海から空から宇宙から!

 キモンの戦闘指揮所にバリーが戻ってきた。

 コウは最前線で先陣を切っている最中だ。


「やはりお前のほうが指揮官に向いているんじゃないか、ジェニー」

「私は大局がさっぱりだわ。タキシネタの修理が終わるまであなたのサポートに回るから、全体指揮をお願い」

「じゃあこっちの戦況はジェニーとリックに任せた。ビッグボスがやる気出しているのが幸いだな」


 バリーはP336要塞エリアとR001軌道エレベーターの状況を確認。

 

「エメ提督。急で済まないが進路変更。アリステイデスとペリクレスに合流してくれ」

「了解いたしました」

「コウは必要か?」

「いると嬉しいですが、無理はいいません」

「ん。わかった」


 おもむろに五番機に通信するバリー。


「コウ。聞こえるか。獅子奮迅の活躍のところ申し訳ないが至急P001要塞エリアのアストライアに行け」

「人使い荒いな! 今こっちにきたところだぞ!」

「お前さんのおかげでこちらはかなり楽になった。感謝する。次はエメちゃんを助けてやってくれ。いったんキモンに戻れ。ハルモニアで送る」

「エメを? ――わかった」


 エメの名を出されたら何も言えないコウ。彼女を守ることが第一となっている。


「川影さん。パルム。前線は頼むぞ」

「了解です。会長ほどではありませんが遣い手も揃っております」

「お任せください! ビッグボスの穴は我々が受け持ちます!」


 やる気に満ちたTAKABA選抜隊とトルーパー部隊。これで安心だ。


「エメ提督。コウが合流次第飛んでくれ。ハルモニアが向かう」


 本来はトルーパー部隊がアストライアに乗り込む予定だったが、キモン級の危機のため取りやめになったのだ。


「ありがとうございます。バリー司令。アキもアストライアも大層喜んでいます。ええ。ちょっと怖いぐらい」

「そ、そうか。ほどほどにしてやれよ。おまえたち」


 バリーからも情けをかけられた。


「私がいるから大丈夫です」

「そうだよな。一番頼りになる。頼んだよ、エメ提督」


 その会話を隣で聞いていたジェニーが苦笑した。


「ほんとあの子たち何してるのかしら。一番頼りになるのが少女提督なんてね」

「アストライアの見る目は間違ってなかったということさ」

『私みたいなものですからね』


 ディケが満足げに頷いている。


「ディケが優秀だからな。TAKABAとランドストローム社の援軍で持ちこたえることができそうだ。次はP336を守り切るための一手だ。こちらも援軍が間に合った」

「援軍?」

「そうとも。ジェニーは安心してみるといい。メタルアイリス軍とともにユリシーズの援軍も今から空中空母艦隊へ攻撃をかけるぞ」


 バリーが端末に手を走らせる。

 P336要塞エリア十時の方向が映し出された。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 アルゴフォースの空中空母を旗艦とした空中輸送船団は上空に待機している。

 海上を巨大空中空母「オストログ級」1番艦を中心に三隻。一キロ以上の甲板を持つ、Aカーバンクルを用いた要塞級の空母だ。


「こちらに宇宙強襲揚陸艦が二隻近付いているな」

「ペリグレスとアリステイデスと思われます」

「お互いの搭載兵器がどれほどだが…… あの二隻だと大した搭載数ではあるまい」


 そこへ緊急報告が流れる。


「至急! 海中から急速に近付く艦船があり!」

「海中からだと!」

「ペリグレスとアリステイデスと合流する模様」

「ちぃ! アストライアか?」


 彼らからより沖の方の海中から巨大な空母が現れた。

 それはアストライアではなかった。


「敵空母確認! ……これはアストライアではありません。転移者企業、アトゥ・グループの旗艦ジャンヌ・ダルクです!」

「アトゥ・グループだと! フランス系転移者企業までユリシーズに入ったというのか!」

「もう一つ。宇宙より飛来する敵空母確認。これこそがアストライア級だと思われます!」

「海中、空中、宇宙からの三面進軍ときたか」


 司令官は半神半人であった。名はイーピクロス。

 

「仕方ない。ここは退却だ。どのみち北部や東南方面を抑えることには失敗している。戦力を集中させる時だろうな。それで良かろう? カストルよ」


 通信先にフードを被ったカストルがいた。


「それでいい。イーピクロス。包囲は失敗した。今は戦力の集中に務めよう」

「無事撤退できたらな」


 ため息をついた。そうそう退却はさせてもらえないだろう。


「トールシゥンを出撃させろ。アルラ-は温存だ」


 空中空母や輸送機から大量のトールシゥンがメタルアイリスを迎え撃つため出撃した。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「こちらアドゥ・グループの旗艦ジャンヌ・ダルク。通告通り我々もユリシーズと行動を共にする」


 艦長であるエミールがフユキに連絡を行った。


「こちらP336要塞エリアのフユキです。協力感謝します」

「これより敵空中空母と戦闘に入る」


 通信が途切れた。


「ずいぶんと他企業に遅れを取ってしまったな。BASにしてやられるとは」


 アドゥ・グループもまた巨大な欧州系の転移社企業である。

 陸戦兵器や艦船を製造するアドゥ・システムズに航空機や可変機シルエット専門のアドゥ・アビアシオンなど様々な会社から構成されていた。


「遅れた分、存在感は示さないとな。フレイム・ミラージュ。発進せよ!」


 特徴的な無尾翼デルタ翼の単発戦闘機であるフレイム・ミラージュが次々と発艦する。

 

 着水し兵装するアリステイデスとペリグレスからは零式とヨアニアが飛び立った。

 彼らは危険を感じ、自分たちがいた要塞エリアより移動を開始したのだ。

 零式は御統重工業のOEM生産である。五行より生産基地の規模が大きいため、安価な零式を生産していたのだった。


「敵が後退する。そのまま行かせよう」


 エメが分析する。

 アストライアからはエッジスイフトが発進していた。


「この海域さえ確保したらシルエットベースはもとより、R001とも往来しやすくなる。防衛の目処が立ったか」

「北部より進行して私たちはP336要塞エリアに向かいましょう。この包囲網をみるといまだ敵はシルエットベースの位置は掴んでいません」

「そうみたいだね。北部経由でメガレウスの射程に入らないように。ブルーとフユキのおかげ」

「そうだな」


 敵は撤退戦を始めていた。

 目視できる敵機はコールシゥンのみ。可変機であるアルラーの姿は見えなかった。


「最後の戦場は、クルトさんと兵衛さんが戦っている列車防衛網の戦車部隊か……」

「私がエポナで出ます。コウは休んでください。いくらなんでも連戦しすぎです」

「そういうわけにはいかないさ。あの二人は俺の師匠だからな」

「わかった、コウ。でも出撃までは休んで」

「了解だ」


 エメのいうことなら素直に聞くコウ。

 五番機のMCSで仮眠についた

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る