補講もありますよ
陸上巡洋艦を中心とするキモン級への追撃はいまだに続いていた。
バトルベースモードとなったキモンはまさに難攻不落の要塞そのもの。
ミサイルの間接支援、補給、修理。すべてを賄っていた。
「相手はこちらの息切れを狙っているはずね」
ジェニーが冷静に分析する。
「もう一回俺がでるか」
「その必要はないわ。R001要塞エリアからの援軍。これで勝ちね」
ジェニーが自信満々な笑みを浮かべる。
リックも画面を確認した。
「この手があったか。予想外だ」
「これは勝負あったな」
リックとバリーが認める援軍。
荒野をドリルで走破する、ソウヤの姿がそこにあった。
「アルキメディアンスクリューによる地上走行は設計の想定内です」
エリはジュンヨウのなかで呟いた。
「欠点は荒野を耕してしまうぐらいですが。補給も兵器も積んでいますよ」
エリの指示通り、ソウヤはR001要塞エリアの海上から補給物資と援護するための各種兵器を搭載して発進。
海上からキモン級まで最短距離を計算し、まっすぐやってきたのだ。
パンジャンドラム『メロス』は大きく迂回して移動していたが、最高速度の差である。
アルキメディアンスクリューでは、それほどの速度はでないのだ。
戦車型可変シルエットである十式と零式がそれぞれ発進する。
十式は荒野での撃ち合いを想定し戦車形態で運用だ。
「ソウヤと合流し、一気に押し返す。この戦力ならできるわ」
ジェニーはそれぞれの部隊に指示をだす。
「敵が撤退するなら深追いは厳禁。逃げ遅れた敵はキモン級からミサイルをお見舞いするわ」
「容赦ないな、ジェニー」
「さんざんしてやられたもの。これぐらいはね」
自身も撃墜されそうになったジェニー。やはり苛立っていたようだ。
ジェニーの宣告通り、逃げ遅れている敵戦車には、高速滑空弾が次々放たれ、撃破していった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「こちらアストライア。ペリクレスとともに北部方面よりP336要塞エリアに入りました。アリステイデスとジャンヌダルクは海上を警護しています」
「わかった。エメ提督。そのままP336要塞エリアに待機だ」
「はい。マットとアベルさんが地下鉄でシルエットベースに向かいました。衣川さんはここで他の構築技士と合流予定です」
「A級構築技士が一気に集まったな。衣川氏にクルト氏、鷹羽氏、ウンラン氏か。コウから聞いたが、戦時開発のためか」
アシアとコウが構築技士に下した使命。
各構築技士は強化案や新機体を考え抜いているのだ。
「そうです。お互いの知見を出し合い、様々な兵器を開発する意向と聞いています」
「賢人のラウンドテーブルみたいだな。わかった。ありがとうエメ提督」
通信を切り、フユキに繋ぐ。
「こちらフユキです。キモン防衛お疲れ様です、バリー司令」
「フユキ臨時司令もご苦労だった」
二人で顔を見合わせ笑い出す。柄じゃないのはお互いよく理解している。
「敵包囲網は破綻しました。戦力は六時から九時に集中させています。戦艦メガレウスを空挺堡にQ019要塞エリアとQ221要塞エリアに戦力を集中。局地の防衛ドームを駆使し戦力保持に移りました」
「これで長期戦か」
「ですね。ですが敵は他の大陸からの補給線も健在です。長期戦に入れば不利なのは我らでしょう」
「他の大陸の戦局も影響しそうだな」
「間違いなく。確かに我らは二つの要塞エリアP336と軌道エレベーターのあるR001、そしてシルエットベースがあります。だが、それだけなのです。御統重工業の離れたF271エリアが落ちるのは時間の問題でしょう」
「俺達はQ019とQ221を抑えないといけないわけか」
「その通りです。二つは無理でも、どちらか一つを。そしてこの地域を人類拠点にする必要があります」
「無茶いうな、フユキ。どうするんだ、あの宇宙戦艦を」
フユキはじっとバリーを見つめ、不敵に笑った。
「やるしかないでしょう。メガレウス撃破作戦を」
「簡単にいってくれるなぁ」
そう言いつつもバリーもまた、メガレウス撃破の可能性を考慮するのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
メガレウス打破のために構築技士たちは日々議論を重ねている。
ケリーを除く五人のA級構築技士が揃っているのだ。
「リック。指揮中申し訳ない」
「どうしましたか、クルトさん」
現在もキモンで戦車隊を指揮しているリックに、クルトから通信があったのだ。
「コウ君の構築技士の講習をウンランさんが行うということをお聞きしましたが、私と衣川さんも講義を行ってもよろしいでしょうか」
「もちろんですとも! 戦闘機で斬り合い武装を設定したこの男にしっかり基礎を教えてやってください!」
「俺、ちょっとブリコラージュに戻る」
コウが気まずそうにしているのをみて、リックは何かが起きたと察した。
「補講もありますよ。コウ君。忘れずにね」
「や、やっぱり?」
コウがそっと目を逸らし通信を遮断した
勘づいたリックが問いただす。
「コウが何かやらかしましたかな? クルトさん」
「戦闘機に戦車砲を取り付けました」
「……」
リックは目を覆う。
「反作用で反動が凄いと思うのですが」
ローレンツ力を用いるレールガンも普通に反作用は発生する。初速によっては装軌装甲車といえど転倒するだろう。
「ポン付けでしたのでそりゃもう」
「……」
「ちなみに120ミリ砲ではなく155ミリ砲だったのですよ。これは衣川さんと話をして、無茶にも程があるだろうと」
「……是非こちらからお願いします」
リックが頭を下げた。
「陸は僕がみっちり鍛えるから安心してくれ。空はクルトさんたちに任せました」
ウンランが苦笑しながら割りこんだ。
戦闘機に戦車砲は無茶すぎる。
「一応、初速を落とす設計で反動は殺していましたよ。多少ですが。何よりパイロットがその火力を望んだのですから。コウ君は責められるべきではありませんね。使えるものにはなりました。乗り手はファミリアといえど選びますが」
「でしょうなあ」
コウの名誉は守られた。
「ですが物事には順序があります。応用だけでは無く基礎をしっかりしたほうが彼の才能は伸ばせるはずです」
「センスあると思うよ。転移して一年足らずで最前線でよくあそこまで応用できたもの。アストライアの力があったとしてもね」
「五番機を強化したい一心だったのでしょう。何が最適解か、五番機が全て基準になっている。そこは戦車や戦闘機のブリコラージュを知っていても損にはならないはずですね」
クルトとウンランはコウの才能を評価している。決してアシアに与えられた能力に振り回されているわけではないのだ。
「講義と補講か。ほかの構築技士たちが羨む豪華メンバーですな」
「もちろん手の空いている方には参加してもらいましょうか」
「それはいいですな。バリーにはこちらからも話をしておきます」
P336に各企業の構築技士が集まることになる。
俺もいくとケリーが叫んだのは言うまでもなかった。
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