移動基地艦変形せよ!
P336要塞エリアが敵を迎撃している頃、不時着したキモン級を撃破するべくアルゴフォースの軍隊が集結していた。
最前線に出ていたリックが被弾し、帰還したほどだ。
「リック。無事で良かった」
バリーが安堵した。今リックに倒れられるわけにはいかない。
「何がいいものか。前線が崩壊している。なんて数と戦力だ!」
敵の部隊は戦車部隊、後方部隊、シルエット部隊、航空隊に加えアベレーション・アームズのアラクネ型も投入している。
「機動砲撃機――逆間接型の歩行戦車までいるとはな」
「普段背は小さいくせに頭部が伸びたからな。アシアが怖れていた恐竜型か、もしくはダチョウ型だろう」
「ダチョウはねえな。俺が造るなら恐竜だね」
「だろうね。手に相当する部位も抱えるぐらいなら使える。獣脚類型(ティルパット)型というべきアベレーション・アームズだろう」
「手使えるのか?」
「抱えることができる程度みたいだが、一応使えるとみている。だが装甲は脆い。量産製を優先した機体だろうが、数が多いな」
新型兵器の対応に手一杯なキモン級部隊だった。
「この戦力。キモンを撃破後そのまま軌道エレベーターを奪い返すことが目的だな」
「そうみるべきだろう。キモン級を撃破するためこれだけ戦力がいるという評価かもしれないが」
「過大評価は辞めて欲しいもんだ。侮ってくれるぐらいがちょうどいい」
バリーがため息をついたとき、オペレーターの声が響く。
「司令! ジェニーさんが!」
防空のため出撃していたジェニー機。その突出した戦闘力と戦果は敵の注目を引きつけた。
誘導ミサイルが乱打され、囲まれている。
爆発に包まれたその瞬間、閃光のなかからタキシネタが現れた。相当被弾している。
「ジェニー! 戻れ!」
冷静、いや端から見るとやる気が無いようにも思えるバリーがこのときばかりは怒鳴った。
ジェニーは他のタキシネタやスターソルジャーの援護を受けながらキモンに帰投する。
戦闘指揮所に戻ってきたジェニーにバリーがため息をつきながら説教する。
「突出しすぎだ。自分が隊長だということを忘れるな」
「ごめんね」
舌をぱろりと出し謝罪するジェニー。もっと小言を受けてもいいような状況だった。
「右展開部隊のトルーパー2、防衛ラインを下げるとの連絡がありました」
オペレーターのネレイスの少女ルースが告げる。
「R001からの救援も難しい状況。逃げようにも浮くことすらできない」
バリーは冷や汗を浮かべながらも笑った。
「昔の軍人がこういったんだ。『我が軍の右翼は押されている。中央は崩れかけている。撤退は不可能。状況は最高だ!これより反撃する』 てね。まさにこの状況だ」
「反撃といっても今のキモンは座礁した空母みたなもの。どうするの」
「ディケ。変形はいけそうか」
『修理状況進行度55%。移動は不可能ですが変形は可能です』
「変形ってなに?!」
ジェニーも知らないキモン級の変形機構。
「キモンは移動基地艦だぜ。戦闘基地形態ってのがあるんだよ。――といっても俺も最近知ったんだがな!」
『艦船としての役割のほうが遙かに比重が高かったため、とくに説明はしていませんでした』
「この重要な情報の隠蔽っぷり…… さすがアストライアの姉妹AIね」
『それは不当な評価です』
ディケが抗議した。
「それはともかく楽しみだわ」
さらっと流すジェニー。
「移動基地艦変形せよ! これより本艦はバトルベースモードへ移行する」
バリーの命令とともにディケが艦内放送を行った。
『全搭乗員に告ぐ。これより当キモン級は戦闘基地形態へ移行する。ファミリア各員、持ち場へ移動』
三胴艦であるキモン級は大きく横に展開し、バラスト部分をさらに横に配置し、高さを下げる。
防御壁をせり出し、甲板が大きくなる。
ミサイルサイロまで姿を現す。大型のレーダーが姿を現し、情報収集と哨戒機との連携を開始した。
左右の側面からは多数の車両やシルエットが出入りできるようなスロープが三カ所、計六カ所現れる。
「軍事基地化か」
「これは実質移動要塞ね」
唖然とするリックとジェニー。
「そういうこと。橋頭堡だな。最前線の部隊のための移動基地。それがアシアがコウのために用意した強襲型移動基地艦キモンらしい。アストライアと相性が良いはずだよ」
『アストライアをはじめとするホーラ級はかの兵器統括AIアストライアの端末として生まれたもの。本来のキモン級とは別の系統に属する艦なのですけどね』
「だがアストライアはここにはいない。頼んだぞ、ディケ」
『お任せください』
バリーは次の手を打つべく、端末を走らせる。
「救援の企業もくる可能性もある。BAS社の支援攻撃を行ったそうだが、何か教えてくれん」
「不安だな……」
友軍の支援を不安がるリック。
「基地形態完了だ。全域の対空性能強化。補給機能、支援機能を駆使し、敵の侵攻をここで阻む。指揮は頼んだ、リック。ジェニーは休息後、リックの補佐を頼む」
「わかった。この形態なら地上部隊は指揮しやすい。ジェニーが戻るまで私がやろう」
「ちょっと待って。あんたはどうするのよ!」
「俺か? 今は指揮官より前線の兵力だ。俺も出るのさ。指揮官が出るなとか言うなよ、ジェニー隊長?」
本来はメタルアイリスの総責任者であるジェニーには耳が痛い言葉だった。
「機体はどうするのよ」
「あるだろ、ここに。ビックボスの予備機。ラニウスCというびっきりの高性能機がな。俺が使ってもコウは文句言うまい」
バリーは嬉しそうに笑った。久しぶりの戦場。やはり最前線の歩兵のほうが自分には合っているのだ。
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