異形兵器群対抗戦時開発を実行せよ!
P336要塞エリアに鷹羽兵衛とクルトを載せた二式大型航空艇が護衛の零式とともに到着した。
アラクネ型を追い返したコウや、狙撃部隊を排除したフユキとブルーも帰還した。
山場は乗り切った状況だ。アルゴフォースとの戦いはパイロットがいることが大きい。
マーダー相手に昼夜は関係ないが、パイロットがいることでアルゴフォースとの夜間の戦闘は減少する。
夜は眠らないファミリアたちがいる分、メタルアイリスのほうが有利ともいえる。
そんななか、夜アシアがユリシーズを召集した。珍しいことだ。
コウが代表となって各構築技士たちに呼びかける。今回は軌道エレベーター奪回に貢献したBAS社と五行の構築技士たちも参加となった。
バリーたちは動けないキモン級を防衛するために防衛線を展開している。この会議に呼ぶわけにはいかなかった。
「こんな深夜に申し訳ない。アシアから皆さんにお話がある」
俺がなんでアシアの代理人になっているのだろうと疑問に思っているコウ。自覚はまだ足りないようだ。
「昼にはできない話ってことだな!」
ケリーが笑う。そしてそれは重要事項だ。
不安そうなジョージとアベル、そして五行の構築技士が画面から窺える。
『その通りよ。ケリー。アベレーション・アームズの解析を進めた結果、特定の分野において私が解放した技術を陵駕している事が判明したわ』
「特定の分野というところがミソだね、アシア」
その事実に硬直する構築技士たちだが、ウンランは怯まない。
『ええ。ウンラン。リュピアは要求されるがままストーンズに技術を提供した。ストーンズが認識、応用できる最小限のね。最悪の事態は避けられているともいえる』
「どんな分野なのでしょう?」
クルトが尋ねる。
『例えばマテリアル。ケイ素系、鉄系が現人類が把握できる限界まで解放されている。MCSの干渉もそうね。範囲はマーダーの基幹となる節足動物と双弓類全般。節足動物とMCSの相性は最悪だけどね。よく動いたものと感心するぐらい』
「マテリアル系は通常のシルエットにも応用できそうですな」
衣川が考え込む。
『その証拠に今日コウとにゃん汰が交戦したブラックナイトと呼ばれるシルエットは新装甲を採用していた。素材は鉄よ。強度は約10ギガパスカル。鉄の強度を理論上を上限まで引き出したものを装甲にしている。地球じゃ加工できないね』
「鉄か。コストを考えてだろうな」
兵衛が納得する。鉄は最も普遍に存在する金属で安価だ。二十一世紀でも鉄の見直しは進んでおり、夢の素材と言われ始めた。自動車やバイクなど、非鉄金属を採用するとやはりコストの壁に打ち当たるからだ。
『
その言葉に構築技士たちも頷いた。新技術なら未知のものを作るよりは、現在ある兵器の強化を図りたいところだ。アシアの言うとおり生産ラインの問題もある。
『軌道エレベーターの私も解放された。新技術を解放、といいたいところだけど…… 最初に救出された私が頑張りすぎたからね。実はみんなに提供できる技術はあまりないの。ごめんね……』
「アシア。最初の君が頑張ってくれたおかげで、今の俺達がある。謝る必要なんてどこにもない」
言葉に悔しさを滲ますアシア。
コウの言葉に全員が賛同する。技術が封印されていた彼らの兵器開発は一気に加速し、今でも完全に応用できているとは言い難い状況なぐらいだ。
『それでも、です。アベレーション・アームズに対抗するための技術を可能な範囲で解放したいと思います』
一同、緊張で息を飲む。
「それは?」
『私も鉄や非鉄金属のマテリアル制限を解放します。そして、大型パワーパック規格や各種エンジンの小型化。惑星間戦争時代とほぼ同水準。構築技士たちは大型パワーパック内部を構築できるようになるわ。巨大なリアクター一基積んだり、小型リアクターを二基積むとかね。後は細かな技術になるけど』
「何があまりないだ、アシア。聴いただけでも我々が眠る時間がなくなるほどの構築権限が増えるということじゃないか」
「リアクターとパワーパックは常に規格化された、手の加えようがない聖域だった。戦車など既存兵器にも十分活用できる。これだけでも革命だ」
ケリーが苦笑しウンランが興奮する。単純な話だ。発電機であるリアクターを二基搭載するだけでどれだけ行えることが増えるだろうか。想像もつかない
その場にいるアベルはパン……と呟いている。こうしている間にも何か新しい構想を閃いたようだ。アシアの一言だけで構築技士たちの思考は既に新設計に傾いていた。
「本当はパワーパック自体の小型化がしたいところだが、無茶は言えまいね」
「もう十分小さいだろうさ! それより大出力でぶん回せるほうが夢があるな」
アシアから提供される新しい技術をみながら、構築技士たちの話は弾む。
『でも問題はある。急にそんな技術を解放しても生産ラインは限れるし、既存の兵器をカスタムするぐらいに留めたほうがいい。そこで、コウ。お願い』
「
『うん』
打ち合わせしていたのだろう。コウが意を決し口を開く。
「まず最初に話す必要があります。ユリシーズのA級構築技士の了解を得ました。BAS社及び五行重工業には金属水素生成炉の生産、購入権限付与となりました。その他の技術も購入できるようになります。今後ユリシーズに所属する限りA級とB級の構築技士に制限の差はありません」
「なんと! 深く感謝します」
「ありがとうございます!」
コウの言葉にBAS社と五行重工業が驚愕し、そして感謝する。
「あんたたちは真っ先に俺達につく、と宣言してくれたからな。それぐらい当然の権利だ」
B級企業のなかでも力ある彼らがユリシーズに参加してくれたことはケリーたちにとっても力強かった。どのA級構築技士からも反対はなかった。
「今後ユリシーズに参加する企業はA級構築技士と同様に扱うことになります。今回の功績として金属水素生成炉の権限です」
もともとA級構築技士に限定していたのは、ストーンズに技術が漏洩することを怖れていたからのことだ。
対立軸が確定した以上、制限する理由もない。アシアとアストライアと相談して決めていたことだった。
「ではこれからが本題です」
コウは意を決して、立ち上がる。
「アベレーション・アームズに対抗するためのお願いです。皆さんどうか……」
「ダメだぜ。コウ。やり直しだ」
ケリーが無慈悲にダメ出しを行う。
「え?」
「もっと紋切り型の命令口調でいい。思った通りのことを簡潔にいって、俺達に命じろ。お願いなんかじゃなくていい、怒るヤツはいねえぜ」
「……わかりました」
コウは口ごもって考え、言葉を発する。
「脅威となるアベレーション・アームズに対抗するため、各構築技士に告ぐ。異形兵器群対抗戦時開発を実行せよ!」
「オーケー、ビッグボス! 了解した!」
それぞれ構築技士が頷き、戦時開発指令は了承された。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
会議が一段落つき、解散した。その場にいるものは会話が弾んでいる。
会話からアイデアが生まれることは珍しいことではない。
兵器というものは常に開発されている。戦争が始まってからでは遅いからだ。
戦況によって仮想敵の変化、新ドクトリンの導入、資源の不足など様々な要因によって左右される。天才が一夜にして設計した兵器が採用された例も実在している。
アベレーション・アームズの登場は未知であり脅威であった。
またその応用兵器なども考えられる。アルゴフォースの狙撃部隊のハミリオーンもまた応用技術が使われていたのだ。
一度通信が切れた画面の一つが再び点灯する。マットだった。
「こちらペリクレスより報告。パイロクロア大陸より衣川氏と御統重工業社員一同を収容は明日にでも終わる。P336要塞エリアに帰港したかったが厳しい。状況に応じて行動するよ」
「衣川さん? そこまでパイロクロア大陸の状況は悪くなりましたか」
聞いていなかったコウが尋ねる。パイロクロア大陸も現在激しい戦闘が起きているのだ。
「スフェーン大陸もパイロクロア大陸もアベレーション・アームズが導入されたようだ。かなりまずい状況だな。兵器供与などユリシーズが一部組織の援助も始めたが」
「そこまでか」
「資源と要塞エリアの奪い合いだ。激化もするさ」
マットが苦笑した。想像以上に酷い状況のようだ。
「アシア。僕から一つお願いがあるんだ。ダメ元でね」
『何かな? マット』
「クアトロシルエットの強化はできないものかな、って」
コウもアシアをみた。クアトロシルエットは十分に高性能だが、アベレーションアームズには分が悪かった。
シルエットの戦闘機化が進んでいる状況もまた、地上限定のクアトロシルエットには不利を招く。
『ごめんね。あれはプロメテウスの温情みたいな処置だから限定的な解除。あれでもかなり凄いことなのよ』
「それはわかっている。すまない、アシア。無理を言って」
今までセリアンスロープはシルエットに乗ることさえできなかったのだ。後方で補給作業が行えること自体、どんなに奇跡的なことか。
『とはいっても他の形態に可能性はある。諦めてはいけないよ』
男性の声が突如響く。
「プロメテウス!」
『コウの友人は僕の友人だ。MCSは
『プロメテウス。やっぱり出たわね』
『そりゃそうさ。人を改造して部品にする
「ありがとう! プロメテウス!」
マットはプロメテウスが重要なヒントをくれたことを確信した。
『出来ることは教えてあげないが出来ないことは教えてあげよう。まずラミア型は無理だ。下半身が蛇だからね。次にサテュロス型。下半身を山羊にしたところで人馬型と変わらない』
「わかりました」
『僕たちは神話を模して作られている。MCSも案外地球の伝承にヒントがあるかもね』
「俺からも礼を言おう、プロメテウス。MCSについて、聞きたいことがあった。プロメテウスの火について教えてくれ。スピリットリンクとリミッター……」
『おおっともう時間だ! さよなら!』
「待て、プロメテウス!」
プロメテウスは早々に話題を切り上げ通信を遮断した。
『逃げたね』
「逃げたな」
二人は確信した。
「哺乳類で地球の伝承。うーん」
新たな可能性を探るべく、マットは哺乳類について調べ始めていた。
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