砲撃戦用意!

 キモン級の正面では激しい戦闘が続いている。

 メタルアイリスの戦車部隊、と敵戦車エーカー2の激しい砲撃戦だ。


 側面を取り合うためシルエットと装甲車両、敵シルエットとティルパッド型のアベレーション・アームズがぶつかりあっている。

 ティルパッド型はシルエットが通れる場所は大抵通ることができるようだ。容易く撃破できる程度の装甲だが、機動力は厄介だった。


 地響きがあり、メタルアイリスの主力戦車ファイティングブルが一撃で粉砕された。


「何が起きた!」


 前線で隊長をしている狼のファミリア、ウッツが戦慄する。


「陸上巡洋艦の艦砲射撃だ! 800ミリ砲のレールガンか。曲射のため実弾兵器を使うのが筋だろうに」


 リックが歯軋りする。決してファイティングブルの装甲は薄くない。

 敵の艦砲射撃の威力が桁違いなのだ。


「狙われたら死ってことだな。了解! 常に機動防御を意識し位置を気にせよ! 離れている奴も油断するな!」


 ウッツは即座に各部隊へ指示を出す。


「そろそろ防衛ラインも下がりすぎた。キモンまで三十キロもないぞ。どうするんだ、リック。陸上巡洋艦は相当装甲が厚い」

「なあに。火力はレールガンだけではないさ」


 リックが嘯く。


「動けないとはいえ、こちらはAカーバンクルの高次元投射装甲を持っている。そう簡単には落ちんよ」

「とはいえ、あの大口径砲はなんとかしたいわね」


 ジェニーも考え込む。

 通信でどこかとやりとりしていたようだが、それも終了したようだ。


「リック。あとは私がやるわ。戦車隊のサポートは引き続きお願い」

「ありがとう、ジェニー。任せたまえ」

「バリー。そっちはどう? 少しだけ敵の対空砲火を無力化したいの。一瞬でいい」

「俺が近付く。俺がいる座標から計算してミサイルを撃て」


 バリーがラニウスCで最前線に向かっている。


「無茶はしないでよ!」

「わかってる!」

 

 そう話している間にも最前線に到着したバリーのラニウス。

 

「どうやって斬り込むかだけどな。コウじゃないが……」

「私たちがいますよ、司令」


 アサルトシルエット隊のネレイス、ジェイミーが通信を寄越す。


「危険だぞ!」

「司令官一人で特攻させるわけにはいきませんので」


 アサルトシルエット隊が迂回しながら陸上巡洋艦に近付こうとする。バリーも部隊に合流した。


 陸上巡洋艦が吼えた――


 巨大な主砲から発射された弾頭はキモンに直撃する。

 船体が大きく揺れた。


「高さ30メートル、丘の上にいるな。射程は30キロ程度か」


 バリーが敵の戦力を解析結果で分析する。


「カメラに捉えた。あそこだ。座標を送るぞ! 」


 本来は前線観測機の仕事ではあるが、ラニウスは頭部が大きくセンサー性能に優れている。その役割を果たすことができた。


「各部隊。とにかくキモンを壁にして! 今から砲撃戦を開始する!」


 ジェニーが指示を始める。


「砲撃戦用意! 目標捕捉完了。第一射。高速滑空弾用意。撃ち方始め!」


 高速滑空弾。射程は数百キロあるスクラムジェットエンジン採用の対地ミサイル。

 ミサイルサイロから発射され、マッハ15近くで飛んでいく。弾道ミサイルと違い、グライダーのように自在に動きながらも目標に直接到達するミサイルだ。


「第二射! 間接打撃部隊! 撃ち方始め!」


 キモン級の背後に展開していた多連装ミサイルや榴弾砲が間接射撃を開始する。弧を描く砲弾は陸上巡洋艦を狙う。


「第三射! 計画射撃用意。高速誘導弾。撃ち方始め!」


 最後にミサイルサイロから放たれるのは巡航ミサイル。速度こそ高速滑空弾に落ちるが、より高度な軌道を取ることができるミサイルだ。


 こちらの砲撃はゲシュペンストの対空砲やプラズマバリア、護衛の対空車両も奮戦し、ことごとく撃ち落とされた。

 有効打は第二射の榴弾砲のみ。それらさえも電磁バリアで誘爆されたり、電磁装甲を貫くことはできない。


 陸上巡洋艦も負けじと撃ち返す。

 爆炎と土埃が舞い、キモンの船体は揺れる。


 ジェニーは動じない。キモンはそんなものでは倒せない。


「これでいいか? ジェニー」

「十分よ」


 ジェニーはにやりと笑った。


「さあ、いらっしゃい! コウ君。航空部隊、支援急いで!」


 その言葉が合図となってハルモニアが急降下してきた。

 キモンに潜伏していたヨアニアたちが一斉に離陸する。マッハ4の重戦闘機こそ出番だった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「投下しますよ、ビッグボス!」

「了解!」


 今回のハルモニアパイロットはファミリアだった。アベルにはP336要塞エリアからシルエットベースに移動し、設計任務に当たることになったのだ。

 急降下するハルモニア。


 敵の対空砲はキモンからの攻撃を防ぐため、ほぼ防がれている。

 ハルモニアの急降下に対応できないのだ。


 高度千メートルから降下する五番機は、弾丸のように急降下し、孤月の柄に手をかける。


「空から急降下する大型飛行機が!」

「Aスピネルとはいえゲシュペンストの装甲は厚い! 下手なミサイルなどでは抜けまい!」

「弾頭――否。シルエットです!」

「なんだと!」


 五番機はプラズマバリアを発し、対空ミサイルを無力化。軌道を変更しながら落下する五番機に対応できない。


「もらった!」


 五番機は抜刀した瞬間、長大なゲシュペンストの主砲を切断した。

 減速はしていないが自由落下だったようだ。すぐさま水平軌道に切り替え陸上巡洋艦から離れる


「一撃で主砲を切断しただと!」


 相当厚い砲身は、容易く切断できるものではない。それをただの一刀の元斬り飛ばすとは悪夢のような光景だった。


「あいつを狙え! ただ者じゃ無いぞ!」


 そう命じたのもつかの間、緊急通信がつながる。


「どうした?」

「後方から超音速で近付いてくる敵の大型地上自走爆雷が立て続けに爆発を起こし、部隊が混乱しています!」

「被害は?」

「多数のシルエットが轢かれました! 戦車が二台破壊されただけです。精密誘導はできないようで」

「ばか! そんなものは放置しろ!」


 そういっている間にラニウスは森のなかに消えていった。

 ハルモニアはとっくにキモンの甲板に着陸している。


「なんだあの機動力は! あれが最新鋭のシルエットか!」


 超音速を低高度で出せるシルエットはアルゴフォースには多くない。

 大型ミサイルは陽動だったのだ。してやられた気分だった。


 加えてヨアニアの対地攻撃が激しくなる。

 高速な重戦闘機は実に厄介な相手だった。


「こっちは航空母艦みたいなものよ? 主力は搭載機に決まっているじゃない」


 ジェニーが微笑んだ。

 即興の作戦は成功だ。


「まだ油断は出来ないがね。換えの砲身ぐらい用意はしているだろう」

「もちろん。だけど時間は確実に稼げたわ。十分よ」


 二人は戦況を確認する。

 現在動けないキモンは籠城を強いられているようなもの。


「援軍さえいればね」


 ジェニーは画面を見つめ深呼吸した。

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