『恐ろしい手』

 敵の包囲を警戒するべく、深林地帯を征くメタルアイリスのシルエット。

 彼らは正規軍ではない傭兵だ。様々な種類のシルエットに乗っている。


「敵機! 高速で近付いてくるぞ!」


 重シルエットであるエレファントが警告を発する。


「シルエット並の大きさなのに、この移動速度、アベレーション・アームズってヤツか」

「ベア! 気をつけろ! そっちにいったぞ」

「接近兵器は持ってないだろ。へへ」


 ベアが迎撃しようと巨大な斧に持ち帰る。

 追加装甲も付けている。アベレーション・アームズなら射撃主体のはずだ。


「え?」


 傭兵が唖然とした。

 巨大なてのひらに掴まれたのだ。


「な、なんだ…… ぐわあ!」


 巨大な手はシルエットを握り潰した。


「こ、こんな形のシルエットがありなのか!」


 目の前にいたのは、明らかに爬虫類を思わせる頭部。口にあたる部位はない。そして長大な胴体に尻尾。

 恐竜をモチーフにしたアベレーション・アームズ。

 瞠目すべきは巨大な両手だった。


「なんで恐竜に手が!」


 彼は知らなかった。二足歩行する恐竜。ティラノサウルスなどの極端に短い手は退化した器官と言われていたが、実は強力な凶器であり、鋭い爪で相手を切り裂く為ともいわれている。

 また別種の恐竜は巨大な腕として進化して持っていた。この二種の応用がこのアベレーション・アームズ最大の武器だ。


 シルエットを握りつぶし、切り裂くために存在する巨大なクロウ。

 セリアンスロープたちが愛用する巨大クロウよりさらに大きい。


「う、うわぁ!」


 悲鳴をあげ、逃げ出すエレファント。悲しいかな重量級のローラーダッシュでは逃げ切れない。

 背中から鉤爪の一閃を喰らい、破壊された。


 絶望を象徴するかのように、十機以上の獣脚型のアベレーション・アームズが現れた。

 背中には対戦車ミサイル用のランチャーも搭載している。即座に後ろにいるシルエットに放たれる有線ミサイル。


「く、くそ。手のある二足歩行戦車ってことか。ありかよそんなの!」


 泣きながら応戦するパイロット。だが善戦する間もなく、その尻尾で転倒させられる。倒れたところを巨大なクロウで引き裂かれるのであった。


 その光景を大型モニタで眺める三人。

 カストルたちだ。


「どうですかな。カストル様。恐竜型アベレーション・アームズ『ミリフィクス』の調子は」

「うむ。投薬だけで済むし、腕があるとMCSのザルのような判定を通り抜けやすくなるとはな」

「前脚と腕部、その境目の判定がいささか理解できませんね」

 

 ヴァーシャはアベレーション・アームズは苦手だった。リュピアの技術は装甲材などを限定している。

 一方アルベルトはこういう変態じみた兵器を作るのが得意だ。


「前脚ではなく腕であることが重要らしいが…… こちらも試行錯誤するしかあるまい。デイノケイルスを生体模倣技術バイオミメティクスでMCSに組み込んだ歩行戦車のつもりだったが、山岳地帯や深林地帯では有用だな」


 デイノケイルスミリフィクス。恐ろしい手デイノケウルス尋常ではないミリフィクス、という語源を持つ雑食恐竜だ。ティラノサウルスほど大型でもなく、様々な恐竜の構造を併せ持つ謎多き恐竜である。

 長らく腕以外発見されていなかったことから全容が不明だった恐竜でもある。

 

「恐竜型は現在二種。砲撃用の歩行戦車『ダスプレト』とこの『ミリフィクス』のみ。まだまだ研究段階だ」


 彼らは実験結果を見るようなまなざしで、一方的に蹂躙されるシルエットたちの映像を眺めていた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 逃走するベアがまた一機捕まった。自分が最後の生き残り。傭兵部隊は安全と思われた深林地帯で壊滅した。

 ソルジャー型に乗っている傭兵は必死だった。部隊の機体では一番装甲が薄く貧弱だ。為す術もなく殺されるに違いない。


 意外に早い獣脚型の走行は、瞬く間に追いついた。


「もうダメだ……」


 絶望に包まれた瞬間、地面を強引に走り抜ける音とともに一輌の戦車が現れた。

 無砲塔戦車だが、後部から二門の大型多銃身機関砲を搭載している。


「諦めるなよ!」


 犬型のセリアンスロープが通信してきた。


「こいつに乗れ。戦車までは握りつぶせやしないからな!」

「は、はい!」


 機兵戦車機能も持っているようだ。

 主砲のレールガンとともに放たれる60ミリ機関砲に、ミリフィクスはダメージを受けている。


「こういう無砲塔戦車ってのはな。待ち伏せに有利なんだぜ」


 物陰から現れたのは黒虎とは違う形状の無砲塔戦車だったのだ。

 パイロットは猫型のファミリア。

 見たことがない型式の戦車に驚くパイロット。


「あ、あなたは?」

「俺達はランドストローム社の傭兵さ。スウェーデン系の転移社企業だ。もうじき援軍もくるぜ!」


 そう言っている間に、地上にいるミリフィクスに上空からミサイルが放たれた。

 上空の戦闘機はカナードとデルタ翼を持つ、クロースカップルドデルタ翼が特徴の単発の戦闘機だ。


「装甲は意外と薄いな。恐竜てな、見た目より軽いからな!」


 敵の数が少なくなったところで、シルエットに変形してミリフィクスを倒している。残った数機は逃走を開始した。


「あれは? 多目的戦闘機?」

「我が社の可変シルエット『エインヘルヤル』だ。今からキモンの援軍に向かう。あんたはどうする? 安全地帯まで送り届けることもできるが」

「このまま一緒にいきます!」


 まだ新米傭兵なのだろう。先ほどの恐怖は残っているようだが戦意は喪失していない。

 セリアンスロープがにやりと笑う。


「その意気だ。行くぞ。戦闘データはきっと役に立つだろう」


 彼らはキモン級に向かって走り出した。

 新たな脅威の情報と、頼もしい友軍の到来を伝えに。

 

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