウ」

『ふがいなく申し訳ありません』


 アストライアが実体化してまでふかぶかと頭を下げる。保護者のようだ。


「ちょっと待って。アストライアまで!」

「私もとにかく出力重視。最高効率ではなく、絶対性能を重視でしたから人のことはいえません。教え甲斐がありますから、安心してください。アストライア」


 フラフナグズはその最たる位置にある。あそこまで絶対性能にこだわった機体はない。

 クルトはコウの設計をみると昔の自分を思い出すのだろう。


 そして奥の個室に連行されるコウ。

 毎日が補講の日々であった。

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