陸上巡洋艦対装甲列車
P336要塞エリア、キモン級不時着地点ともに緊張が走っていた。
「フユキ。映像を」
「わかりました」
観測機が捉えた映像が映し出される。
砲塔を複数持つ戦車。履帯が四本装備されている。
この戦車を中心に小型戦車が周囲を囲んでいる。さながら艦隊戦の輪陣形だ。
だがよくみるとさらに小粒な歩兵が陸上戦艦の上に複数駐機している。
多砲塔戦車が巨大すぎて重戦車が小さくみえていただけ。人型はシルエットだ。
「これが敵の主力、さながら陸上戦艦だな。今キモンに向かっているのはこれだ」
P336要塞エリアにキモンに向かっている敵の映像を転送する。
その映像には巨大な砲塔を持つ、陸上巡洋艦ともいうべき戦車が映っていた。巨大な四つ足を装備していると思いきや、脚部に相当する部分にキャタピラが付いている。
P336要塞エリアに向かっている陸上戦艦よりは一回り小さい。
周囲にはこちらも重戦車が多数周囲を護衛している。
「P336要塞エリアにはヴァーシャが開発した戦車群。こちらにはアルベルトが開発した戦車群が向かっているようだな」
リックがその映像を見て分析する。
彼の戦車隊は今キモンの正面に展開していた。
「こちらに向かってきている敵は軌道エレベーターで名称だけ判明している。重戦車エーバー2と陸上巡洋艦ラントクロイツァーP150ゲシュペンストだな」
「交戦したエーバー1の後継機か。やはり本命は温存していたか」
リックはすでにエーバー1と呼ばれる重戦車と交戦している。1というからには後継機の存在は容易に想像できた。
「こちらには相変わらず新兵器をぶつけてきますか。嫌になりますね」
「大丈夫か?」
「今こちらには鷹羽さんとクルトさんもいます。シルエットベースとのラインも守られた。むしろ問題はそちらでしょう」
「それはそうだが……」
「そちらにコウ君を送りました。こちらは安心してください。応援の企業も到着しそうです」
「コウを? そうか。ハルモニアか!」
「はい。あとはこちらにお任せを。二面攻撃ですがこれを凌げば勝機も見えるでしょう」
「頼んだ、フユキ」
フユキは頷き、通信を切る。
「コウ君の準備は?」
「すぐ打ち上げるぜ」
「了解です。新たな合流企業のアヴァンセ・デュレシェフ社はペリクレスと合流するようです。他にも数社打診があるのがありがたい」
画面を見つめ、フユキは呟く。
「北部侵攻には肝を冷やしましたが、正面からの進撃はさすがに対策済みですよ。アルゴフォースさん」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
陸上戦艦ともいえる超重戦車T-06と主力戦車であるT-04戦車はヴァーシャが構築した戦車だ。
T-04は機兵戦車でもある。後部の荷台ユニットによって戦車を運搬車両や盾代わりにするため、ユリシーズのような一体型設計ではない。
計十二輌の陸上戦艦を旗艦とし、シルエットも多数搭載している。作業内部スペースが必要だからだ。
各地の小拠点である防衛ドームに温存されていた各種兵器が一斉に進軍し、いよいよP336要塞エリアに迫ろうとしているのだ。
「防衛ラインが薄いな。間接射撃がたまに飛んでくるだけだ。放棄するとも思えん」
この部隊を率いる指揮官が呟く。
軽装甲の車両とシルエットを偵察に出すが、今の所反応がないようだ。
空中では戦闘機同士が戦闘を行っている。戦況は拮抗しているようだ。
その頃フユキはコントロールタワーで敵部隊を確認していた。
「ラインを超えてきましたね。アシア。お願いできますか?」
『いいよ! いよいよね!』
アシアの声に合わせて、P336要塞エリア外周部に異変が起きる。
荒野に、深林に、盛り上がるように現れる敷設されたレール。
「装甲列車防衛隊! 発進せよ! 後続は装甲軌道車! 彼らが時間を稼いでいる間に防衛部隊は展開をお願いします!」
フユキの号令とともに、装甲列車が要塞エリアから発進する。
続く装甲軌道車は、軌道走行用の機構とともに軌道外装甲に対応した履帯を兼ね備えたデュアルモードビーグルである。
「列車の火力で時間を稼ぎましょう。複線ですからね。内回り外回り、随時発進してください!」
次々と時間差で発進する列車と貨車。貨車は戦車やシルエットを運搬する。
装甲軌道車はそれらが発射したあとで続く。
この装甲列車防衛網線路は構想はコウとフユキの合作だ。
補給ラインのため地下鉄を含めた鉄道網を完備させていた二人だったが、P336要塞エリアの周囲にレールを展開し、防衛時に列車を兵力として使えるようにしていたのだ。
線路を普段は地中に隠すことで、どのラインに敷かれているか隠蔽する目的も持つ。
慌てたのはアルゴフォースの戦車部隊だった。
「地面がせり上がってますぜ! ありゃレールだ」
「まだ距離はありますが、例の列車砲が出てくるんですかね」
指揮官は部下たちの問いに冷静に応えた。
「列車が防衛ラインを張れるはずなかろう。そのまま進軍しろ」
シルエットと戦車、相当数が用意されている。
T-04は重戦車とはいえないが、リュピアからもたらされた新型装甲材と金属水素貯蔵型の電磁装甲を持つ。生産性重視の戦車だ。
進軍した戦車隊から通信が入る。
「まずい! 来るな!」
「列車が! 列車がぁ!」
「おい? どうした!」
戦車隊が到着した先。小高い丘が連なっており、装甲列車が走っている。
次々と打ち出される大口径レールガンに有線ミサイル。彼らのリアクターとは出力が桁違いのAカーバンクル由来のエネルギーだ。
「装甲列車がいるんだ! まずいぞ、あれは。Aカーバンクルでシェルター並に硬え!」
「こっちの152ミリレールガンがまったく効かねえ! 弾かれるんだ! 化け……」
通信が途絶えた。
P336要塞エリアの防衛ライン。
それは装甲列車を運用した疑似要塞化であった。
「近づけないだと。そんな馬鹿な。シルエット隊、前へ! 線路を切断しろ!」
随伴しているシルエットが近付こうとする。対戦車用戦斧を構えている。この大質量の斧で叩き斬るつもりなのだ。
Aカーバンクルで強化されている線路はそう簡単には傷一つ付かない。そこに装甲列車は猛スピードで駆け抜け、複数のシルエットが退かれ砕け散った。
申し合わせたかのように反対側から装甲列車が走ってくる。
悲鳴もあげる間もなく、据付型の90ミリ機関砲やレールガンの猛射を受け、装甲が孔だらけとなる。
古来より弱点であった線路の軌道。
それが今やAカーバンクルによって切断不可能な領域の硬さになっている。
「まずいぞ。これはまずい。陸上戦艦を集めよ。そうでなければ突破できん!」
慌てて再編成するアルゴフォースの戦車隊。
その間にもP336防衛部隊は着々と防衛網の布陣を完了させていった。
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