現地改修機――火力だ! 俺に火力をくれ!

 それはとあるガレージの出来事。ほんの少し前の話だった。


「頼むよ! 火力だ! 俺に火力をくれ!」


 狼型のファミリアが整備している狸のファミリアに食らいついていた。

 壊れた戦闘機や戦車が無数に並んでいる、整備工場内である。


「無理ですよぉ。新型機とはいえ、60ミリガトリングガン二門以上に何を積むってんですか」

「対戦車ミサイルは四発しか搭載できねえ。そんなもんじゃ全然足りないんだ!」

「撃墜されたばかりですよね。ハイノさん。撃墜王が、何をいっているんですか」

「クルトさんが最前線で戦ってんだよ。寝てる場合じゃねーんだ。もっと火力を! もっと継戦能力をこいつにくれよ!」

「ええー。どうしますか。ヴォイさん」


 ヴォイは整備を統括しているファミリアだ。

 ハイノの気持ちは分かる。


「しかしなぁ…… 結構お前の機体いじってるからな。これ以上いじるとどうなるかわかんねーぞ」

「あのな。敵の新型戦車は未知の新装甲。近付いてぶった斬るしかねーんだ。攻撃機が出来るのは電磁装甲が薄い砲塔を真上から狙うしかねえ」

「真上じゃなくても狙えるだろ?」

「真上じゃないとダメなんだ。砲の仰角は直角に近い角度まで上がる。レールガンの対空射撃で落とされるんだが…… 相手も高次元投射装甲だから機関砲だと戦車の装甲が抜けないんだよ」

「そういわれてもな。対戦車ミサイル打ち終えたら補給に戻れ。機関砲なんて護身用だ」


 二人は口論にまで発展していた。


「ヴォイ。どうした?」


 そこにコウがやってきた。戦場から戻ってきたばかりだ。


「ん? ああ。こういうことがあってな」

「クルトさんの新型戦闘攻撃機ミーランか」

「コウのサンダークラップ参考にしたらしいな。それをこの狼野郎がよ。火力が足りないってんだ」

「火力ね。とはいっても……」


屋内にはスクラップ同然の戦車から、整備待ちの戦闘機まで様々だ。

 

 そのなかで目に入った戦車があった。側面を撃ち抜かれてたのだろう。

 レールガン採用で弾頭の誘爆はしなかったようだ。


「誘爆していない、か……」


 呟きながらコウが端末を走らせ、ヴォイに提示する。


「これはどうだろう」

「あのなあ。確かにここですぐに出来るが……」


 ジト目で佇んでいる戦車に視線を送る。


「バランス悪くて墜落するぜ、これ」


 画面を覗いたハイノが驚愕した。

 それは彼が望んでいた形そのものだったからだ。


「いや、これだ。これがいい! 頼む、ヴォイさん。こいつを作ってくれ! 材料もあそこにあるだろ!」


 戦車を指差しながら叫ぶ。

 あの砲を装備したいと言っているのだ。


「馬鹿野郎! 空中分解してもしらねえぞ!」

「作っておいてなんだが、やめといたほうがいい! さすがに無茶だろ、これは」


 本人が乗り気になると思わなかった。ヴォイもコウも血相を変えて反対する。


「構わん! それぐらい火力がいるんだ!」

「しかし……」

「だめだ。もうこいつは夢中になっちまってる。罪作りなものを作るな、コウも」


 ヴォイが苦笑する。


「ならば!」

「わかったわかった。仕方ねえな。危なくなったらすぐ戻るんだぞ」


 そういってヴォイはコウの設計通り、機体を改良することにした。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 

 P336要塞エリアに進軍するアルゴフォースの戦車大隊。P336要塞エリアの三倍以上の数はいるだろう。

 旗艦は陸上戦艦だ。


 制空権争いは拮抗状態ともいえる。

 列車砲による弾幕もあるが、集結した戦車部隊もよく持ちこたえていた。

 

 最前線にはクルトのフラフナグズ率いるバズヴ・カタ部隊に兵衛も参戦している。

 戦車相手にシルエットによる肉弾戦は有効だ。


 遙か上空は戦闘機フォルケとエッジスイフト。スターソルジャーが戦闘を行っている。

 それよりも低い高度で、まっすぐに向かってきた戦闘攻撃機ミーランだった。


 ワイヤー誘導の対地ミサイルで確実にT-04戦車にダメージを与えていく。


「もう二度と俺達の居場所を失わせない!」


 ハイノが最後尾にいた。対戦車ミサイルも撃ち尽くしている。


 だが、彼の戦いはこれからだ。

 いったん上空に高く舞い上がり、急降下爆撃を仕掛けたのだ。


 ミーランに搭載されていたのは、ありえない長砲身。

 戦車砲であった。

 155ミリレールガンは装甲重視の大型戦闘機でさえ反動を殺すのは無理がある。


 彼は迷わなかった。砲塔を狙い、撃つ。

 敵もレールガンだ。誘爆は見込めない。だが戦車だ。砲塔の構造上、一番脆いに決まっている。


 彼の狙い通り、155ミリレールガンは位置エネルギーも加わり威力を増す。T-04の装甲を撃ち抜いた。

 機体は大きくバランスを崩し、なんとか制御をする。


「ハイノ! 無理をする!」

「へへ。ようやく一撃かましてやりましたぜ、クルトさん」

「そんな改造を誰が……」


 いくらポン付けとはいえ、戦闘機に戦車砲を装備するなど尋常なことではない。


「ビッグボスがやってくれたんでさあ。名付けて『大砲鳥』カノーネンフォーゲル。よくぞ俺用にブリコラージュしてくれたって感じですよ」

「コウ君が?」

「感謝しかねーですよ。何度も止められたんですがね」

「わかりました。私からも礼をいっておきましょう」


 予想外な活躍を見せたことから、大砲鳥は様々なバリエーションとして増えていくことになる。その度にクルトは改良し重心計算を強いられることになる。


 長丁場になる戦車大隊との戦闘。

 前線もまた必要に応じて各兵器を改修していったのだった。

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