宇宙戦艦の弱点

 アルゴナウタイ。そしてカストル率いるアルゴフォースもまた決断を迫られていた。


「凌がれたか。想像以上のやり手だな。メタルアイリス」


 むしろ嬉しそうなカストルだった。

 もとより不老不死の存在。ストーンズにとって生身の肉体を持つということ自体が娯楽の一種に過ぎない。


「開戦前にはアストライアの存在とユリシーズの参戦は予想外でしたよ」

「兵器開発統括AIの生き残りアストライアにアシアの技術解放。そして構築技士集団であるユリシーズ。相乗効果は計り知れない」


 ヴァーシャとアルベルトが所感を述べる。

 彼らにとっては想像以上の戦力であった。


「なあに。技術はジャック老から我らも奪い取った。リュピアからの提供技術もある。あと数ヶ月は兵器実験が出来るのだ。彼らにはせいぜい足掻いてもらわねば」


 カストルにとってメタルアイリスとの戦争はマーダーに代わる兵器の実験場に過ぎなかった。


「メガレウスはしばらく移動できん。致命的な弱点があるからな。その間にP336かR001を抑えておきたかったが……」

「おや。意外ですな。メガレウスならばそれこそアストライア、キモンにあの二隻の宇宙強襲揚陸艦がまとめてきても敵わないと思いますがね」

「所詮単艦よ。二キロ以上ある宇宙戦艦がちんたら飛んでみろ。それこそ集中砲火を喰らって終わりだ。最悪強襲揚陸艦が体当たりを仕掛けてきてもおかしくない」


 メガレウスの戦力は強大だ。

 カストルはその戦力に溺れることなく、冷静に判断するよう努めている。


「さすがにそれは……」

「それを防ぐために防衛ドームをいくつも潰してAアクシオンを回収。空中空母を作ったのだ」


 護衛艦隊の概念を宇宙戦艦に導入することは難しい。

 護衛空母として使い捨て兵器、宇宙戦艦に随伴はできないが足止め用などを念頭においた空中空母運用がカストルの目指すところだった。


「とはいえ、メガレウスがここにあれば、彼らの宇宙艦も行動を制限できます。移動させる必要もないのでは」

「そうだな。飛んだが最後集中砲火を見舞わせて終わりということだ」

「逆にいえば敵の攻略対象もこの船になると」

「最前線基地として、な。失った兵力を回復させ、メガレウスを起点に各部隊を配備する」


 ヴァーシャもその言葉に頷く。


「アベレーション・アームズも有用です。包囲する状況は敵も阻止してくるでしょうが、力押しに足る戦力は用意できるでしょう」

「陸の戦力が心強いのは二人のおかげだな」


 量産性を最重視するヴァーシャと火力を最優先するアルベルト。

 設計思想に違いはあれど、二人の思考もまた相乗効果を生み出していた。


「私はエリートフォース用のカスタム機の作成に入ろうと思います」

「コルバスでいいではないか。私は気に入っているぞ」

「あれはいささか機動力に欠けますからね。戦闘用の特殊部隊にはレイヴンとコルバスを。強襲用部隊の兵器を作りたいと思います」

「期待しているぞ」

「お任せを」


 こういうときに部下に任せるカストルは良き司令官だ。ストーンズとは思えない柔軟な思考を見せる。


「私はアベレーション・アームズの改良と設計の手伝いをいたしましょう」

「頼んだぞアルベルト。陸上巡洋艦のように歩行も兼ねた戦車を研究せねばならん」


 砲撃狂を揶揄せず、むしろハッパをかけるこの手腕が恐ろしいとヴァーシャは思う。

 むろん認められることのなかったアルベルトから無類のやる気を引き出すことに成功している。


「ヴァーシャ。絶えず戦線を作り出せ。手を緩めてはならんぞ」

「了解いたしました」

「アルベルト。アベレーション・アームズの生産ラインは適度にな。極力新種を作り出せ」

「どれが最適な兵器か見極めるわけですな」

「そうとも。恐竜が滅びて哺乳類が栄えたかの如く、獣脚型のアベレーション・アームズが最適とは限らん。結局は従来の兵器で十分ということさえ考えられる」


 カストルは己の生み出した兵器にも冷静に判断していた。

 役に立たない、費用対効果が悪い兵器は即座に打ち切るつもりなのだ。


「車輪や履帯と比べると脚部というのは部品点数が多く、バランスも悪いですからね。不安定になりがちです」

「そうとも。結局は従来の兵器や四つ足や昆虫型に帰結するかもしれん。データはきっちり取っておけ」

「はっ!」



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「リュピアを呼び出せ」


 カストルは二人がいなくなった戦闘指揮所で部下に命じた。


「カストル様…… そのリュピアは……」

「そうか。表層人格が破壊されたんだったな」


 ため息をついた。

 超AIのリュピアの表層人格が行方不明なのだ。人間でいうと発狂に近い。

 人格のメインデータはどこかに避難させていると踏んでいるが、ストーンズをもってしても何処かわからなかった。


「最後のリュピアの発した計画は錯乱した補給攻撃、だったか」

「はい。補給しながらアシアを攻撃するといっていました。うまくいけばアストライアの本拠地が判明し、甚大な被害を与えることができると」

「命中しなければアストライアの本拠地は特定できないんだったな。その場所がおそらくシルエットベースといわれるところだ」


 カストルにしてもシルエットベースは手に入れたかった。

 傭兵機構の人員が目にした、山岳部の秘密基地。

 巨大な居住区に、要塞エリア並の生産設備があると言うのだ。


「惑星リュピアのストーンズ人員は?」

「避難した模様です。逃げ遅れた者は不明です」

「管理していた人類は?」

「全て不明です。データ的には死亡したとみていいでしょう」

「マーダーの惑星になるとは、な」


 惑星リュピアは正体不明の内乱が起きた。

 マーダー同士が殺し合いに発展したという。

 

 開発途上の竜弓類グループのマーダー開発が原因といわれている。


「まあいい。リュピアはもともと生態系プログラムの実験惑星みたいなもの。人間を放り込んだとしてどのみち食われる」


 改めて部下に尋ねる。


「到着はいつだ?」

「明日には到着するかと」

「補給攻撃、か。リュピアもえげつないことをする。正気を失った超AIは敵に回したくないものだ」


 カストルは腕を組み考え込んだ。

 補給攻撃。その意味するところは――

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