閑話 未知との邂逅

 アベルが目を覚ました時、洞窟のなかだった。

 シルエットベースは山中の秘密基地だが、洞窟まであるとは知らなかった。 


 何者かが、彼を助けてくれたらしい。


 目を凝らすとそこにあったのは――


「ハリネズミ?」


 ファミリアだろうか。

 ハリネズミがそこにいた。


 彼の周りにはレーションと透明な水筒に入った水が置かれてある。


「ありがとう。フレンド。言葉は話せるかな?」


 ハリネズミは悲しそうに首に横を振った。

 

「でも私の言葉はわかるね。ならば君は恩人、私のフレンドだ。ファンタスティック!」


 ハリネズミは嬉しそうに頷いた。間違いなく彼の友人だ。

 初期型のファミリアは会話できないものも多かったという。彼は初期型なのだろうか。


「レーションは……普通にいけますね」


 アベルが見たこともないタイプのレーションだったが、日頃の食事のせいもあってか普通に食べることができた。


 ハリネズミに誘導されるように、薄暗い洞窟を歩いていくアベル。 

 時間の感覚はまるでない。


 眠ったところで、起きたらハリネズミが彼のために水とレーションを持ってきてくれているのだ。

 抱きしめたいところだが、痛いので諦めた。


「ありがとう。ところで君はどこへ連れて行くつもりですか?」


 ハリネズミはアベルの顔をみて、小首を傾げる。


 彼を誘うように歩き始めるのだった。


「白ウサギならぬハリネズミに誘いこまれていくとは…… 女王かジャバウォックでも出るのかな?」


 自らをアリスに例えると、アベルもまた進む。


 しばらく進むと大きな扉があった。

 荘厳な、古代遺跡のような扉だ。


 美しい少女が中心に座っており、壺とも箱ともいえないものを抱えている。三人の女神が彼女を取り囲み花飾りを付けている。


「文字が書いてある。ギリシャ語ですね。Pand?r?? パンドラですかぁ!」


 その意味することは明らかだ。災厄が詰まった、伝説の逸話を意味する。


「これは封印の一種。いわば決して開けてはならない扉と見ました。――開けましょう!」


 わくわくしながらアベルは迷わず扉を開ける。


「希望(エルピス)とは本来、儚いタンポポの綿毛の如く儚いんですよねー。何がでるか楽しみです」


 災厄を楽しむかの如く進んで行く。


「そういえば愛欲ピロテースや破滅アーテーもパンドラから飛び出した説もありましたね。オリジナルを作ったのはアストライア。伝説ではパンドラの創造主はプロメテウス…… はは、まさかね」


 不安なことを呟きながら進むアベル。


「ピーピー」


 ハリネズミが鳴いた。


「このなかを進むしかないのですね。うっわ。ファンタスティック!」


 探索している興奮を隠せないアベル。

 進んで行くと祭壇のようなものがあり、二つの髪飾りの花輪があった。もう一つあったようだが、それはなくなったようだ。


「おや花輪の髪飾りが?」


 髪飾りの花輪二つ。それが空中に浮き輝き、合体した。たんに密着しただけだが、疲れ果てたアベルには別のものに見えた。


「おお…… パンジャンドラムの導きか……」

「キュー?!(違うよ?!)」


 ハリネズミの抗議も、アベルには伝わらなかった。


 アベルはひたすら先に進んだ。

 いつの間にか洞窟は完全な人工物に切り替わっていたが、一本道は進んでいる。


 再び巨大な空洞に出た。

 それはとても神秘的な地底湖。


 泉に立つ美しい女性がいた。それは巨大な姿。ビジョンであろうか。

 燃えるような淡いストロベリーブロンドの長髪が腰まで届いている。

 美しい、同じような赤い瞳。


 思わず膝をつき祈りを捧げるアベル。


「あれはまさに! パンジャンドラムの女神かー!」

 

 祈りの姿勢で歓喜するアベル。


「違います」


 女神と呼ばれたビジョンは即座に否定した。 

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